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最強天使、恋の応援ミッション開始!
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俺は振り返り、少女を見下ろした。ポニーテールに、大きな瞳。頭上には【0】の数字が浮かんでいる。少女の頬は赤く染まり、まるでそれは、イチゴの紅ほっ……ぃいや!『とちおとめ』や『とちあいか』のようだ!ふう、危うく他県の名産を口走るところだったぜ(別にいい)。
遊は天パの頭をわしゃわしゃ掻きながら、ぎこちなく少女と向かい合った。肩が強張り、体がガチガチに緊張している。
「ぁ……。久美先輩、こんにちは……」
ホ
ワ
ッ
ト
俺は耳に手のひらを当てた。底抜けに明るい遊から、こんな蚊の鳴くような声が出るとは。
「遊くん、偶然だね?」
「……ぁ、はぃ」
おい、声ちっちゃいぞ!?遊よ、さっきまでの豪快さはどこへ消えたのだ!?
「遊くんも家族と来たの?」
しどろもどろの遊から、少女が俺に視線を移した。ニコニコしながら俺を見上げ、軽く会釈をしている。活発な印象で、笑顔がチャーミングな少女だ。さて、家族ではないがなんと挨拶したらいいものか——。
「この人はサミュエルさんで、俺の友達です……」
「サミュエルさん!? わあ、カッコいい名前!」
栃木で名前を褒められるのは、これで二度目だ。素直で人懐っこい反応が、遊とそっくりである。
「ありがとう。遊の友達のサミュエルだ」
気分がよくなった俺。堂々と友達の肩書きを受け入れ、自己紹介をしている。
「はじめまして、直井久美です! 久しいに美しいで、久美です。おばあちゃんがつけてくれたので、ちょっと古風かもしれないんですけど」
照れ笑いを浮かべる久美ちゃんをちらりと見て、遊が耳を真っ赤にしている。頭から湯気が出そうな勢いだ。
「いい名前だと思うぞ。な、遊もそう思うだろう?」
「え? あ、はい……」
遊、うつむき加減で視線を左右に泳がせている。久美ちゃんを直視できず、ずっと足元を見たままだ。ツンと横からつついたら倒れそうである。
「音楽室から練習見えてるよ! 遊くん、足速いよね?」
「ありがとうございます……」
「休憩所でおじいちゃんたち待ってるから。またね!」
「はい……」
俺にも手を振り、階段を駆け上がって行く久美ちゃん。遊が茶色い瞳で、その背中をじっと追っている。遊の口は半開きで、ぽかんとした表情だ。
——これはもう、確定だろう。
「遊」
「うん……?」
「久美ちゃんが好きなのか?」
「えっ!? な、なん、なんで!?」
遊が俺を見上げ、天パの髪を両手で持ち上げあわあわしている。言葉にせずとも「はい、好きです」と言ってるようなものである。
しかし、久美ちゃんの前では常にあの態度なのだろうか?親しくなるまでに、かなりの時間を要すのでは……。それ以前に、遊の魅力が伝わらないのはどうにももったいないぞ。
「俺さ、久美先輩の前だと全然話せなくて……」
「遊よ。いつもの明るさは、いったいどこへ消えたのだ?」
いつものとか。出会ったの数時間前な件。
「俺、にーちゃんしかいないからさ」
「ほう」
「女子慣れしてないし、理系だからそもそもクラスに女子少ないし。久美先輩はひとつ上だから、余計に緊張するしさ」
おやおや、初々しいな。久美ちゃんは遊のことを意識してるように思えたが。でなければ、わざわざ声をかけてこないだろう。……む?もしや、これが遊の「困りごと」の糸口では!?
「遊よ」
「うん……?」
「お前の恋が成就するよう、俺が協力するというミッションはどうだろうか?」
「えっ」
通常のミッションからは趣旨がズレている。認められるかどうか怪しいところではあるが、困りごとに違いはない。
「まずはバレットに確認せねば、なんとも言えな……」
「俺さ、サミュエルさんっ!!」
急に声を張り上げた遊に、エレベーターホールのご老人団体がこちらに視線を向けている。何事だろうかと、ざわめきが広がった。
「告白はさっ! ちゃんと自分でしたいんだっっ!!」
こぶしを両手で握り締め、背伸びをして語尾を強める遊。声が大きいぞ、発声練習か。
「そ、そうか。よいことではないか」
「だけどさ! さっきみたいに俺、すっげえ緊張しちゃうからさ! サミュエルさんに助けて欲しい! 別に魔法とか使わなくていいからっ!!」
小さな休憩所でレモン牛乳を飲んでいた父子がそばを通過し、顔を見合わせている。俺と遊が、劇団員だと思われている可能性が高い。
「う、うむ。ではのちほど、バレットに聞いてみよう」
「今じゃダメなの?」
「一日一通しかメッセージを送れんのだ」
貴重な一通である。できれば複数の質問をまとめ、有効に使いたい。
「いずれにせよ、お前の恋を応援するぞ、遊」
「ありがとう! ……あ、すみません。俺、敬語忘れてました」
遊はしまったという表情をし、頭を九十度に下げた。俺はフッと笑い、遊の肩にポンと手を乗せる。
「構わん。俺たちは友達だろう?」
……いやいいんか、これで(震)。俺は最強天使サミュエルだ。上界では「揺るぎなき孤高の存在」と呼ばれている。それが、栃木の高校生男子の「友達」に落ち着くとは!
「ありがとう! サミュエルさん、ガチで大好き!」
遊が俺に飛びつき、エレベーターホールにいるご老人団体から拍手が沸き起こった。
「お若いのう!」
「いやあ、青春じゃ!」
「やだわあ! 続きはどうなるのかしら!?」
——パチパチパチパチッ!
