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14話 どうなっても

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「ははっ……レイラは馬鹿だなぁ」

「ーーぅぐっ!」

私の言葉で明らかに目付きの変わったランセルは、その大きな手を私の喉へとあて、ゆっくりと指をかけていく。
繋がれた手足で藻掻くも、身体能力が人間の数倍上である獣人のランセルの前では、女で小柄な私などかなう筈もなかった。

「ねぇ今の自分の状況本当に分かってる?レイラが選べる道は2つしかないんだよ。僕と一緒になって僕だけに愛されるか、怖い怖い貴族のジジイに家畜同然の扱いをされるか……どっちの方が幸せかなんて明白じゃないか…さぁ、さぁ早く応えろよ!!」

「ぅーーぐっ!!」

私の首にかかったランセルの両手が、次第に力を強めていく。

「ぃ…や……ど、ち……も……」

私は繋がれた両手でランセルの腕を思い切り叩く。
だが、私の力ではどうにも出来ない。
じわじわと瞳に涙が溜まり、顬の方へと流れて行く。

(グラン……グランっーー)

無意識に呼ぶその名は、いつも私を助けてくれる大好きで、大切な人だ。
だが、今ここにはいない。
そして、いくら待っても、心の内で呼んだとしても、ここに来る筈のない人物だ。

「ああそうか、わかったもういいや」

「ひぅ、っ!!ゴホッゴホッ!!」

低く声を唸らせてランセルは自身の両手を私の首元からゆっくりと離した。
閉じられていた喉に一気に酸素が入り込み、咳き込んだ次の瞬間、私の上へとランセルが跨がった。
お腹が圧迫される苦しさと、先程よりも身動きが取れなくなったその状況に、より一層の恐怖を覚え涙と身体の震えが止まらない。

「そんなに僕が嫌なら、もういいさ。だけどさぁ、僕のこの気持ちはどうしてくれるんだよ!!だから、レイラのは僕が貰ってもいいよね?」

「え?ーーな、なにすっ!いや……嫌っ!!!」

首にかけていた両手を、ランセルは胸元へ移動させ、私の服をビリビリと引きちぎった。

「へぇ、白か……綺麗なレイラにはピッタリだね」

ランセルの三日月の瞳が私の胸元の下着へ集中し寒気がする。
顕になった肌。腕やお腹にランセルの気持ち悪い手が触れ、鳥肌が立つ。

「ぐっ……いや、やめて!!」

縄で繋がれた手を動かそうとすると、それはランセルの片手によって頭の上で縫いとめられた。
とうとう少しの身動きも取れなくなり、涙が溢れて止まらない。

(気持ち悪い気持ち悪い……グラン)

「無駄だよ、グランだって今頃婚約者と楽しくやってるさ、僕たちのようにね。でも、父さんには怒られちゃうかなぁ、貴族のジジイ共は処女の女を泣かせながら一気に突き破るのが好きだとか何とか言っていたしーーまぁ、いいか」

「うぅ……いや、ランセルっ、やだやだ……」

ランセルは私のお腹へと舌を這わせる。
獣人である彼の少し長い舌は徐々に上へと上がり、唯一守っていた胸の下着すら次の瞬間ビリビリに破いた。

「あぁ、綺麗だ……綺麗だよレイラ」

ゴクリと唾を飲み込み声を漏らすランセルの瞳は、もう友達だった頃の瞳ではなかった。
何度も悪に手を染めた……犯罪者のそれと同じだった。

女性らしく膨らんだ胸を強く揉みしだき、そこから見えるピンクの頂を、ランセルは口へと含む。

「痛っ!ぐっーー」

大好きなグランに食べて欲しいといつも願っていた。
そしてグラン以外となんて考えた事など1度だってなかった。
それを今……グランじゃない人に無理やりやられている。
初めてはグランが良かった。
グランじゃないと嫌だった。
でも、それは私の願いで、グランからしたら迷惑でしかなかった。
大人なグランは婚約者が居て、子供な私を女性として見てはくれなくて……。
あの時……お似合いの2人をみて、酷く悲しくて、苦しくてーーでも、同時に悟った。
私の望む事を、グランはこれから先もしてはくれないんだと……。


ーーだから、もう…いいや。

ーーグランに触れてもらえないならもう、誰にされたって一緒だ。

ーー面と向かってグランに真実を告げられ、捨てられるよりも何倍もいい。

ーー私は疎まれる赤い瞳だから、しょうがない。
でも、私は恵まれてたよね?だって幸せだったもん。

ーーだから、これ以上望んじゃ駄目だよ。

ーーこれ以上求めたら……駄目だ。



「ん?あはは!やっと僕を受け入れてくれる気になったんだね!!嬉しいよ……これで君はずっと僕の物だ。愛してるよ……さぁ、僕のを受け入れて」

力を抜いた私の身体にランセルの硬く立ち上がったものが押し付けられる。
気持ち悪い……そんな気持ちは胸の奥深くに沈め、考えるのを放棄した。

荒く熱い息を吐くランセルの手は、私のスカートを捲り、太腿へと手を添わせる。
ゆっくりと上へ侵入し、足の付け根から下着の中へと手が入って来るのが感じられる。


(グラン……グラン……)


