64 / 72
最強天使、積み重なる思い出
しおりを挟む
翌朝。布団で目を覚ますと、隣では遊のイビキが響いていた。蒼くんと力也くんはすでに起きており、寝転んだままスマホを覗いている。
男四人は座卓を移動させて一階の和室で、久美ちゃんとしのぶちゃんは二階で休んだのだが——。
「おはようございまーす……」
レディ二人は夜更かしをしていたらしい。眠そうに目をこすりながら、階段をゆっくりと下りてくる。
「遊よ、そろそろ起きよう」
「ぐおぉおおおおッ……ん?」
朝食は、久美ちゃんとしのぶちゃんが準備するそうだ。遊が大量に作ったばっとう汁と、白米。そして、ばーちゃんが漬けたたくあん。さらに、寝ぼけ眼のしのぶちゃんが鮭を焼く予定らしい。
「遊のイビキ、すごかったですね……?」
蒼くんが苦笑いを漏らす。すっかり目覚めた遊は、力也くんと一緒に布団を片づけている。だが、剥がしたシーツの上で手をバタバタさせて泳ぐように動いたりと、なかなか作業は進んでいない。
力也くんはお腹を抱えて笑い、遊もそんな彼を見て嬉しそうに笑顔を見せている。日光の朝の柔らかな光が、窓の外から二人を優しく照らしている。
「俺は遊のイビキには慣れてしまったようだ」
初めて聞いたときは飛び起きたが、今では、ヒーリングミュージックとまではいかずとも、どうやらBGMと化しているらしい。
「力也くんはあまり眠れなかったみたいです。でも、『賑やかで面白かったです』って。みんな、遊に甘すぎません?」
肩をすぼめた蒼くんだが、彼の弟への愛も相当なものである。
朝から清々しい気分になった俺は、レディたちを手伝うため台所に顔を出した。
「しのぶちゃん、助っ人にきたぞ」
「ありがとうございます! 夜中まで恋バナで盛り上がっちゃって……」
久美ちゃんは顔を洗いに行ったようだ。しのぶちゃんが冷蔵庫を開けたところで、寝ぐせだらけの遊も登場した。
「俺も一緒に準備しまーす!」
「遊よ、布団はもういいのか?」
「うんっ! にーちゃんと力也先輩でやるって!」
あのままだと、延々とシーツの上で水泳大会が繰り広げられていただろう。
「ふわあぁあ……」
あくびをしながら久美ちゃんが戻ってきた。先ほどまで、遊は俺の背中に飛びついたりと賑やかだったが、無防備な久美ちゃんの姿に一変。口を半開きにして、硬直している。
「遊よ、人数分の茶碗を取ってくれ」
「……」
「遊。聞いてるか?」
「えっ!? あ、うんっ!」
遊は食器棚横の棚からボウルを取り出した。全然聞いていない件。
「しのぶさーん。私、一泊じゃ足りなかったです」
「私ももっと泊まりたかった!」
久美ちゃんはしのぶちゃんと語らいながら、大きな海苔を長方形に折り畳み、食べやすいサイズにパリパリとカットしている。……そして、そんな久美ちゃんを、遊がボウルを抱えたまま口を半開きにして見つめている。魂でも抜かれたんか。
「遊よ」
「……」
「遊?」
「……」
最強天使、そっとボウルを受け取り棚に戻す。
* * *
「いただきまーす!」
準備は無事に整い、箸を取って朝食を楽しむ。遊のリセットモードは解除されたようで、久美ちゃんに笑顔で話しかけているぞ。
「久美ちゃん、おかわりいる?」
「私はもうお腹いっぱい!」
朝から晩までご機嫌の遊と過ごし、久美ちゃんは好感を持ったに違いない。この民宿に泊まらないかと提案してくれたしのぶちゃんと、快く受け入れてくれたばーちゃんに感謝だ。二人は間違いなく、恋のキューピッドであろう。
「しのぶちゃん。どうか、ばーちゃんによろしく伝えて欲しい。とても楽しい旅行だったぞ」
