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10 土器を作ろう

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   実際にここで生活していくために必要なものはたくさんあるけれど、作れるものと華ではどうにもならないものとがある。
 いずれは下山して、人だか天狗だかはたまたあやかしの類いだかと物のやり取りをしなければならないとは思うが、少なくとも数日は拠点を調えるのに掛かるだろう。

 作れそうなものはとりあえず作ってみよう。そう思い、採ってきた粘土っぽい土で土器を作る。

 粘土を見た瞬間に「土器が作れるのでは」と採ってきたのだが、実際に土器を作ったことはない。作り方も知らないのだが。

「捏ねて、成形して、焼けば何かしら出来るんじゃないかな」

 まずはチャレンジ、の精神で粘土をこねこねしながら作る物の形を考える。

 水を汲める瓶のような物、煮炊きができる鍋のようなもの、お碗やお皿に出来るもの…。

(もしかして煉瓦っぽいのも粘土で作れる?かまど…小さくへっついを作ったら藤棚さんの中で火を起こせる?あっ、それなら七輪とかいいかもしれない)

 想像しながら捏ねるが、どれだけ捏ねればいいものなのかが判らないので均一に柔らかくなったと思ったところで成形をする。
 落ち葉が入り込まないように払って土の上で捏ねて成形しているので、当然土が混ざっているが、それがいいのか悪いのかはやはり謎だった。

 結局、今日採ってきた分の粘土で作れたのは、取っ手の付いた小さな鍋と、小さな盥と、水を汲む用の瓶、お碗と長方形のお皿だった。

 作ったものを、焚き火を囲む石の上に並べて乾かす。
 これも正解かは判らない。もしかしたら直火に突っ込んだ方がいいのかもしれない…。


 一応だが、形になった物を見てによによしていたが、ふと土で汚れた手が気になった。
 洗いに水場まで行きたいけれど、もうとっくに日は暮れて辺りは真っ暗だ。この暗い中で川まで行くってどうなんだろうと空を見上げる。 


「わ…」


 月が出ていた。
 満月だろうか、丸い月が出ていた。

 しかしその大きさが、華の記憶にあるものよりも明らかに大きい。
 天狗の世界だからだろうか。
 それともやはり華は既に死んでしまっていて、ここは死後の世界なんだろうか。

 日中、考えないようにしていてもいろいろな可能性が浮かんでは消えてを繰り返していた。
 もしかしたら、もしかしたらと。

 もしかしたら、やはり爆発で飛ばされただけでここはたとえば宮城の一角、紅葉山とかなのではないか。
 でも華は知っている。
 宮城だって爆撃を受けている。こんなに静かなはずがない。

 もしかしたら、本当に天狗のお山で。
 だったらここは高尾山とか筑波山なのではないか。
 高尾山であれば華の行っていたような軍需工場があると聞いているし、陸軍が駐屯していたのではなかったか。
 筑波山はよく知らないが、少なくとも伐採はされているだろう。

 ここは、人の手が入っていない。

 ここで気が付いた時、異界へ来てしまったと思った。

 そして今また、知らない貌の月を見て華は同じことを思ってしまったのだ。


 ここは異界なのだと。
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