劣化品

稲木 糸

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はじまり

01

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ウーとなるパトカーの音

ピーポーピーポーとなる救急車の音

「物騒ね」

と母は呟いた

マンションに近づく度に大きくなる音

多くなる人

マンションの前に着くと人だかりが出来ていた

「どうしたのかしら」

英語が書かれた黄色いテープが貼られているのが人だかりの中から見えた

「あっ ちょっと佐藤さん」

と隣の部屋のおばさんが声をかけてきた

おばさんは涙で顔がぐちゃぐちゃだ

「どうされたんですか?」

と母が聞くと真剣な顔になり

「落ち着いて聞いて」

と前置きをしてからスーッと息を吸い

るなちゃんと唯斗ゆいとくんが…」

この時私は時が止まった感覚に陥る

嫌なことが紡がれるおばさんの口を見るのが怖くて下を向く

「死んじゃったのよ」
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