君が大好きという呪い

我面 増々

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君が大好きという呪い

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 外では、他のクラスが体育をしているのか、楽しそうな声が教室に響く
    その聞こえてくる窓からは、心地よく流れて入ってくる、優しくなでるような風
     黒板に打ち付けるチョークと、とても静かな教室
     前の授業が体育ということもあって、ほとんどの生徒は寝ている
 
     今は世界史の授業を見学している最中なのだが
     見事なまでにほとんどの生徒が聞いていないう…………
     これに対して先生側は何も思わないのだろうか
     俺だったら心が折れるぞ
     次の日には、僕もう帰りますって言って引き籠る自信がある
 
    ここは都会とは打って変わって山奥にある田舎の高校
    そう俺は教育実習でこの高校でお世話になっている、一人の大学生だ
    因みにこの高校は俺の母校でもある
 
 それにしても、綺麗なまでに皆うつ伏せだな
 これは俺も起こしに行ったほうがいいのだろうな
 でも、分かるぞ!
 俺も眠たかったからな
 
 そんなことを考えながら、ぼーっと授業を聞いていると
 一人の女子生徒が、俺を見ていることに気付いて、視線を向ける
 ばっちりと目が合った彼女は、一番後ろの席で窓側の席に座っている子だ
 
   初めて会った日から、飽きるほど毎日、明るく優し気に話しかけてきてくれている
   正直結構モテるのではと思う程に可愛いらしい子だ
   毎日毎日話しかけられ、俺は心地よいと感じ始めた頃
 その日以来俺の心は、彼女に支配されているのではないか、そう勘違いするほどに考えることは彼女の事でいっぱいになっている
 
 特段そんなに惚れるような事をされたわけでも、告白をされたわけでもない
 それなのに、知らない間にずっと彼女の事ばかりを考えてしまっている
 自分は教育実習生で相手は女子高生だ
 俺は手を出すことはできない
 分かっている、分かっている…………ことだが期待してしまう俺がいるのもまた事実
 
 頭の中は、ほとんど集中できていなかったため
 先生の授業はほとんど俺の頭には入っていなかった
 誰にも気づかれないように溜息を吐くと彼女がやってきた
 いつもの様に明るく、まるで彼氏に話しかけるように
 
 「先生疲れているの?」
 「え? どうして、そう思うの?」
 「だって、ため息ついていたじゃん」
 
 まさか気付かれているとは
 これは反省だな、他の生徒にもそうだが、教師陣にそんなことがばれてしまったらなんて言われるか
 
 「大丈夫だよ! これでも体力には自信があるんだ」
 
 彼女は一言、ふーんと納得いっていないような表情を浮かべると、机に戻っていった
 そう、いつも俺の些細な誰も気づかないようなことに気が付き、声をかけてくるのだ
 嬉しいと思う気持ちと共に、変な感情がいつも襲い掛かる
 まったく困ったものだ
 ただでさえバイトより大変なのに、こんな事でドキドキしていては身がもたない
 はぁ…………取り敢えず、次は俺が授業をするんだ、切り替えないと
 
 切り替えたつもりが、やはり身が入っていない為か
 彼女のことを考えながら、行動しているといつの間にか授業は始まってしまっていた
 まぁ、だからどうという事はないのだけれどね
 どの道、五十分だけ頑張れば終わるんだ
 
 そんなことを考えながら、授業を進めていく
 そういえば、彼女に聞かれたことがあった、大好きと愛しているという言葉はどういった感情なのかと
 正直普通に質問されたためか真剣に考えたが、なぜあんなことを考えていたのだろうか
 必死になって考えても出てこなかったから、マザーテレサの言葉なんて使ったが
 正直あれはもの凄く恥ずかしかったな
 
 愛の欠如こそ、今日の世界における最悪の病だ
 自分でこの言葉を言って恥ずかしくもなったが、俺はこの言葉が嫌いだ
 この言葉の真意は分からないし、いい言葉だとも思う
 
だけど俺は、彼女と、普通に話すことを許されていない
 あくまで生徒と教育実習生という立場でしか関わることはできないのだ
 もっと彼女のことを知りたい
 何を考えているのか
 何が好きなのか
 そんな事を考えていると絶え間なく欲望は溢れ出してくる
 
