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第五章
絡繰釜 記録書 甚兵衛屋敷
しおりを挟む絡繰釜
翌早朝から、牛一と清蔵は怪しい集団の詮議に腕を揮った。
清洲の評定所の座敷に四人の賊が引き立てられた。残りの者は命に別条はないが別室にて手当を受け、伏せっていた。
牛一と清蔵の前に座る賊の頭目らしき男は、
「我らは堺の商人、加持祈祷の修験者、細工物の鍛冶屋などが集まった流れ商人である。決して怪しい輩でない」
しわがれた野太い声で弁明した。
怪しい素性を然も堂々と話すさまは一癖も二癖もある。牛一は口を一文字に閉じて、男らの口上を聞き流した。
「腹が減って口も利けぬわ」
薄汚れた白衣の山伏がふてぶてしく口を開いた。
「ふざけた輩じたゃ!」
隣に座る清蔵が刀に手を掛け熱り立つのも無理はなかった。
牛一は清蔵を宥めた。
「まあ待て、空腹は人を凶暴にする。......お主も腹が満たされれば大人しいではないか」
憮然とした表情の清蔵を横目に、女中に朝餉の用意を命じた。
飯を何杯もお代わりして、汁椀の中身をかき込むように食べる四人を前に、牛一と清蔵は顔を見合わせた。
昨晩から何も食っていなかったようだ。案の定、四人は打って変わって素直な態度になった。
冷静になれば、勢いを増す織田家を敵に回す得など何もない。
「先に申しておく。お屋形さまは、隠し事は嫌いだぞ」
牛一は不慣れな、威圧的な低い声音を作って釘を刺した。
清蔵は睨みつけ、刀を鞘走らせ空を斬った。わざと鍔鳴りを聞かせて刀を納める。
男たちの生唾を飲む音が聞こえた。
手持ちの品は全て吟味をして、すでに怪しげな鉄釜を見つけていた。どう出るのか、牛一は敢えて待った。隠すようなら苛烈な力技で口を割らせるのみ。
「滅相もないことで。へい、何なりと仰せつけくださいまし」
商人だけあって馬鹿ではない。商人頭は素直な態度で背を丸めた。
「お屋形さまは、湯起請の道具を探しておる。持っているなら、高直の買い取りも可能じゃが......」
へへへ、と不気味な笑みを浮かべると商人頭は揉み手した。
「いやー、お侍さま。すでにお見通しでございましょう。実は、奇しくも、ずばりの品を持っております」
「損得の勘定はできるようじゃの」
牛一は笑みを零したが、清蔵はそんな態度に見下すように鼻を鳴らした。
「商品を見せよ。話は、それからじゃ」
口車には乗らぬぞと、険呑な態度で脅しを掛けた。
頭が鉄釜を差し出した。大振りの半球状の鉄釜に、筋紋様と鋲が撃ち込まれて、縁周りにも装飾が施されている。牛一は拳で鉄釜を叩きながら検分した。
こもった音がする。内側にいくつもの穴があり、外側の縁周りには一つだけ穴がある。
「なんじゃ、これは?」
「通気穴でございます。外と内の穴は細い風の通り道で繋がっております」
要は二重構造だと、鍛冶屋風の男が遠慮気味に応えた。
「何ゆえじゃ」
牛一は掌で釜の底を撫でていた。
すると、中央に蓋状のものが外れて、凹んだ空間が現れた。
「なんだ、この窪みは?」
清蔵も不思議そうに首を伸ばした。
「これも絡繰でございます」
鍛冶屋は実際に弄りながら手先を使って説明を続けた。
「革鞴を外の縁周りにある通気孔に取り付けます。その鞴を、巫女の水干の袖に隠しながら手で押し潰すと、風が管を伝って、釜底の幾つもの穴から泡が立ち上がる仕掛けです」
「巫女が......」と口にして牛一は黙った。
山王社拝殿前に確かに巫女がいた。その前に釜が、確かにあった。それがこれなのか。
巫女と雑役が隠れてこそこそと動いていた。牛一の頭に記憶した絵面が浮かんできた。
「竈の火を見る人足が隠れて空気を送る手もございます」
説明する鍛冶屋の声が大きくなっている。
たっぷり試行錯誤を繰り返し、改良を繰り返した自信を覗かせた。
「それでは実際にやって見せよ」
牛一は命じて、内所の竈の前に場所を移した。
