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最強天使、挑戦状を受けて立つ!
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「サミュエルさあーん!」
洗面所で歯磨きを終えた遊が、側転をしながらリビングに突っ込んできた。今日も朝からフルスロットルだ。
「部活の見学、来るよね!?」
「ああ、行こう」
毎度付き添っているため、学校内では「遊の叔父らしい」と噂されている。その理由のひとつが——
「あっ! サミュエルさあーんっ! 遊くんの付き添いですか?」
「サミュエルさんって何のスポーツしてたんですかー!?」
「棒高跳びしてそう!」
久美ちゃんと友人たちが笑顔で話しかけてくるからだ。
大空を飛んでいるという点では、棒高跳びもあながち間違いではない。
さて、部活中の遊はというと?
「遊くーん! 練習頑張ってねー!」
「く、久美ちゃんっ! う、うん……っ!」
声援を受けるたびに加速し、爆速で記録を伸ばしていた。
「……うおぉおおおおおおおおおおおお!」
「み、美浜……! お前、オリンピック狙えるんじゃ……?」
顧問は若干引き気味である。
そんな遊と過ごす時間は、光の速さで駆け抜ける。この充実感、最強天使にも楽しい休暇が必要だ。ははは。……ペナルティを回避できるとはいえ、気づけばバレットの迎えまでミッション探しすら放棄している俺である。しっかりしろ。
——と、ここまでは微笑ましい話だったのだが。
「美浜。イケメンの叔父さんといつも一緒だな?」
本日、遊と校舎へ向かっていたところ、後ろから野太い声が響いた。
振り返ると、そこには筋肉の壁のような教師が仁王立ちしていたのである。
「あっ! 寺田先生! おはようございます!」
遊が九十度に頭を下げる。俺も会釈をした。陸上部の顧問ではないようだが……?
「はじめまして、遊がお世話になっています。サミュエルです」
「サミュ……? 俺は、体育教師で柔道部顧問の寺田だ」
この寺田という男。頭上の数字は【0】、そこはよいが最初から高圧的な態度だ。まあ、ここは天使の広い心で受け流してやろう。
「いい体してるな。走ったりしてるのか?」
「ええ、まあ(正確には、飛んでいるが)」
「そうか。俺は『ゴリマッチョ』なんて呼ばれてるが、こう見えて足は速いんだ。あとで勝負してみるか?」
ほう、短距離走自慢か。最強天使に挑むとは、なんたる無謀。だが、ここも広い心で譲ってやろう。
「あいにく、ウェアなど手元になく……」
「んなもん、ここには代わりがいくらでもあるだろ。……おやぁ? サミュエルさん、その体は見せかけだけで足遅いんじゃないのかぁ? 俺のほうが年上なのになぁ? ダッハハハハ!」
…………。
カ
ッ
チ
イ
ィ
ン
+
最強天使にケンカを売るとは。調子に乗ったな、ゴリマッチョ寺田殿。
「その勝負、受けて立ちましょう……」
「俺は国体まで行った足だぞ?」
「遊よ、部室はどこだ……?」
「あの、寺田先生! サミュエルさんは、その……!」
遊があわあわと、俺と寺田殿を見上げている。俺は火花を散らす勢いで、校舎の奥へ歩みを進めた。
「遊よ、もし部室に誰かいたら困る。ここでランニングシューズを創作せねば」
「うん! 寺田先生ってさあ、いつもああやって誰かにケンカを売ってるんだよね」
なるほど、常習犯か。まあそうだろう。あの様子は初めてではなさそうだ。
「柔道部でも『怪我をしても、させてでも勝て!』って言うんだよ」
「……なにっ!?」
「ついて行けなくて辞めちゃうクラスメイトもいてさ。もうそろそろ落ち着いて欲しいんだけどなあ……」
寺田殿よ!
高校生に呆れられているではないか!その慢心、粉砕してくれる!
廊下の隅で俺は両手を宙に揺らした。指先から金の粉がふわりと舞い上がり、蝶の群れのように漂う。それらはやがてオーロラ色を帯び、渦を巻き始めた。
*** パアアアアッ! ***
揺らめく光の中心から黒のウェアが織り上がり、その足元にはランニングシューズが黄金の光を散らしながら現れた。
「うわあっ……! すげえっ!」
遊が歓声を上げ、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
星屑のような光の残像が広がり、廊下はしばし夜空の一角と化していた。
更衣室に入ると、力也くんが着替えを終えたところだった。
「あれ? サミュエルさん、おはようございます」
この青年はいつでも爽やかだ。頭上の数字は【94】をキープしている。
「力也くん、おはよう。実は寺田殿と競争することになってな」
「え?」
力也くんの黒い瞳に戸惑いの色が差した。
「力也せんぱあーい。寺田先生、さっき『その筋肉は見せかけか?』って、サミュエルさんのこと挑発してきたんですよ!」
「……僕もね、『もっと男らしくしろ!』ってよく怒鳴られるんだ。どうしたらいいのかわからなくて……」
ホ
ワ
ッ
ト
秒速七十キロで翔ける最強天使サミュエル。
闘志はメラメラと燃え上がるが、ここは冷静に行かねばならん。流れ星のように勝負を決めたいが、派手にやれば大騒ぎ必至だ。
「力也くん」
俺はまっすぐに見据えた。
「遊と共に、応援していてくれ!」
——続く——
洗面所で歯磨きを終えた遊が、側転をしながらリビングに突っ込んできた。今日も朝からフルスロットルだ。
「部活の見学、来るよね!?」
「ああ、行こう」
毎度付き添っているため、学校内では「遊の叔父らしい」と噂されている。その理由のひとつが——
「あっ! サミュエルさあーんっ! 遊くんの付き添いですか?」
「サミュエルさんって何のスポーツしてたんですかー!?」
「棒高跳びしてそう!」
久美ちゃんと友人たちが笑顔で話しかけてくるからだ。
大空を飛んでいるという点では、棒高跳びもあながち間違いではない。
さて、部活中の遊はというと?