 彼女を独り占めにしたいと
 彼女の全てを把握したいと
 何もかもを独占したいと考えてしまう
 俺は異常だ…………完全に頭がいかれている
 こんな事誰にも知られたくない一面の一つだな
 
 俺は、別に愛を彼女に送っているわけではない
 それらを押し殺しているのだ
 愛の欠如が病だというのならば、俺は病にかかっているのであろう
 まるで呪いの様に、じわじわと俺の心を侵食していく病
 
 この気持ちに区切りは、恐らく一生つくことはないだろう
 どんなに願っても、俺は教育実習生なんだ
 愛の欠如が病だから、愛せと言いたいのだろうが
 俺はそれをすることはできない
 だから、俺はあの言葉が嫌いだ
 
 この気持ちは、教育実習という時間の中だけに納まる気持ちなのだろうか
 もし後悔しない方法を選ぶのであれば、俺はきっと彼女に打ち明けるべきなのだろう
 俺の教育実習期間は、あと三日で終わりを迎えてしまう
 伝えたい、この気持ちを…………
 
 ダメだということも分かってはいる
 そもそも怖いと思われるかもしれないことだし、俺からいうことはできないと思ったほうがいい…………なのに、言いたい
 苦しい、辛い、どうして、俺はこういう目に合わなければならないのだろうか
 恋は盲目とはよく言ったものだ
 
 それに、俺は自分の気持ちを優先しているだけで
 彼女がもしオーケーしたとして、その後はどうするんだ
 彼女はこれからきっともっといい人が現れるであろう
 もし付き合ったとして、別れない自信があるからこういうことを考えているというより
 俺が彼女を何が何でも手放さないと考えてしまうから
 依存、執着、そう捉えてもいいだろう
 きっと俺はそうなる
 だって、俺は病気で呪いをかけられたんだから
 
 授業が終わり、ぼーっとしながら職員室に向かっていると
 彼女と再びあってしまった
 俺が正に考えていた人が、目の前に現れてしまったのだ
 びっくりして、少し声が漏れそうになった
 
 びっくりしてしまった…………が、ばったり会った感じじゃないな
 そう彼女は階段の目の前で立っていたのだ
 そして俺が来た瞬間に前に出てきた、という事だろう
 つまり、俺を待っていた
 さて、どうしたもんか…………取り敢えずどうしたのか聞いてみるとするか
 
 「びっくりしたよ。それで、どうしたんだい?」
 
 彼女は、いつもの明るい感じではなく、どこか真剣な顔をしている
 どうしたのか聞いた俺が気圧されそうな程に、真剣な目だ
 彼女は深く、深く、息を吐いたと思うと、静かに口を開く
 
  「放課後教室で待っています。必ず来てちょうだい」
  「え!? ちょ、ちょっと待っ…………」
 
 彼女はその一言だけを言い残すと、走って戻ってしまった
 唐突に起きてしまったが故に、理由を聞く事はできずに、一人階段前に取り残される
 周りは休み時間ということもあって騒がしいはずなのに、俺の周りは静かだ
 
 別に告白をされたわけではない、なのに胸が高鳴る
 この後の事に、期待せづにはいられない
 もしかしたらと希望を抱かずにはいられない
 俺は、もはや授業を聞く所の話でなくなった
 

 ____________________
 


 私は、田舎の高校に通う一人の女子生徒
 正直私は、学校が好きではない
 周りに合わせる事、顔色を疑う事、何故か分けられているグループ
 面倒くさいとか思いつつも、私もそれに合わせる
 
 そんな色がない私の学校生活が一変することが起きる
 ある日、この高校に来た、教育実習で来ている先生に一目ぼれをしてしまったのだ
 正直特別かっこいい訳でも、何かが秀でている訳ではない
 それなのに、一目ぼれをした
 初めて先生を見た時、何故か私は声をかけていた
 
 別に変な事は聞いていなかったと思うけど…………引かれてないかが心配ではある
 先生は、私のことをどう思っているのだろうか
 もっと仲良くなれないかと思って声をかけても、一向に距離を縮められた気がしない
 やっぱり先生にとっては一生徒で
   私なんて興味がないのかなぁ
 そんなことを考えると、ひどく胸が締め付けられる
 