鍛冶屋や商人らが釜に水を入れ、竈に火を起こす。
暫し時を待つと気泡が水を潜る音が聞こえてくる。すると薄膜を破る音が心地よく響いた。
「もう、お湯が湧いたか?」
清蔵はのんびり声を上げた。
「まだまだ、ぬるま湯でございます」
商人が陰で鞴から空気を送っていた。
「この状態であれば、当たり前だが簡単に石が取り出せるな」
牛一は絡繰釜を目の前にして湯起請の絡繰が見えてきた。
「然様にございます。それゆえ、後手の白御影石の順番までに時間を掛けますれば、煮え滾る湯になります」
牛一は、はたと気がついた。
「長々とした祝詞か!」と、膝を叩く。
「嫌味なくらいに長いと、大屋村の百姓が言った言葉を思い出したぞ。その間に、釜の水は沸騰した訳だな」
清蔵は話を聞きながらぬるま湯に手を入れて、涼しげな顔で口を『ほー』と開けた。
「しかし逆の場合は、どうなのだ? 敗者である大屋村の者が順番を決めたと言ったぞ」
牛一が疑問を投げかけた。
「その場合、......最初に、少なめの水を入れた釜の湯が沸騰しますれば、黒御影石は、熱くて取れませぬ」
鍛冶屋はしたり顔で、柄杓を使い湯を半分ほど掬いだした。
「先手は確実に失敗するわけか」
牛一が口にする間に、清蔵が無造作に指先を入れた。
「あっ、お侍さま~」鍛冶屋が止める間もなく、
「うあー、ちんちんだがや!」
清蔵は熱さに絶叫し、慌てて指を耳たぶに当てていた。
「そこで、たっぷりの水を入れた革袋を革鞴に繋げて押し潰すと、管を通って水が追加されまする。ここで、別の白御影石を、巫女の水干の袖より、そっと落とします。あるいは、柄杓(ひしゃく)で湯を掻き回す振りをして入れても、よろしゅうございます」
商人頭も得意げに口を挟んだ。
「一度、熱せられた石は、すぐには温度が下がりませぬ。そこで......」
鍛冶屋は実際にやって見せる。
「後手の代表者は、手を入れると、最初に入れた白御影を後の白御影で押して底の窪みに隠してから、石を取り出すのでございます」
「後手のほうが、ちょっと難しそうに思えるな」
清蔵は興味深く鍛冶屋の動きを見て呟いた。
「さようでございます。仕掛け側として後手のほうが、いささか手間と、演技と、それから熱さに対する我慢が必要でございます。しかし人の心情は、恐怖心からほぼ後手を選ぶようでございます」
商人頭は清蔵の呟きに丁寧に応えた。
「なるほど、よくできておる」
牛一は、絡繰釜を前にして嘆息を漏らした。
清蔵の目は険しい。堪らず口を開いた。
「......ところで、若侍が一人おったじゃろう。奴は何者じゃ」
商人頭は驚き、仲間と顔を見合わせた。
「よくよく、ご存知で」
「おお、そうでござった。国人の関わりを厳しく追及せよとのお達しじゃ、のう」
牛一は清蔵を見て目で合図する。憎しみの籠った目つきには、清蔵の別の懸念があった。
「隠すと為にならぬぞ」
清蔵のそのつり上がった目を商人らに向けた。
「隠し立てなぞ......」
と、商人頭は鼻で笑うと、仲間の嘲笑が重なった。
「一色村は池田家の執事格、池田利八郎(恒長)どのじゃ」
商人頭はあっさりと恒長の名を口にすると、後ろに控える仲間の顔が歪み、舌打ちが聞こえる。
「火起請で何かを奪うとか、何とか申してはおらなんだか」
牛一は念押しに聞いた。
「はて?」
「しらぬ」
「存じませぬな」
鍛冶屋をはじめ商人らは口々に応えたが、言外に恒長に対する嫌悪の棘が含んでいた。
「そもそも、火起請は無理でございますから」
と、頭が話を引き取り鼻を鳴らすと一同がどっと笑った。
奥の書院の間に、信長に注進する牛一と清蔵が控えた。
「昨夜は鷹の前の雀状態で、賊どもは命をも観念した状態でございました」
牛一の言上に信長は満足そうだ。
「くくくく、五十人の鎧武者に囲まれて、槍の清蔵に、弓の牛一が暴れ放題か。見たかったのう。此度の徹底した戦立ては見事じゃ。余は好きだぞ、褒めて遣わす」
「ありがたき幸せ。がしかし、戦立ては良政どのの素案を、そのまま戴いただけでございます」
