Last Lesson

駄文のヒロ

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DAY2 希望と絶望

7、再会

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 β世界の空は、常に低い。
 雲というより、灰が空に貼りついているようだった。

 まるで空気が呼吸しているように、目に見えない”縁”がゆがむ。

 三人が瓦礫の上に倒れこむ。
 呼吸が荒い。

 和真「……っ、重力……戻った……」

 崩れた高架下で、銃声と爆発音が交錯する。

 エデン兵と、暴走したヴィラン。
 そこへ割って入る、黒の橙の混成部隊――アーク救出部隊。

「右、ヴィラン二体!」
「抑えろ、非致死弾だ!」

 閃光弾が弾け、一瞬だけ戦場が白く染まる。

 遠方のビル群から、エデン残党の無人戦闘ドローンが浮上。
 ドローンのスピーカー。

 ドローン音声「越境体、確認。
       排除プロトコル、実行」

 レーザーが、地面をえぐる。
 スギヤマが和真たちを引き寄せる。

「伏せろ!」

 澪が悲鳴を上げる。

 空からーー弾幕。
 ドローンが次々と撃ち落される。
 装甲服を着た兵士たちが、瓦礫を蹴って展開。
 和真は、膝をつきながら周囲を見回した。



 見慣れない装備。
 統率の取れた動き。
 だが――敵意ではない。

「識別完了!
 対象コード”スギヤマβ”、反応一致!」

 アーク隊員が、即座に合図を送る。

「回収対象、三名を確認!
 対象を保護し、迎撃せよ!」

 エデン兵が発砲するが、アークのシールドドローンが弾く。

 街路を挟んで、激しい銃撃戦。
 エデン兵やヴィランが出現し、アーク部隊と交錯する。
 和真は、映画でしか見ないようなその戦争に圧倒される。

「……これが、β世界の戦場……」

 そこに、瓦礫の高所に、一人の影。
 次の瞬間、彼が跳ぶ。
 着地と同時に、重力制御兵器が炸裂。
 エデン兵が、地面に叩き伏せられる。
 彼は、無駄のない動きで敵を制圧。
 最後の一体を沈め、ゆっくりと三人を見る。

「……無事か?」

 和真が立ち上がる。

「……もう一人のオレ」

 彼はアークの紋章を見せる。

「アーク所属。
 ――回収に来た」

 澪が息を呑む。

「……和真が二人?!」

 対峙した和真は、目の前に立つ“瓜二つの自分”に、言いようのない違和感を覚えた。
 それはまさにドッペルゲンガーそのものだったが、都市伝説で語られるような、触れればどちらかが消滅する、といった類のものではない。
 別の世界に、もう一人の自分が存在している――
 その事実だけが、静かに突きつけられていた。

 カズマは、和真を見つめる。

「やっぱりな。
 この歪み……お前が原因だ」

 遠くで再び警報音。

 アーク隊員「第二波、接近中!」

 アーク部隊の攻防を尻目に、スギヤマが言葉を発した。

「キリュウたちは?」

 カズマが落ち着き払った表情で、答える。

「奴らから遅延して残留ポータルで帰還しているから、座標も時間もズレている。
 もうここにはいない」

 そう言って、カズマが背を向ける。

「話はあとだ。
 生き延びたければ――ついて来い」

 和真は、一瞬だけ澪を見る。
 澪が、静かに頷く。

 スギヤマ「行くぞ」

 アーク隊員「こちらです!」

 三人は、弾雨の中を駆け抜ける。

行く先には装甲車が何台か待機していた。
 装甲車のハッチが開き、中へ引きこまれた瞬間――
 外の音が、噓のように遮断された。



 車内は薄暗く、医療ライトがだけが白く灯っている。
 消毒液の匂い。

「負傷者確認!」
「脈拍正常、軽度ショック!」

 その声に混じって、和真の耳に聞き覚えのある声が届いた。

「え?……嘘……」

 ミオの視線が、まっすぐに和真を捉える。

 救護班の腕章。
 防護服。
 だが、その目だけは――

 夢で見た。
 記憶の中にあった。

 ミオが、信じられないものを見るように近づく。

「……和、真……?」

 その名に、和真の胸が、強く鳴った。
 彼女は一度深呼吸し、救護班としての顔に戻ろうとする。

 涙を堪えながら、それでも手は止めない。
 脈を測り、瞳孔を確認し、包帯を巻く。
 それが、救護班ミオのやり方だった。

 ミオ「……あとで、山ほど聞くから。今は……」

 澪の指先が、わずかに震えている。

「……そんな……」

 ミオは、澪を見る。
 初めて、彼女の存在を認識したように。

「……あなたは?」
「……澪。
 あっちの世界の……澪です」

 驚きと、理解と、そして――痛み。

「……そう……あなたが、”もう一人の澪”……」
「?」

 ミオは、言葉を選ぶように視線を落とす。

「この世界では……私は、あなたじゃない。
 そして――彼の隣に立つことも、なかった」

 車内に、重い沈黙が落ちる。

 それまで顔色が良くなかった澪は突然、強い吐き気が込み上げる。
 胃が裏返るような感覚に、澪は口元を押さえた。

「……う、っ……」

 身体が勝手に震え出す。
 寒いのに、額には嫌な汗が滲んでいた。

 救護班のミオは即座に、

「次元越境の影響ね。
 大丈夫、私がきちんと診てあげる」

 そう言って、澪の処置に当たる。

 スギヤマが、静かに言った。

「……再会は済んだか?」

 ミオは、ハッとして頷く。

「でも、これだけは言わせて」

 そう言って、和真をまっすぐに見据える。

「あなたがここに来たことで、この世界の”未来”が、また動き出した」

 和真は、その言葉の重さを、まだ理解しきれていなかった。

 だが――確かに感じていた。

 この再会が、単なる偶然ではないことを。

 β世界のミオは和真の方を見て、まっすぐに言う。

「助けられた命を、無駄にしないで」

 装甲車が、ゆっくりと動き出す。
 戦場は、後方に遠ざかっていく。

 だが――物語は、ようやく”合流”したばかりだった。
 再び、運命が動き始めていた。
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