11 / 72
最強天使、恋の応援ミッション開始!
しおりを挟む
俺は振り返り、少女を見下ろした。
ポニーテールに大きな瞳。頭上には【0】の数字が浮かんでいる。少女のほっぺは赤く染まり、まるでイチゴの紅ほっ……ぃいや!『とちおとめ』や『とちあいか』のようだっ!!ふう、危うく他県の名産を口走るところだった(別にいい)。
遊は天パの頭をわしゃわしゃと掻きながら、ぎこちなく少女と向かい合った。肩が強張り、体全体がガチガチに緊張している。
「ぁ……。久美先輩、こんにちは……」
ホ
ワ
ッ
ト
俺は手のひらを耳に添えた。底抜けに明るい遊から、こんな蚊の鳴くような声が出るとは!
「遊くん、偶然だね?」
「……ぁ、はぃ」
おい、声ちっちゃいぞ!?遊よ、さっきまでの豪快さはどこへ消えたのだ!?
「遊くんも家族と来たの?」
しどろもどろの遊から、少女が俺に視線を移す。活発な印象で、笑顔がチャーミングだ。さて、家族ではないがなんと挨拶したらいいものか——。
「ぁ、この人はサミュエルさんです……俺の友達です……」
「サミュエルさん!? わあ、カッコいい名前!」
栃木で名前を褒められるのは、これで二度目である。素直で人懐っこい反応が、遊とそっくりだ。
「ありがとう。遊の友達のサミュエルだ」
気分がよくなった俺は、堂々と友達の肩書きを受け入れ、自己紹介をしている。
「はじめまして、直井久美です! 久しいに美しいで、久美です。おばあちゃんがつけてくれたので、ちょっと古風かもしれないんですけど」
遊はちらりと照れ笑いを浮かべる久美ちゃんを見て、耳を真っ赤にしている。頭から湯気が出そうな勢いだ。
「いい名前だと思うぞ。な、遊もそう思うだろう?」
「ぇ? ぁ、はぃ……」
遊はうつむき加減で視線を左右に泳がせている。久美ちゃんを直視できず、ずっと足元を見たままだ。ツンと横からつついたら倒れそうである。
「音楽室から練習見えてるよ! 遊くん、足速いよね?」
「ありがとうございます……」
「休憩所でおじいちゃんたち待ってるから。またね!」
「はい……」
俺にも手を振ると、階段を駆け上がって行く久美ちゃん。遊が茶色い瞳でその背中をじっと追っている。口は半開きで、ぽかんとした表情だ。
これはもう、確定だろう。
「遊」
「うん……?」
「久美ちゃんが好きなのか?」
「えっ!? な、なん、なんで……!?」
その慌てぶりは、「はい、好きです」と告げているようなものだ。
しかし、久美ちゃんの前では常にあの態度なのだろうか。あの様子では、親しくなるまでに相当な時間がかかりそうだ。遊の魅力が伝わらぬのは、実にもったいない。
「俺さ、久美先輩の前だと全然話せなくて……」
「遊よ。いつもの明るさはどこへ消えたのだ?」
いつものとか。出会ったの数時間前な件。
「俺さ、にーちゃんしかいないから」
「ほう」
「女子慣れしてないし、理系だからそもそもクラスに女子少ないし。久美先輩はひとつ上だから、余計に緊張するしさ」
おやおや、初々しいな。久美ちゃんは遊のことを意識しているように思えたが。でなければ、わざわざ声をかけてこないだろう。
む?もしや、これが遊の「困りごと」の糸口では!?