「干柿どのか。織田家の見聞は、不思議と知恵袋に集まるらしいの」
信長は目を細め、ふっと口から息を零して笑った。脳裏に皺だらけの干柿が浮かんだに違いない。
「早朝になると賊も冷静に考えて、『我らはただの行商人である。かような仕置きをされる謂われはござらん』と強気に転じました。確かに一理ございます。明らかなる悪行の証、または反抗の態度を見せる訳でもなくば懐柔にてと、まずは朝餉を馳走いたしました」
「なんだか、まどろっこしいのう」
信長は扇子を己が掌に打ちつけた。牛一はその挙措、表情を注意深く見守った。
「釘は刺しておきました。うちのお屋形さまは、ちと気が急くところがござる。上手な説明ができぬ口じゃと、すぐに胴と頭を別々にして仕舞いなさるぞ」
清蔵は目を引き攣らせ牛一を見た。
「まあ、そうじゃな。刎ねた首の口が、まだ言い訳しておったこともある」
信長は清蔵を一瞥し、笑い声を立てた。清蔵は目を瞬くのみだった。
「そしてこちらが絡繰の種にございます」
信長、絡繰釜を前に目を輝かせ、唸った。信長がこの種の道具が好きなのはわかっていた。
「う~む。なるほどのう。よう作ったわ」
信長は、釜を縦に斜めに揺り動かして弄っている。
「しかし、この釜は、どこへ売るつもりだったのじゃ」
ただ無邪気に弄っているだけではない。すかさず問いを発した。
「池田利八郎どのに予備を含めて二つ一緒に売るつもりだったが、まずは一つで良いと、銭を値切られた由にございます」
「なに、利八郎とな......」
信長の細い眉が小刻みに動く。
「......で、利八郎の小倅が、次は火起請で勝つと申したのじゃな」
牛一の隣に額ずく清蔵は、信長の口元を見つめている。
「奴は火起請を使って何でも我がものにする積りじゃな。下衆な男よ」
清蔵は信長の言葉に黙って低頭する。
「さて、その火起請の道具でございますが......」
清蔵は、後ろの布から妙ちくりんな道具を前に広げた。
全て、鉄の棒である。
熱湯に変えて、赤く燃える鉄棒を握る、鉄火裁判の道具だ。
「一つ目は両側が鉄で、真中に棒状の石が付けてあり、ぱっと見は一本の鉄棒に見えまする」
清蔵が最初の鉄棒を持って説明した。
「鉄ほど熱くはならない石をつけたが、それでも確実に火傷するとの説明でござる」
二本目は、真中が空洞になっている鉄棒だ。牛一は水が入る構造を指差し、
「ここに、水を入れまする。......熱し過ぎると湯気が噴き出て、すべて蒸発したら、矢張り、ただの鉄棒になります」
「なんじゃ? それは......」
信長は呆れている。
その隣にある鉄棒を、信長は手に取る。
「おお、この鉄棒は燃えておるな」
信長は笑いを堪えて、指で赤みを指し示した。
鉄棒の真ん中が赤く熾っている。その実は赤絵の具である。
「あまり火に近づけると色が燃えてなくなるので、気を付けてくださいませ、と申しておりました」
「きっと、あの元斎のほうが巧く描くじゃろうな」
信長は声を立てて笑いだした。
「ふざけた輩でござる。単なる言い訳か時を稼いでおるのでしょう」
清蔵は話しているうちに憤りを露わに声を荒げた。
「そこは商人でございます。何でも、熱さの感じない炎がござりますれば暫しお時間を、と言って、利八郎から手付の銭をせしめた模様にございます」
「熱くない炎とな? なんじゃ、そりゃ」
「墓場で見かける。人魂だそうで」
「手に入るのか?」
信長の目は輝きを増した。
なおさら牛一はすまなそうに頭を下げた。
「口から出任せだそうでございます」
「火起請の絡繰など、出来ぬのでござる。鉄火裁判などただの噂、法螺話の類に違いありませぬ」
清蔵は呆れ顔で吐き捨て、牛一に同意を求める目を向けた。
信長は、むっとしたかと思うと、急に高笑を響かせた。
「では、阿呆は利八郎か。出任せに乗って手付を払うた訳じゃな」
ひとしきり腹を抱えた信長に清蔵も乗せられて声合わせた。