紳士淑女、よろしいか。これは演劇ではない。
——続く——
遊は天パの頭をわしゃわしゃ掻きながら、ぎこちなく少女と向かい合った。肩が強張り、体がガチガチに緊張している。
「ぁ……。久美先輩、こんにちは……」
ホ
ワ
ッ
ト
俺は耳に手のひらを当てた。底抜けに明るい遊から、こんな蚊の鳴くような声が出るとは。
「遊くん、偶然だね?」
「……ぁ、はぃ」
おい、声ちっちゃいぞ!?遊よ、さっきまでの豪快さはどこへ消えたのだ!?
「遊くんも家族と来たの?」
しどろもどろの遊から、少女が俺に視線を移した。ニコニコしながら俺を見上げ、軽く会釈をしている。活発な印象で、笑顔がチャーミングな少女だ。さて、家族ではないがなんと挨拶したらいいものか——。
「この人はサミュエルさんで、俺の友達です……」
「サミュエルさん!? わあ、カッコいい名前!」
栃木で名前を褒められるのは、これで二度目だ。素直で人懐っこい反応が、遊とそっくりである。
「ありがとう。遊の友達のサミュエルだ」
気分がよくなった俺。堂々と友達の肩書きを受け入れ、自己紹介をしている。
「はじめまして、直井久美です! 久しいに美しいで、久美です。おばあちゃんがつけてくれたので、ちょっと古風かもしれないんですけど」
照れ笑いを浮かべる久美ちゃんをちらりと見て、遊が耳を真っ赤にしている。頭から湯気が出そうな勢いだ。
「いい名前だと思うぞ。な、遊もそう思うだろう?」
「え? あ、はい……」
遊、うつむき加減で視線を左右に泳がせている。久美ちゃんを直視できず、ずっと足元を見たままだ。ツンと横からつついたら倒れそうである。
「音楽室から練習見えてるよ! 遊くん、足速いよね?」
「ありがとうございます……」
「休憩所でおじいちゃんたち待ってるから。またね!」
「はい……」
俺にも手を振り、階段を駆け上がって行く久美ちゃん。遊が茶色い瞳で、その背中をじっと追っている。遊の口は半開きで、ぽかんとした表情だ。
——これはもう、確定だろう。
「遊」
「うん……?」
「久美ちゃんが好きなのか?」
「えっ!? な、なん、なんで!?」
遊が俺を見上げ、天パの髪を両手で持ち上げあわあわしている。言葉にせずとも「はい、好きです」と言ってるようなものである。
しかし、久美ちゃんの前では常にあの態度なのだろうか?親しくなるまでに、かなりの時間を要すのでは……。それ以前に、遊の魅力が伝わらないのはどうにももったいないぞ。
「俺さ、久美先輩の前だと全然話せなくて……」
「遊よ。いつもの明るさは、いったいどこへ消えたのだ?」
いつものとか。出会ったの数時間前な件。
「俺、にーちゃんしかいないからさ」
「ほう」
「女子慣れしてないし、理系だからそもそもクラスに女子少ないし。久美先輩はひとつ上だから、余計に緊張するしさ」
おやおや、初々しいな。久美ちゃんは遊のことを意識してるように思えたが。でなければ、わざわざ声をかけてこないだろう。……む?もしや、これが遊の「困りごと」の糸口では!?
「遊よ」
「うん……?」
「お前の恋が成就するよう、俺が協力するというミッションはどうだろうか?」
「えっ」
通常のミッションからは趣旨がズレている。認められるかどうか怪しいところではあるが、困りごとに違いはない。
「まずはバレットに確認せねば、なんとも言えな……」
「俺さ、サミュエルさんっ!!」
急に声を張り上げた遊に、エレベーターホールのご老人団体がこちらに視線を向けている。何事だろうかと、ざわめきが広がった。
「告白はさっ! ちゃんと自分でしたいんだっっ!!」
こぶしを両手で握り締め、背伸びをして語尾を強める遊。声が大きいぞ、発声練習か。
「そ、そうか。よいことではないか」
「だけどさ! さっきみたいに俺、すっげえ緊張しちゃうからさ! サミュエルさんに助けて欲しい! 別に魔法とか使わなくていいからっ!!」
小さな休憩所でレモン牛乳を飲んでいた父子がそばを通過し、顔を見合わせている。俺と遊が、劇団員だと思われている可能性が高い。
「う、うむ。ではのちほど、バレットに聞いてみよう」
「今じゃダメなの?」
「一日一通しかメッセージを送れんのだ」
貴重な一通である。できれば複数の質問をまとめ、有効に使いたい。
「いずれにせよ、お前の恋を応援するぞ、遊」
「ありがとう! ……あ、すみません。俺、敬語忘れてました」
遊はしまったという表情をし、頭を九十度に下げた。俺はフッと笑い、遊の肩にポンと手を乗せる。
「構わん。俺たちは友達だろう?」
……いやいいんか、これで(震)。俺は最強天使サミュエルだ。上界では「揺るぎなき孤高の存在」と呼ばれている。それが、栃木の高校生男子の「友達」に落ち着くとは!
「ありがとう! サミュエルさん、ガチで大好き!」
遊が俺に飛びつき、エレベーターホールにいるご老人団体から拍手が沸き起こった。
「お若いのう!」
「いやあ、青春じゃ!」
「やだわあ! 続きはどうなるのかしら!?」
——パチパチパチパチッ!
紳士淑女、よろしいか。これは演劇ではない。
——続く——
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