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Case.01【消えるピアニスト】
day4.1─光に差す影─
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翌日、一週間ももう終盤の木曜日の放課後、絢葉は職員室を訪れ、各教室の鍵の貸し出し記録を見せてもらった。目当ては勿論、旧音楽室。
ページの一角。旧音楽室の欄は、白紙だ。記録上は、この部屋の鍵は誰にも貸し出されていない。視線を上げると、壁に並べて掛けられた鍵の中に、確かに旧音楽室と書かれたネームタグの付いた古い鍵が掛かっている。
「……誰も、本当に借りていない……?」
絢葉は素早く史桜にメッセージを送る。
【そもそもが、使われなくなって久しい教室だ。無断で短時間持ち出しても誰も気付くまい。しかし、そんな鍵が未だにそのまま貸し出し可能な状態であるというのは、、随分と杜撰な管理をしているものだ。我が校の教員殿は、随分と多忙らしい】
続いて史桜からメッセージが届く。
【東雲君が友人と旧音楽室へ訪れたのは月曜日、その日は扉を開けることが出来た。火曜日の調査では鍵は施錠されており、天野のピッキングで解錠。その日は施錠はせず、昨日の調査で鍵は開いたままだった。つまり、今週に限っては今日までは月曜日のみ、鍵が持ち出されていたであろう事が分かるね】
【今日は今のところは鍵は持ち出されてませんね。このまま張り込んでみますか?】
【いいや、恐らく今日は“幽霊ピアニスト”は現れない。現れるならこの時間には既に鍵は持ち出されているだろう。今日は旧音楽室とは別の場所を調査しようか】
絢葉はその足で、史桜の指示のまま“新しい”音楽室、つまり現行の音楽の授業や、吹奏楽部が練習で使う部屋に向かった。
扉を開けると、吹奏楽部の部員達が、様々な楽器を手に、音を合わせている。
絢葉の姿に気付いた三年生の女子生徒が、明るく駆け寄ってきた。髪を後ろでひとつに結い、笑顔が場を和ませる。
「入部希望者?あ、見学かな?どっちでも大歓迎!私は山野辺麻美、部長やってます!」
青いタイが揺れる。
勢いの良さに絢葉は最初は面食らったが、山野辺の説明や部の紹介は手際よく、明るい。合奏の指示、パート紹介、次の演目の説明。
やがて休憩時間となった。すると山野辺はそれまで演奏していたサックスを置き、ピアノの前に座って演奏を始めた。
(山野辺先輩、ピアノも弾けるんだ…すごい、綺麗な音)
いつもの光景なのか、部員達は特に注目はしていない。音は澄んでいる。けれど──
突如、音が乱れる。山野辺は立て直そうとしているようだが、音は外れ、リズムもめちゃくちゃだ。
耳の奥で史桜の声が、小さく「ふむ」と鳴る。職員室でイヤホンを耳にして通話するのは流石に回避したが、現在は通話を繋いでおり、この演奏は史桜にも届いている。
何に頷いたのか、絢葉には分からない。ただ、彼が何かの「形」を掴んだ気配だけが残った。
山野辺は苦笑いをしながら立ち上がり「ごめん、うるさくしちゃったね!」と頭を下げた。
その笑顔に、ほんの少し影がさしたのを、絢葉は見た気がした。
その後は何事も無かったかのように練習は再開し、日が傾き始めた頃に終了した。
「今日はここまで!お疲れ様!」と明るく締めたものの、山野辺の笑顔に漂う翳りは、誰の目にも隠しきれない。
「麻美、大丈夫?」
真っ先に声をかけたのは、短めの茶色がかった髪が肩で揺れ、柔らかい垂れ目を心配げに細めている女子生徒。見学の際挨拶された、確か三年生で副部長の古谷果歩だ。彼女は山野辺に近寄り、肩に手を置いた。
「無理に弾かなくても良いんだよ?ゆっくりやっていこう」
