最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト

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最強天使、地下神殿へ参る

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「サミュエルさあーん! 今日は力也先輩と一緒に出掛けようよ!」

 ソファの上ででんぐり返しを決めた遊は、その勢いのまま冷蔵庫のカレンダーへ駆け寄り、赤ペンで大きくバツ印を描いた。

 栃木での生活も、残り二週間を切ったか。早いものだ……。

 遊びに部活、宿題に勉強、さらにスイミングクラブ。
 遊の一日は、まさにでんぐり返しのように目まぐるしく回っている。

 そう、遊はスイミングクラブにも通っている。先日ついて行ったとき、俺も久々に泳ごうかと思ったのだが——

「あらぁっっ! いい男さん、これって運命かしら!?」

 ……プールの入口に、なぜか町中華の女将が立っていた。
 どうやら別のコースで水泳を習っているらしい。私服のまま、頭には派手な花柄のキャップ。新しい流行か、それとも三角巾の延長なのか……?

 俺は魔法で創作した水着をバッグの底へ沈め、取り繕うように微笑んだ。

「泳がないのおー!? 残念ねえっ!」
「ははは。今日は見学で……」

 遊はバタフライが得意で、クロールの速さも驚異的だ。
 蒼くんもかつて同じクラブに通っていたらしい。いつかその泳ぎも見てみたいものだ。

「遊よ、今日はどこへ行くんだ?」
「オーヤ資料館!」
「ははは。いいぞ……って、どこだ?」

 資料館とはなんと渋い選択だ。

「俺もちっちゃい頃に行ったきりなんだけどさ、ミュージックビデオの撮影にも使われてて、雰囲気いいんだ!」

 資料館が「雰囲気いい」とは……?想像がつかんぞ!

 頭の中に勝手な映像が再生される。
 古びた棚の前でじーちゃんが分厚い本をめくり、隣では長髪ギタリストがヘッドバンキング。入場券をもぎるボーカル(絶対違う)。

 ちなみに上界にも資料館はある。
 天井まで届く二十五メートルの本棚。壁一面に歴代最強天使の肖像画がずらりと並び、額縁には薔薇の浮き彫りが施されている。
 もちろん、俺の肖像も飾られている。地味にアピールしておこう。

「オーヤ資料館はさ、こんなところだよ!」

 遊がスマホを差し出す。俺は思わず画面を二度見した。

「なんと……! 神秘的な空間ではないか!」
「別名『地下神殿』って呼ばれてるんだあ」

 光の差し込み方まで幻想的だ。これを「資料館」と呼ぶとは……むしろアミューズメント施設に近いぞ。
 建造物にまで魂を宿すとは、さすが日本の匠の技!

「じーちゃんもギタリストもボーカルも見当たらないではないか!」
「え? なにそれ?」

 ……俺の妄想をつい口走ってしまった。

「遊よ、がぜん興味が湧いたぞ。ぜひ参加させてくれ」
「よかったあ! サミュエルさんも気に入ると思ってたんだ」

 近々、上界の図書館を改装するらしいが……オーヤ資料館を参考にするのも悪くないな。この目でしかと見極めるとしよう。

「この間、力也先輩の誕生日だったんだ!」
「おお、そうなのか」
「力也先輩はアートに興味あるからさ、好きそうなところに連れていってあげたくて!」

 なんという友情だ……胸が熱いぞ、美浜遊!

「中はひんやりしてるからさ、羽織るものがあったほうがいいよ!」
「ははは。ではTシャツを重ね着するか」
「オーヤ資料館、平均気温8℃だよ!」

 凍りそうである。資料館ではなく冷蔵庫なのでは?

「力也くんもそれを知ってるのか?」
「うん! 『寒かったら俺が温めますね』ってちゃんと伝えたよ!」

 俺は一瞬停止し、四つん這いで階段を駆け上がっていく遊を見送った。
 ——愛情が溢れる青年・美浜遊、でまとめておこう。

 気を取り直し、手のひらを宙に滑らせると、黒のウィンドブレーカーとスニーカーの創作を開始した。
 指先から光の粒が渦を描き、わずかに空気が振動していく。

 部屋に穏やかな風が巻き起こり、キッチンの天井から吊り下げられた三つのペンダントライトがゆらりと揺れる。電球を替えたあの日を思い出すな……。

 *** パアアアアッ! ***

 渦は次第に輪郭を結び、布のしなやかな質感までもを再現していく。
 オーロラに包まれたウィンドブレーカーとスニーカーが、黄金の軌跡をまとい完成した。

 ……と、ただの服と靴なのに、やたら壮大にしてしまったが。
 そして今さらだが、温泉帰りにわざわざルームウェアを買わずとも、魔法で創作すればよかったのでは……?
 そう思いつつも、着心地の良さに本日もしっかり着用しているという。

「あれっ!? もう出しちゃったの!?」

 二階から戻ってきた遊が残念そうな顔をしている。

「次はちゃんと魔法見たい!」
「ははは。わかったぞ」
「この間はさ、サミュエルさんの顔にシャボン玉吹くのに必死だったから!」

 ……え、わざと顔に吹きかけていたのか?どういうことだ、美浜遊!?


 バスの後部座席で揺られていると、ほどなくカメラを首に下げた力也くんが乗車した。

「あっ! 力也せんぱあーい!」
「ふふふ」

 柔らかな笑みを浮かべている。頭上の数字は【94】だ。……減っている!いいぞ、その調子だ!

「サミュエルさん、こんにちは」
「こんにちは。俺はオーヤ資料館に行くのは初めてなんだ」
「僕もですよ。ワクワクしますね?」

 遊、俺、力也くんの順に横並びで座る。なぜかいつも俺は真ん中である。
 そして遊は、誰かの腕にすりすりするのが大好きだ。

「遊って、くっつくの本当に好きだよね?」
「力也先輩もサミュエルさんもいい匂いするんですよ!」

 部活でも遊は力也くんに駆け寄っては頭を撫でられている。
 猫か、犬か。いや、人間……のはずだ。

 一人ツッコミが止まらない最強天使は、遊と力也くんと共にオーヤ資料館へ向かう!

  
 ——続く——

 ここまで読んでくださりありがとうございます!
 終盤になってきたので、ストーリーの構成上あとがきのお礼メッセージが減りますが、いつも心から感謝しています!^^
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