最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト∞

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最強天使、積み重なる思い出

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 翌朝。布団で目を覚ますと、隣では遊のイビキが響いていた。蒼くんと力也くんはすでに起きており、寝転んだままスマホを覗いている。

 男四人は座卓を移動させて一階の和室で、久美ちゃんとしのぶちゃんは二階で休んだのだが——。

「おはようございまーす……」

 レディ二人は夜更かしをしていたらしい。眠そうに目をこすりながら、階段をゆっくりと下りてくる。

「遊よ、そろそろ起きよう」
「ぐおぉおおおおッ……ん?」

 朝食は、久美ちゃんとしのぶちゃんが準備するそうだ。遊が大量に作ったばっとう汁と、白米。そして、ばーちゃんが漬けたたくあん。さらに、寝ぼけまなこのしのぶちゃんが鮭を焼く予定らしい。

「遊のイビキ、すごかったですね……?」

 蒼くんが苦笑いを漏らす。すっかり目覚めた遊は、力也くんと一緒に布団を片づけている。だが、剥がしたシーツの上で手をバタバタさせて泳ぐように動いたりと、なかなか作業は進んでいない。
 力也くんはお腹を抱えて笑い、遊もそんな彼を見て嬉しそうに笑顔を見せている。日光の朝の柔らかな光が、窓の外から二人を優しく照らしている。

「俺は遊のイビキには慣れてしまったようだ」

 初めて聞いたときは飛び起きたが、今では、ヒーリングミュージックとまではいかずとも、どうやらBGMと化しているらしい。

「力也くんはあまり眠れなかったみたいです。でも、『賑やかで面白かったです』って。みんな、遊に甘すぎません?」

 肩をすぼめた蒼くんだが、彼の弟への愛も相当なものである。

 朝から清々しい気分になった俺は、レディたちを手伝うため台所に顔を出した。

「しのぶちゃん、助っ人にきたぞ」
「ありがとうございます! 夜中まで恋バナで盛り上がっちゃって……」

 久美ちゃんは顔を洗いに行ったようだ。しのぶちゃんが冷蔵庫を開けたところで、寝ぐせだらけの遊も登場した。

「俺も一緒に準備しまーす!」
「遊よ、布団はもういいのか?」
「うんっ! にーちゃんと力也先輩でやるって!」

 あのままだと、延々とシーツの上で水泳大会が繰り広げられていただろう。

「ふわあぁあ……」

 あくびをしながら久美ちゃんが戻ってきた。先ほどまで、遊は俺の背中に飛びついたりと賑やかだったが、無防備な久美ちゃんの姿に一変。口を半開きにして、硬直している。

「遊よ、人数分の茶碗を取ってくれ」
「……」
「遊。聞いてるか?」
「えっ!? あ、うんっ!」
 
 遊は食器棚横の棚からボウルを取り出した。全然聞いていない件。

「しのぶさーん。私、一泊じゃ足りなかったです」
「私ももっと泊まりたかった!」

 久美ちゃんはしのぶちゃんと語らいながら、大きな海苔を長方形に折り畳み、食べやすいサイズにパリパリとカットしている。……そして、そんな久美ちゃんを、遊がボウルを抱えたまま口を半開きにして見つめている。魂でも抜かれたんか。

「遊よ」
「……」
「遊?」 
「……」

 最強天使、そっとボウルを受け取り棚に戻す。
 
 * * *

「いただきまーす!」

 準備は無事に整い、箸を取って朝食を楽しむ。遊のリセットモードは解除されたようで、久美ちゃんに笑顔で話しかけているぞ。

「久美ちゃん、おかわりいる?」
「私はもうお腹いっぱい!」

 朝から晩までご機嫌の遊と過ごし、久美ちゃんは好感を持ったに違いない。この民宿に泊まらないかと提案してくれたしのぶちゃんと、快く受け入れてくれたばーちゃんに感謝だ。二人は間違いなく、恋のキューピッドであろう。

「しのぶちゃん。どうか、ばーちゃんによろしく伝えて欲しい。とても楽しい旅行だったぞ」
 
 たくあんに箸を伸ばした久美ちゃんは、笑顔で頷いた。

「蒼から聞いたと思うんですが、私は明日、東京に戻ります」
「うむ」

 しのぶちゃんとの思い出は今日が最後だ。蒼くんへの愛情も、遊と久美ちゃんを見守る姿も、力也くんへの配慮も、そして——。

 ——サミュエルさんと遊くんもだいじです!——

 我々の友情は永遠だと励ましてくれた、とてもいい子なのだ。 

「私は来年から社会人になるので、同じように遊ぶのは難しいかもしれないですけど。でも、またこうやってみんなで泊まりたいです!」
「しのぶさん、それ最高です!」

 久美ちゃんが賛成と言わんばかりに手を挙げた。無邪気な仕草が遊とそっくりだ。次々とみなの手が挙がり、最後に俺だけが残った。

 ピュアな視線がこちらに集中する。大切な思い出が、またひとつ増えてしまったな——。

「もちろん。俺も同じ意見だ」

 来年の八月も、こうして座卓を囲んで朝食を摂れたらどんなに素敵だろうか。
 どうやら栃木は最強天使を包み込み、簡単には離さぬようだ。



 ——続く——
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