ひまわりだけが知っている

sistreal

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背高のひまわり

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 春が過ぎると大家さんは、小柄な彼女と同じくらい大きい、咲く前のヒマワリの鉢を共有スペースに持ってくる。よく彼女の話に出てくる、学生時代の友人が毎年夏の旅行の間、預けに来るらしい。

「あやのちゃんったらひどいの。"ここなら誰かしら学生が必ずいるでしょ、ね、はい決まり"って言ってね」

 去年同じように鉢を運ぶ大家さんに聞くとそう教えてくれた。

 必死にあやのさんの真似をしている大家さんはその小さな体躯と幼い顔立ちから、見ようによってはごっこ遊びをしている小学生にも見えて可愛らしかった。

 どうでもいいことだけど、大家さんと同い年のあやのさんはちゃんと年相応のお姉さま(おばさんと言うとすごい怒る)だ。

 二人並んでいる写真を時間軸ごとに見ると学園生時代は二人とも可憐な乙女だったにもかかわらず、順当にあやのさんだけ歳をとり、まるで大家さんは昔の時間に取り残されてしまっているのではないかと思うほど、学園生時代と容姿がほとんど変わらない。

 そんな一見子供にしか見えない大家さんが、身の丈ほどの大きなものを持って運んでいる姿は少し危なっかしい。見かねて運ぶのを手伝うと、そのままいつものように2人で共有スペースのテーブルを挟んで座り、麦茶を飲みながら他愛のない話をする。

「今年の夏はお母さんのところに帰らなくてもいいの?」

 この寮、というかシェアハウスのようなアパートでの生活も早二年が経過し、今年で三年目を迎えている。

 それまでは母と二人暮らしをしていたが、母の仕事が軌道に乗り始め各地を転々とする機会が増えたため、中学に上がったタイミングでここで暮らすことになった。

 後で聞いた話だと、仕事が大変そうな母を見かねて大家さんがここでの暮らしを提案してくれたそうだ。

 そんな母と大家さんはもう十年以上の付き合いで、側から見ると姉妹なのかと思うくらい仲が良い(大家さんの見た目だと親子に間違えられることの方が多いけど)。あまり小さい頃のことは記憶にないが、まだ生まれて間もない頃にも一度預かってもらっていた期間があるという。

 だからと言うわけではないけど、大家さんや大家さんの当時の関係者の人には親戚の子供のように可愛がってもらっている。本当に頭が上がらない。

「今年は受験だから、模試とか、集中講義の予約しちゃったんだ」

 本当は母の仕事が休めずこっちに帰ってこれなくなったのだが、下手に心配をされるのは嫌だったので後から講義や模試の予約を入れた。

「そうなんだー……あれ?中等部からはエスカレーター式じゃあなかったっけ?」

「一応進級の試験があるよ、多分問題はないと思うけどね」

「そっかぁ……早いなぁ……もう高校生かぁ……私もおばさんになっちゃうわけだ」

 初めて会ったときはこんなだったのに、と指で三センチくらいの隙間を作った。

 流石にそんなに小さくはないよと苦笑い。

「でもそんなこと言ったら、母さんはもっとおばさんになっちゃうよ」

 あやのさんもそうだけど、比較的女性は年齢に敏感で、かくいう母も例外ではない。前に年齢を言い訳にした身体の不調を訴えた大家さんは、ニコニコと良い笑顔の母に頬を引っ張られていたことを思い出した。

 そのことを伝えると大家さんは「うー」と可愛く唸り声をあげた。

 麦茶の入ったコップの縁を口に運びながらチラリと大家さんの方を見ると、両ひじをたてて、頬を覆うように手で押さえている。とてもおばさんと呼ばれる年齢には見えない。

「むしろ……」

 自分と同い年くらいにしか見えない、と口から出そうになった生意気な本音はとっさに隠し、なんとかごまかそうと別の話題を口にする。

「大家さん、もう時期誕生日でしょ?今年は人数少ないけど、せっかくだし残るみんなでお祝いしようよ」

 見た目の通り、大家さんは少し子供っぽいところがあって、去年一昨年の誕生日はこの時期に残っている人たちでアメリカン映画に出てくるようなホームパーティを開き大層喜んでいた。

 今年も人数は少ないとはいえ、喜んでくれるだろうと踏んでいたが、想像と違い大家さんは耳を塞いでテーブルに突っ伏している。

「あ、あの大家さん」

 恐る恐る声をかけると、耳に当てていた手で頭を抱えてこんだ。しばらく子供が「いやいや」をするように頭を左右に揺らしていたが、やがて顔を上げてこちらを見る。

「もー!どーしてそんな意地悪なこと言うのー」

 テーブルをパンパンと軽く叩きながら、少し涙を浮かべてそう訴えかけてくる顔はどう見ても子供のそれである。

 一瞬この子は何がそんなに気に入らないんだろう、と考えたのち先ほどの、「私もおばさんになっちゃうわけだ」と、おままごとようなセリフを思い出した。

「あ、だ、大丈夫だよ。大家さん全然若いから……!」

 慌ててフォローを入れるとピクリと反応して顔を上げた。単純なことに大家さんはすぐに機嫌を直し始めた。お世辞でもなんでもなく本当に若々しいし。

 「そ、そうかな、そんなに若く見えるかな……?」と上目遣いで見つめてくる大家さんはとてももう時期30になる人の顔とは思えない。

「大家さん可愛い!」

「えー本当にー?」

 口元のにやけるのをてでかくし、少し
体をよじる大家さん可愛い。

「大家さん若い!」

「えー?どれくらい?」

「もう同い年くらいにしか見えないよ!」

「……」

 少しの沈黙の中、ふやけていた笑顔がやがて真顔に変わり次第に眉間にシワが寄っていく。頬はやや紅潮していて、目にはうっすらと涙をためている。

「またバカにしてー!」

 どうしよう、模範解答がわからない。

 それからしばらくぷりぷりと怒っていたが、夕飯の準備を手伝ったら機嫌を直してくれた。
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