最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト∞

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最強天使、東京に舞い降りるはずが落下(震)

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「ここ最近、バレットも働き詰めだったろう?」
「サミュエル様、ありがとうございます。お仕えする方が方向音痴でいらっしゃるのは、なんともまあ、毎日が冒険のようでございまして。日々、刺激が絶えず——」
「……休暇、いらないのか?」
「ありがたく頂戴致します」

 バレットは懐から羽根ペンを取り出し、休暇申請書に文字をしたため始めた。ペン先が紙を走るたび、淡い光の粒がふわりと舞い上がり宙に散っていく。

「なぜ、数日後なんだ? 今日からでいいぞ」

 俺はジャケットを羽織った。毎度のことではあるが、スーツに身を包むと自然と背筋が伸びる。
 天使は下界に舞い降りる際、必ず正装をする。それは人間に敬意を示すためである。我々は、救ってやっているといった上から目線では決してないのだ。

「本日からでよろしいのでしょうか?」
「構わん」
「サミュエル様。何度も申し上げていることではございますが……。くれぐれも、人間と親しくならぬよう、お気をつけくださいませ」

 天使は人間と深く関わってはならない。それが長きに渡り、上界で受け継がれてきた【おきて】である。

「わかっている」
「情が湧いてしまえば、お互いに不幸を招くだけでございます。サミュエル様は冷静沈着に見えて、実は誰よりも愛情深い。そこを私は心配しているのです」

 その声音はいつになく真剣だった。皮肉を交えて語ることの多いバレットが、ここまで言うのは珍しい。第六感の鋭い彼の言葉が、ずしりとこの胸に響いていく。だが——。

「バレットよ。たとえ人間と関わりを持ったとて、我々がミッションを終え、上界に戻れば……」
「ええ。記憶は、すべて消去されます」

 どんなに感謝をされても、どれほど深い絆を交わしても。それが天使と執事の所業であることを、人間は覚えていない。
 ただ夢のように、一瞬の温もりだけを残して我々は消え去る。それが、掟——。

「ですが、サミュエル様は覚えていらっしゃいますゆえ……」
「バレットは心配性だな。俺は最速でミッションコンプリートをこなす最強天使だ。人間と馴れ合うなどありえぬ」

 バレットはわずかに視線をそらし、申請書を俺に差し出した。

「サミュエル様。私の休暇中はサポート体制が程度に減りますが、本当に本日からで問題ございませんでしょうか?」
「構わん」
「よろしいんですね? 程度でございますよ?」

 なぜ、減らした。

「……問題ない」
「では、こちらにサインをお願い致します」

 俺は羽根を揺らしてペン先を走らせた。署名と同時に、文字がオーロラ色に輝き出す。
 最強天使の魔法の光は、上界のどの者よりも強い。まばゆい輝きを放ちながら、文字が張り付くように紙面を満たしていく。申請書は明滅めいめつしながら天井へと舞い上がり、ひときわ強く瞬いたのち、パアンッと弾け消えた。

「サミュエル様。執事の休暇中は、ワープ機能が使えませんので……。お迎えにも伺えず、サミュエル様がミッションコンプリートをなさらない限り、上界へお戻りにはなれませんよ?」

 俺は頷き、左腕に腕時計を装着した。チクタクと秒針の音が耳に響く。針を合わせた先は日本時間である。

「すぐに終えて帰ってくる」
「私への通信機能も、通話は一日五分まで。メッセージも、一件が限界でございますからね?」
「問題ない」

 そう口にしながらも、どうも腕時計の調子が悪い。秒針がわずかにぶれており、今にも止まりそうだ。
 先日修理に出したばかりだが、やはりラファエロに見てもらわねば無意味だったか。装飾品に、絵画に、建造物にと、彼は創作のスペシャリストである。

「サミュエル様。くれぐれも迷子になりませんよう、お気をつけくださいませ」
「うむ……」

 最後の忠告がやけに引っかかる。方向感覚が壊滅的だと、ここまで信用されないのだろうか。
 俺は咳払いひとつで気持ちを立て直し、胸元のネクタイを正した。

「さて、行くか」

 部屋の中央に立つ、焦げ茶色に深く染まった重厚な木製のドア。右側にはややくすんだゴールドのドアノブが取り付けられ、その上には回転式のダイヤルが控え目に設置されている。
 ——これぞ、下界への入り口だ。

「ドアは、日本にて設定を完了しております。回して頂くダイヤルは『右・右・左・右・左』でございます。サミュエル様、行ってらっしゃいませ。いつも通り、サミュエル様が舞い降りられてから、五秒後に私も参ります」
「ははは。お前はミッションではない、休暇だ。同時で構わん」
「私は仕える身でございます。そういうわけには参りません」

 俺は腕時計に視線を落とした。秒針が細かく震え、時々止まってしまう。

 チクタクチクタ……クッ——。

 参ったな。今日のミッションが終わるまでは、なんとかもって欲しいものだが。

「サミュエル様?」

 何度か左腕を振った俺は、ドアノブの上のダイヤルに触れた。ええとなんだ。ひだりの、みぎの……『左・左・右・左・右』だったか、よし。

 ガチャリ——。

「ちょっ!? サミュエル様!!」

 この腕時計も、そろそろ人間で例えるところの寿命とやらかもしれんな。

「サミュエル様お待ちください! 私はすでにワープができませ……!」
「ははは。バレット、最後の最後まで俺を心配して——」
「ちがっっ! それは、東京への扉ではございませんよ!?」

 ——え。

「サミュッ……!」

 ——ええっ?

 ——ええええっ!?えええええぇぇぇぇぇあああああああーーーっっっ!!

 バレットが左腕を伸ばしたが、俺はすでに、ドアの外へ一歩踏み出していた。気づけば雲の上に飛び込み、ぐんぐん下界に落ちてい……たぁぁああああーーーっっ!!

「サミュエルさまあああーーーっっ!!」
「バレットよ! この扉はどこに続いている!?」
「休暇をありがとうございまあああーーーすっっ!!」

 いやいやいや!

 それ言うタイミング、今じゃねえだろおおおおぉぉあああーーーーっっ!!!



 ——続く——

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