「遊よ」
「うん……?」
「お前の恋が成就するよう、俺が協力するというミッションはどうだろうか?」
「えっ?」
通常のミッションからは趣旨がずれている。認められるかどうかは怪しいところだが、困りごとに違いはないだろう。
「まずはバレットに確認せねば、なんとも——」
「俺さ、サミュエルさんっ!!」
急に声を張り上げた遊に、エレベーターホールのご老人団体がこちらに視線を向けた。何事だろうかと、ざわめきが広がっている。
「告白は、ちゃんと自分でしたいんだっっ!!」
両手でこぶしを握り、背伸びをして語尾を強める遊。声が大きいぞ。発声練習か。
「そ、そうか。よいことではないか」
「だけどさ! さっきみたいに俺、すっげえ緊張しちゃうからさ! サミュエルさんに助けて欲しい! 別に魔法とか使わなくていいからっ!!」
小さな休憩所でレモン牛乳を飲んでいた父子が、顔を見合わせて我々のそばを通り過ぎた。俺と遊が劇団員だと思われている可能性が高い。
「う、うむ。ではのちほど、バレットに聞いてみよう」
「今じゃダメなの?」
「一日一度しかメッセージを送れんのだ」
貴重な一通である。できれば複数の質問をまとめ、有効に使いたい。
「いずれにせよ、お前の恋を応援するぞ、遊」
「ありがとう! ……あ、すみません。俺、敬語忘れてました」
遊はしまったという表情をし、頭を九十度に下げた。俺はフッと笑い、遊の肩にポンッと手を乗せる。
「構わん。俺たちは友達だろう?」
……いやいいんか、これで(震)。俺は最強天使サミュエルだ。上界では「揺るぎなき孤高の存在」と呼ばれている男。それが、栃木の高校生男子の「友達」に落ち着くとは!
「ありがとう! サミュエルさん、ガチで大好きっ!」
遊が俺に飛びつき、ご老人団体からは拍手が湧いた。
「お若いのう!」
「いやあ、青春じゃ!」
「やだわあ! 続きはどうなるのかしら!?」
——パチパチパチパチッ!
紳士淑女、よろしいか。これは演劇ではない。
——続く——
ポニーテールに大きな瞳。頭上には【0】の数字が浮かんでいる。少女のほっぺは赤く染まり、まるでイチゴの紅ほっ……ぃいや!『とちおとめ』や『とちあいか』のようだっ!!ふう、危うく他県の名産を口走るところだった(別にいい)。
遊は天パの頭をわしゃわしゃと掻きながら、ぎこちなく少女と向かい合った。肩が強張り、体全体がガチガチに緊張している。
「ぁ……。久美先輩、こんにちは……」
ホ
ワ
ッ
ト
俺は手のひらを耳に添えた。底抜けに明るい遊から、こんな蚊の鳴くような声が出るとは!
「遊くん、偶然だね?」
「……ぁ、はぃ」
おい、声ちっちゃいぞ!?遊よ、さっきまでの豪快さはどこへ消えたのだ!?
「遊くんも家族と来たの?」
しどろもどろの遊から、少女が俺に視線を移す。活発な印象で、笑顔がチャーミングだ。さて、家族ではないがなんと挨拶したらいいものか——。
「ぁ、この人はサミュエルさんです……俺の友達です……」
「サミュエルさん!? わあ、カッコいい名前!」
栃木で名前を褒められるのは、これで二度目である。素直で人懐っこい反応が、遊とそっくりだ。
「ありがとう。遊の友達のサミュエルだ」
気分がよくなった俺は、堂々と友達の肩書きを受け入れ、自己紹介をしている。
「はじめまして、直井久美です! 久しいに美しいで、久美です。おばあちゃんがつけてくれたので、ちょっと古風かもしれないんですけど」
遊はちらりと照れ笑いを浮かべる久美ちゃんを見て、耳を真っ赤にしている。頭から湯気が出そうな勢いだ。
「いい名前だと思うぞ。な、遊もそう思うだろう?」
「ぇ? ぁ、はぃ……」
遊はうつむき加減で視線を左右に泳がせている。久美ちゃんを直視できず、ずっと足元を見たままだ。ツンと横からつついたら倒れそうである。
「音楽室から練習見えてるよ! 遊くん、足速いよね?」
「ありがとうございます……」
「休憩所でおじいちゃんたち待ってるから。またね!」
「はい……」
俺にも手を振ると、階段を駆け上がって行く久美ちゃん。遊が茶色い瞳でその背中をじっと追っている。口は半開きで、ぽかんとした表情だ。
これはもう、確定だろう。
「遊」
「うん……?」
「久美ちゃんが好きなのか?」
「えっ!? な、なん、なんで……!?」
その慌てぶりは、「はい、好きです」と告げているようなものだ。
しかし、久美ちゃんの前では常にあの態度なのだろうか。あの様子では、親しくなるまでに相当な時間がかかりそうだ。遊の魅力が伝わらぬのは、実にもったいない。
「俺さ、久美先輩の前だと全然話せなくて……」
「遊よ。いつもの明るさはどこへ消えたのだ?」
いつものとか。出会ったの数時間前な件。
「俺さ、にーちゃんしかいないから」
「ほう」
「女子慣れしてないし、理系だからそもそもクラスに女子少ないし。久美先輩はひとつ上だから、余計に緊張するしさ」
おやおや、初々しいな。久美ちゃんは遊のことを意識しているように思えたが。でなければ、わざわざ声をかけてこないだろう。
む?もしや、これが遊の「困りごと」の糸口では!?
