その結婚は、白紙にしましょう

香月まと

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15 【完】

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  号泣しながら「します」と告げたミレナシア。
 しかし今度は言ったそばから溜め込んだ不安が吹き上がってしまう。

 「ええと、あの、その……朝のご挨拶から、ご一緒に、ですの?」

 「はい」

 「同じ食卓で食事を?」

 「もちろん」

 「お部屋も……?」

 「……同室にて過ごしましょう」

 「まあ……」

 ぶわ、と姫の目から涙があふれた。このままでは目が溶けるのではないかとカインが苦笑しながら立ち上がる。
 そうして彼女の頬を親指で拭った。

 「本当に、本当の夫婦ですのね」

 ぐす、ぐすと泣きながら繰り返すミレナシアに、カインは穏やかにした声で頷く。

 「はい、殿下。どうか、これからもおそばに」

 姫は堪らずに、愛しい人の胸元へと飛びついた。シャツに涙を寄せながら、わっっと咽ぶ。
 騎士団長は困惑しながらも身体の横で軽く両手をあげ、不敬はしないと姿勢で告げる。

 それを見ていたユリウスは音をたてて笑い、ぱんと両手を打ち付けた。
 
 「では白い結婚、文字通り白紙ということで」

 王国騎士団副団長、姫の幼馴染にて即席の証人は、軽やかにうたった。

 「披露宴をしなくては」



***


 数日後。

 王都の空は、まるで祝福するように透き通った青を湛えていた。
 鐘の音が鳴り響き、街路には花びらが降る。白い鳩が塔の上を舞い、王城の大広間には、貴族も平民も入り混じって喜びのざわめきが満ちていた。

 玉座の前――
 ミレナシアは淡い金糸のドレスに身を包み、少しだけ緊張した面持ちで立っていた。
 その隣に立つのは、王国騎士団長、カイン・ヴァルナー。
 硬い礼装の鎧に身を固めながらも、その瞳には、いつになく穏やかな光が宿っている。

 司祭の言葉が終わり、会場を包む沈黙。
 王が一歩進み出て、娘の手を取る。
 老いた指がわずかに震えたが、それを見せまいとするように、王は小さく笑った。

 「ミレナシア。おまえの選んだ道を、国とともに祝福しよう」

 その声に、姫はこみ上げるものを堪えきれず、目を潤ませて深く礼をした。

 カインが跪く。
 姫の手をそっと取り、片膝をついたままその甲へと唇を寄せる。
 唇がかすかに触れるだけの、距離と礼節の保たれた口づけ。
 けれどその一瞬に、誰もが二人の絆の深さを悟った。

 「殿下。――あなたの伴侶として、この命を捧げます」

 静寂ののち、歓声が弾けた。

 楽団の音色が流れ出し、色とりどりの花弁が天井から舞い落ちる。
 ミレナシアは顔を上げ、涙をこぼしながら微笑んだ。

 「わたくしも、この方と共に生きます。いつまでも――」





 【その結婚は、白紙にしましょう 完】
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