その結婚は、白紙にしましょう

香月まと

文字の大きさ
14 / 19

14

しおりを挟む
 投げられた球を全球全力で打った姫様は、「どうどう」と馬をなだめられるようにしてユリウスから背をさすられている。
 ぜいぜいと肩で息をしたミレナシアだったが、言い過ぎたとは思わなかった。……機密を漏らしてしまった気がするが、ともかく。

 「……ミルクティーが効きすぎましたわ」

 それでもすべてを勢い任せにしてしまったのは明らかで、おさななじみの掛けてくれた魔法を思う。

 「ミルクティー?」

 「ユーリが……ユリウスが、おまじないをかけてくれたの。これを飲むと、ウソがつけなくなると」

 ミレナシアは力なく笑った。

 これで全部おしまいになるんだ。

 カインの気持ちも考えずに、自分の言いたいことばかりをぶつけて、今度こそ嫌われたのに違いなかった。
 ……これですべてが終わるのなら、もういっそ言いたかったことを全部言ってしまおう、と思った。

 「……わたくし……ほんとうは……」

 泣かずに伝えられたらよかったのに。こんな風に、べそをかきながらではなくて。

 「ほんとうは……白い結婚ではなくて……あなたと……」

 カインは、痛ましいものを見るまなざしでミレナシアを見ていた。
 やっと視線が合ったというのに、姫の視界はあふれる涙で滲んでいる。

 ──ふいに、カインの手が卓上のティーカップへと伸びた。
 姫が口をつけたミルクティー。白磁の縁に、うっすらと紅が残っている。

 それに気付いているのかいないのかはともかく、彼はカップを口元へと運び一息にあおった。

 「っ!? か、カイン様!? 間接っ――」

 ミレナシアの顔が一瞬で赤に染まる。
 思考が「礼儀」と「恋心」の間でぐるぐる回る中、カインは静かにカップを置いた。

 一瞬の。鬼をも恐れぬ騎士団長は、ほんのわずかに眉を寄せている。
 (ミルクティーあれ多分カインには甘かったんだな)と、ユリウスは悟った。

 「ユリウス」

 「うん?」

 「──証人になってくれ」

 ユリウスは一瞬きょとんとした後で破顔し、ハンドサインで了承を告げる。
 カインは意を決したように、息を短く吐いて俯いた。

 「……っ!?」

 一人何が何だか分かっていないミレナシアは赤い頬に両手をあてて「?」をいくつも頭に浮かべている。
 その御前、カインは静かに片膝をついた。

 「……お慕いしております、ミレナシア様」

 跪いたカインは、まっすぐに姫の目を見つめる。真昼の光の中で、その灰青の瞳は湖面のように澄み、深く。
 誓いの色を宿していた。

 「どうか俺と、まことの結婚をしてください」




 姫の時間が一瞬で止まり、しかし口からはすでに答えが飛び出していた。

 「します~~~~~~!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

うちに待望の子供が産まれた…けど

satomi
恋愛
セント・ルミヌア王国のウェーリキン侯爵家に双子で生まれたアリサとカリナ。アリサは黒髪。黒髪が『不幸の象徴』とされているセント・ルミヌア王国では疎まれることとなる。対してカリナは金髪。家でも愛されて育つ。二人が4才になったときカリナはアリサを自分の侍女とすることに決めた(一方的に)それから、両親も家での事をすべてアリサ任せにした。 デビュタントで、カリナが皇太子に見られなかったことに腹を立てて、アリサを勘当。隣国へと国外追放した。

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

ぱんだ
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

【完結】何回も告白されて断っていますが、(周りが応援?) 私婚約者がいますの。

BBやっこ
恋愛
ある日、学園のカフェでのんびりお茶と本を読みながら過ごしていると。 男性が近づいてきました。突然、私にプロポーズしてくる知らない男。 いえ、知った顔ではありました。学園の制服を着ています。 私はドレスですが、同級生の平民でした。 困ります。

【完結】名無しの物語

ジュレヌク
恋愛
『やはり、こちらを貰おう』 父が借金の方に娘を売る。 地味で無表情な姉は、21歳 美人で華やかな異母妹は、16歳。     45歳の男は、姉ではなく妹を選んだ。 侯爵家令嬢として生まれた姉は、家族を捨てる計画を立てていた。 甘い汁を吸い付くし、次の宿主を求め、異母妹と義母は、姉の婚約者を奪った。 男は、すべてを知った上で、妹を選んだ。 登場人物に、名前はない。 それでも、彼らは、物語を奏でる。

嫌いなところが多すぎるなら婚約を破棄しましょう

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私ミリスは、婚約者ジノザに蔑まれていた。 侯爵令息のジノザは学園で「嫌いなところが多すぎる」と私を見下してくる。 そして「婚約を破棄したい」と言ったから、私は賛同することにした。 どうやらジノザは公爵令嬢と婚約して、貶めた私を愛人にするつもりでいたらしい。 そのために学園での評判を下げてきたようだけど、私はマルク王子と婚約が決まる。 楽しい日々を過ごしていると、ジノザは「婚約破棄を後悔している」と言い出した。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。 ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。 そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

処理中です...