15 / 19
15 【完】
しおりを挟む
号泣しながら「します」と告げたミレナシア。
しかし今度は言ったそばから溜め込んだ不安が吹き上がってしまう。
「ええと、あの、その……朝のご挨拶から、ご一緒に、ですの?」
「はい」
「同じ食卓で食事を?」
「もちろん」
「お部屋も……?」
「……同室にて過ごしましょう」
「まあ……」
ぶわ、と姫の目から涙があふれた。このままでは目が溶けるのではないかとカインが苦笑しながら立ち上がる。
そうして彼女の頬を親指で拭った。
「本当に、本当の夫婦ですのね」
ぐす、ぐすと泣きながら繰り返すミレナシアに、カインは穏やかにした声で頷く。
「はい、殿下。どうか、これからもおそばに」
姫は堪らずに、愛しい人の胸元へと飛びついた。シャツに涙を寄せながら、わっっと咽ぶ。
騎士団長は困惑しながらも身体の横で軽く両手をあげ、不敬はしないと姿勢で告げる。
それを見ていたユリウスは音をたてて笑い、ぱんと両手を打ち付けた。
「では白い結婚、文字通り白紙ということで」
王国騎士団副団長、姫の幼馴染にて即席の証人は、軽やかに謳った。
「披露宴をしなくては」
***
数日後。
王都の空は、まるで祝福するように透き通った青を湛えていた。
鐘の音が鳴り響き、街路には花びらが降る。白い鳩が塔の上を舞い、王城の大広間には、貴族も平民も入り混じって喜びのざわめきが満ちていた。
玉座の前――
ミレナシアは淡い金糸のドレスに身を包み、少しだけ緊張した面持ちで立っていた。
その隣に立つのは、王国騎士団長、カイン・ヴァルナー。
硬い礼装の鎧に身を固めながらも、その瞳には、いつになく穏やかな光が宿っている。
司祭の言葉が終わり、会場を包む沈黙。
王が一歩進み出て、娘の手を取る。
老いた指がわずかに震えたが、それを見せまいとするように、王は小さく笑った。
「ミレナシア。おまえの選んだ道を、国とともに祝福しよう」
その声に、姫はこみ上げるものを堪えきれず、目を潤ませて深く礼をした。
カインが跪く。
姫の手をそっと取り、片膝をついたままその甲へと唇を寄せる。
唇がかすかに触れるだけの、距離と礼節の保たれた口づけ。
けれどその一瞬に、誰もが二人の絆の深さを悟った。
「殿下。――あなたの伴侶として、この命を捧げます」
静寂ののち、歓声が弾けた。
楽団の音色が流れ出し、色とりどりの花弁が天井から舞い落ちる。
ミレナシアは顔を上げ、涙をこぼしながら微笑んだ。
「わたくしも、この方と共に生きます。いつまでも――」
【その結婚は、白紙にしましょう 完】
しかし今度は言ったそばから溜め込んだ不安が吹き上がってしまう。
「ええと、あの、その……朝のご挨拶から、ご一緒に、ですの?」
「はい」
「同じ食卓で食事を?」
「もちろん」
「お部屋も……?」
「……同室にて過ごしましょう」
「まあ……」
ぶわ、と姫の目から涙があふれた。このままでは目が溶けるのではないかとカインが苦笑しながら立ち上がる。
そうして彼女の頬を親指で拭った。
「本当に、本当の夫婦ですのね」
ぐす、ぐすと泣きながら繰り返すミレナシアに、カインは穏やかにした声で頷く。
「はい、殿下。どうか、これからもおそばに」
姫は堪らずに、愛しい人の胸元へと飛びついた。シャツに涙を寄せながら、わっっと咽ぶ。
騎士団長は困惑しながらも身体の横で軽く両手をあげ、不敬はしないと姿勢で告げる。
それを見ていたユリウスは音をたてて笑い、ぱんと両手を打ち付けた。
「では白い結婚、文字通り白紙ということで」
王国騎士団副団長、姫の幼馴染にて即席の証人は、軽やかに謳った。
「披露宴をしなくては」
***
数日後。
王都の空は、まるで祝福するように透き通った青を湛えていた。
鐘の音が鳴り響き、街路には花びらが降る。白い鳩が塔の上を舞い、王城の大広間には、貴族も平民も入り混じって喜びのざわめきが満ちていた。
玉座の前――
ミレナシアは淡い金糸のドレスに身を包み、少しだけ緊張した面持ちで立っていた。
その隣に立つのは、王国騎士団長、カイン・ヴァルナー。
硬い礼装の鎧に身を固めながらも、その瞳には、いつになく穏やかな光が宿っている。
司祭の言葉が終わり、会場を包む沈黙。
王が一歩進み出て、娘の手を取る。
老いた指がわずかに震えたが、それを見せまいとするように、王は小さく笑った。
「ミレナシア。おまえの選んだ道を、国とともに祝福しよう」
その声に、姫はこみ上げるものを堪えきれず、目を潤ませて深く礼をした。
カインが跪く。
姫の手をそっと取り、片膝をついたままその甲へと唇を寄せる。
唇がかすかに触れるだけの、距離と礼節の保たれた口づけ。
けれどその一瞬に、誰もが二人の絆の深さを悟った。
「殿下。――あなたの伴侶として、この命を捧げます」
静寂ののち、歓声が弾けた。
楽団の音色が流れ出し、色とりどりの花弁が天井から舞い落ちる。
ミレナシアは顔を上げ、涙をこぼしながら微笑んだ。
「わたくしも、この方と共に生きます。いつまでも――」