だがすぐに、信長は背筋を伸ばすと目を細めた。
「火は、無理か......又助」
「御意にございます。火起請での詐術は、難しかろうと存じます」
「古来より、火を操るものは、神のみであるか」
「いかにも、さようでござりまする」
牛一は神妙に応えた。
「しかし、余は火を操ってみたいものじゃ」
牛一は信長の目を見た。戯れの目ではなかった。牛一は生唾を飲み清蔵に顔を向けた。
清蔵は無防備に笑っている。
「もとより、お屋形さまは天に愛されてござるゆえ、すべてを掌中に致しましょう」
思うにまかせて暢気な言葉を続けた。清蔵にとっては精一杯のお追従だったのかもしれない。
信長は、薄い目で清蔵を睨めつけ微笑んだ。
「言うではないか、清蔵。では、段取りは任せたぞ、又助」
「えっ......」
牛一は無我に息を吐き出し絶句した。
清蔵は舌を出し、首を竦めてから盗み目で牛一に一瞥を寄こした。
記録書
御用部屋で火鉢を挟んで牛一と良政は向き合った。
「それは少しおかしいではないか。過日の海東郡での火起請の顛末は、如何な事実がありや......」
良政は顔を赤らめて抗弁した。
「しかし、絡繰がまだ調っておらぬから、火起請などやれるはずもないと言っておりました。必ず勝てる勝負ではないと......」
流れ商人の証言を在りのままに伝えた。彼奴らが嘘をついているとは到底思えなかった。
「儂のこれに抜かりがあるとでも?」
良政が己の耳を引っ張りながら目皺を見開いた。
「滅相ものうござる」
牛一は慌てて手を振った。法螺話だと吐き捨てた清蔵に、素直に同意できなかったのは事実である。
「今一度この目で確かめて参ります」
「さよう。それが良い。裏を取って参れ」
結局、良政の言葉に載せられて北西の方角へ追いやられた。
牛一はさっそく、海東郡にある織田家直轄の代官所へ向かった。
もちろん一人ではなかった。
「良政どのの機嫌を損ねまいと、詳しい調べに出向くのは好いが、拙者まで巻き込まないで貰いたいものじゃ」
清蔵は馬乗りに減らず口を叩いて後をついてくる。
「なにを~。どの口が言うか、考えもなしにお追従を口にしおって、その尻拭いが某に来たのだ、どうしてくれる」
「......又助どのの真似をしたのだ。懐に飛び込む思い切の良さを......だが、まだまだ駄目じゃな」
「ふん、場数が足りぬのじゃお主は。お屋形さまの目の色を窺ったのか馬鹿者」
口では抗うが、月代をしきりに掻きあげる清蔵は、少しは悪いと思っているようだ。
「さあ着いたぞ」
良政の話では、中立の山王社で行った祭礼、神事の類は、必ず代官所に届けておるはず。神明裁判ならば何らかの記録があるはずだと示唆してくれたのだ。牛一は取り敢えずその言葉に従った。
良政が認めた書付を出すと、呼び出しにより清州の城へ向かって不在だという代官に代わって、元締が丁重な接遇に出た。
出掛けに渡された書付だが、もしや信長の花押があるのではないかと不気味に思い、中身を一切見なかった。恐縮する元締に気を使わせぬように、単なる確認だけだ、早急に済ませると伝えた。
取って代わって代官所下役が帳面を抱えてやってきた。
表紙に『伺事記録』とあり、一丁めくると『火起請記録書』とあった。
「これは丁寧に書かれておる。掛かりの者も稀有な儀式に興味を隠せなかったのかもしれぬな」
牛一は少し感心した。
「何が書かれております?」
清蔵は興味なさげに聞いてくる。
「大屋村敗訴の事――大屋村の小川に沿った蔵屋敷に、織田造酒丞の家来で床屋を営む川添ノ甚兵衛という足軽組頭がいた。一色村の左介は池田恒興の家来で、甚兵衛とは格別に親しい間柄であった。......当事者の話だな」
と頷き牛一は続けた。
「事が起こったのは十一月の下旬の、薄曇りが続き、雪がときおり舞ったり止んだりの優れぬ空模様の続く頃......」
甚兵衛が年貢納入のため清州へ荷駄隊を率いて、屋敷を留守にした夜。見慣れぬ集団がやって来た。
「年貢の計算に間違いがあったゆえ、追加の米俵を運ばねばならぬ」
