最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト∞

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最強天使、日光の庭を染め上げる

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「待ってくれ……。つまり、しのぶちゃんはしのぶちゃんではなかったということか?」

 一見すると何を聞いているのわからないが、質問としては正しい。江戸ワンダフルランドでくノ一に憧れていた彼女が、正真正銘の忍びの者だったとは——!

「私、苗字がしのぶなんです。信じるに夫って書いて、信夫しのぶです!」

 身分を隠すために偽名を使っていたのかと、壮大な構想を描きかけてしまった件。

「高校のクラスに、って子がいたんです。仲良しでいつも一緒にいたから、誰かに呼ばれると二人で振り返っちゃって……」

 しのぶちゃんが懐かしむように笑っている。なるほど。紛らわしさを回避するためだったのか。

「一人は苗字で、もう一人は名前で呼ぶことにしたのだな?」
「はい! もともと忍者も好きなので、いいかなって。サミュエルさんは、そのまま『しのぶちゃん』って呼んでくださいね!」

 忍者が好きな彼女には『忍』の文字を授けたいところだが……いやはや、人の数だけ物語があるものだ。少し話した程度で相手を知った気になるべきではないな。俺はこの地で、またひとつ学んだように思うぞ。サンキュー栃木、アゲイン!

「私とあやねちゃん、お互いのタイミングがずれたりしてて、何年も会えなかったんです」
「おや、そうなのか」
「はい。この前やっと再会できたんですけど、もう一瞬で高校時代に戻りました!」

 しのぶちゃんは、両手で頭上に大きな丸を作ってみせた。

「数年の空白なんて嘘みたいに楽しくて。だから、サミュエルさんと遊くんもだいじです!」
「え?」
「サミュエルさんはお仕事もあるし、遊くんとしばらく会えないこともあると思うんですけど、そんなの全然関係ないですよ!」

 栃木レディはタフなだけでなく、ハートも熱く燃えているのだ。

「しのぶちゃんはいい子だな。蒼くんが惚れるのもよくわかるぞ」
「ありがとうございます! 先にケーキ持っていきますね?」

 テーブルに残された四つの皿。おぼんはないだろうかとシンク上の棚を開けたところで、蒼くんが台所に顔を出した。

「俺も手伝いますよ」

 つまり、蒼くんは彼女を苗字で呼んでいるということか。
 筋書きはこうだろう。同じクラスで仲良くなり、交際に発展。だが、急に下の名前で呼ぶのは恥ずかしく、あだ名のまま……。ははは。青春とは眩しいな!

「蒼くんとしのぶちゃんは、クラスで隣の席だったのか?」
「いえ。しのぶは文系なので、俺とはそもそも別のクラスでしたよ」

 全然違った件。消しゴムを貸し合う図まで妄想していた。栃木は学びを与え、そして俺の予想をことごとく外してくる地でもある。

 ケーキ皿を両手に和室に戻ると、庭では遊と久美ちゃん、そして力也くんが花火の準備をしていた。遊はバケツに水を溜めて運び、久美ちゃんと力也くんは花火の袋を次々と開けている。

「遊くんたち! ケーキ食べてから花火やろう?」
「わーい! ありがとうございます!」

 しのぶちゃんの合図をもとに、座卓を囲んでデザートタイムだ。ふわふわのスポンジにフォークを刺し、イチゴと生クリームを一口で頬張る。

 ……う、うまあああっ!

 ケーキはもちろんのこと、なんと旨いイチゴだろうか!真っ赤に染まったその姿は、酸味が立ちすぎず甘さも充分。歯ごたえもあり、柔らかなスポンジとの相性も抜群だ。

「このイチゴさ、なつおとめっていうんだよ!」

 遊の言葉に俺は手を止め、フォークに刺さったなつおとめを改めて見つめた。

「なつ……おとめ?」

 栃木よ、また新たな魅力を知ってしまったではないか。夏の栽培に適した品種を開発し、冬を待ちきれぬ県民の味覚を潤しているとは……!その誠実さとひたむきさ、しっかりと伝わっているぞ!
 
「ねえねえ! サミュエルさんはさ、花火で遊んだことある?」

 ケーキをさっさと食べ終えた遊は、うずうずしているようだ。素早く立ち上がって食器を片づけたかと思えば、そのまま庭のほうへ向かい、俺に手招きをしている。

「いや、初めてだ」

 日本の花火は、匠の技の結晶である。夜空に打ち上がる大輪も美しいが、手元で楽しむものも芸術品と言っていいだろう。

「じゃあさ、せっかくだからサミュエルさんが一番最初にやって!」
「俺からでいいのか?」
「うん!」
 
 手渡された花火の先端を、そっと下に向ける。遊が着火すると、パチパチと小さな火花が瞬き、やがてその光は勢いを増して四方へと広がった。

「……想像以上だ!」

 ほとばしる輝きが、一瞬にして日光の庭を染め上げていく。
 白、黄色、オレンジ、緑、青、ピンク——。ひとつひとつの個性は、まるで、みなが魔法の杖を持っているかのようだ。

「キャッハハ!」
「すげえ!」
「蒼も、こっちこっち!」 

 いつの間にか、力也くんは縁側に腰を下ろしていた。穏やかにスマホのシャッターを押し、微笑んでいる。

「力也くん、花火はもういいのか?」
「はい。この瞬間を絵に描きたいので」
「そうか」

 物事の楽しみ方もまた、十人十色なのだ。



 ——続く——
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