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最強天使、幻想の聖域へ
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地下神殿に足を踏み入れた俺は、言葉も忘れ、その場に立ち尽くした。
「サミュエルさん?」
「……すまない。あまりの感動で、体が言うことを聞かぬようだ」
遊は笑って、俺にウィンドブレーカーを手渡した。最強天使、チャックを上げる手が落ち着かん。
肌を刺すような冷気が満ちている。写真でも十分に高いと感じた天井は、想像を超えてさらに遠くへ伸びていた。
楽器のように音が反響する空間で、多種のライトが灯されている。青、紫、黄色、オレンジ……。艶やかに、幻想的に、刻まれた無数の採掘痕と、我々が進む道を静かに照らしている。
いやはや、先ほどから胸の高鳴りが鎮まらぬ。数多の名所を巡ったはずだが、ここは別格だ。この荘厳な世界を、ラファエロや建築士たちに伝えるのは容易ではない。
さて、どうしたらよいものか——。
「遊よ。スマホで写真を撮ってくれないか?」
「いいよ! こっち向いて笑って!」
「ははは。俺ではない、この地下神殿を撮って欲しいのだ」
上界の資料館に、どれほど詳細な情報が保管されているかわからぬ。遊が撮った写真を何枚かプリントアウトし、舞い戻ったあとにラファエロへ直接渡そうではないか。
いや、その前にバレットにも一度見せてやろう。モニターは天使を中心に映し出される。俺の視点ではないゆえ、この壮麗な景色を彼が見ることは難しいのだ。
バレットの美的感覚は確かである。クローゼットに並ぶ俺のスーツやネクタイは、ほぼ彼が見立てたもの。地下神殿の写真を見れば、「ぜひ図書館のモデルに!」と賛同するはずだ。
「あ、そっか! ……サミュエルさんが自分のスマホ使ったら、キラキラしちゃうもんね?」
遊は口元に手を添え、小声で俺に言った。煌めきももちろんだが、俺のスマホにはカメラ機能がない。あくまで執事との連絡手段であり、必要最低限の機能のみ備えているのだ。
「下界のスマホと違い、俺のものは——」
「任せて!」
遊は張り切って石壁に駆け寄り、ほんの十センチほど下がった位置でシャッターを連打した。いやあの……もっと全体を撮って欲しいのだが。そして、カシャカシャという音と共に、腕をあちこち伸ばしているのが気になる。写真、ブレブレでは。
「ねえねえ! 赤っぽい照明も綺麗だね?」
振り返った遊の顔を、下から深紅のライトが照らす。天パの頭に、濃い顔立ち。アメリカのホラー映画に出てくる少年にしか見えない件。
はて、力也くんは?視線を巡らせると、少し離れた場所でシャッターを切っていた。望遠レンズを駆使し、夢中で撮影を続けている。
「力也くんはカメラが趣味なのか?」
そばに歩み寄って声をかける。寒がりなのか、力也くんは遊と似たパーカーのフードをかぶり、首元までチャックを上げている。
「僕は絵を描くのが好きなので、題材用に撮っています」
「ほう。写真を参考にするのか」
「はい。このカメラは、叔父さんに借りました」
遊から聞いていた通り、力也くんは芸術に興味があるようだ。カメラの液晶を見せられ、隣から覗く。写真には、ふわふわの髪で腕を伸ばし、無邪気にスマホを構える遊の姿があった。まるでポストカードのようだ。
「僕、美大を目指してるんです」
「おお、そうなのか」
「はい。東京の大学に行く予定です」
力也くんの目線が、こちらに手を振る遊に向く。長いまつ毛がそっと揺れ、どこか切なげだ。
「遊って本当にいい子で。僕の大切な友達なんです。だから、離れてしまうのが寂しくて……」
「力也くん」
名前を呼ぶと、力也くんは上目遣いに俺を見つめた。
「友達は、ずっと友達だ。案ずるな」
——遊との別れ。どこか自分に言い聞かせるように、俺は力強く述べた。たとえ離れていようとも、共に過ごした時間は宝だ。きみは一人ではない。
それを、忘れてはならぬ——。
「ありがとうございます。バレットさんも、サミュエルさんのようなお友達がいて心強いでしょうね」
「ははは……」
いじられ、踊らされ、怒られてばかりです。というのは飲み込んでおこう。
「サミュエルさあーん! 力也せんぱあーい! もうちょっと奥にも行ってみようよーっ!」
遊の声が響き渡る。俺と力也くんは顔を見合わせて笑い、遊のそばに向かった。
「すっげえたくさん写真撮ったからさ、サミュエルさんあとで選んでね!」
「遊よ、もう少し引きで撮って欲しいのだ。全体像が欲しい」
「オッケー!」
遊はまるでリンボーダンスでもしているかのように背中を徐々に反らせ、限界ギリギリの姿勢で連写した。
……引き、という意味が伝わらないのか?