その中の頭目らしき男が切り口上で告げた。有無も言わさぬ威圧感に、残された家人、下男は震え上がった。
しかし、甚兵衛の亡くなった女房の妹のお梶は、その一団の人影の奥に見知った顔を見つけた。
「おや、左介さま。左介さまではございませぬか」
「......人違いであろう」
頬冠りの男は慌てた。一団の後ろからほんの少しばかり顔を覗かせた隙のこと。顔を咄嗟に伏せ、潰した声音で応え、足早に屋敷の外へ離れようとした。
端から怪しむお梶は芯が強く利発な働き者だ。負けじと不審な人影を追いかけた。
「そのお声、間違いございませぬ。左介さま」
お梶は断言するなり、侍の足元に食らいつく。
「間違いであろうと言うておるではないか、離せ!」
「離しませぬ」
何ゆえに、ここに知り人がいるのかわかりようもないからこそ、お梶はこの手を離してはならじと、必死だった。
であれば他領の武士が年貢取り立ての一団にいるのは充分に怪しい。武士こそ血相を変えた。手荒にお梶を打ちすえ、手を振り払う。
お梶は赤痣を作って気絶した。
「えーい、急げ急げ。――もう良い。行くぞ」
そんな言い争いを横目に頭目は、動きを速め声を張り上げた。
おかげで蔵には兵糧米の四半分を残したうえ、土間に米俵が転がり、玄米が散乱したままだった。
「早速、翌朝、造酒丞さまの家来と名主沙汰人に伴われて、近くの織田家代官所に訴え出たという次第じゃ」
帳面から目を離した牛一は清蔵に顔を向けた。
「いや奇異な話ですが、随分詳しくて、目に浮かぶようでした」
清蔵は頷いていた。
「......とまあ、記録方の書付に細かく書いてあるのじゃ」
「誰が盗んだにせよ、他領の年貢に手を出すとは言語道断の極み!」
清蔵は顔を赤くし、腕を組み直す。
「それで、どうやって火起請などで解決したと言うのでしょうか?」
「いや、どうやら、火だけに、煙に巻かれたようじゃな」
牛一は頬を綻ばせたがすぐに眉間に力が入った。
「又助どの、戯れはなしじゃ......」
「わかっておる。見ろ」
帳面に挟まれた書付に山王社拝殿の見取り図があった。
「また、微に入り細に入り調べたものじゃな」
呆れ口調の清蔵が覗きこんだ。
山王社拝殿前に床几を並べたて詮議の場を作った。
代官とその配下の元締手代の左右に、両家奉行衆が並び、その奥の簡易に造られた敷台を睨みつけた。
対する敷台のむしろに座らされたのが、左に一色村名主沙汰人、池田家家臣、当事者たる左介。右に大屋村名主沙汰人、造酒丞家臣と訴人当事者たるお梶が神妙の顔を並べた。
その後方に少し間を空け、双方の村人が二つに分かれて口々に罵り合った。
「絡繰お釜野郎のこんこんちきめ」
大屋村集団の誰かが言えば、
「こっちには神慮がついておるのだわ。日頃の信心が違うわい」
一色村集団の某かも負けじと返す。
「何が神慮じゃとろくさー盗人一色村が」
「んなことありゃすかー、このだだくさ大屋村が」
最初は代官所へ訴え出たが、双方の人出が押しかけて、身動きが取れない。そこでお互いの因縁を鑑みて、再び中立地の山王社の神前に奉行衆、訴人当事者、立会人を出し、裁判を始めたらしい。
しかし、不規則な罵り合いは止まらなかった。
代官所役人が六尺棒を振り回し威圧しても、村人も馬鹿じゃない。顔を伏せて周りを見渡せば、減らず口の正体は何処からかわからない。
代官は苦虫を噛みつぶすばかりだった。
織田造酒丞方が「池田方に兵糧を盗まれた」と言えば、
「何を証拠に、武士を盗人呼ばわりする」
と池田方が怒るまいことか。
造酒丞方の有力な証人としてお梶が呼び出された。
「私が左介さまを見ました」
と簡易に造られた敷台の上で恐れながらと申し出た。
すると池田が他の侍が、にじり寄り威圧した。
「夜の、暗がりの話ではないか」
しばらくはそんな繰り返しが続いた。
拝殿前には双方の百姓、侍が集まって来る。一色村の動員が多いようだ。気がつくと、遠巻きに槍の穂先が陽光を照り返し、其処彼処に立ち上がった。