たくあんに箸を伸ばした久美ちゃんは、笑顔で頷いた。
「蒼から聞いたと思うんですが、私は明日、東京に戻ります」
「うむ」
しのぶちゃんとの思い出は今日が最後だ。蒼くんへの愛情も、遊と久美ちゃんを見守る姿も、力也くんへの配慮も、そして——。
——サミュエルさんと遊くんもだいじです!——
我々の友情は永遠だと励ましてくれた、とてもいい子なのだ。
「私は来年から社会人になるので、同じように遊ぶのは難しいかもしれないですけど。でも、またこうやってみんなで泊まりたいです!」
「しのぶさん、それ最高です!」
久美ちゃんが賛成と言わんばかりに手を挙げた。無邪気な仕草が遊とそっくりだ。次々とみなの手が挙がり、最後に俺だけが残った。
ピュアな視線がこちらに集中する。大切な思い出が、またひとつ増えてしまったな——。
「もちろん。俺も同じ意見だ」
来年の八月も、こうして座卓を囲んで朝食を摂れたらどんなに素敵だろうか。
どうやら栃木は最強天使を包み込み、簡単には離さぬようだ。
——続く——
男四人は座卓を移動させて一階の和室で、久美ちゃんとしのぶちゃんは二階で休んだのだが——。
「おはようございまーす……」
レディ二人は夜更かしをしていたらしい。眠そうに目をこすりながら、階段をゆっくりと下りてくる。
「遊よ、そろそろ起きよう」
「ぐおぉおおおおッ……ん?」
朝食は、久美ちゃんとしのぶちゃんが準備するそうだ。遊が大量に作ったばっとう汁と、白米。そして、ばーちゃんが漬けたたくあん。さらに、寝ぼけ眼のしのぶちゃんが鮭を焼く予定らしい。
「遊のイビキ、すごかったですね……?」
蒼くんが苦笑いを漏らす。すっかり目覚めた遊は、力也くんと一緒に布団を片づけている。だが、剥がしたシーツの上で手をバタバタさせて泳ぐように動いたりと、なかなか作業は進んでいない。
力也くんはお腹を抱えて笑い、遊もそんな彼を見て嬉しそうに笑顔を見せている。日光の朝の柔らかな光が、窓の外から二人を優しく照らしている。
「俺は遊のイビキには慣れてしまったようだ」
初めて聞いたときは飛び起きたが、今では、ヒーリングミュージックとまではいかずとも、どうやらBGMと化しているらしい。
「力也くんはあまり眠れなかったみたいです。でも、『賑やかで面白かったです』って。みんな、遊に甘すぎません?」
肩をすぼめた蒼くんだが、彼の弟への愛も相当なものである。
朝から清々しい気分になった俺は、レディたちを手伝うため台所に顔を出した。
「しのぶちゃん、助っ人にきたぞ」
「ありがとうございます! 夜中まで恋バナで盛り上がっちゃって……」
久美ちゃんは顔を洗いに行ったようだ。しのぶちゃんが冷蔵庫を開けたところで、寝ぐせだらけの遊も登場した。
「俺も一緒に準備しまーす!」
「遊よ、布団はもういいのか?」
「うんっ! にーちゃんと力也先輩でやるって!」
あのままだと、延々とシーツの上で水泳大会が繰り広げられていただろう。
「ふわあぁあ……」
あくびをしながら久美ちゃんが戻ってきた。先ほどまで、遊は俺の背中に飛びついたりと賑やかだったが、無防備な久美ちゃんの姿に一変。口を半開きにして、硬直している。
「遊よ、人数分の茶碗を取ってくれ」
「……」
「遊。聞いてるか?」
「えっ!? あ、うんっ!」
遊は食器棚横の棚からボウルを取り出した。全然聞いていない件。
「しのぶさーん。私、一泊じゃ足りなかったです」
「私ももっと泊まりたかった!」
久美ちゃんはしのぶちゃんと語らいながら、大きな海苔を長方形に折り畳み、食べやすいサイズにパリパリとカットしている。……そして、そんな久美ちゃんを、遊がボウルを抱えたまま口を半開きにして見つめている。魂でも抜かれたんか。
