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13話 強い意志
しおりを挟む夢を見た気がする。
なんの夢だったかは、覚えてない。
でも、凄く幸せだったような……そんな気がした。
。。。
「……うぅ」
目を開けると、そこはボロい空き家だった。
床は所々に穴が開き、いつ崩れてもおかしくない様な家だ。
「うっ、痛……」
起き上がると頭や身体に鋭い痛みが走る。
意識がまだあやふやで、ここまでに何があったのか思い出せない。
「ーーえ?な、なにこれ……」
意識が正常に戻ってくると、身体の違和感に気付き目をやる。その状況に私は驚き目を見開いた。
視線の先にある、自身の手首や足首には頑丈に太い縄が巻き付けられ、身動きがとれないようになっている。
それだけではなく、私が意識を失い寝ていた場所は、この部屋には似つかわしくないほど綺麗なベッドで、真っ白なシーツには汚れが一切無い、気味の悪い程新しいベッドだったのだ。
「な、なに……なんで…わたし」
自分のこの状況を漸く理解してきた時、身体がこれまでに無いほど震え出す。
「ーーあ、目が覚めたんだね」
自分では無い他の声に、ビクリと私は身体を跳ねさせる。
手足が縛られている状況で振り向くことが出来ず、声の主を確認することが出来ない。
だが、この声には聞き覚えがあった。
毎日の様に会話を交わしたあの声……私の心臓はその嫌な予感に心拍を上げた。
「調子はどう?レイラ」
「ーーっっ!!あ、あなたは……」
声の主が少しずつ私に近づく。
そして……自身の嫌な予感が的中する。
あの人ではありませんようにと願っても、それは虚しく消え、目の前の男性に私は絶望した。
「ラン……セ、ル…?」
優しい印象のベージュの犬耳とふわふわの髪。
落ち着く黄緑の瞳は、もうあの頃のように穏やかに笑ってはいなかった。
いつも着ていた深緑色の軍服に似た配達員の仕事着は着用せず、今は身体のラインにそった動きやすい真っ黒なスウェットを着用している。
それはこれまでの配達員の仕事着よりも着慣れてる様な気がして、これが本来の仕事着であるかのような……そんな気さえした。
「ど、どう…して」
「どうしてって、レイラが悪いんだよ?僕と一緒になればレイラは酷い扱いもされずに僕と幸せになれたのに」
ニヤニヤと笑みを浮かべる瞳の奥は笑っていない。
その表情に、私の背筋は震える。
「どういう事?ねぇ、ランセル……何かの間違い、だよね?だってランセル、あんなに優しーーー」
「僕がなんで、あんな住み心地の悪い辺鄙で小さい町に来たのか分かる?」
「……え?」
私の質問を遮り、冷たい口調でランセルが口を開く。
確かにランセルは、前からいくら私やノアが身内の話を聞いてもはぐらかしてばかりだった。
私もノアもそれを感じて、ランセルには何か話したくない辛い過去があるのかもしれないと、それ以降はランセルにその手の話を振ることは無かったけど……。
もしかして、私やノアが考えもつかない、何か違う理由があったと言うのだろうか。
私の表情を見て満足そうに笑みを浮かべたランセルが、ベッド脇に腰掛け、私の頬を人差し指でなぞる。
その感触にゾワゾワと鳥肌が立つのを感じる。
酷く、気持ち悪かった。
「僕の故郷はね、ここから少ぉ~し遠くて、この国の半分くらいしかない小さな国なんだ」
ランセルの手が私の頬や首元を何度も行き来する。
私がここに居ることを何度も確かめるように触りながら、ランセルはクスクスと笑いながら話したのだった。
「僕はその国の男爵家に生まれた。でも、ギャンブルや女に散財する父のせいで次第に金も底を尽き、僕が成人する前にはもう没落寸前。そんな時にいい話があった。追い詰められた父は勿論すぐに首を縦に振ったさ……ねぇレイラ、そのいい話って何か分かるかい?」
「いい、話……。ーーっぁ!!!」
私が呟くと、ランセルは自身の手で私の目元を覆う。
いきなり目の前が真っ暗になる感覚に驚き震え上がった。
「それはね、赤い瞳の人間を高値で貴族へと売る事さ。レイラは嫌になるほど聞いたはずさ、赤い瞳は魔女の瞳だと、魔女は災厄をもたらし不幸が訪れるのだと……昔の魔女の行いが今になっても語り継がれ、故に赤い瞳のーー特に女は疎まれる存在となり続けている。大昔に魔女の被害にあった貴族は、何故か今になってもその存在を異常な程忌み嫌い、報復したいと願っているんだ。それ程恨まれるなんて、どんな事をしたんだろうね?まぁ、僕とってはどうでもいいけど」
ランセルは心底どうでもいいかのように軽く言葉を放つ。その姿は、2年前出会ってからこれまで共に過ごした、私の知っているランセルとは随分とかけ離れていた。
「初めこそ戸惑ったが僕もそれを手伝った。だってこの家はもう直ぐ僕が継ぐんだから。これまで貧乏男爵家と馬鹿にした奴らにし返す為に、どうしても爵位が欲しかった、だから手伝った」
「ーーっ!!」
私の頬を撫でていたランセルの手は、強く私の襟を掴む。
「色々な国から魔女と同じ赤い瞳の女を攫って売り払ったさ!闇取引に当たり前のように手を出す貴族のジジイ共は本当に残虐で粘着質だよ。赤い瞳の女共は売られたら最後、人間として扱われる事なんて無くなる。ある者は様々な痛みを与えられ最後はズタズタに切り裂かれ、ある者は毎日肌を火で炙られ、ある者は見目が良かったからか、性奴隷と同等かそれよりも酷く惨い扱いを受けた」
「そ…そん…な……」
ランセルの言葉に衝撃を受け、目眩がした。
私の知らない国で、そんな残虐な事が行われていたなんて。
そして、その悲劇の一端を担っている人物が、2年もの月日を同じ街で過ごした友人だったなんて。
「赤い瞳の人間なんて極端に数が少なくて珍しいからね、近しい国に居た者は直ぐに攫い尽くした。だから僕は様々な国を渡り、情報収集の末この街に来たのさ……そう、レイラを狙ってね」
ランセルの瞳が私へと向けられ、私はゴクリと息を飲んだ。
「初めは直ぐに攫ってしまおうと思ってたーーでもアイツが、グラン・ジークスが邪魔で全く手出しが出来なかったよ。
だから様子見でしばらく街に滞在する事にした」
「……っ、じゃあ……ランセルのあの言葉は、私を捕まえるための……嘘って、事?」
私の事が好きだと告白してくれたランセルの表情は凄く真剣だった……あの表情は、私を捕え売るための嘘だったというのだろうか……。
そんな風には到底見えなかった。だから私は、恐怖の中恐る恐る聞いたのだ。
私のその問いにランセルはゆっくりと首を振る。
「レイラの事が好きなのは本当だよ?一目惚れなんだ。それから友達としてレイラをそばで見てきて、より一層レイラを好きになっていった……」
赤らめた顔を私へと近付けるランセル。
その黄緑色の瞳は私だけを見つめていた。
「ねぇレイラ、僕のものになってよ。グラン・ジークスはどうせ君を捨てるんだ。君の事を恋愛感情で見てないし……それに、婚約者がいるんだろう?レイラがいくらアイツの事を想っても、アイツはレイラの事なんて好きじゃないんだ。貴族の気まぐれってあるでしょ?レイラを孤児院から引き取ったのだって気まぐれ、守るのも、優しくするのも全部全部全部!!貴族の気まぐれ!!!分かるだろう?高位の貴族はそうやって下の者を弄んで馬鹿にするんだよ!!あぁ、可哀想なレイラ……だから、ね?僕の所にーーー」
「ーー嫌」
「……え?い、今……な、んて……?」
グランが私の事を恋愛感情で見てない事くらい知ってる。
でも、だからなんだ……婚約者が居るから私は捨てられる……それは少し、いやかなり寂しいけど……でも、グランはいつも私に優しかった。
忙しくてもグランは私を優先してくれた。
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幸せだった。グランと居れて、私は幸せだった。
だから……今度は私がグランの幸せを願うんだ。
グランには、誰よりも幸せになって欲しい……そのためなら私はーーー。
「嫌だって言ったの!!グランに婚約者がいて私が邪魔なら直ぐに私はグランの前から消える!グランには幸せになって欲しいから!!ーーでもね、どうなろうと私が貴方と一緒になることは無い!!私の好きな人は、これから先もずっとずっとグランだけなんだから!!!!」
手足を拘束されベッドへと寝かされた状態という不利な状況であるにもかかわらず、気持ちを抑えられなかった私の強い意志は、ボロい空き家に響き渡った。
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