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最強天使、地下神殿へ参る
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「サミュエルさあーん! あとでさ、力也先輩と一緒に出かけようよ!」
午前六時。食器を洗う俺の後ろで、遊の明るい声が響く。
ソファの上ででんぐり返しを決めた遊は、その勢いのままキッチンへやってきた。壁に掛けられたカレンダーに、赤ペンで大きくバツ印を書きこむ。
遊び、勉強、バイトに部活。容姿に反した凄まじいイビキ。旨い料理と、就寝前の他愛のない会話——。
そんな賑やかな日々も、残り二週間を切ってしまった。週末の旅行が待ち遠しい一方で、刻一刻と迫る別れの足音に、この心が追い付いておらぬ。
「サミュエルさん?」
カレンダーをぼんやり眺める俺を、遊が不思議そうに見上げた。俺は蛇口の水を止め、澄んだ瞳を見つめる。
「……うむ。行く場所は決まってるのか?」
天使と過ごした時間は、人間の記憶から跡形もなく消去される。覆された例などない。
だが、下界にこれほど長く滞在し、ましてや己の正体を知る人間と、同じ屋根の下で暮らした天使も過去におらぬのだ。
ゆえに、どこか淡い期待を抱いてしまう。唯一、人間の記憶を残した天使として……サミュエルの名が、語り継がれぬかと——。
最強天使らしからぬおごりが、八月の終わりが近づくほどに増していく。俺は、いつからこんなに欲深くなったのだろうか。
「サミュエルさんもさ、きっと気に入ると思うよ!」
だが、目の前のことに集中せねば何も進まぬ。残された時間を、悔いなく過ごそうではないか。
「ほう。それは楽しみだな」
「今日はさ、オオヤ歴史資料館に行くよ!」
ずいぶん渋い選択である。休日のレジャーとして訪れる場所なのだろうか?
上界の資料館は、雲の向こうまでそびえる、細長いレンガ造りだ。革靴の踵の音がコツコツと反響し、館内はどこか薄暗い。木枠で十字に区切られたガラス窓が随所にあり、そこから差し込む光の先には、歴代最強天使たちの肖像画が壁一面に飾られている。
奥には螺旋階段があり、キャンドルがその位置をぼんやりと灯している。階段の終わりに構えるのは、漆黒の重厚な扉だ。鍵を差し込んで中に入ると、天井の終わりが見えぬ本棚に、人間のデータが所狭しと保管されている。
国ごとに分けられ、AからZまでアルファベット順に保管された分厚いファイルを、パチンッと指を鳴らして手元に呼び寄せる。その場でページをめくる者もいれば、貸し出しの申請をする者もいたりと、それはミッションによりけりだ。
実のところ、図書館の造りも似通ったところがある。重々しい雰囲気ゆえ、もっと憩いの場にならぬかと、ラファエロが再建を名乗り出たのである。彼が担当した建造物は、空間構成に優れている。図書館がどのように生まれ変わるのか、上界で暮らす者はみな注目しているのだ。
「オオヤ歴史資料館はさ、ミュージックビデオの撮影にも使われてるんだよ!」
遊からの思いもよらぬ情報。古びた棚の前で、ヴォーカルとギタリストがヘッドバンキング。ベーシストは重低音で、ドラマーはスティックで、それぞれ来場者をカウントしていく——。
いや、そんな映像でないことはわかっているが、それはそれで、ちょっと見たいという。
「遊よ、どういうことだ? 全く想像がつかんぞ」
「別名で『地下神殿』って呼ばれててさ! 見て、こんな感じだよ!」
あまりの驚きで息をのむと、俺はつい遊のスマホを手に取ってしまった。
——続く——
読んでくださりありがとうございます!次は、栃木の壮大な地下神殿が舞台です。ぜひ、続きをご覧ください!
午前六時。食器を洗う俺の後ろで、遊の明るい声が響く。
ソファの上ででんぐり返しを決めた遊は、その勢いのままキッチンへやってきた。壁に掛けられたカレンダーに、赤ペンで大きくバツ印を書きこむ。
遊び、勉強、バイトに部活。容姿に反した凄まじいイビキ。旨い料理と、就寝前の他愛のない会話——。
そんな賑やかな日々も、残り二週間を切ってしまった。週末の旅行が待ち遠しい一方で、刻一刻と迫る別れの足音に、この心が追い付いておらぬ。
「サミュエルさん?」
カレンダーをぼんやり眺める俺を、遊が不思議そうに見上げた。俺は蛇口の水を止め、澄んだ瞳を見つめる。
「……うむ。行く場所は決まってるのか?」
天使と過ごした時間は、人間の記憶から跡形もなく消去される。覆された例などない。
だが、下界にこれほど長く滞在し、ましてや己の正体を知る人間と、同じ屋根の下で暮らした天使も過去におらぬのだ。
ゆえに、どこか淡い期待を抱いてしまう。唯一、人間の記憶を残した天使として……サミュエルの名が、語り継がれぬかと——。
最強天使らしからぬおごりが、八月の終わりが近づくほどに増していく。俺は、いつからこんなに欲深くなったのだろうか。
「サミュエルさんもさ、きっと気に入ると思うよ!」
だが、目の前のことに集中せねば何も進まぬ。残された時間を、悔いなく過ごそうではないか。
「ほう。それは楽しみだな」
「今日はさ、オオヤ歴史資料館に行くよ!」
ずいぶん渋い選択である。休日のレジャーとして訪れる場所なのだろうか?
上界の資料館は、雲の向こうまでそびえる、細長いレンガ造りだ。革靴の踵の音がコツコツと反響し、館内はどこか薄暗い。木枠で十字に区切られたガラス窓が随所にあり、そこから差し込む光の先には、歴代最強天使たちの肖像画が壁一面に飾られている。
奥には螺旋階段があり、キャンドルがその位置をぼんやりと灯している。階段の終わりに構えるのは、漆黒の重厚な扉だ。鍵を差し込んで中に入ると、天井の終わりが見えぬ本棚に、人間のデータが所狭しと保管されている。
国ごとに分けられ、AからZまでアルファベット順に保管された分厚いファイルを、パチンッと指を鳴らして手元に呼び寄せる。その場でページをめくる者もいれば、貸し出しの申請をする者もいたりと、それはミッションによりけりだ。
実のところ、図書館の造りも似通ったところがある。重々しい雰囲気ゆえ、もっと憩いの場にならぬかと、ラファエロが再建を名乗り出たのである。彼が担当した建造物は、空間構成に優れている。図書館がどのように生まれ変わるのか、上界で暮らす者はみな注目しているのだ。
「オオヤ歴史資料館はさ、ミュージックビデオの撮影にも使われてるんだよ!」
遊からの思いもよらぬ情報。古びた棚の前で、ヴォーカルとギタリストがヘッドバンキング。ベーシストは重低音で、ドラマーはスティックで、それぞれ来場者をカウントしていく——。
いや、そんな映像でないことはわかっているが、それはそれで、ちょっと見たいという。
「遊よ、どういうことだ? 全く想像がつかんぞ」
「別名で『地下神殿』って呼ばれててさ! 見て、こんな感じだよ!」
あまりの驚きで息をのむと、俺はつい遊のスマホを手に取ってしまった。
——続く——
読んでくださりありがとうございます!次は、栃木の壮大な地下神殿が舞台です。ぜひ、続きをご覧ください!
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