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最強天使、とっちらかる
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写真の中の空間を、俺は食い入るように見つめた。天井は悠然と高く伸び、地下へと続く階段は光を吸い込みながら、神聖な輝きを放っている。奥まで掘り進められた石壁は、ピラミッドの内部のようだがそうではない。
——ここは、栃木なのだ。
「なんと美しい……」
「地下神殿はさ、採掘場跡なんだよ!」
体験型の資料館とは驚きである。この地の底力を、まざまざと思い知らされたぞ。いずれ、魅力度ランキングは十位圏内に滑り込むだろう。本心では上位三位と主張したいところだが、何事も謙虚さを忘れてはならぬ。
「壮大で、興味をかき立てられる資料館だ」
「この間さ、力也先輩の誕生日だったんだ!」
相変わらず、会話が噛み合わぬ遊である。……む?力也くんの誕生日?
「おや。彼は八月生まれだったのか」
「うん!」
遊が唇を突き出し、ふうっとロウソクを消す仕草を見せた。そのまま、パチパチパチッ!と両手を合わせている。
「力也先輩は芸術系に興味があるからさ、好きそうなところに連れていってあげたいんだ!」
じぃーん……。なんという友情だ。胸が熱いぞ、美浜遊!
「俺も力也くんを祝いたいのだが、彼も甘党で間違いはないか?」
「うん! 力也先輩もスイーツ好きだよ!」
日本の匠の技には唸らされる。高級なケーキやクッキーはもちろんのこと、コンビニに並ぶデザートも驚くようなクオリティだ。
グミやポテトチップスなど、お菓子類の品ぞろえも熱い。バレットが数店舗をはしごし、プリンに、シュークリームに、キョロキョロの目玉が特徴な鳥がパッケージに描かれたチョコボールにと、あれこれ手に取っては購入し、エコバックに詰め込んでいたのを覚えている——。
「サミュエル様。ワインとチョコレートの相性は抜群でございます。ご一緒に、カスタードとのマリアージュもぜひお試しくださいませ」
なにその、俺のために買ったみたいな言い方。とは突っ込まなかったが、誰もが知らぬ間に甘党になる、それもまた日本の魅力のひとつと言えよう。
はて、力也くんをどう祝うか。ケーキにキャンドルを立てるのもよいが、せっかくである。地下神殿の光の屈折を拝借し、黄金に煌めく文字でハッピーバースデーと綴る……のは、見られたらいかん!堂々と魔法を使ってどうするのだ!
「中はひんやりしてるからさ、何か羽織るものがあったほうがいいよ!」
遊が両腕をさすって、寒さを表現した。しかし、俺は防寒具を持ち合わせていない。なんせ真夏である。用意周到なバレットとて、季節外れの服までは揃えぬだろう。
だがまあ、アラスカに行くわけではあるまい。なんとかなるだろう。
「では、俺はTシャツを重ね着するとしよう」
「だいじ? 平均気温8℃だよ!」
だいじではなかった。冷蔵庫である。
「力也くんもそれを知ってるのか?」
「うん! 『寒かったら俺が温めますね!』って伝えたよ!」
俺は停止し、四つん這いで階段を駆け上がっていく遊を見つめた。愛が溢れる彼ならではの発想だ。それ以上の意味はない。ははは。……久美ちゃんはいいのか?
気を取り直し、俺はリビングの中央で手のひらを宙に滑らせた。指先から光の粒が舞い、静かに渦を描く。空気が徐々に振動し、天井から吊るされた三つのペンダントライトが揺れ、四方を柔らかなオレンジ色に染めていく。
光の渦は輪郭を結び、次第にオーロラ色の輝きへと変化する。力強くパアンッと弾けたのち、黒のウィンドブレーカーが完成した。
……とまあ、何か創作するときは、こうしてド派手な演出になりがちである。俺の魔法と、あしかがフラワーランドのキャッスルはいい勝負だろう。多くの観客がいる中で、あんみつの創作はどれほど気を遣ったか。いま思い浮かべても、冷や汗ものである。
そして今さらだが、温泉帰りにルームウェアを調達せずともよかったのでは?いくらでも創作できたろうに。そう思いつつも、着心地の良さに本日も着用しているという。
「あれ!? それって……!」
二階から戻ってきた遊が、俺の手に握られたウィンドブレーカーを指さした。遊はすでにリュックを背負い、準備万端。だが、まだ地下神殿はオープンしていないだろう。世のすべてが、美浜家と一緒だと思ってはならんぞ(微笑)?
