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5話 ジークス伯爵家
ーー見て、赤い瞳よ。
ーーひっ!本当…不吉……。
ーーきもち悪っ。
ーー可哀想に、そんな瞳で生まれてしまって。
ーー容姿は良いのに、はぁ…勿体ない。
ーーこの子は無理よ他の子にしましょ。
ーー魔女の瞳持ちなど要らないに決まってるだろ!!
小さい頃……何度も何度も言われた。
赤い瞳は魔女の瞳だから……私が居ると不幸が起きる。
……私、何もしないよ?
……不幸なんて、訪れない。
不幸……なんて……。
あれ?でも今の私は、私の瞳のせいで不幸なんじゃないの?……私は皆の言う通り不幸を呼ぶ存在なの?
分からない……何も……怖い。寂しいよ……。
「……くっ、うぅ…は……ふぇ、うぅぅ……はぁ、はぁ」
「ーーーラ……レイラ!!!!」
焦りを含んだ低い声に呼び戻され、はっと私は目を開けた。
「……ぐ、らん?」
ぼやける視界の中、その声にいくらか落ち着きを取り戻し、私は小さく呟く。
身体は汗でびっしょりと濡れ、ベージュ色のネグリジェが肌とくっついて気持ち悪い。
「また夢を見たのか?」
「……え…夢」
悪夢で目が覚めるときはいつも、グランが酷く心配した様子で見つめていて……私はグランのその表情を見て、魘されていたことを理解する。
もう10年以上経っているというのに未だに私を苦しめる悪夢から逃れられず、鮮明に覚えているその夢を思い出すと、毎回この瞳が心底嫌いになるのだ。
この瞳がなければ……って自分自身が嫌いになって、そして……心が酷く寂しくなる。
小刻みに震える肩を自身の両手で抱きしめると、その上から大きなグランの身体に包まれた。
「ーーーちょ、え?…ぐ、グラン!?」
「すまない、実家に行く事…不安だったよな?」
グランの大きな耳は力なく垂れ下がり、いつもの強く逞しい印象とは反対に、今のグランは何処か弱々しく見えた。
最近はこんな事無かったのに……理由があるとすれば昨日グランが口にしたあの話だけ……。
きっとあの悪夢は、私が不安や悲しみを極度に感じた時に見る事が多いのだと思うーー。
「ううん、大丈夫だから……あの私今…あ、汗すごいから……服とか湿って……」
「そんなのどうでもいい」
「で、でもっ……本当に大丈夫……。私より、グランの方が辛そうに見えるよ……」
「……っ大丈夫なわけないだろうが。やっぱり行くの止めるか?」
「本当に心配しないで。私は平気だから。グランと一緒に行く……だからグラン、もう少しだけ…このままがいい……」
「……あぁ。レイラ、少しでも辛かったら必ず言えよ。お前が我慢する事なんか1つも無いんだからな」
グランは優しく呟くと、私の身体を強く抱きしめ、自身の大きな掌で私の頭を撫で、背中を摩る。
グランの手の温もりはすごく心地よくて、私はそのままグランの肩に顔を埋めたのだ。
「まだ起きるには早いが……眠れそうか?」
あれからグランは、汗を拭き新しいネグリジェに着替えた私にホットミルクを入れてくれて、飲み終わるまでずっと私の傍にいてくれた。
「……ん、1人じゃ寝れない。グランと一緒に寝たい…」
勇気を振り絞ってグランを見上げると、グランの肩が一瞬だけビクッと動いたような気がした。
「何わけの分からんこと言ってんだ、俺は戻るぞ」
グランは私から目を逸らしてそう言い放つと、さっさと部屋から出ていこうと足を進めた。
「あっ、待って!」
咄嗟に掴んだ手に、グランは目を見開きその切れ長の瞳で私を見つめる。
「お、お願い……今日だけ……」
何か理由がないと、グランは絶対に夜にベッドへ入れてくれない。
正直まだ怖い気持ちも残ってるけど、1人で眠れないほどではない……。
それでも、狡いって分かってるけど……でもこういう時でしかグランに甘えられないから。
頬を染め俯く私の頭上から、はぁと溜息を吐く声が聞こえる。
「レイラ、右詰めろ」
「……え?」
目を丸くしてグランを見上げると同時に私のベッドへ身体の大きなグランが入ってきてベッドが沈む。
「お前のベッド狭いな」
グランはベッドに肘を付き片手で頭を支えると、寝そべった私にシーツを掛けその上をポンポンと優しく叩いた。
「グランのベッドと比べたら狭いけど……でもこれでいい……狭くていいの……」
「ふっ、変なやつ」
……だってその方がグランといっぱいくっついていられるから……。