【その結婚は、白紙にしましょう 完】
476
あなたにおすすめの小説
愛してしまって、ごめんなさい
oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」
初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。
けれど私は赦されない人間です。
最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。
※全9話。
毎朝7時に更新致します。
「憎悪しか抱けない『お下がり令嬢』は、侍女の真似事でもやっていろ」と私を嫌う夫に言われましたので、素直に従った結果……
ぽんた
恋愛
「おれがおまえの姉ディアーヌといい仲だということは知っているよな?ディアーヌの離縁の決着がついた。だからやっと、彼女を妻に迎えられる。というわけで、おまえはもう用済みだ。そうだな。どうせだから、異母弟のところに行くといい。もともと、あいつはディアーヌと結婚するはずだったんだ。妹のおまえでもかまわないだろう」
この日、リン・オリヴィエは夫であるバロワン王国の第一王子マリユス・ノディエに告げられた。
選択肢のないリンは、「ひきこもり王子」と名高いクロード・ノディエのいる辺境の地へ向かう。
そこで彼女が会ったのは、噂の「ひきこもり王子」とはまったく違う気性が荒く傲慢な将軍だった。
クロードは、幼少の頃から自分や弟を守る為に「ひきこもり王子」を演じていたのである。その彼は、以前リンの姉ディアーヌに手痛い目にあったことがあった。その為、人間不信、とくに女性を敵視している。彼は、ディアーヌの妹であるリンを憎み、侍女扱いする。
しかし、あることがきっかけで二人の距離が急激に狭まる。が、それも束の間、王都が隣国のスパイの工作により、壊滅状態になっているいう報が入る。しかも、そのスパイの正体は、リンの知る人だった。
※全三十九話。ハッピーエンドっぽく完結します。ゆるゆる設定です。ご容赦ください。
私と幼馴染と十年間の婚約者
川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。
それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。
アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。
婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?
【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します
佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。
セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。
婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。
婚約破棄寸前、私に何をお望みですか?
みこと。
恋愛
男爵令嬢マチルダが現れてから、王子ベイジルとセシリアの仲はこじれるばかり。
婚約破棄も時間の問題かと危ぶまれる中、ある日王宮から、公爵家のセシリアに呼び出しがかかる。
なんとベイジルが王家の禁術を用い、過去の自分と精神を入れ替えたという。
(つまり今目の前にいる十八歳の王子の中身は、八歳の、私と仲が良かった頃の殿下?)
ベイジルの真意とは。そしてセシリアとの関係はどうなる?
※他サイトにも掲載しています。
愛するあなたへ最期のお願い
つぶあん
恋愛
アリシア・ベルモンド伯爵令嬢は必死で祈っていた。
婚約者のレオナルドが不治の病に冒され、生死の境を彷徨っているから。
「神様、どうかレオナルドをお救いください」
その願いは叶い、レオナルドは病を克服した。
ところが生還したレオナルドはとんでもないことを言った。
「本当に愛している人と結婚する。その為に神様は生き返らせてくれたんだ」
レオナルドはアリシアとの婚約を破棄。
ずっと片思いしていたというイザベラ・ド・モンフォール侯爵令嬢に求婚してしまう。
「あなたが奇跡の伯爵令息ですね。勿論、喜んで」
レオナルドとイザベラは婚約した。
アリシアは一人取り残され、忘れ去られた。
本当は、アリシアが自分の命と引き換えにレオナルドを救ったというのに。
レオナルドの命を救う為の契約。
それは天使に魂を捧げるというもの。
忽ち病に冒されていきながら、アリシアは再び天使に希う。
「最期に一言だけ、愛するレオナルドに伝えさせてください」
自分を捨てた婚約者への遺言。
それは…………
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる