つらじろ仔ぎつね

めめくらげ

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「理由は言えないが、社長たちに決して知られぬよう、サノに世田谷の住所と電話番号を伝えてほしい」

クロと佐野が連れ立ってポピー・ハイツにやって来て、ランチを共にしたあの日。クロが駅に消えていくのを見届けてからそう頼まれたときに、やっぱり面倒なことを目論んでいたな、とゲーテは思った。
佐野本人が直接シロの不在時に行けない理由のひとつとしては、佐野がへたにシロの自宅のあたりに行って、万が一土地のキツネにでも見つかればきっとその不穏な行動がシロの耳に入ってしまう。そうなるのを避けるためだ。

「会って何をするのかだけ話せ。お前らだけの恋愛のもつれならまだしも、俺まで厄介ごとに巻き込まれたくない」

「せっかく久しぶりに上京したから、古い知り合いに会いたいだけだ。恋仲などではないし、なんにも企んじゃいない。しかし俺たちの関係をクロとシロにあまり深く探られたくなくてな。その理由も今は話せない」

そしらぬフリをしていた二人が実は顔見知りであったことに少し驚いたが、絶対に面倒に巻き込むなよ、と念押ししてその晩にはそれを実行し、そして今日に至ったのだ。だから当然、ずっと引っかかっていた。面倒ごとは引き受けないが、ネズミが逃げ込んだ穴に手を突っ込むのとおなじで、隠されると探りたくなるのは当然のサガである。






ー「おい、あいつはすごいぞ、笹のみどりいろしか認識しておらん。なんとまあ、仏のように邪念を削ぎ落とされた無の境地におる。あれもホントは神の使いではないのか?」

ゲーテが冗談とも真面目ともつかぬ顔をして聞く。

「そんな話は聞いたことないね。だいたい神様があれに乗っかってくるんだとしたら、ちっと進みが遅すぎやしないかい?」

サノも同じような顔で答えた。

「それより早くゾウのところに行こう。俺が若い頃はこいつを見るだけで見物料に三十文もとられたものだ。それが今や入場料の六百円で眺め放題」

佐野が真剣に言い、パンダに見入るサノとゲーテの腕をひっぱった。
三人とも上野に集まったはいいがとくに行きたい場所もないので、生まれてこのかた一度も行ったことのない動物園に入ろうという話になった。
自分たちが伝説とされる生き物であるがゆえにまったく興味は湧かなかったが、サノが「せっかくだから生のパンダを見たい」と言い出したのでとりあえずやって来たのだ。

しかし中は思いのほか面白かった。動物たちはみな特に何も考えていないが、ときどき聞こえるボヤキのようなものを聞いたりしては、三人で笑った。おかげですっかり気の抜けた空気になり、なんとなく秘密を明かすような雰囲気でもなくなった。それに敷地内は広大で、歩くのに疲れてきたゲーテは、途中のベンチに寝そべった。

「そんなところで寝るな。置いてくぞ」

「かまわん。そのまま勝手に帰る」

「そうは行かん」

「なら少しくらい待て」

そう言って園内の地図を眺める。

「佐野、お前の仲間がすぐ近くに"収容"されておるわ。あいさつしに行ってやれ。そこで世間話でもしながら待ってろ。それからサノ、俺はのどがかわいた」

「はいはい。ちょっと待ってて」

そう言ってサノが売店に向かい、「お前も仲間のもとに行けよ」とゲーテが佐野にうながした。
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