最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト∞

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最強天使、青年に未来を灯す

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 五感で楽しむとは、まさにこの美術館の代名詞だろう。二階も多くの芸術と輝きが溢れ、回廊から見下ろす中庭や外壁には、昼間の光とはまた異なる柔らかな表情が映し出されていた。

 ステンドグラスの魅力に心ゆくまで浸り、気づけば閉館間際である。アーチ状の出口をくぐると、芝生は揺れ、那須の景色は夕日に染まっていた。

「秋のイベントではさ、ここにキャンドルがいっぱい灯るんだって! 綺麗だろうなあ!」

 敷地の向こうまで響き渡る遊の大きな声。ご機嫌に蒼くんの両肩に手を乗せると、二人は汽車のように脇道を進んでいく。少し後ろを歩く力也くんは、その様子を笑いながら見守っていた。

 秋の気配が漂い始めたとはいえ、キャンドルが灯るには少し早い時間だろう。だが、ここに明かりがゆらげば、どんなに美しいことか。
 どれ、試してみるか——。

 俺は右手を背中に回し、Tシャツの中に差し入れる。人差し指をなめらかに動かすと、芝生に音なく光の絨毯が舞い降りた。
 ひとつ、またひとつと、オレンジと黄色の小さな炎が広がり、やがて光の草原が満ちていく。
 
「あれ……? 点灯の予定なんてなかったはずなのに」

 力也くんが驚いたように足を止める。

「ははは。お試しだったのかもしれないな?」

 力也くんは何枚か角度を変えて写真を撮ると、スマホをポケットに滑り込ませて、ゆっくりとこちらに向き直った。沈んでいく太陽に照らされた彼の姿は、地面に長い影を落としていく。

 日は暮れれど、明日は必ずやってくる。闇夜に怯える必要などない。

「サミュエルさん。僕、サミュエルさんと出会えて、たくさんお出かけもできて、本当に楽しかったです」

 力也くんは、細い手首をそっと差し出した。俺はその小さな手を握り、もう片方の手で優しく包み込む。

「俺もだ、力也くん」
「あの……また、お会いできますよね?」

 何を悟ったのか、力也くんはどこか寂しそうに、上目遣いに俺を見つめた。
 
 力也くん。
 ミッションでも、休暇でも。俺が再び栃木に舞い降り、きみと再会したとしても。

 きみが、俺をサミュエルだと気づくことは、もうない。

 だが、それでも——。
 俺は最強天使として、きみに伝えねばならない言葉がある。

「力也くん」
「はい」
「太陽は、みなに平等に昇る。夜は、やがて明けるのだ」

 力也くんの黒い瞳に、ゆらゆらと淡いキャンドルの光が映りこむ。長いまつ毛を揺らしながら、彼は小さく頷いた。

「立ち止まってもいい。一歩でも二歩でも、ゆっくり進めばよい。たとえ失敗をしても、また這い上がればいいのだ。誰もきみを、嘲笑うことはできぬ」

 きみの道は、きみが決めるのだ。
 きみの未来は、誰のものでもない。
 
 きみだけのものだ。

「力也くん」
「はい……」

 潤んだ黒い瞳を見据え、俺は低く穏やかに声を落とした。

「——自らの手で、時を止めてはならぬ。よいな?」

 力也くんは目を大きく見開き、唇をわずかに震わせた。喉をごくりと鳴らすその様子を前に、俺はもう一度、静かに尋ねる。

「よいな? 力也くん」

 秒針は止まれど、時は進むのだ。

 青年よ、まだ見ぬ未来を切り拓け。
 人間の可能性は無限大だ。

「はい……」

 力也くんの声には、ほんのわずかな覚悟が込められていた。俺はその小さな決意を胸に受け止め、最後の言葉を重ねる。

「遊がきみを救っているように。今度はきみが、誰かの心を照らすのだ」

 ——その瞬間。
 
 力也くんの頭上の数字が黄金の光を放ち、【64】へと瞬く間に減少した。オーロラ色の粒子が華奢な身体を包み込み、柔らかな光が彼の全身に力を宿していく。

 だいじだ、力也くん。きみは強い。
 きみは一人ではない。

「サミュエルさん、ありがとうございます。きっときっと、また、会いましょうね?」

 力也くんは輝きを取り戻した瞳で、再会を約束する一言、「また」を口にした。

 俺はほんの一瞬、言葉を探した。
 だが、次に浮かんだのは——。

「ああ。力也くん、会おう」 

 最強天使のその約束が、たとえ届かぬものであったとしても。
 彼の胸に、永遠に光が刻まれることを願って——。



 ——続く—— 
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