Last Lesson

ドア

文字の大きさ
6 / 7
DAY 1 世界の始まり

5、二分された世界

しおりを挟む
 車のカーテレビには、さっきの地震速報が流されていた。
 大した地震ではなかったので、震度も4ほどだったが、ニュースキャスターは気になることを口にした。

 キャスター「ただ、専門家の間では今回の地震について――」

 テロップが表示される。

 《通常のプレート型地震とは異なる可能性》

 キャスター「震源の位置と揺れの伝わり方に不自然な点があるとの指摘も出ています。

 さらに、地震の発生とほぼ同時刻に、都内の一部地域で短期間の通信障害が発生していたことがわかりました」

 和真はテレビを消して、本題を聞き出した。

「さっきの黒ずくめの集団は何者なんだ?」

「エデンベクターを接種した進化派グループ『エデン・フロンティア』、通称『エデン』と呼ばれている」

 「楽園エデン……」

 スギヤマは話を続ける。

 「奴ら、進化派の思想は、エデンベクターの接種者を”進化”だと信じている。
 未接種者は旧人類、楽園のための犠牲は正当化されると狂信しているとこだ。

 オレたち、レジスタンス『アーク』はそんなエデンへの抵抗勢力として残された未接種者と共に戦っている。

 ーー“選ばれなかった人間を運ぶ側”だ」

「選ばれなかった人間…」

「お前が夢に見た、襲う人種は、エデンベクター接種者が自我崩壊・凶暴化した人間だ。

 接種者は症状進行の最終段階で”感情”と”恐怖”を感じなくなる」

 スギヤマは目線を鋭く、和真を凝視し、

「オレたちは彼らを『ヴィラン』と呼んでいる」

(あの時見た夢で、オレがすでに『ヴィラン』の名前を認識していた)

 和真は疑問に思ったことを口にした。

「あいつら、撃たれても痛みを感じないのか?」
「痛みを感じないんじゃない。痛覚はあるが、残響痛がないんだ」
「……」

「だから平然と人を殺せるし、恐怖を失った人間は死や痛みを顧みない。
 他者を”物”として扱い、命令と欲望だけで動く。

 “人間性を切断された存在”がヴィランだ」

 一通り聞いた和真は、頭の中を整理して切り出した。

「じゃあ、エデンベクターって医療目的で義務化されたわけじゃないのか?」
「表向き、はな」

 スギヤマは顔を伏せる。

「その実態はゲノム編集技術が使われている。
 人間のゲノムに直接作用し、身体・精神・行動特性を編集するために開発された技術だ」
「ゲノム編集…?」

(なんとなく聞いたことある。
 生物が持つゲノムDNA上の特定の塩基配列を、人為的に変化させる技術、だったか)

「個体差はあるが、接種回数、耐性、精神状態によって、ヴィラン化しない個体も出てきた」
「それが…」
「エデンの連中だ」

 スギヤマは淡々と答えた。

「オレは、世界のヴィラン化を阻止するために、この世界にやってきた」

 和真はなるほど、と理解した。
 スギヤマはそれを察知して、

「オレたちはこことは違う世界にいる、それは理解したな?」

 和真は頷く。

「オレたちのいる世界は、20年前に起きたある選択によって二分されて派生した、こことは別の世界だった」

 スギヤマは深く息を吐く。

「エデンベクターを開発した教授が、オレたちの世界ではすでに20年前に公表され、翌年、国会は特例としてワクチン接種を承認した。最初に軍・警察・医療従事者から先行接種が開始された。

 やがて、異例の速さで厚労省に正式承認され、学生・公務員への一般人への接種化が義務化され、未接種者への社会的圧力が強まった」

 スギヤマが和真の方に目を向ける。

「今のお前たちみたいにな」

 和真は沈黙した。

「そして、一部接種者に感情鈍麻、共感欠如が報告され、政府は『個体差』として公表せず、翌年、人格の不可逆固定が発生、自我崩壊・狂暴化した人間が各地で暴動を起こし始めた」

「それが、オレが夢に見たあの人間?」
「そうだ。メディアでは彼らを『ヴィラン』と呼び始めた。
 こうして社会秩序は崩壊し、世界中が戦争状態に突入した」

 スギヤマはそう言って肩を落とした。

「いわば、オレたちの世界は本来生まれるはずのなかった世界『β』。
 ――そう、思っていた」
「思っていた?」

「だが、この世界『α』もまた、オレたちと同じ運命を辿ろうとしている」

 スギヤマの表情に神妙な面持ちを見せる。

「ただ、現世界『α』では20年前に教授がエデンベクターの存在を公表しなかったことによって、接種義務化の流れが十数年遅れただけで、迎えようとしている未来は変わらない」

「それって、つまり、20年前に教授が開発したエデンベクターが公表されて崩壊した世界がそっちの世界『β』、
 公表しなくて平穏な世界を保っているのがこっちの世界『α』ってこと、だよね」

 スギヤマは少し歯にかんで見せた。

「ご名答だ。さすが学校で勉強してるだけあるな」
「冷やかさないでよ」
「フッーーアイツにも学校があったらなぁ……」

 スギヤマはそう言って遠くを見つめた。
 誰かを思って言っているようだ。

 そこへ、和真のスマホから電話が鳴り響く。
 電話に出ると、澪からだった。

「和真、さっき地震あったよね、大丈夫だった?」
「ああ、大した揺れじゃない。そっちは」
「こっちも身体が少し揺れる程度で被害はなさそう」
「そうか、気をつけて帰れよ」

 一通り話して電話を切る。
 スギヤマが不思議そうにスマホを見ている。

「それは、オレたちの世界でいうHUD端末みたいなものか?」
「まあ、そうなるね。
  そっちのスマホみたいなのよりは、高機能とは言えないけど」

 そう言いながら、スギヤマが走らせている道なりが知らない場所を走っていることに気づく。

「ところで、これからどこに行くの?」
「教授に会いに行く」

 まっすぐに前を見つめる。

「教授はこの世界では、未完成のエデンベクターは再現性が弱く、重大な欠陥があることを指摘していたが、国会から「反科学的」「進歩を妨げる人物」として失脚させられている。

 現在は、ここから車で2時間ほど離れた国立研究機関にいるはずだ」

 オレたちはさっそく、教授の元を訪ねた。
 外は、すっかり日を落とし、夜を迎えようとしていた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

AFTER DEAD「最後の帰路」

ハンドアイランド
SF
「やつら」がいなくなった世界の物語。 「やつら」が現れ、全てを失った主人公。 だが突然、それに追われる日々が終わる。 全てを失った世界で、一つの目標を決める。 その目標に歩みつつ、人間としての関わりや成長を取り戻していく物語。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

処理中です...