【本編完結/R18】獣騎士様!私を食べてくださいっ!

天羽

文字の大きさ
5 / 20

5話 ジークス伯爵家






ーー見て、赤い瞳よ。

ーーひっ!本当…不吉……。

ーーきもち悪っ。

ーー可哀想に、そんな瞳で生まれてしまって。

ーー容姿は良いのに、はぁ…勿体ない。

ーーこの子は無理よ他の子にしましょ。

ーー魔女の瞳持ちなど要らないに決まってるだろ!!



小さい頃……何度も何度も言われた。
赤い瞳は魔女の瞳だから……私が居ると不幸が起きる。
……私、何もしないよ?
……不幸なんて、訪れない。
不幸……なんて……。
あれ?でも今の私は、私の瞳のせいで不幸なんじゃないの?……私は皆の言う通り不幸を呼ぶ存在なの?
分からない……何も……怖い。寂しいよ……。





「……くっ、うぅ…は……ふぇ、うぅぅ……はぁ、はぁ」



「ーーーラ……レイラ!!!!」


焦りを含んだ低い声に呼び戻され、はっと私は目を開けた。


「……ぐ、らん?」


ぼやける視界の中、その声にいくらか落ち着きを取り戻し、私は小さく呟く。
身体は汗でびっしょりと濡れ、ベージュ色のネグリジェが肌とくっついて気持ち悪い。


「また夢を見たのか?」


「……え…夢」


悪夢で目が覚めるときはいつも、グランが酷く心配した様子で見つめていて……私はグランのその表情を見て、魘されていたことを理解する。
もう10年以上経っているというのに未だに私を苦しめる悪夢から逃れられず、鮮明に覚えているその夢を思い出すと、毎回この瞳が心底嫌いになるのだ。
この瞳がなければ……って自分自身が嫌いになって、そして……心が酷く寂しくなる。

小刻みに震える肩を自身の両手で抱きしめると、その上から大きなグランの身体に包まれた。


「ーーーちょ、え?…ぐ、グラン!?」


「すまない、実家に行く事…不安だったよな?」


グランの大きな耳は力なく垂れ下がり、いつもの強く逞しい印象とは反対に、今のグランは何処か弱々しく見えた。

最近はこんな事無かったのに……理由があるとすれば昨日グランが口にしただけ……。
きっとあの悪夢は、私が不安や悲しみを極度に感じた時に見る事が多いのだと思うーー。


「ううん、大丈夫だから……あの私今…あ、汗すごいから……服とか湿って……」


「そんなのどうでもいい」


「で、でもっ……本当に大丈夫……。私より、グランの方が辛そうに見えるよ……」


「……っ大丈夫なわけないだろうが。やっぱり行くの止めるか?」


「本当に心配しないで。私は平気だから。グランと一緒に行く……だからグラン、もう少しだけ…このままがいい……」


「……あぁ。レイラ、少しでも辛かったら必ず言えよ。お前が我慢する事なんか1つも無いんだからな」


グランは優しく呟くと、私の身体を強く抱きしめ、自身の大きな掌で私の頭を撫で、背中を摩る。
グランの手の温もりはすごく心地よくて、私はそのままグランの肩に顔を埋めたのだ。










「まだ起きるには早いが……眠れそうか?」


あれからグランは、汗を拭き新しいネグリジェに着替えた私にホットミルクを入れてくれて、飲み終わるまでずっと私の傍にいてくれた。


「……ん、1人じゃ寝れない。グランと一緒に寝たい…」


勇気を振り絞ってグランを見上げると、グランの肩が一瞬だけビクッと動いたような気がした。


「何わけの分からんこと言ってんだ、俺は戻るぞ」

グランは私から目を逸らしてそう言い放つと、さっさと部屋から出ていこうと足を進めた。

「あっ、待って!」

咄嗟に掴んだ手に、グランは目を見開きその切れ長の瞳で私を見つめる。

「お、お願い……今日だけ……」

何か理由がないと、グランは絶対に夜にベッドへ入れてくれない。
正直まだ怖い気持ちも残ってるけど、1人で眠れないほどではない……。
それでも、狡いって分かってるけど……でもこういう時でしかグランに甘えられないから。

頬を染め俯く私の頭上から、はぁと溜息を吐く声が聞こえる。


「レイラ、右詰めろ」

「……え?」


目を丸くしてグランを見上げると同時に私のベッドへ身体の大きなグランが入ってきてベッドが沈む。


「お前のベッド狭いな」


グランはベッドに肘を付き片手で頭を支えると、寝そべった私にシーツを掛けその上をポンポンと優しく叩いた。


「グランのベッドと比べたら狭いけど……でもこれでいい……狭くていいの……」


「ふっ、変なやつ」


……だってその方がグランといっぱいくっついていられるから……。


幼い頃は、今みたいにグランに寝かしつけてもらう事も多かった。
その時はただただ嬉し気持ちしかなかったけど……今は違う。

こんなにも幸せで、安心できて、でもドキドキして……好きという気持ちが溢れ出してくるんだもん。


「……グラン、大好き」


小さくそう囁くと、グランは何も言わない代わりに私の頭を撫でてくれたのだった。






。。。。。。。。



「レイラ、大丈夫か?」


「う、う…ん……だだっ、大丈夫!!」



目の前に高く聳えるお屋敷の大きさに萎縮し、私の身体はカチカチに硬直してしまう。
少しでも気を抜けば足から力が抜けて崩れ落ちそうになり、私は必死に力を入れて地面を踏み込んだ。


ジークス伯爵家。

白を基調とした建物はグランと2人暮らしの家とは比べ物にならないほどに大きくて、そして華やかだった。
花壇には色とりどりの花たちが飾られ、頑丈なレンガの塀が広い庭と屋敷を囲んでいる。

幼い頃に1度グラント来たことがあるのだが、その時の私はまだ世間知らずの子供で、ただただ大きなお城に目を輝かせているだけだった。

……でも、今は違う。





「お帰りなさいませ、グラン様」


いつの間にか私たちの前に1人の初老の男性が優しい笑みを浮かべながら立っていた。
白髪の髪はオールバックで固められ、黒の燕尾服と姿勢良い立ち姿は紳士的な印象を与え、私はグランのラフな服の裾をキュッと掴む。


「あぁ、久しぶりだなセスバ」


グランの顔が少しだけ穏やかになり、目の前の方にも自然と笑みが浮かぶ。


「レイラ様もお久しぶりです。お元気でしたか?」


「えっ、あの…私を知っているのですか?」


「勿論ですとも。貴方様が幼い頃に1度だけお会い致しましたよ。とてもお綺麗になられまして……グラン様も大変ですね」


「……何の話だ」


皆が恐れるあのグランを揶揄う様にして話す紳士的な男性に驚き、私は呆然とやり取りを眺めてしまう。


「申し遅れました。レイラ様、私はジークス伯爵家で執事長をしております。セスバと申します。どうぞ、よろしくお願い致します」

胸に手を添えてお辞儀する姿も洗練されていて、その姿に目を奪われた。


「あ!レイラです。よろしくお願いします!」


私の瞳を見ても顔色や態度を変えずに接してくれるのが嬉しくて、無意識に頬が緩むのを感じながらも慌ててお辞儀をすると、セスバさんは優しく微笑んでくれたのだった。









「……こちらでお待ちください。本日旦那様は不在のため、奥様がいらっしゃいます」


セスバさんに案内された部屋に入ると、そこは応接室の様な所で、大きめな机とソファ、そして本などが収納されている棚があるだけの部屋だった。


「レイラ、こっちへ来い。俺の隣に座っとけ」


先に革張りのソファへ座ったグランが部屋内を見渡す私を手招きし、すぐさま私はグランの元へ駆け寄った。


「グランのお家って本当に大きいね。私びっくりしちゃった」


「そうか。だがそんなにいいもんじゃない。俺は……お前と暮らすあの家の方が何倍もいい」


「……っっ!!」


低く放つその言葉に胸が跳ねる。

……私と暮らすあの家は、グランの実家よりも遥かに狭くて家具や食器も高級品じゃない。
でも、それでもグランは私と暮らすあの家を大切にしてくれている。

……嬉しくて、期待してしまいそうになる。
グランも私と同じで、私と一緒に居たいと思ってくれているのではないかと……。



「ぐ、グラン……あのねっーーー」


「待たせたわね」


グランを見上げ口を開いた瞬間、冷たい声が鋭く耳へと入り、私とグランは声の方向を振り返る。


「久しぶりね。なかなか帰ってこないで何をやってるのかと思っていたけど、まさかまだをしているなんてね」



グランと同じ狼の耳と尻尾。母親とは思えない程の美貌を持つ女性は鋭い瞳で私を睨みつけ、重圧感のある声音でそう言い放つ。
獣人族は人族よりも平均で50年は寿命が長いと聞いたことがあるが、グランもグランのお母様も実年齢よりも若く見える容姿をしている。
だけど口調や纏う空気感は容姿とは対称的で、目が合うだけで……声を聞くだけで……身体が震えそうになる。


そんな時……私の頭を優しい掌が撫ではっと顔を上げる。

「レイラ、大丈夫だがら」

いつもと同じ優しい口調と表情に私はほっと息を吐いたーーーー。









感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。 ※作品の無断転載、AI学習など一切を固くお断りいたします。(Do not reupload / use my writing for any purposes, including for AI)

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」 ⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです

シロツメクサ
恋愛
 ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。  厄災を運ぶ、不吉な黒猫──そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。  不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。  けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で──…… 「やっと、やっと、見つけた──……俺の、……番……ッ!!」  えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!? というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!! 「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」 「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」  王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない! となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。  世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。 ※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!