 先生が教育実習生としてきて直ぐに、もの凄く一人で舞い上がって聞いたことがある
 大好きとか愛しているって本当のところ、どういう感情なんだろうかと
 先生が少しでも私に、興味がわかないかと思った行動だったのだけど
 先生は少し、考えながら難しそうに、唸り声をあげながら、分からないなぁと言った
 別に分かっていようが、分かっていなかろうが、どっちでもよかったんだけど
 とてつもなく真剣に考えていた所は、私の中で三本の指に入るレベルで印象的だった
 だけど、そのあとに先生はこういっていた
 
 『僕はまだそういうのは分からないけど、マザーテレサって人が、愛の欠如こそ今日の世界における最悪の病だって言っていたんだ。まぁ、だからどうってわけじゃないけど』
 
 それを言った後先生はバツが悪そうにしながら、顔を赤くして、何わけのわからないことを言っているんだ、と言っていたのを覚えている
 でも少しだけその言葉は嫌いだと思った
 その言葉の本当の意味も、何もかもが分からないけれども
 
 愛していると、大好きだと思っても、私の今の気持ちが伝わることはない
 もしこれを告げたとしたら、私はもう先生とは仲良く話すことなどできないだろう
 先生を独り占めしたい、独占したい、何を考えているのかを全部、全部、全てを把握したい
 私は異常なのだろうか
 私はおかしいのだろうか
 
 あの言葉は素晴らしい事を言っているのは分かる
 でも、私がどんなに愛しても大好きでも、それが返ってくるとは限らない
 愛の欠如が病なのであれば、私はきっと病にかかっているのであろう
 大好きになってしまったという呪いにかかってしまったのだろう
 だから、私はあの言葉が嫌いだ
 
 私はきっと、高校を卒業してもこんな気持ちになるほど人を好きになる事はないだろう
 只の一目惚れから、ここまで好きになるなんて、正直予想できなかった
 でも、考えてしまえばしまうほどに、私の心は先生に染まっていく
 話しているときも、見ているときも酷く心が高鳴って、酷く落ち着く
 
 依存や執着言ってもいいだろう
 でもきっとこれを他の人に知られたら、私は重いと言わるのだろう
 重い…………私は重い
 もし、私の気持ちが重いというのであれば、周りはそんなことを思わないのかな
 少なくとも私は、先生を独占したい、全てを私の色に染め上げたい、染め上げられたい
 
 先生は、あと三日で教育実習期間が終わってしまう
 そしたらきっともう会うことはないだろう
 先生と共通の、知り合いがいるわけでもないのだから
 そう考えると、酷く焦燥感に包まれていく感覚を味わった
 
 その瞬間私は、チャイムと共に飛び出した
 伝えずにはいられないと感じてしまった
 もし断られても、友達からでも、連絡先を聞くだけでも
 先生との繋がりを断たれること自体が怖くなってしまった
 
 伝えよう、私のこの気持ちを先生に
 

 ____________________
 


 俺は授業が終わった後、職員会議に参加し、教育実習生としての今日の仕事を終える
 正直、ずっと彼女の言葉が頭の中に流れ続けていて、何も考えることはできなかった
 全てが終わって、先生たちに、もうあと三日なので久々に母校を回りたいのですが、と提案すると特別に許可が下りた
 
 周りは部活動で賑わう声が鳴り響き、吹奏楽部なのか音楽が流れている
 辺りは、もう五時を回っていた事もあって、綺麗なオレンジ色の淡い太陽が沈んでいた
 もしかしたら、少し遅くなってもう帰ったのではないかという焦燥感
 もしかしたら、彼女も同じ気持ちなのではという高揚感
 もしかしたら、そんな事でなくただの相談事なのではという不安感
 
 そんな嵐のように猛り狂っている俺の心の中とは相対的に、緊張は一切していなかい
 何故かはわからないが、緊張だけはしていなったのだ
 そんなことを考えながら、彼女のクラス、彼女が待っている教室のドアの前に着いた
 俺は、静かにドアを開ける
 教室には、窓の外を眺める一人の女子生徒
 
