【本編完結/R18】獣騎士様!私を食べてくださいっ!

天羽

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4話 心地良い場所

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「ちょっとグラン!!……グランってば、いい加減降ろして!」


「うるさい……近隣の迷惑だろうが」


「もう住宅街抜けたでしょ!!うちは街から離れてるし誰にも聞こえないよっ!」


「俺の耳元で叫ぶな」


「それに!!明後日グラン仕事でしょ!何も約束なんてしてないのに、ランセルの事あんなに睨んで……ただでさえ顔怖いのに可哀想じゃない!!」


私は未だにグランに抱き上げられながら、家までの道中グランの耳元で不満を口にしていた。
グランの耳は後ろに倒され、私の声を少しでも遮ろうとしているのだが、あまり効果は無いのか、はぁと溜息を零したのだった。


「グラン!、ちゃんと聞いてーーーっハクシュ!!」


一際冷たい風が肌を掠めた瞬間、くしゃみをした私はブルっと身体を震わせる。


「レイラ、寒いのか?」


先程まで殆ど私の話を無視していたグランが、心配そうに私の顔を覗き込む。


「だ、大丈夫……ちょっと寒いけどーーーわっ!」


突然グランと目が合い、ドキッと心臓が跳ねたのを感じ私は顔を逸らして静かに呟くと、それを聞いたグランはすぐさま私を地面へと降した。


「……グラン?」


私がグランを見上げ首を傾げると同時に、ふわっと温かいものに包まれ、一緒に大好きな匂いが鼻を掠めた。


「これでも着とけ」

「え?でもこれグランの……」

「寒いんだろ?俺は寒くないからーーーほらこい、それ来てたら歩きにくいだろ。俺が家まで連れてってやるから」


グランは私に自身の上着をかけると、手を大きく広げる。

「あ、ありがとう……グラン」

「ん……」

小さく呟いた私は、グランの腕の中に入り首へと腕を回すと、グランは軽々と私を抱き上げ……また歩き出す。

さっきまでグランが着ていた上着はものすごく温かくて、グランの匂いがして……顔だけが異常に熱い。
やっぱり……グランは大人で、グランにとって私は子供。

グランにとって何でもない様な事だろうけど、私にとってはそうじゃない……。
いつも……私ばっかりドキドキして、ずるい。

グランも…私にドキドキすればいいのに……。

私は高鳴る心音がグランに届く様に、自身の胸をわざと強くくっつけたのだった。





「……グラン、お風呂先にありがとう」


家へと帰り簡単に夕食を済ませると、グランに促され先にお風呂へ入った。
グランはいつも私を最初にお風呂へ入れ、自分はいつも後。お風呂以外も絶対自分は二の次で、必ず私を優先する。
……そういう所もきっと、子供扱い……なんだよね。
特別に思ってくれているとは思うけど、それは私の求めている意味ではない。
そう思うと、ちょっとだけ悲しくなるのは……私が我儘だから。


「じゃあ俺も入ってくるか」

グランはそう呟いてソファを立つ。

「あ!そうだグランっ、ブラッシングするから獣化のまま出てきてね」

私がグランを見上げ言うと、一瞬驚いた表情をしたグランは次の瞬間、ふはっ……と笑い声を上げた。

「え?なに、どうしたの!?」


「くははっ、いや…今朝はやらないとか言ってたくせに、何だかんだでやってくれるのかと思ってな。レイラは優しいな~」

グランは強面の顔を緩めて私の頭をくしゃくしゃと混ぜる。
フサフサの大きな尻尾はユラユラと大きく揺れ、喜びを表していた。

「もう!だから子供扱いしないでって、そんな事言うと本当にやってあげないよ」

「はいはいすみませんね、さっさと入ってきますよ」


グランはそう言うと、笑みを浮かべたまま風呂場へと歩いて行った。

レストランを出た時は何処か怒ったような雰囲気を纏っていたけど、今はそんな様子など微塵も感じられず、どちらかと言うと今のグランは楽しそうに見える。

ーーーさっきのは、私の見間違い?

私は首を傾げてグランの背中を見つめていた。






ブラッシングに使う道具を揃えていると、ガタガタと音を立てて浴室から獣化姿のグランが顔を覗かせる。


「待ってねグラン、今タオル持ってくから」

私はすぐさまソファから立ち上がると、大きめのタオルを持ってグランの元へ行き、狼姿のグランの水で湿った毛を拭いていく。

グランは獣人姿でも大きいから当たり前なのだけど、狼の姿になっても勿論大きくて、そしてかっこいい。
凛々しい顔つきと艶やかなダークグレーの毛並みは本当に綺麗で惚れ惚れしてしまう程だ。
……こんなかっこいい姿を他の女性が見たら……きっと皆グランの事好きになっちゃう。



……獣化は気のおける人にしか見せないと言う。
それは本能的な事なので、いくら恋人や家族であっても、自身の心の奥底から信用していなければその姿を見せないのだとか。

私がそれを初めて聞いた時は2年ほど前……。
既にその時からグランは私の前でも獣化していて、ブラッシングもやっていたから、レストラン店長のレスティさんに話を聞いた時……すごく嬉しかった。

グランは、私の事を信用してくれているのだと……胸が温かくなった。



「よしっ、水気も拭き取ったし……グランこっち来て」


私は狼姿のグランに声をかけ、ソファへと腰を下ろす。
自身の膝上に浅いクッションを置いてグランに視線を向ける。


「グランおいで、ブラッシングしよ」


そう言いながら自身の膝に乗ったクッションを両手でぽんぽんと叩くと、グランは一瞬……ほんの一瞬だけグルルっと小さく唸った気がした。
だが、それから直ぐにソファへと上がって来て、素直に私の膝へと前足と顎を乗せたのだった。

グランの体重でソファが沈み、グランの温もりが膝から伝わるのを感じて私は笑みを零しながら、準備しておいたグラン用ブラシを手に取り、ゆっくりと毛並みにそってブラシを通していく。


「ーーグラン気持ちいい?」


「グルルゥ……」


グランは瞳を閉じ、静かに唸る。
気持ち良さそうにうっとりとした声を聞いて、私も微笑む。
このままの関係じゃ嫌だと思う気持ちと、この時間がずっと続けばいいと思う気持ちが対立する……。
グランに私を見てほしいけど、私はグランのために何かを出来ているとは思えなくて、時々グランの足枷になっている気さえするのだ。

グランは私よりも年上で、本当はもう結婚適齢期を過ぎているのも知ってる。
……でもグランが結婚しないのは多分……私を引き取ったから。





……私はグランのーーー。




「……役に、立ってるかな」









【……お前はバカか】



「……えっ」



突然グランの唸るような声が聞こえてきて、私ははっと両手で口元を塞ぐ。
もやもやと頭の中で考えていた事が口に出ていた様で、その声を逃すはずもないグランが深く溜息を吐いた。



【一緒に居るって、そういう事じゃないだろ】


グランはそう言うと、フワフワの尻尾で私の掌を撫で付けブラッシングの続きを促す。


「で、でも……私は……」




【俺はレイラみたいに家事も出来ねぇし、人付き合いも上手くない……それなのに今でもお前が俺と共にいる理由は、俺が何かしらレイラの役に立っているからか?】


「……っっ!違うっ!!!」


グランにそう言われた瞬間、すごく悲しかった。
役に立つとか立たないとか、そういう理由で一緒にいるわけじゃない。
グランが好きで、グランと一緒にいたいから私はそばにいるのに……その言葉は酷く冷たく感じた。



【だろ?俺だってそう。お前も知ってると思うが、獣人は本能から信用したやつでないと獣の姿は見せないんだ】


グランは自身の毛にブラシを通す私の手を、フワフワな尻尾で優しく撫で続ける。
それはすごく優しくて、次第に目元が熱くなり視界が歪む。


【俺はお前の事が何よりも大切で、俺にとってお前と住むこの家が何より安心出来る場所だ。まぁ、言葉にするなら……レイラはよくやってくれていると思ってる。
だからそんな馬鹿な事、もう絶対言うんじゃねぇぞ。分かったな……】


「……グラン…うん、うん……ごめんなさい、ありがと……」



ポタポタと落ちた私の雫はグランの背に落ちていく。
私は嗚咽を漏らしながら、自身の袖でゴシゴシと涙が落ちたグランの毛を擦る。


【おいっ、擽ったいって!!くははっ、やめろ!】


じたばたと暴れるグランは自身の肉球を私の膝に押し当てる。

ーーー役に立つとか考えるのは、もうやめよう。


私は大きな口を開けて笑い転げるグランのフサフサの首元に顔を埋めた。
ブラッシングのお陰か毛並みはいつもより柔らかく、お風呂に入ったばかりで石鹸のいい香りがする。

頬に当たる毛が少し擽ったくも気持ちよく、私は暫くその心地良さに瞳を閉じたのだった。






。。。。。。





「そういえばグラン、さっき明後日は用事があるってランセルに言ってたけど……それって本当なの?」


【あ……あぁ、間違いでは無い。本当は連れていかないつもりだったが、やはりお前一人この家に残すよりは連れて行った方がいいだろ。仕事は休むと既に言ってある】


グランの少し歯切れの悪い様子に私は首を傾げる。

私のことを心配してか、あまり人の多い場所には連れて行きたがらないグランが、自分から連れて行こうとするなんて、一体何処なのだろうと気になり、じぃーっと私の膝で寛ぐグランを見つめる。


「グラン、場所はどこ?」


一向に口を開かないグランを急かすと、グランは重い口をゆっくりと動かした。


【ジークス伯爵家……俺の実家だ】


「え?……グランの実家!!?」


最近ではあまり耳にする事の無かったその家名を聞いて、私は目を見開き…声を上げたのだった。
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