「遊よ」
「うん……?」
「お前の恋が成就するよう、俺が協力するというミッションはどうだろうか?」
「えっ?」
通常のミッションからは趣旨がずれている。認められるかどうかは怪しいところだが、困りごとに違いはないだろう。
「まずはバレットに確認せねば、なんとも——」
「俺さ、サミュエルさんっ!!」
急に声を張り上げた遊に、エレベーターホールのご老人団体がこちらに視線を向けた。何事だろうかと、ざわめきが広がっている。
「告白は、ちゃんと自分でしたいんだっっ!!」
両手でこぶしを握り、背伸びをして語尾を強める遊。声が大きいぞ。発声練習か。
「そ、そうか。よいことではないか」
「だけどさ! さっきみたいに俺、すっげえ緊張しちゃうからさ! サミュエルさんに助けて欲しい! 別に魔法とか使わなくていいからっ!!」
小さな休憩所でレモン牛乳を飲んでいた父子が、顔を見合わせて我々のそばを通り過ぎた。俺と遊が劇団員だと思われている可能性が高い。
「う、うむ。ではのちほど、バレットに聞いてみよう」
「今じゃダメなの?」
「一日一度しかメッセージを送れんのだ」
貴重な一通である。できれば複数の質問をまとめ、有効に使いたい。
「いずれにせよ、お前の恋を応援するぞ、遊」
「ありがとう! ……あ、すみません。俺、敬語忘れてました」
遊はしまったという表情をし、頭を九十度に下げた。俺はフッと笑い、遊の肩にポンッと手を乗せる。
「構わん。俺たちは友達だろう?」
……いやいいんか、これで(震)。俺は最強天使サミュエルだ。上界では「揺るぎなき孤高の存在」と呼ばれている男。それが、栃木の高校生男子の「友達」に落ち着くとは!
「ありがとう! サミュエルさん、ガチで大好きっ!」
遊が俺に飛びつき、ご老人団体からは拍手が湧いた。
「お若いのう!」
「いやあ、青春じゃ!」
「やだわあ! 続きはどうなるのかしら!?」
——パチパチパチパチッ!
紳士淑女、よろしいか。これは演劇ではない。
——続く——
102
あなたにおすすめの小説
Vを知らないアラサー男、崖っぷちV事務所に拉致られる。
けろり。
キャラ文芸
須藤ナオシ(28)。
半年前にプログラマとして勤めていた会社が倒産し、現在は無職。定期的に届くお祈りメールにも無感情になった彼の唯一のプライドは、誰にも評価されないソシャゲの「不遇キャラ」の価値を異常な分析力で証明することだけ。
しかし、その哲学すらも有名配信者に搾取され、全てに絶望した彼の足はハローワークへと向かう。
そんな矢先の公園で彼は運命を変える出会いをする。
彼の狂気的な分析ノートに目を輝かせる変な女。その正体は、倒産寸前の弱小事務所に所属するVtuber「黒木カナタ」――の中の人だった!
「私と一緒に来てください! あなたのその『頭のオカシイ分析力』が必要なんです!」
「い、いえ、結構です! 俺、そういうのにはこれっぽっちも興味ないんで!」
「壺も絵も売りません! 変なセミナーでもありませんから! お願いします、話を聞くだけでもいいので!」
歌もトークもダンスも何でもこなすエリートVtuber(でも伸びない)と、彼女を支える分析好きな元プログラマ(でも無職)。
一見正反対な二人が時にすれ違い、時に支え合いながら崖っぷち事務所を最強へと導いていく。
これは、理不尽な拉致(?)から始まるVtuber業界逆転ラブコメディ!
※この作品は「小説家になろう」、「カクヨム」でも同時連載しております
※旧題『不遇キャラを愛しすぎたアラサー元プログラマ、倒産寸前のVtuber事務所を『最強』にする』よりタイトルを変更しました
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。
数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。
トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。
俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる