学年一の美少女に嘘告されたので付き合うことにしました。〜いつのまにか、本気で惚れさせていた件〜

塩コンブ

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第二話

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 昼休み、誘われるがまま晃と共に食堂でご飯をとった。弁当のため、別に教室でもよかったのだが、晃は学食のため、それについて来たという感じだ。 

「お前、両親と別居して1人暮らしだろ? それでよく弁当なんて作ろうと思えるよな~しかも、美味いし」

 晃はいつも俺のおかずを盗み食いする。

「学食より僕の方が自分の好みを知り尽くしてるからね、こっちの方がうまい」

 僕は両親と別居中でマンションで一人暮らし……なのだが別に、仲が悪いわけではない。ただ一人暮らしをしてみたかっただけ。
「男もすなる一人暮らしといふものを、女もしてみむとて、するなり」って奴だ。というわけで、ちょっと遠くの高校を受験した。そのおかげで友達が激減したけど。
 少しばかり、裕福なところで生まれたというのもあって一人暮らしでも金に困ったことはない。まぁ、よく言えば社会勉強、悪く言えばご飯やゲームの軍資金、本音を言えば暇つぶしとして、バイトをしているのだが……というか、進学校でバイトOKってちょっとゆるいんじゃないか?と思うのだけれど。

「その発想は普通でねーよ。相変わらずなカッコいい性格だな」

 ほうほう。カッコいいか。

「女と飯に金と時間をかけきれない男は皆、そろって二流なのさ」
「おぉ!」
「恋……それは甘美な毒。愛……それはゆっくりと首を絞める縄」
「へぇ!」
「男の子はカエルとカタツムリ、それから子犬のしっぽでできている」
「まじかよ」
「女の子は砂糖とスパイス、それから素敵な何かでできている」
「なるほどなぁ」

 よし。いいぞ。乗ってきた。

「僕は恋愛というものついて真に驚くべき証明を発見したが、それを語るには昼休みは短すぎる!」
「えっ? どういうこと?」
「いや別に……」

 うーん。これはちょっと違ったみたいだ。
 というか、調子に乗って変なテンションになってしまっていた。反省反省。

「いいこと言うなお前」

 と、横から全く知らない男が話しかけてきた。
 いやほんとに誰だよ。

「海斗! 久しぶりだなぁ」
「おう。久しぶり晃」

 なるほど晃の友達か。まぁ珍しいことじゃない。晃の友達なんて全校生の半分以上はいる。

「どなた?」
「あぁ悪い。食事中に。俺は最上もがみ 海斗かいと。晃に用があってな」
「俺に? どうかしたのか?」
「いや……ちょっと恋愛相談を」

 なるほど。たしかに晃は橘に負けず劣らず超モテモテだ。恋愛相談には持ってこいかもしれない。

「じゃあ、僕は離れてようか?」
「いや、いいんだ。それは悪い」
「そう」

 晃は「で? どうしたんだ?」と首を傾ける。最上はしばらくもじもじした後、意を決して言った。

「す、好きな女子に、自分も好きになってもらうにはどうすればいいと思う?」

 それだけかい。肘が滑った。

「どうって……」
「告白はしようと思ってるんだけど、好きでもないやつとは付き合わないだろ? 振られても再チャレンジってのはしにくい。一発勝負なんだ。告白するなら相手も俺のことを好きになってから」
「なるほどね。じゃあとりあえず遊びに誘うとかは? 二人きりじゃなくても」
「もちろんそれも計画中だが、ようはその遊びでの立ち振る舞いとか」
「なるほどねぇ……。どう思う? 秀矢」

 スマホを触っていると突然晃からパスを放り込まれた。
 えぇ……。困る。

「僕に聞く?」
「まあまあ、参考までにさ」
「うーん……」

 あのモテ男晃が聞く男だ。こいつは実は恋愛マスターなのか? みたいな目で最上が僕を見る。
 これで下手なことは言えなくなった。
 ていうか何も浮かばない。

「うーん……」

 だめだ。時間が空くほど二人の期待が高まってるのがわかる。ええい、なるようになれだ。

「いや、まぁ、ほら……。魅力を増やせばいいんじゃないか?」
「魅力?」
「そう。ようはメリットさ。付き合うことの。それをわかりやすく可視化できれば好きになってもらえるんじゃない? 例えば財力があるとか」
「それは……いいのか? お父さんが愛に理屈は無いぞと言っていたが」
「いやいや。甘いよ。何かしら理由がないと人は惚れない。仮に付き合えなかったとして、理屈じゃないからって諦められるのか?」
「それは」
「無理だろ? そうだよ無理なんだよ。諦める必要はない。だから頑張れ。例えばほら、もうすぐ期末が近いしそこでいい成績を出すとか。相手は頭いいの?」
「聞いた話だと半分より下だと」
「じゃあいけるじゃん! デートはそれから」
「けど俺もバカだし」
「なおさらいいよ。バカだった男が必死に努力してトップ十入り。かっこいいね」

 最上はその姿を想像したのか、「おぉ……」と声を漏らして何度も頷いた。

「なるほどありがとう! 名前聞いてもいいか?」
「基山秀矢。よろしく」
「あぁ、よろしく!」

 最上はビシッと頭を下げて、嵐のように去っていった。
 うむ。かなり適当なアドバイスだったけど、なんとかなったみたいだ。

 その後しばらくして、昼休み終了も間近になってきた。談笑に一区切りついたとこで晃が言った。

「いい時間だし、そろそろ戻るか!」
「わかった……」

 こうして教室まで向かう途中、教室まで一直線の廊下を歩いているとクラスメイト達とよくすれ違う。

「なんか今日、皆んなとよくすれ違うな……どうしたんだろ?」

 どうやら晃も気付いたみたいだ。

「今日の物理は移動教室だからじゃない?」
「あぁ……なるほど……。って、時間ねぇじゃねぇか!」
「そうだね、これじゃぎりぎりだ」
「秀矢お前、知ってたなら教えろよ」
「なぜ? たかがこの程度の遅刻で……」

 遅刻常習犯の僕からすれば、一分ぐらいの遅刻なら滑り込みセーフだ。むしろホームベースのセーフ。九回裏ツーアウトでの、逆転ゲームセットへつながる滑り込みセーフだ。全くこの程度で焦るなんて、やれやれである。

「いいから、走るぞ!」

 晃が走り出したので、仕方なくついていく。
 めんどくさいなぁ……。

 教室が近づいてくると、何やら楽しそうな声が聞こえる。ほらみろ、まだ行ってないやつだっているじゃないか。

「やったー! 暦月が罰ゲーム!!」
「橘がんばー」
「えー」

 この声、そして暦月、橘と言う名前、間違いない。
 神七の方々だ。
 晃が隣で「やべっ」と声をもらした。

「おい秀矢、戻るぞ」
「戻る? どこに」
「学食に」
「忘れ物?」
「あ、あぁ!」
「何を」
「青春、かな」
「一人でどうぞ」

 なんというくだらない。そもそも学食なんかに忘れる青春は最初から持ってなかったんだ。
 なんとか教室から引き離そうとする晃を無視して……いや、痛い痛い。ちょっと痛い。爪が食い込み……

「じゃあ、罰ゲームは告白ねー」

 晃の手を剥がそうと四苦八苦していると、中からそう聞こえた。
 罰ゲームで告白? ……ふむ。まぁ僕には関係ないだろう。
 途端に晃の力が緩む。
 しめた。これで教室に入れる。

「相手はもちろん基山秀矢!」

 …………は?

「い、いやいや! 無理だって。ほんと、だって……」

 そこまで否定するなよ。
 いや違う。本質はそこじゃない。あの橘が僕に告白?

「まあ大丈夫だって。基山って大人しい陰キャだし」

 陰キャ関係ねーだろ。

「そうだな。基本草食そうだし危ないことは起こるまい」

 肉食ですが。

「仮に何かあっても俺がボコボコにしてやる。暦月を傷つける奴は許さん」

 怖いなおい。

 いや、待て待て。落ち着け。整理しよう。これはつまり、罰ゲーム、告白。このワードから考えて……。
 はいはいなるほど。そういうことか。
 横に立った晃が気まずそうに僕の顔を覗き込む。

「秀矢、あの、これは……」
「いや。大丈夫。OKだ。全部わかってる」
「え? じゃあまさか……」
「つまりこれは──






 












 ──嘘告ってことだろ?」
「は?」

 ふつふつと怒りが湧いてきた。

「大方僕が橘に本気になるのを見てみんなで笑うつもりなんだろう。そして言うんだ。『ドッキリ大成功!』。で、僕は答える。『えっ、じゃあ橘は僕のことが好きじゃなかったの!?』。それを見てさらに笑いながら言うのさ。『あったりまえだろ!』って」

 そう。あったりまえだ。あたりまえじゃなくて、あったりまえ。
 僕は今、完全に舐められてる。橘に告白されて、簡単に落ちるチョロ男だと。そして笑い者にしていい奴だと。
 ははは、舐めるなよ。

「いや秀矢。そうじゃなくて……」
「いやいやいいんだ晃。君の気持ちはわかる。友達だから庇いたいよな。大丈夫僕は君に怒ってなんかない」
「いやそうじゃなくてだな。暦月はただ」
「ふふふ、まさか聞かれてるとも知らずバカな奴らめ。その手には乗るか」
「おい、じゃあまさか」

 晃の顔が青ざめている。
 当然だ。あの橘暦月。百人いれば百人振り返るような美少女にして、今まで数多の数の男を振ってきた女。美女も歩けば男を振る、なんてことわざができるくらいだ。
 そう。つまり橘は振ることはあれど振られたことなんてない。それを、いくら能ある鷹は爪を隠すと言うとはいえ、比較的目立たない僕が振るのだ。プライドはへし折れるし、その元凶と橘に板挟み状態になる晃の気まずさは計り知れないはずだ。

「そのまさかさ。僕は橘を振る」
「いやいやいや! それはダメだって」
「なんでさ。付き合うのもめんどくさいし、笑い者にされるのも僕は嫌だぞ」
「いやそうじゃなくて──」

「──大丈夫だって暦月なら! 可愛いし!」

 晃の声を打ち消して、夢川が橘をさらに煽る。

「うむ。そのとおりだ」

 今賛同したのは空手部主将の真那元大地だ。低くてでかい声だからわかりやすい。

「でももし振られたら……」
「そのときは俺がボコボコにしてやる」

 マジカヨ。

「私も!」

 夢川が続く。

「もし振ったら基山も絶対許さない! 呪いをかけてやる!」

 マジカヨ。

「そ、そこまでしなくていいって!」

 橘が恥ずかしそうに言った。

「で、でも……わかった! 私やってみる!」

 ええー……。
 頼むからもうちょい粘れよ。
 もちろん、冗談半分で言ったに違いない。けど、僕が実はこの会話を聞いていて、橘を辱めるために振ったと知られたら?

 ……どうやら僕は、退路を断たれてしまったらしい。
 告白を受けるしかない。






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