 その光景は、まるで映画のワンシーンの様だった
 秋の吹き抜ける風が、彼女の髪を揺らし、カーテンは揺れ
 淡い夕焼けに照らされている彼女の背中
 
 「綺麗だ…………」
 「そんな照れる事言わないで。少しにやけちゃうじゃん」
 
 彼女はそんなことを言いながら、俺のほうに振り返って、笑っていた
 一瞬何が起きたのかわからいでいたが、状況を考えた時に俺が思ったことを考えて
 一つの答えにたどり着いた
 
 「え? あれ? もしかして…………」
 「うん、声に出てたよね」
 
 や、やってしまった
 あまりの光景に、つい声が出てしまっていたとは
 恥ずかしすぎる…………
 で、でもここに来た目的は、からかわれる為じゃない
 先ずは、どうして俺を呼んだのか、それを聞こう
 俺は、仕切りなおすように一旦咳払いをする
 
 「それで? 俺をここに呼んだのはどうしてなんだい?」
 
 その言葉を聞いた彼女は、少しおどけた表情をしながら
 俺の顔を見ながら、静かに話し始めた
 真剣な話が始まるのだろうと、思いつつも、俺の中の期待はまだ消えていなかった
 
 「先生、私は最近ある人に、一目ぼれしたんです」
 
 俺は黙っていた、もし自分ではなかったらと考えると、酷く怖いと感じたからだ
 彼女は、綱渡りをするかのように机と机の間を歩いている
 どこか落ち着かない様子で、再び話し始めた
 
 「私は、その人に沢山話しかけているんです。そして、それ以上にその人のことを考えています…………頭から離れないんです」
 
 俺は、その気持ちが痛いほどわかるのだ
 何故なら、俺自身も同じ状態だからだ
 何をしていても、誰と話していても、心のどこかに必ず彼女がいる状態
 自分自身に重ねてしまうのは、良くないことだろう
 
  すると彼女は、俺の目の前までそっと来て、俺の目を見つめている
 暫く無言の時間が続く
 教室には、部活を頑張る生徒の声、窓から入り込んでくる風の音
 その沈黙を破ったのは、彼女だった
 
 「私は先生が好きです…………どうしようもなく、好きなんです。大好きなんです」
 
 その目は、心なしか少し潤んでいるようにも見えた
 もしさっき彼女が言っていた、頭から離れないという言葉が俺と同じなら
 潤んでしまう気持ちは痛いほどわかる
 
   正直、俺も大好きだと叫んでこたえたい
 だが、きっと俺は彼女を縛ってしまうだろう
 彼女の未来を俺自身の好きだという気持ちだけで、まだ成人すらしていないこの子の将来を変えてしまうだろう
 
 俺は心の中で決意した
 俺はこの気持ちを墓場まで持っていこうと、決して日の目を浴びないようにしようと
 そして、彼女にはしっかりと断ってあげようと
 俺は彼女の目を見て言おうとすると
 
 「…………ぁ…………」
 
 言おうとした、その気持ちにはこたえられないと、言おうとしたはず
 なのに俺の口は、声が出なかった
 まるで何かの呪いで、声を奪われたかのように
 その言葉だけが、喉から出てこない
 その言葉を言ったら、彼女との関係は切れるだろう
 それが酷く怖いのだ、恐ろしいのだ、震えてしまうんだ
 
 俺の瞳に映る彼女は、心配そうにこちらを見ていた
 そして、静かに俺の頬に手を伸ばし、静かに口を開く
 
 「もしかして、先生も病気?」
 
 その言葉は、普通に話していたら何を言っているんだと笑われる一言だろう
 だけど俺は、分かっているのだ
 そして、今この瞬間、彼女も気づいてしまったのだ
 俺達はどうしようもなく、同じ事で苦しんでいるという事に
 
 あの日、あの言葉をもとに話をしたからこそ分かる言葉
 愛の欠如こそ、今日の世界における最悪の病
 俺達は同じ病にかかってしまったのだ
 そう思うと俺は、自然と口から声が出ていた
 
 「俺は教育実習生だ。もしこのことがばれたら、君にも迷惑をかけてしまう。それだけじゃない、沢山の責任があるんだ!」
 
 俺は少し声を荒げていた
 本当はこんなことを言いたいんじゃない
   本当は好きだとその言葉だけを伝えたいだけなのに
 俺の口は、今までの溜めていたものを吐き出すかのように濁流の様に、流れた
 