幼い頃は、今みたいにグランに寝かしつけてもらう事も多かった。
その時はただただ嬉し気持ちしかなかったけど……今は違う。
こんなにも幸せで、安心できて、でもドキドキして……好きという気持ちが溢れ出してくるんだもん。
「……グラン、大好き」
小さくそう囁くと、グランは何も言わない代わりに私の頭を撫でてくれたのだった。
。。。。。。。。
「レイラ、大丈夫か?」
「う、う…ん……だだっ、大丈夫!!」
目の前に高く聳えるお屋敷の大きさに萎縮し、私の身体はカチカチに硬直してしまう。
少しでも気を抜けば足から力が抜けて崩れ落ちそうになり、私は必死に力を入れて地面を踏み込んだ。
ジークス伯爵家。
白を基調とした建物はグランと2人暮らしの家とは比べ物にならないほどに大きくて、そして華やかだった。
花壇には色とりどりの花たちが飾られ、頑丈なレンガの塀が広い庭と屋敷を囲んでいる。
幼い頃に1度グラント来たことがあるのだが、その時の私はまだ世間知らずの子供で、ただただ大きなお城に目を輝かせているだけだった。
……でも、今は違う。
「お帰りなさいませ、グラン様」
いつの間にか私たちの前に1人の初老の男性が優しい笑みを浮かべながら立っていた。
白髪の髪はオールバックで固められ、黒の燕尾服と姿勢良い立ち姿は紳士的な印象を与え、私はグランのラフな服の裾をキュッと掴む。
「あぁ、久しぶりだなセスバ」
グランの顔が少しだけ穏やかになり、目の前の方にも自然と笑みが浮かぶ。
「レイラ様もお久しぶりです。お元気でしたか?」
「えっ、あの…私を知っているのですか?」
「勿論ですとも。貴方様が幼い頃に1度だけお会い致しましたよ。とてもお綺麗になられまして……グラン様も大変ですね」
「……何の話だ」
皆が恐れるあのグランを揶揄う様にして話す紳士的な男性に驚き、私は呆然とやり取りを眺めてしまう。
「申し遅れました。レイラ様、私はジークス伯爵家で執事長をしております。セスバと申します。どうぞ、よろしくお願い致します」
胸に手を添えてお辞儀する姿も洗練されていて、その姿に目を奪われた。
「あ!レイラです。よろしくお願いします!」
私の瞳を見ても顔色や態度を変えずに接してくれるのが嬉しくて、無意識に頬が緩むのを感じながらも慌ててお辞儀をすると、セスバさんは優しく微笑んでくれたのだった。
「……こちらでお待ちください。本日旦那様は不在のため、奥様がいらっしゃいます」
セスバさんに案内された部屋に入ると、そこは応接室の様な所で、大きめな机とソファ、そして本などが収納されている棚があるだけの部屋だった。
「レイラ、こっちへ来い。俺の隣に座っとけ」
先に革張りのソファへ座ったグランが部屋内を見渡す私を手招きし、すぐさま私はグランの元へ駆け寄った。
「グランのお家って本当に大きいね。私びっくりしちゃった」
「そうか。だがそんなにいいもんじゃない。俺は……お前と暮らすあの家の方が何倍もいい」
「……っっ!!」
低く放つその言葉に胸が跳ねる。
……私と暮らすあの家は、グランの実家よりも遥かに狭くて家具や食器も高級品じゃない。
でも、それでもグランは私と暮らすあの家を大切にしてくれている。
……嬉しくて、期待してしまいそうになる。
グランも私と同じで、私と一緒に居たいと思ってくれているのではないかと……。
「ぐ、グラン……あのねっーーー」
「待たせたわね」
グランを見上げ口を開いた瞬間、冷たい声が鋭く耳へと入り、私とグランは声の方向を振り返る。
「久しぶりね。なかなか帰ってこないで何をやってるのかと思っていたけど、まさかまだ子守りをしているなんてね」
グランと同じ狼の耳と尻尾。母親とは思えない程の美貌を持つ女性は鋭い瞳で私を睨みつけ、重圧感のある声音でそう言い放つ。
獣人族は人族よりも平均で50年は寿命が長いと聞いたことがあるが、グランもグランのお母様も実年齢よりも若く見える容姿をしている。
だけど口調や纏う空気感は容姿とは対称的で、目が合うだけで……声を聞くだけで……身体が震えそうになる。
そんな時……私の頭を優しい掌が撫ではっと顔を上げる。
「レイラ、大丈夫だがら」
いつもと同じ優しい口調と表情に私はほっと息を吐いたーーーー。
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