「遊くーん! 練習頑張ってねー!」
「く、久美ちゃんっ! う、うん……っ!」
声援を受けるたびに加速し、爆速で記録を伸ばしていた。
「……うおぉおおおおおおおおおおおお!」
「み、美浜……! お前、オリンピック狙えるんじゃ……?」
顧問は若干引き気味である。
そんな遊と過ごす時間は、光の速さで駆け抜ける。この充実感、最強天使にも楽しい休暇が必要だ。ははは。……ペナルティを回避できるとはいえ、気づけばバレットの迎えまでミッション探しすら放棄している俺である。しっかりしろ。
——と、ここまでは微笑ましい話だったのだが。
「美浜。イケメンの叔父さんといつも一緒だな?」
本日、遊と校舎へ向かっていたところ、後ろから野太い声が響いた。
振り返ると、そこには筋肉の壁のような教師が仁王立ちしていたのである。
「あっ! 寺田先生! おはようございます!」
遊が九十度に頭を下げる。俺も会釈をした。陸上部の顧問ではないようだが……?
「はじめまして、遊がお世話になっています。サミュエルです」
「サミュ……? 俺は、体育教師で柔道部顧問の寺田だ」
この寺田という男。頭上の数字は【0】、そこはよいが最初から高圧的な態度だ。まあ、ここは天使の広い心で受け流してやろう。
「いい体してるな。走ったりしてるのか?」
「ええ、まあ(正確には、飛んでいるが)」
「そうか。俺は『ゴリマッチョ』なんて呼ばれてるが、こう見えて足は速いんだ。あとで勝負してみるか?」
ほう、短距離走自慢か。最強天使に挑むとは、なんたる無謀。だが、ここも広い心で譲ってやろう。
「あいにく、ウェアなど手元になく……」
「んなもん、ここには代わりがいくらでもあるだろ。……おやぁ? サミュエルさん、その体は見せかけだけで足遅いんじゃないのかぁ? 俺のほうが年上なのになぁ? ダッハハハハ!」
…………。
カ
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チ
イ
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最強天使にケンカを売るとは。調子に乗ったな、ゴリマッチョ寺田殿。
「その勝負、受けて立ちましょう……」
「俺は国体まで行った足だぞ?」
「遊よ、部室はどこだ……?」
「あの、寺田先生! サミュエルさんは、その……!」
遊があわあわと、俺と寺田殿を見上げている。俺は火花を散らす勢いで、校舎の奥へ歩みを進めた。
「遊よ、もし部室に誰かいたら困る。ここでランニングシューズを創作せねば」
「うん! 寺田先生ってさあ、いつもああやって誰かにケンカを売ってるんだよね」
なるほど、常習犯か。まあそうだろう。あの様子は初めてではなさそうだ。
「柔道部でも『怪我をしても、させてでも勝て!』って言うんだよ」
「……なにっ!?」
「ついて行けなくて辞めちゃうクラスメイトもいてさ。もうそろそろ落ち着いて欲しいんだけどなあ……」
寺田殿よ!
高校生に呆れられているではないか!その慢心、粉砕してくれる!
廊下の隅で俺は両手を宙に揺らした。指先から金の粉がふわりと舞い上がり、蝶の群れのように漂う。それらはやがてオーロラ色を帯び、渦を巻き始めた。
*** パアアアアッ! ***
揺らめく光の中心から黒のウェアが織り上がり、その足元にはランニングシューズが黄金の光を散らしながら現れた。
「うわあっ……! すげえっ!」
遊が歓声を上げ、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
星屑のような光の残像が広がり、廊下はしばし夜空の一角と化していた。
更衣室に入ると、力也くんが着替えを終えたところだった。
「あれ? サミュエルさん、おはようございます」
この青年はいつでも爽やかだ。頭上の数字は【94】をキープしている。
「力也くん、おはよう。実は寺田殿と競争することになってな」
「え?」
力也くんの黒い瞳に戸惑いの色が差した。
「力也せんぱあーい。寺田先生、さっき『その筋肉は見せかけか?』って、サミュエルさんのこと挑発してきたんですよ!」
「……僕もね、『もっと男らしくしろ!』ってよく怒鳴られるんだ。どうしたらいいのかわからなくて……」
ホ
ワ
ッ
ト
秒速七十キロで翔ける最強天使サミュエル。
闘志はメラメラと燃え上がるが、ここは冷静に行かねばならん。流れ星のように勝負を決めたいが、派手にやれば大騒ぎ必至だ。
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俺はまっすぐに見据えた。
「遊と共に、応援していてくれ!」
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