——続く——
「サミュエルさん?」
「……すまない。あまりの感動で、体が言うことを聞かぬようだ」
遊は笑って、俺にウィンドブレーカーを手渡した。最強天使、チャックを上げる手が落ち着かん。
肌を刺すような冷気が満ちている。写真でも十分に高いと感じた天井は、想像を超えてさらに遠くへ伸びていた。
楽器のように音が反響する空間で、多種のライトが灯されている。青、紫、黄色、オレンジ……。艶やかに、幻想的に、刻まれた無数の採掘痕と、我々が進む道を静かに照らしている。
いやはや、先ほどから胸の高鳴りが鎮まらぬ。数多の名所を巡ったはずだが、ここは別格だ。この荘厳な世界を、ラファエロや建築士たちに伝えるのは容易ではない。
さて、どうしたらよいものか——。
「遊よ。スマホで写真を撮ってくれないか?」
「いいよ! こっち向いて笑って!」
「ははは。俺ではない、この地下神殿を撮って欲しいのだ」
上界の資料館に、どれほど詳細な情報が保管されているかわからぬ。遊が撮った写真を何枚かプリントアウトし、舞い戻ったあとにラファエロへ直接渡そうではないか。
いや、その前にバレットにも一度見せてやろう。モニターは天使を中心に映し出される。俺の視点ではないゆえ、この壮麗な景色を彼が見ることは難しいのだ。
バレットの美的感覚は確かである。クローゼットに並ぶ俺のスーツやネクタイは、ほぼ彼が見立てたもの。地下神殿の写真を見れば、「ぜひ図書館のモデルに!」と賛同するはずだ。
「あ、そっか! ……サミュエルさんが自分のスマホ使ったら、キラキラしちゃうもんね?」
遊は口元に手を添え、小声で俺に言った。煌めきももちろんだが、俺のスマホにはカメラ機能がない。あくまで執事との連絡手段であり、必要最低限の機能のみ備えているのだ。
「下界のスマホと違い、俺のものは——」
「任せて!」
遊は張り切って石壁に駆け寄り、ほんの十センチほど下がった位置でシャッターを連打した。いやあの……もっと全体を撮って欲しいのだが。そして、カシャカシャという音と共に、腕をあちこち伸ばしているのが気になる。写真、ブレブレでは。
「ねえねえ! 赤っぽい照明も綺麗だね?」
振り返った遊の顔を、下から深紅のライトが照らす。天パの頭に、濃い顔立ち。アメリカのホラー映画に出てくる少年にしか見えない件。
はて、力也くんは?視線を巡らせると、少し離れた場所でシャッターを切っていた。望遠レンズを駆使し、夢中で撮影を続けている。
「力也くんはカメラが趣味なのか?」
そばに歩み寄って声をかける。寒がりなのか、力也くんは遊と似たパーカーのフードをかぶり、首元までチャックを上げている。
「僕は絵を描くのが好きなので、題材用に撮っています」
「ほう。写真を参考にするのか」
「はい。このカメラは、叔父さんに借りました」
遊から聞いていた通り、力也くんは芸術に興味があるようだ。カメラの液晶を見せられ、隣から覗く。写真には、ふわふわの髪で腕を伸ばし、無邪気にスマホを構える遊の姿があった。まるでポストカードのようだ。
「僕、美大を目指してるんです」
「おお、そうなのか」
「はい。東京の大学に行く予定です」
力也くんの目線が、こちらに手を振る遊に向く。長いまつ毛がそっと揺れ、どこか切なげだ。
「遊って本当にいい子で。僕の大切な友達なんです。だから、離れてしまうのが寂しくて……」
「力也くん」
名前を呼ぶと、力也くんは上目遣いに俺を見つめた。
「友達は、ずっと友達だ。案ずるな」
——遊との別れ。どこか自分に言い聞かせるように、俺は力強く述べた。たとえ離れていようとも、共に過ごした時間は宝だ。きみは一人ではない。
それを、忘れてはならぬ——。
「ありがとうございます。バレットさんも、サミュエルさんのようなお友達がいて心強いでしょうね」
「ははは……」
いじられ、踊らされ、怒られてばかりです。というのは飲み込んでおこう。
「サミュエルさあーん! 力也せんぱあーい! もうちょっと奥にも行ってみようよーっ!」
遊の声が響き渡る。俺と力也くんは顔を見合わせて笑い、遊のそばに向かった。
「すっげえたくさん写真撮ったからさ、サミュエルさんあとで選んでね!」
「遊よ、もう少し引きで撮って欲しいのだ。全体像が欲しい」
「オッケー!」
遊はまるでリンボーダンスでもしているかのように背中を徐々に反らせ、限界ギリギリの姿勢で連写した。
……引き、という意味が伝わらないのか?
——続く——
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