「……ありがとう。でも大丈夫。私は、やらなきゃ…」
山野辺は小さく笑ってみせるが、その言葉は自分に言い聞かせるようでもあった。
ページの一角。旧音楽室の欄は、白紙だ。記録上は、この部屋の鍵は誰にも貸し出されていない。視線を上げると、壁に並べて掛けられた鍵の中に、確かに旧音楽室と書かれたネームタグの付いた古い鍵が掛かっている。
「……誰も、本当に借りていない……?」
絢葉は素早く史桜にメッセージを送る。
【そもそもが、使われなくなって久しい教室だ。無断で短時間持ち出しても誰も気付くまい。しかし、そんな鍵が未だにそのまま貸し出し可能な状態であるというのは、、随分と杜撰な管理をしているものだ。我が校の教員殿は、随分と多忙らしい】
続いて史桜からメッセージが届く。
【東雲君が友人と旧音楽室へ訪れたのは月曜日、その日は扉を開けることが出来た。火曜日の調査では鍵は施錠されており、天野のピッキングで解錠。その日は施錠はせず、昨日の調査で鍵は開いたままだった。つまり、今週に限っては今日までは月曜日のみ、鍵が持ち出されていたであろう事が分かるね】
【今日は今のところは鍵は持ち出されてませんね。このまま張り込んでみますか?】
【いいや、恐らく今日は“幽霊ピアニスト”は現れない。現れるならこの時間には既に鍵は持ち出されているだろう。今日は旧音楽室とは別の場所を調査しようか】
絢葉はその足で、史桜の指示のまま“新しい”音楽室、つまり現行の音楽の授業や、吹奏楽部が練習で使う部屋に向かった。
扉を開けると、吹奏楽部の部員達が、様々な楽器を手に、音を合わせている。
絢葉の姿に気付いた三年生の女子生徒が、明るく駆け寄ってきた。髪を後ろでひとつに結い、笑顔が場を和ませる。
「入部希望者?あ、見学かな?どっちでも大歓迎!私は山野辺麻美、部長やってます!」
青いタイが揺れる。
勢いの良さに絢葉は最初は面食らったが、山野辺の説明や部の紹介は手際よく、明るい。合奏の指示、パート紹介、次の演目の説明。
やがて休憩時間となった。すると山野辺はそれまで演奏していたサックスを置き、ピアノの前に座って演奏を始めた。
(山野辺先輩、ピアノも弾けるんだ…すごい、綺麗な音)
いつもの光景なのか、部員達は特に注目はしていない。音は澄んでいる。けれど──
突如、音が乱れる。山野辺は立て直そうとしているようだが、音は外れ、リズムもめちゃくちゃだ。
耳の奥で史桜の声が、小さく「ふむ」と鳴る。職員室でイヤホンを耳にして通話するのは流石に回避したが、現在は通話を繋いでおり、この演奏は史桜にも届いている。
何に頷いたのか、絢葉には分からない。ただ、彼が何かの「形」を掴んだ気配だけが残った。
山野辺は苦笑いをしながら立ち上がり「ごめん、うるさくしちゃったね!」と頭を下げた。
その笑顔に、ほんの少し影がさしたのを、絢葉は見た気がした。
その後は何事も無かったかのように練習は再開し、日が傾き始めた頃に終了した。
「今日はここまで!お疲れ様!」と明るく締めたものの、山野辺の笑顔に漂う翳りは、誰の目にも隠しきれない。
「麻美、大丈夫?」
真っ先に声をかけたのは、短めの茶色がかった髪が肩で揺れ、柔らかい垂れ目を心配げに細めている女子生徒。見学の際挨拶された、確か三年生で副部長の古谷果歩だ。彼女は山野辺に近寄り、肩に手を置いた。
「無理に弾かなくても良いんだよ?ゆっくりやっていこう」
「……ありがとう。でも大丈夫。私は、やらなきゃ…」
山野辺は小さく笑ってみせるが、その言葉は自分に言い聞かせるようでもあった。
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