最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト

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最強天使、恋の応援ミッション開始!

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 俺は振り返り、少女を見下ろした。ポニーテールに、大きな瞳。頭上には【0】の数字が浮かんでいる。少女の頬は赤く染まり、まるでそれは、イチゴの紅ほっ……ぃいや!『とちおとめ』や『とちあいか』のようだ!ふう、危うく他県の名産を口走るところだったぜ(別にいい)。

 遊は天パの頭をわしゃわしゃ掻きながら、ぎこちなく少女と向かい合った。肩が強張り、体がガチガチに緊張している。

「ぁ……。久美先輩、こんにちは……」

 ホ
 ワ
 ッ
 ト

 俺は耳に手のひらを当てた。底抜けに明るい遊から、こんな蚊の鳴くような声が出るとは。

「遊くん、偶然だね?」
「……ぁ、はぃ」

 おい、声ちっちゃいぞ!?遊よ、さっきまでの豪快さはどこへ消えたのだ!?

「遊くんも家族と来たの?」

 しどろもどろの遊から、少女が俺に視線を移した。ニコニコしながら俺を見上げ、軽く会釈をしている。活発な印象で、笑顔がチャーミングな少女だ。さて、家族ではないがなんと挨拶したらいいものか——。

「この人はサミュエルさんで、俺の友達です……」
「サミュエルさん!? わあ、カッコいい名前!」

 栃木で名前を褒められるのは、これで二度目だ。素直で人懐っこい反応が、遊とそっくりである。

「ありがとう。遊の友達のサミュエルだ」

 気分がよくなった俺。堂々と友達の肩書きを受け入れ、自己紹介をしている。

「はじめまして、直井久美です! 久しいに美しいで、久美です。おばあちゃんがつけてくれたので、ちょっと古風かもしれないんですけど」

 照れ笑いを浮かべる久美ちゃんをちらりと見て、遊が耳を真っ赤にしている。頭から湯気が出そうな勢いだ。

「いい名前だと思うぞ。な、遊もそう思うだろう?」
「え? あ、はい……」

 遊、うつむき加減で視線を左右に泳がせている。久美ちゃんを直視できず、ずっと足元を見たままだ。ツンと横からつついたら倒れそうである。

「音楽室から練習見えてるよ! 遊くん、足速いよね?」
「ありがとうございます……」
「休憩所でおじいちゃんたち待ってるから。またね!」
「はい……」

 俺にも手を振り、階段を駆け上がって行く久美ちゃん。遊が茶色い瞳で、その背中をじっと追っている。遊の口は半開きで、ぽかんとした表情だ。

 ——これはもう、確定だろう。

「遊」
「うん……?」
「久美ちゃんが好きなのか?」
「えっ!? な、なん、なんで!?」

 遊が俺を見上げ、天パの髪を両手で持ち上げあわあわしている。言葉にせずとも「はい、好きです」と言ってるようなものである。
 しかし、久美ちゃんの前では常にあの態度なのだろうか?親しくなるまでに、かなりの時間を要すのでは……。それ以前に、遊の魅力が伝わらないのはどうにももったいないぞ。

「俺さ、久美先輩の前だと全然話せなくて……」
「遊よ。いつもの明るさは、いったいどこへ消えたのだ?」

 いつものとか。出会ったの数時間前な件。

「俺、にーちゃんしかいないからさ」
「ほう」
「女子慣れしてないし、理系だからそもそもクラスに女子少ないし。久美先輩はひとつ上だから、余計に緊張するしさ」

 おやおや、初々しいな。久美ちゃんは遊のことを意識してるように思えたが。でなければ、わざわざ声をかけてこないだろう。……む?もしや、これが遊の「困りごと」の糸口では!?

「遊よ」
「うん……?」
「お前の恋が成就するよう、俺が協力するというミッションはどうだろうか?」
「えっ」

 通常のミッションからは趣旨がズレている。認められるかどうか怪しいところではあるが、困りごとに違いはない。

「まずはバレットに確認せねば、なんとも言えな……」
「俺さ、サミュエルさんっ!!」

 急に声を張り上げた遊に、エレベーターホールのご老人団体がこちらに視線を向けている。何事だろうかと、ざわめきが広がった。

「告白はさっ! ちゃんと自分でしたいんだっっ!!」

 こぶしを両手で握り締め、背伸びをして語尾を強める遊。声が大きいぞ、発声練習か。

「そ、そうか。よいことではないか」
「だけどさ! さっきみたいに俺、すっげえ緊張しちゃうからさ! サミュエルさんに助けて欲しい! 別に魔法とか使わなくていいからっ!!」

 小さな休憩所でレモン牛乳を飲んでいた父子がそばを通過し、顔を見合わせている。俺と遊が、劇団員だと思われている可能性が高い。

「う、うむ。ではのちほど、バレットに聞いてみよう」
「今じゃダメなの?」
「一日一通しかメッセージを送れんのだ」

 貴重な一通である。できれば複数の質問をまとめ、有効に使いたい。

「いずれにせよ、お前の恋を応援するぞ、遊」
「ありがとう! ……あ、すみません。俺、敬語忘れてました」

 遊はしまったという表情をし、頭を九十度に下げた。俺はフッと笑い、遊の肩にポンと手を乗せる。

「構わん。俺たちは友達だろう?」

 ……いやいいんか、これで(震)。俺は最強天使サミュエルだ。上界では「揺るぎなき孤高の存在」と呼ばれている。それが、栃木の高校生男子の「友達」に落ち着くとは!

「ありがとう! サミュエルさん、ガチで大好き!」

 遊が俺に飛びつき、エレベーターホールにいるご老人団体から拍手が沸き起こった。

「お若いのう!」
「いやあ、青春じゃ!」
「やだわあ! 続きはどうなるのかしら!?」

 ——パチパチパチパチッ!

 紳士淑女、よろしいか。これは演劇ではない。



 ——続く——
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