 「君をもっと知りたい、もっと話したい、独占したい! だけど、俺が思っていい事じゃない! 君と話している時間は酷く心地がいいから、酷く落ち着くから、苦しい……」
 
 彼女は、静かに聞いていた
 怒りもせず、悲しいそうにもせず、ただ黙って聞いていた
 俺の言葉をしっかりと聞きながら彼女は俺の顔を見ている
 
 「きっと、君に気持ちを言ってしまったら、俺は止まれない! 俺は君を縛り付けてしまう。君を離しはしないと、縛り付けてしまう! 俺はそういう男なんだ!」
 
 先程まで優しいと感じていた風が、少し寒いと感じていた
 暖かい何かも流れている
 彼女の顔も歪んで、はっきりと見えない
 だけど、そんな中はっきりと聞こえた言葉は
   全てを分かったような、そんな少し嬉しそうな彼女の声
 
 「凄く嬉しいです。先生がそんなに思ってくれていて」
 
 俺は、一瞬何を言っているのか分からなくなってしまった
 面を食らったというのはこういう事を言うのだろう
 今発した言葉は、遠回しに言えば君とは一緒に入れないという言葉のはずなのに
 彼女は言葉をつづけた
 
 「私も同じ事を考えていたの。独占したい、独占されたい。先生を私の色に染めたい。私を先生の色に染めてもらいたい」
 
 彼女はそういいながら、ハンカチを取り出して、俺の顔に当てる
 霞んでいた視界が、はっきりとしたものに変わっていく
 そこにいる彼女は声だけではなく顔も嬉しそうにしていた
 
 「先生、絶対に離さないという言葉、私は凄く嬉しい。きっとこれからの人生、先生意外に依存も、執着も、大好きだという気持ちも、愛しているという気持ちも、もてないと分かるんです」
 「それは…………まだ君が高校生だから…………」
 「ううん、高校生だとしても関係はないよ」
 
 俺はぐうの音も出なかった
 彼女の言葉に俺は、徐々に押され始めている
 素直に一生一緒に居ようなんて臭い言葉を吐いてしまいそうなほど
 そんな俺に追い打ちをかけるかのように、彼女は言葉をつづけた
 
 「もし先生が、私が離れていくことが怖いのであれば、私をもっと好きにさせてよ」
 
 もっと、好きに…………か
 その瞬間妙に俺は、腑に落ちたというか
   そうしようと思った
 彼女をこれからどんどん俺に夢中にさせれば、離れたいと思う事は無いという事
 簡単ではないけれど…………
 
 「私は先生の物になりたいんです。先生を私の物にしたいんです」
 
 あぁ、彼女は強いな
 純粋にそう思った
 俺は只々怖いと感じていただけで、彼女はこの呪いに打ち勝ったのだ
 この病に打ち勝ったのだ
 …………彼女にここまで言わせたんだ、いつまでも意地を張ってもしょうがないよな
 
 「俺も君が全部ほしい、全部上げたい…………俺と一生一緒にいてくれませんか?」
 「勿論です! 先生に全部上げます。先生の全部を貰います!」
 
 俺は、なんだか憑き物が取れたように、笑ってしまった
 あまりの即答ぶりに、笑ってしまった
 嬉しくて、幸せで、何もかもが光って見えるような
 彼女も笑っていた
 
 暫く顔を見合わせては、笑ってい終わると、二人で帰ることになる
 誰にも見つからないように
 誰にもばれないように
 二人だけの秘密の時間
 その時ふと思った事があった、きっと、恐らく二人共嫌いだっただろうあの言葉
 
 「今なら、あの言葉分からなくもない気がするな」
 「あぁ、確かに…………今は分かる気がする」
 
 きっと、あの言葉の本当の意味は違う
 だけど俺達は、たったあの告白だけで満たされてしまった
 もしこれが、片思いだった場合は、ずっと呪われていたのだろう
 そう考えるとぞっとするが、もう今はそんなことをいちいち考える暇はない
 好きでいることに、もっと好きにさせることで精一杯なんだ
 俺は無性に、彼女の名前を呼びたくなってしまった
 まだ、今日付き合い始めたばかりなのに、俺の欲はそこがないらしい
 
 「これからずっと、ずっとよろしくな、ゆいか(・・・)」
 
 それを聞いた彼女は、顔をそらして小さく頷いていた
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