だから俺は、あいつが嫌いだ。

塩コンブ

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喧嘩の結末

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 いつもと同じ時間に目を覚ます。
 そして昨日のことを思い出して、泣きそうになる。
 でもそれはほんの一瞬のことで、次に来る感情は怒り。
 何よ、りゅうたろーのやつ。
 窓を開けて、隣のりゅうたろーの部屋を見る。
 私がいなきゃ、何もできないくせに。朝起きるのだって、食事だって。

「ばか……。ほんとに知らないからね!」

 りゅうたろーの部屋に向かって、ベーッと舌を出して、カーテンを閉めた。
 そうだ! 今日からりゅうたろーを起こす必要がないし、ご飯も作らないから時間がある。よし、二度寝しよう。早起きしなくていいなんて、ずいぶん久しぶりな気がする。
 ふふふ、りゅうたろーのやつ。きっとすごく困る。
 あいつの遅刻する様、この目に焼き付けてやるんだから。せいぜい後悔するといいわ。
 それで、どうしてもと言うなら、私も許してあげないこともないから。

◇◇◇

「すみません遅れました!」

 授業開始から十分ほど経ってころ、息を切らしながらようやく教室に到着した。

「おお珍しいな、美崎」

 ――私が。
 恥ずかしさで真っ赤になった私の顔を見て熱があると思ったのか、それとも単純に遅刻が珍しいからか、先生は怒りもせず言った。

「どこか調子が悪いのか? 無理しなくていいんだぞ?」
「いや、あの……ね、寝坊です。すみません」

 私が信じられないことでも言ったかのように、先生は固まってしまった。
 いや、クラス中が目を見開いて私を見ている。
 視線に耐え切れなくなって、もう一度先生に大きく頭を下げて、早足で席に向かった。
 なぜ私が寝坊して、挙句遅刻したのか。それは、寝れなかったからだ。
 確かに眠気はあったのに、どうしてもりゅうたろーことが気になって、なかなか寝付けなくて、ようやく眠れたと思ったら、起きたら始業十分前だった。
 それなのに、隣に座るりゅうたろーは当たり前のように間に合った様子だ。
 良いことのはずなんだけど、なんかすっごいムカつく。
 結局一限目は頭と胸がムズムズして、ろくに話が入ってこなかった。
 休み時間になると、みんなが私の席の周りに集まって、口々に私に励ましの言葉を贈る。
 視線で人ごみをかきわけて、りゅうたろーを見つめるけど、何の反応もなく席を立った。
 ズキンッと、胸をえぐられるような痛みが広がる。

「えーちゃんやっちゃったねえ」

 遥がからかうように笑いながらそばに来る。

「う、うるさいな。ちょっと眠れなくてさ」
「まあたまに気が抜けることってあるよね」

 遥はみんなの方を向いて、手を二回たたいた。

「はいはい、解散解散! こんなに集まって、いつまでも遅刻のこと引きずってたんじゃ、えーちゃん可哀想だよ」

 遥の号令一つで、人だかりはあっという間に消えて、みんなもう別の話をはじめた。

「ごめん。ありがとう遥」
「いいっていいって。……でもこんなことなら、えーちゃんも起こしてあげたほうが良かったかもね」
「私、も……?」

 嫌な予感がして聞き返すと、遥は屈託のない笑顔でうなずいた。

「うん。昨日突然頼まれたの。リュウ君から明日の朝電話かけて起こしてくれって。えーちゃんと喧嘩したからって……あっ! これ言っちゃまずかったかな?」

 りゅうたろーが、遥に頼んだ……。
 何よ、それ。
 ズキン!
 また胸が痛む。

「……? えーちゃんどうかしたの?」

 結局、私のことなんてどうでもよくて、朝起こしてくれる人間がいれば誰でもいいんだ。
 いや、もしかしたらりゅうたろーは遥のことが好きで、今の状況をラッキーくらいに考えているのかもしれない。
 私は無意識のうちに遥の肩を強く掴んでいた。

「え、えーちゃん? ちょっと痛いかな」
「私に隠してることないよね?」
「え、ええー……。たぶんないと思うけど」
「ほんとだよね? ……りゅうたろーと、付き合ってたりしてないよね?」
「な! ななな! リュウ君と私が付き合ってる!? そうだったの!?」
「遥! 答えて!」
「え……いや……。私は初めて聞いたっていうか、その……付き合ってない、けど……」
「じゃあ、今後も絶対付き合ったりしないでね。絶対だよ?」
「いやー、私は別にリュウ君のこと好きなわけじゃないから別にいいんだけど……なんで?」

 ずっと隠してきたけど、もうこの際、バレてもいいや。

「とにかく、あいつだけは絶対ダメなの。他の男ならどれだけでもいいからさ。りゅうたろーだけはやめてよ。お願い!」
「わ、わかった……。なぜか私がリュウ君に好意を持ってること前提で話してるのには納得いかないけど、親友の頼みだからね!」
「うん……」

 ふと、廊下に目をやると、りゅうたろーが誰か知らない女子と笑顔で話していた。
 多分他クラスの子だ。
 きっとりゅうたろーと知り合いですらない。何か事情があって、たまたま話しかけただけ。
 そんなことは百も承知。それなのに、胸が痛んで仕方ない。
 りゅうたろーなんかもう知らない。勝手に誰彼構わずイチャイチャしとけばいい。ほんとに、あやまったって絶対許してあげない……――なんて、言ってる暇ない。
 本当の本当に頭に来たけど、謝らせるのは先送りにする。
 だって、恋をしてからもう十年以上だ。ずっと思い続けてきた。ちょっと絶交したくらいで諦められるわけない。

「許さない、絶対に」

 だから、絶対恋人になってやる。
 りゅうたろーの隣は私だけのものなんだから。

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