そんな前のめりな遊は、ネイビーのポロシャツを着ている。落ち着いた色は珍しいが、なかなかいいではないか。
「どこかで見たような服だな?」
「へへっ! これ、にーちゃんの借りた!」
「ははは。兄弟揃って、よく似合っているぞ」
遊は裾を引っ張り、白い歯を見せてニッと笑った。
「それよりもさ、その上着って……?」
「遊が着替えてる間に創作したのだ」
「えー! 次はさ、俺の目の前で作って欲しい!」
「ははは。バレぬよう、どこかでこっそりな?」
つい数分前、リビングで光をまき散らしておきながら、どの口が言ってるんだ。なかなかにとっちらかっている最強天使である。
——続く——
——ここは、栃木なのだ。
「なんと美しい……」
「地下神殿はさ、採掘場跡なんだよ!」
体験型の資料館とは驚きである。この地の底力を、まざまざと思い知らされたぞ。いずれ、魅力度ランキングは十位圏内に滑り込むだろう。本心では上位三位と主張したいところだが、何事も謙虚さを忘れてはならぬ。
「壮大で、興味をかき立てられる資料館だ」
「この間さ、力也先輩の誕生日だったんだ!」
相変わらず、会話が噛み合わぬ遊である。……む?力也くんの誕生日?
「おや。彼は八月生まれだったのか」
「うん!」
遊が唇を突き出し、ふうっとロウソクを消す仕草を見せた。そのまま、パチパチパチッ!と両手を合わせている。
「力也先輩は芸術系に興味があるからさ、好きそうなところに連れていってあげたいんだ!」
じぃーん……。なんという友情だ。胸が熱いぞ、美浜遊!
「俺も力也くんを祝いたいのだが、彼も甘党で間違いはないか?」
「うん! 力也先輩もスイーツ好きだよ!」
日本の匠の技には唸らされる。高級なケーキやクッキーはもちろんのこと、コンビニに並ぶデザートも驚くようなクオリティだ。
グミやポテトチップスなど、お菓子類の品ぞろえも熱い。バレットが数店舗をはしごし、プリンに、シュークリームに、キョロキョロの目玉が特徴な鳥がパッケージに描かれたチョコボールにと、あれこれ手に取っては購入し、エコバックに詰め込んでいたのを覚えている——。
「サミュエル様。ワインとチョコレートの相性は抜群でございます。ご一緒に、カスタードとのマリアージュもぜひお試しくださいませ」
なにその、俺のために買ったみたいな言い方。とは突っ込まなかったが、誰もが知らぬ間に甘党になる、それもまた日本の魅力のひとつと言えよう。
はて、力也くんをどう祝うか。ケーキにキャンドルを立てるのもよいが、せっかくである。地下神殿の光の屈折を拝借し、黄金に煌めく文字でハッピーバースデーと綴る……のは、見られたらいかん!堂々と魔法を使ってどうするのだ!
「中はひんやりしてるからさ、何か羽織るものがあったほうがいいよ!」
遊が両腕をさすって、寒さを表現した。しかし、俺は防寒具を持ち合わせていない。なんせ真夏である。用意周到なバレットとて、季節外れの服までは揃えぬだろう。
だがまあ、アラスカに行くわけではあるまい。なんとかなるだろう。
「では、俺はTシャツを重ね着するとしよう」
「だいじ? 平均気温8℃だよ!」
だいじではなかった。冷蔵庫である。
「力也くんもそれを知ってるのか?」
「うん! 『寒かったら俺が温めますね!』って伝えたよ!」
俺は停止し、四つん這いで階段を駆け上がっていく遊を見つめた。愛が溢れる彼ならではの発想だ。それ以上の意味はない。ははは。……久美ちゃんはいいのか?
気を取り直し、俺はリビングの中央で手のひらを宙に滑らせた。指先から光の粒が舞い、静かに渦を描く。空気が徐々に振動し、天井から吊るされた三つのペンダントライトが揺れ、四方を柔らかなオレンジ色に染めていく。
光の渦は輪郭を結び、次第にオーロラ色の輝きへと変化する。力強くパアンッと弾けたのち、黒のウィンドブレーカーが完成した。
……とまあ、何か創作するときは、こうしてド派手な演出になりがちである。俺の魔法と、あしかがフラワーランドのキャッスルはいい勝負だろう。多くの観客がいる中で、あんみつの創作はどれほど気を遣ったか。いま思い浮かべても、冷や汗ものである。
そして今さらだが、温泉帰りにルームウェアを調達せずともよかったのでは?いくらでも創作できたろうに。そう思いつつも、着心地の良さに本日も着用しているという。
「あれ!? それって……!」
二階から戻ってきた遊が、俺の手に握られたウィンドブレーカーを指さした。遊はすでにリュックを背負い、準備万端。だが、まだ地下神殿はオープンしていないだろう。世のすべてが、美浜家と一緒だと思ってはならんぞ(微笑)?
そんな前のめりな遊は、ネイビーのポロシャツを着ている。落ち着いた色は珍しいが、なかなかいいではないか。
「どこかで見たような服だな?」
「へへっ! これ、にーちゃんの借りた!」
「ははは。兄弟揃って、よく似合っているぞ」
遊は裾を引っ張り、白い歯を見せてニッと笑った。
「それよりもさ、その上着って……?」
「遊が着替えてる間に創作したのだ」
「えー! 次はさ、俺の目の前で作って欲しい!」
「ははは。バレぬよう、どこかでこっそりな?」
つい数分前、リビングで光をまき散らしておきながら、どの口が言ってるんだ。なかなかにとっちらかっている最強天使である。
——続く——
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