不穏な空気が立ち込めて、代官役人衆は困惑しだした。
槍衾は池田の手の者である。
そこへ科の優美な若侍が躍り出た。透きとおるような白い肌に女子のような赤い唇が映える池田恒長である。
「さすれば、湯起請を......」
恒長は辺りを睥睨し、ふてぶてしい落ち着きを見せ。
「......いや、主らが口にした火起請で判じれば良い」
恒長は人を見下した笑みを浮かべた。
あっと言う間に拝殿前に祭壇が作られた。
火炎台ができた。
火が熾された。
すべての手際が良い。段取りを測ったように隙のない時が流れ、見る間に舞台がつくられた。
「『火起請記録書』には村人の話も丹念に聞きとられており、当日の出来事が鮮明に見えてくるようだの」
牛一は、書付を読み、想像し、知る限りの知識を継ぎ足し、清蔵に言って聞かせた。
むろん口にすることで、牛一自身も話を整理することができた。
牛一は暫し口を閉じると、書付を繰った。
清蔵は珍しく黙って、牛一を待った。何かしらの棘が好奇の心に刺さったのかもしれない。
「......しかし、その書きようも前半に比して尻窄みの形となっておるのう。火起請そのものの描写はない。結果だけが曖昧に記録されている」
牛一が口を開くと、清蔵が喰いついた。
「曖昧とは?」
「『――すなわち、十全たる神慮判定の下るを能わず。左介は不問と為し、甚兵衛は訴えに瑕疵ありや......』」
「何が言いたいのか、よくわかりませぬ。......しかし巷間では、池田方の勝利が喧伝されております」
清蔵は首を捻るばかりだ。
清蔵が感じるように、この書付の奥に何かが引っ掛かっている。顔は見えぬが何者かの息づかいが確かにあった。
書き足りぬのか、書けぬのか、喉に詰まって飲み込めぬ餅のようなもどかしさを感じた。
牛一は腕を組み考えた。
「槍衾とは、場違いな......。池田家の火起請は強談判にすぎなかった、ということか。一色ノ方さまの威光、奉行衆の困惑、最後には、武力がものを言う。裏には、まだ何か潜んでおるやもしれぬな」
「なるほど、そのように読めまするな。曖昧ながら細かい記載を添えた者はなかなか侠気のある者かと」
(侠気とは、......手代辺りではどうにもできぬ理不尽さなのか。あるいは悔しさ、無念さなのかもしれない)
清蔵の言葉に、牛一は刹那考えを巡らして相槌を打った。
「その気持ちを、無駄にはできぬな」
「では早速、川添ノ甚兵衛と、お梶の証言を聞き取りに参りましょう」
清蔵は笑顔を見せると、自ら進んで腰を上げた。
実地検分は欠かせない。清蔵の変わり身をおかしみながら牛一は同意した。書付を閉じると裏表紙に、小さく丸に吉の印が書いてある。
「おや、縁起担ぎかな。幸先が良い」
牛一が口にすると、
清蔵も気が付いたように指を差し、皓歯を零した。
「ほう」
甚兵衛屋敷
二人は早速、水鳥が遊ぶ小川に沿って蔵屋敷のある方角へ向かった。
「――だから、川添の甚平か」
清蔵は呟くと、一人で頷きながら歩いている。
陪臣の組頭の屋敷は小さい。他国の兵士は百姓がほとんどだが、兵農分離を進めている織田家では、田畑に縛られぬ商人も多い。酒屋、油屋、米屋、鍛冶屋もいれば、甚兵衛のような床屋を営む者もいた。
隣に立つ蔵は屋敷に比して大きく白壁の輝きを見てもまだ新しい。とすれば床屋稼業は古くから続けて、兵糧の管理は最近になってのことだろうと推測された。
「あそこですね」
清蔵が蔵屋敷の並びの奥にある小さな屋敷を指差した。
間違いなかった。郎党、下男、下婢が肩を落として働く様は、暗く沈む冬曇りの天気のようだった。
憔悴しきった甚兵衛と、今なお寝たきりだと言うお梶に話を聞くのは気が咎めた。
「取り込み中のおり、誠に相済まぬ」
寝間に通された牛一は、神妙に告げた。
奥には、お梶らしき女が横になっている。
清蔵さえ、奥に目をやるとすまなそうに眉間に皺を刻んだ。
「いえ、お役目なれば気にしねえでくだせい」
作り笑いに愛想を添えて甚兵衛は朴訥に応えた。
「しかし山王社の雑役が鉄棒を火炎台に入れたのには驚きましたで......」
甚兵衛は泣きそうな顔で、あの日を思い出している。
「何か、変わったことはなかったか」
牛一はお役目に戻り話を促した。
「......変わったこと? うーん」
唸り声に誘われるように、奥の布団が動いた。
部屋の音がふつっと消え、六つの目が布団へ注がれた。
「風が。......風が歪んで、熱気が伝わりました」
か細い女の声だった。
「お、お梶、おみゃー気がついたがや」
お梶は痩けた頬を上気させ、黒ずんだ隈の上の大きな目をゆっくりと開いた。見目の良い目鼻だと思った。潤いを失くしても気丈さを十分に窺わせた。お梶は静かに言葉を選んで話してくれた。
お梶は、祭壇前に作った火起請の火炎台を見ていた。
「――あれは、いったい何かしら? 今、目の前で、何が行われているのか、よくわからなかったわ......」
火炎台から移された鉄棒の芯が熾ったように赤くなり、お梶の目を刺激した。
「ただ熱く、赤く、目を、私の目を捉えて離さない」
お梶は、今も鉄棒を睨み続けているのか目を歪めた。
「――火炎台の焔が生き物のように揺れる......。仄かな温かさが、冬の寒空を融かして肌を優しく包んでくれる」
牛一の脳裏にも、赤々と燃える鉄の棒が見えた。
「――燃える鉄芯の赤橙が美しいと思った。なぜかしら、私は目を逸らすことができなかったのです」
お梶は目を閉じ、首を微かに振った。纏わりつく赤い焔と村人の喚声を振り払うかの仕草だった。
お梶は小さな悲鳴を上げ気を失った。
力を振り絞ったのか、嫌な記憶を呼び覚ましたからなのか、急に動かなくなると臥所に突っ伏したまま寝息を立てた。
牛一は清蔵と顔を見合わせると、ふーっと息を吐いた。
甚兵衛は遠慮がちに臥所に近づき、様子を見ている。
「寝たようです。嫌な記憶に触れると、身体が勝手に拒否反応を起こすのか、しばしば気を失うんです」
甚兵衛は牛一らを見返すとほっとしたように笑みを零した。慈愛を感じるものだった。そのうえ、お梶の話の不足を申し訳なさそうに補うように話しだした。
「『訴え出たほうから潔白を証明されるがよろしい。何も怖がることなどなかろう』と、利八郎さまが当たり前のように言い放ちました」
村人はざわついた。生唾を呑む者もいた。
代官役人衆は恒長の弁舌に聞き入り、早くこの催しが終わることだけを望んている様子だった。訴え出た当事者は皆例外なく震えた。
甚兵衛の握り締める拳が小刻みに震えている。
「だ、誰が、潔白を証明するのじゃ?」
清蔵が眦を上げ口を挟んだ。
「わっしも、同じように聞き返しましたよ......へへへ」
震えながらも、清蔵を見る目には親しみが籠る。
甚兵衛は、震える声を絞った。
「お梶とやら」
恒長は笑みを浮かべ、一群の陰にいたお梶に目を付けた。今思えば、端から女の弱さにつけ込んだ手だろう。
お梶は言われるままに立ち上がった。まるで操り傀儡のように。
「潔白を証明する。証明できる」
お梶は何度も呟いた。お梶の目には赤い焔が映っているばかり。
「美しい赤橙の焔が正邪を証明する」
お梶は口にすると、ふらふらとした足取りだった。
甚兵衛は怖くなり、辺りを窺うと槍衾が厚く重なり天を覆っていく。白刃が重なるほどに村人のざわめきは消え、誰も動かなくなった。息をすることさえ咎めだてられるような心持がした。
「女の絶叫で我に返りました。時が、......止まっていた時が動きだしたのでございます」
赤い焔が揺れて、赤く焼けた鉄棒が地を転がった。
牛一は生唾を飲んだ。
「大屋村の敗訴として、幕引きがなされた訳じゃな。明らかに槍衾の恫喝であろう」
「許せねえぜ」
清蔵が低く唸った。
寝間に座る三人の肩が落ち下を向いている時だ。
「さあちゃん、お帰りのようです」
と、表から下婢の大きな声がする。
「叔母ちゃん、お薬を貰って来たわよ~」
鈴の音のような澄んだ声に、若い女子だと思い牛一は顔を向けた。
同時に清蔵の耳がぴくんと動いた。
姿は見えぬが、暗い屋敷に似合わぬ爽やかな声が表から聞こえる。
「おお、帰ったがか」
甚兵衛が顔を上げると、打って変わって晴れやかな笑顔を見せた。臥所のお梶もいつの間にか目を開け笑みを浮かべた。
「今、お梶の看病とわっしの手伝いに、お城へご奉公に上がっていた娘のお小夜が帰っておりますだ」
清蔵は怖いくらいに眉を吊り上げ、牛一の顔を窺った。
視線に促され、牛一はもう一度声のする方へ顔を向けた。
「ああ、ちょうど火起請が起った次の日だな、お小夜ちゃんの姿が清洲の城から消えたのは」
親元が大屋村と聞いた話を思い出すと牛一にもようやく女子の声に思い至った。
「お客様ですか」
足音と共に女子の声が近づいた。
すすっと襖が開いた。
「あらま! 清蔵さま」
紛れもない、お小夜の姿がそこにあった。
簡単な挨拶を済ませると女子を残して牛一ら三人は客間に移った。
「濃姫(帰蝶)さまのご配慮で、お小夜を一時、お戻しいただきました。......そうですか、お屋形さまもこの事件に、ご興味をお示しでございますか」
甚兵衛は緊張が取れたせいか、顔を合わせた当初の暗さは消えていた。お小夜の嬉しそうな口振りに牛一らとの距離を勝手に縮めていた。
甚兵衛は真面目に違いない。だが、お調子者のところがある。そこは清蔵と馬が合いそうに思えた。
「お小夜どのが奥向きに移るまでは、昼餉の面倒をよく掛けさせたものでござる。こちらの清蔵などは大飯喰らいゆえ、お小夜どのを、さぞ困らせたに違いありませぬ。のう、清蔵」
と、清蔵に話を振ってみた。此度の一件に興味を持ったどころの顔ではなかった。何やら使命感に燃えて、覇気がみなぎっている。
「はい、人一倍世話をお掛け申した。受けた飯の恩は、何百倍にしてもお返しいたすゆえ、ご安心あれ、父上どの」
「ち、父上......」
甚兵衛は笑みを零した。
「あ、いえ甚兵衛どの」
清蔵は慌てて言い直した。
「お小夜も戦災で本当の家族を失いましてな、遠い親戚ですが、実の父のように気を使うてくれますで、本当に優しい子で助かります」
目を見開く清蔵は暫し黙った。
「然様な話があったのですか。あの気立てだ。さぞや良縁には事欠くまいな」
嬉しそうに頷く甚兵衛の影で、牛一は清蔵を見てにやりとした。
清蔵は忙しそうに目を瞬いた。
その後は、ささやかな午餐とばかりに昼餉の干物と古漬けを肴に酒を馳走になった。甚兵衛も気鬱を晴らさんとばかりに、酒を勧めてきた。
冬の陽は早い。軒から差し込む陽射しが長く伸びて、奥襖を照らした。清洲まで四里の帰路を思えば牛一は気が気ではなかった。
「清蔵、酒はそろそろ控えろ」
いつまでたっても腰を上げそうにない清蔵を捲し立て、七つ(三時半頃)前には甚兵衛の屋敷を後にした。
牛一と清蔵は馬乗りで並んでいた。先を急ぐ牛一がときおり後ろを見ると、清蔵が従いてこない。馬足の上がらぬ清蔵を待って覗き込むと、清蔵は憮然と溜息をついた。
飲み足りぬ酒に後ろ髪を引かれた訳ではあるまい。
「拙者、何も知らなかったとは、情けないばかり......」
清蔵は唇を噛みながら口にした。
「気にするな。いちいち女子がそのようなこと、話すはずもあるまい......」
牛一は慰めを口にするも、落ち込む清蔵を一瞥して口を噤んだ。「いや、聞いてやれ......お春も言うておったな」
清蔵は、大屋村のほうを振り返った。
「清蔵どん、行ってやれ。五体満足な男手も必要となるじゃろう。しばらくは某一人で大丈夫だ。お屋形様には......う~ん。上手く申しておく」
清蔵は顔を輝かした。
「ありがたき仰せなれば、しばし御免仕る」
清蔵は瞬く間に、馬を駆って走り去った。
「なんだ、調子の良い奴め」
牛一は遠ざかる小さな背を見つめていた。
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