「遊よ」
「……」
「遊?」
「……」
最強天使、そっとボウルを受け取り棚に戻す。
* * *
「いただきまーす!」
準備は無事に整い、箸を取って朝食を楽しむ。遊のリセットモードは解除されたようで、久美ちゃんに笑顔で話しかけているぞ。
「久美ちゃん、おかわりいる?」
「私はもうお腹いっぱい!」
朝から晩までご機嫌の遊と過ごし、久美ちゃんは好感を持ったに違いない。この民宿に泊まらないかと提案してくれたしのぶちゃんと、快く受け入れてくれたばーちゃんに感謝だ。二人は間違いなく、恋のキューピッドであろう。
「しのぶちゃん。どうか、ばーちゃんによろしく伝えて欲しい。とても楽しい旅行だったぞ」
たくあんに箸を伸ばした久美ちゃんは、笑顔で頷いた。
「蒼から聞いたと思うんですが、私は明日、東京に戻ります」
「うむ」
しのぶちゃんとの思い出は今日が最後だ。蒼くんへの愛情も、遊と久美ちゃんを見守る姿も、力也くんへの配慮も、そして——。
——サミュエルさんと遊くんもだいじです!——
我々の友情は永遠だと励ましてくれた、とてもいい子なのだ。
「私は来年から社会人になるので、同じように遊ぶのは難しいかもしれないですけど。でも、またこうやってみんなで泊まりたいです!」
「しのぶさん、それ最高です!」
久美ちゃんが賛成と言わんばかりに手を挙げた。無邪気な仕草が遊とそっくりだ。次々とみなの手が挙がり、最後に俺だけが残った。
ピュアな視線がこちらに集中する。大切な思い出が、またひとつ増えてしまったな——。
「もちろん。俺も同じ意見だ」
来年の八月も、こうして座卓を囲んで朝食を摂れたらどんなに素敵だろうか。
どうやら栃木は最強天使を包み込み、簡単には離さぬようだ。
——続く——
0
あなたにおすすめの小説
Vを知らないアラサー男、崖っぷちV事務所に拉致られる。
けろり。
キャラ文芸
須藤ナオシ(28)。
半年前にプログラマとして勤めていた会社が倒産し、現在は無職。定期的に届くお祈りメールにも無感情になった彼の唯一のプライドは、誰にも評価されないソシャゲの「不遇キャラ」の価値を異常な分析力で証明することだけ。
しかし、その哲学すらも有名配信者に搾取され、全てに絶望した彼の足はハローワークへと向かう。
そんな矢先の公園で彼は運命を変える出会いをする。
彼の狂気的な分析ノートに目を輝かせる変な女。その正体は、倒産寸前の弱小事務所に所属するVtuber「黒木カナタ」――の中の人だった!
「私と一緒に来てください! あなたのその『頭のオカシイ分析力』が必要なんです!」
「い、いえ、結構です! 俺、そういうのにはこれっぽっちも興味ないんで!」
「壺も絵も売りません! 変なセミナーでもありませんから! お願いします、話を聞くだけでもいいので!」
歌もトークもダンスも何でもこなすエリートVtuber(でも伸びない)と、彼女を支える分析好きな元プログラマ(でも無職)。
一見正反対な二人が時にすれ違い、時に支え合いながら崖っぷち事務所を最強へと導いていく。
これは、理不尽な拉致(?)から始まるVtuber業界逆転ラブコメディ!
※この作品は「小説家になろう」、「カクヨム」でも同時連載しております
※旧題『不遇キャラを愛しすぎたアラサー元プログラマ、倒産寸前のVtuber事務所を『最強』にする』よりタイトルを変更しました
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる