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2話 過保護なグラン
しおりを挟む私……レイラは物心ついた頃には既に孤児院に居て、それ以前のことは分からない。だけどきっと、皆と同じ様に私の赤い瞳を気味悪がって親は捨てたんだと…思う……。
胸まであるブラウンの髪に白い肌。
ぱっちり二重な瞳は魔女の瞳と噂される赤色。
身長は同年代の人間の子達と比べてもほんの少しだけ低く、顔もどちらかと言えば童顔で、子供っぽいと言われる1番の理由はそれらの容姿のせいだと私は思っている。
気味が悪いと言われ続けた私に、初めて手を差し伸べてくれた……王国専属騎士でありジークス伯爵家の次男である狼獣人のグラン・ジークス。
ダークグレーの髪は前髪をアップバングにし、後ろ髪は項より上で短く切られている。
騎士としての業務に支障をきたさない様考慮している事がひと目で分かるヘアスタイルなのだが、それすらもグランの力強さをより一層の引き出している様だった。
同色で頭上にある2つの三角の獣耳とフサフサの大きな尻尾は艶やかな毛並みをしていて触り心地が良く、切れ長の瞳や鼻そして口元は見惚れる程に綺麗な形をしていた。
身長は私よりも頭2つ分は確実に高くて、小麦色の肌には逞しい筋肉が付き、身体も大きい。
強面の顔はよく街の子供達を怖がらせているし、口調も冷たく聞こえるけれど、本当のグランはすごく優しくていつも私を守ってくれて、世界で1番かっこいい男性なのだーー。
。。。。
「レイラの飯はいつも美味い」
「そうですか、それは良かったです」
朝食を食べ終わった私は、グランの言葉に冷たく返しお皿を片付け始める。
食事中も終始無言の私をグランは分かりやすく煽て始めたけど、そんなので機嫌が直ったら騎士は要らないし、そこまで私も馬鹿じゃない。
「いい加減機嫌直せ、俺が悪かったから……」
グランがキッチンで食器を洗う私に近付き頭を搔いた。
「別に、怒ってない……」
……私より一回り以上も年上のグランはいつだって先に謝る。
先に謝られると、ずっと怒ってる私が本当に子供みたいで、そんな自分が心底嫌になるのだ。
私ももっと大人にならないと……じゃないと、グランみたいな優しくてかっこいい人……他の女性が放って置く筈がないから……。
グランと一緒に居られなくなるのは絶対嫌だから……。
私は食器を洗い終え、手を軽く振り水滴を落とすとグランへと振り返る。
「……私、もっと頑張るから…」
グランへ向かっていつもの様に笑みを浮かべると、瞬間その逞しい腕に勢いよく抱き上げられた。
「……ひゃっ!!!!!」
いきなり目線が高くなり、咄嗟にグランの首へと腕を回す。
そんな私をみて、はははっと楽しそうに笑うグランにムッとして頬を膨らますと、私はグランを睨みつけた。
「もう!いきなりびっくりした!!」
「ははっ、悪い悪いーーーーー悪かった」
真剣な顔つきで見つめるグランが、何に対して謝っているのか……私には直ぐに分かる。
「別に、落ち込んでないし……」
「そうか、なぁレイラ……これだけは分かってほしい。
俺はレイラが大切なんだ……だからお前にはもっと色々な経験をさせたいし、してほしいと俺は思ってる」
グランは軽々と片腕で私を抱き、もう片方の手で私の頭を優しく撫でた。
その大きな手はやっぱり私の知ってる落ち着く手で、私もグランの手に自身の頭を擦り付けた。
「それに、無理して直ぐに大人になる事は無い。様々な事を学んで、ゆっくり大人になればいいんだ……レイラが俺を必要としなくなるまで、俺はずっとレイラのそばに居るから」
私の頬に手を添えて、親指でなぞるグランはいつもの仏頂面を崩して、本当に穏やかで優しい表情で私を見つめた。
「……ずるいよ、グランは」
そんな顔で……そんなこと言われたら……私はもう何も言えないじゃん。
私はギュッとグランに抱き着くと、鍛え抜かれた分厚い肩口に顔を埋めた。
グランは私の後頭部をポンポンと撫でながら、静かに笑う。
埋めた肩口から除き見えたグランのフサフサの尻尾は、何処と無く元気が無さそうに、垂れ下がっていた。
「じゃあ行ってくるね」
玄関先で靴を履くと、目深に帽子を被った私は口元に両手を当てリビングへ向かって大きく声を張る。
「少し待て、送る」
「え、いいよ別に!グラン最近忙しそうだったし、久しぶりのお休みなんだから家でゆっくりしてて」
そう言うもグランは私の言葉を軽く受け流し、ラフな私服の上に上着を羽織る。
「街まで少し歩くだろ?最近物騒な話も多いし何かあったらどうすんだ」
「で、でもーーー」
「俺が久しぶりに街へ行きたいんだ……それなら文句ねぇだろうが」
相変わらず口は悪いけどやっぱりグランは優しい。
王都での仕事が多いグランは、毎日数時間かけて出勤し、いくら遅い時間になっても絶対にこの家へと帰ってきてくれる。
家から一番近い、比較的小さな街でも歩いて数十分はかかるし、お世辞でも住み心地はいいとは言えない。
だけどその土地に住む事を決めたのはきっと……私の瞳のせい。
街にも私の瞳を気にせず仲良くしてくれる人は居て、人目に付きにくい仕事も紹介してくれた。
少しでもグランの役に立ちたいと思いながらこれまでを過ごしてきたけど、現実は上手くいかず、迷惑をかけてばかり……。
グランは私を引き取って直ぐ、実家であるジークス家を出て私と2人、この家で暮らし始めたし……グランは私を引き取った事……後悔してないの…かな?
家の鍵を閉め、2人並んで街までの道を歩く。
チラッと横目でグランを見上げると、直ぐに私の視線に気付き、首を傾げる。
「ん、どうした寒いのか?」
「う、ううん…違うの……なんでもない」
「何だ?何かあるならすぐ言えよ」
「…うん、ありがと」
キュッと私がグランの上着の裾を掴むと、私の腰にグランのフサフサの尻尾がピタリとくっついて……温かかった。
「ーーじゃあ終わり頃また迎えに来る」
「それは本当に大丈夫だっーーーー」
「ーー迎えに来る。絶対1人で帰るな。分かったな」
「うっ……わ、分かった」
「ふっ、よし…頑張ってこい」
私の職場である、広いオープンテラス席と肉料理が売りのレストラン前まで来ると、グランが私の頭をひと撫でして背を向ける。
ーーそういえば……初めてレストランで働くって言った時も、グランってば忙しくても毎日レストランへ食事に来てくれたっけ……王都での仕事もあった筈だし、厨房に居る私の事なんてホールからじゃ見えないのに……。
……本当、グランってーーー
「過保護よねぇ~」
「ーーうぇっ!?!?」
突然耳元で囁かれ、私の肩は跳ね上がる。
「な、なんだ…ノア、驚かさないで……」
両手で囁かれた方の耳を押え、私は溜息を吐く。
目の前で揶揄う様に笑うこの女性はノア。
歳は私の2つ上の人間で金髪ショートヘアが特徴的な大人っぽい女性だ。
幼い頃、初めてこの街に来た時から仲良くしてくれて、私の瞳の事も気にせず歳も近いため、私の中では街で1番仲の良い友達。
……ノアもそう思っていてくれていたら嬉しいなと思う。
大人っぽい彼女は、グランの言うお淑やかな女性とはまた違い……見た目というか……雰囲気というか…そう、大人な女性特有の色っぽい雰囲気が漂っているのだ。
「あははっごめんごめ~ん!それにしても、相変わらずアンタの彼氏様は過保護よねぇ」
「か!?……彼氏じゃない!だって……今日もはぐらかされたし……」
そう言って俯く私に「あらら……」とバツの悪そうな顔を浮かべたノアは、私の背中をバシバシと叩く。
「まあまあ元気だしなって!!レイラ可愛いし、家庭的だし、これからこれから!もしジークス様が無理でも男なんて沢山いるしーーーーあぁほら、例えばアレとか……」
ノアが楽しそうに口端を釣り上げると、タッタッタッと軽い足音が近付いてくる事に気が付き、私は咄嗟に顔を上げる。
「おーい!レイラ、おはよう」
「ランセル、おはよう…朝からご苦労さま」
私の瞳を見ても仲良くしてくれるもう1人の友達は、犬獣人の男性であるランセル。
2年程前からこの街で配達員をしている好青年だ。
私は簡単に朝の挨拶をしてランセルに微笑むと、ベージュの垂れ耳と長いシッポが嬉しそうにパタパタと揺れる。
「ありがとう、レイラは今から仕事?」
「うん、そうなの…今日から新しいメニューも出るから、時間があったらランセルも食べに来てね」
「……っ!うん!!行く、絶対行くから!!」
ぱぁっと表情が明るくなったランセルは、ちぎれんばかりに尻尾を振り、そんなランセルを見て私は笑みを浮かべたのだった。
「ちょっと~、アタシも居るんだけど」
眉を顰めたノアが腰に手を付き不貞腐れた様に口を挟む。
「あ、ノアもいたんだ」
「ずっと居たわよ。はぁ、これだからずるずると初恋引き伸ばしにしてるチキン男は嫌ね」
「なっ……!」
「ランセル好きな人いるの!?私の知ってる人?」
「え!?え……えと、おいノア!変な事言うのやめろよ!!それに僕は犬だ!チキンじゃない」
「……そういう事言ってるんじゃ無いんだけど」
ランセルは顔を真っ赤にさせてノアを睨みつける。
ノアはノアでずっと面白そうにランセルを揶揄ってて……そんな仲の良いお似合いな2人を眺め、私は笑みを浮かべたのだった。
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