虚ろになった瞳を閉じ、ポツリと涙の粒がこぼれ落ちた。


(グラン、大好き……ずっと、どうなっても……)


「グ……ラン……」









「ーーーレイラァっっ!!!!!!!!」


乾燥した唇で小さく呟いたと同時に、厳重に閉められていたドアが勢いよく吹き飛んだ。
大きな音と、自身を呼ぶその低い声に、鎖されようとしていた私の意識は次第に戻っていき、瞼を開く。


「グラ……な、で……」


「っ!!ーークソッ、ランセルお前!!レイラに何してんだ!!!!!!!」

息を切らしたグランは勢いのままに素早く近付き、素肌を顕にした私に乗り上がるランセルを強い力で引き剥がした。

「え?な、なんでグラン・ジークスがーーーぶぐっっ!!!!」

ランセルに喋る時間すら与えることはなく、眉を顰め低く唸るグランは、自身の大きく逞しい拳でランセルの顔を殴り付けた。
その強い衝撃で、先程まで私を支配していたランセルは簡単に床へと突っ伏した。だが、それだけではグランの怒りは治まらない。
ベッドの下に散らばる無惨に破かれた服や、暴れてぐちゃぐちゃになったシーツ、そして上半身が顕になった私の手足を拘束する太い縄を見たグランは、先程よりも唸り声を大きくし、これまでにない程怒りを増してく。


「レイラっ!!怪我は無いか!?いや……すまない。遅くなって。俺がそばに居てやれず怖い思いさせて、すまなかった」

「ぐ、らん……」

グランは着ていた軍服の上着を脱ぎ、それを私へと羽織らせた。
手足を拘束されていた縄は携帯している小型ナイフで一瞬の内に解かれ、その後素早く首元まである上着のボタンを留めてくれた。

何故グランがここに居るのか、頭の整理が追い付かない私はただグランのする事をどこか他人事の様に眺めていた。
だけど、グランの羽織は冷たくなった身体を温め、少しの重みとその香りはグランに包まれている様だった。

ぶかぶかの羽織をただ眺めていると、不意に大きな身体に抱きしめられる。
先程よりも温かく大好きな香りのするその人を感じて、怖さや気持ち悪さで強ばった身体がみるみるうちに落ち着きを取り戻していく。
まるで、そこが自分の本当の居場所であるかのように……。
赤の瞳からは涙が幾度となくこぼれ落ち、私はグランの胸に身体を預けた。


「はぁ、レイラ…レイラ。本当に良かった、お前が俺の前から居なくなるんじゃないかと思うと…生きた心地がしなかった」

「グラ…ぐすっ、グラン……こわ、かったぁ……」

「ああ、もう大丈夫だ。俺が居る、俺がお前を守るからなーー」

グランの大きな手が私の背中を優しく擦る。
その手は私の知っている大好きな手で、心の底から安心できた。

「それにしても、あの時買っておいて正解だったな……お前を助ける事が出来たのも、全部これのお陰だ」

「あ、私の……」

グランはポケットに手を突っ込み、私の目の前にあの時貰った大切なブレスレットを見せる。

「広場ん所に落ちてたんだ。何か嫌な予感がしてお前の微かな匂いを辿ってきたんだ」

「え、で…でも、婚約者さんは……」

「あ?婚約者ってなんだよ?あぁ、まさかあの噂ーー」

グランが眉を寄せる。
私に黙ったまま、突然離れるつもりだったのだろうか……そう思うと胸がツキリと痛んだ。

「ご、ごめんなさい……私は、知らなくていい…よね」

「いやそうじゃなくて、婚約者なーーーー」


「あーあー!!なんでかなぁ~、なんで邪魔するのかな!!!グラン・ジークス。騎士は騎士らしく従順にあの護衛対象でも守っていればいいのに」

ランセルは口から血の塊を床へと飛ばし、ゆるりと立ち上がった。

「仕事より何より、俺の中で1番大切なものを優先しただけだ。それよりもランセル……まさかお前が今回の事案に深く関わっているなんてな。元から感情も読めず何の臭いもしないだとは思っていたが、ここまで真っ黒だったとは」


グランは私の頭を優しい手つきで撫でると、鋭い視線でランセルを睨みつけ立ち上がった。

「ははっ、王国随一を誇る獣騎士団団長様も所詮はその程度。僕の用意したフェイクにまんまと引っかかってくれて、あとほんの少しだったのに…全く、いつもいつも最後で邪魔するんだからさぁ。ほんとお前、邪魔なんだよ」

ランセルの目付きが変わった。
瞳だけで人を殺せそうなほどに鋭く恐ろしい視線に、私は身震いする。
だが、グランは違った。
逞しい身体で私を隠すように前に出ると冷静にランセルを観察している。

「もう隠しててもしょうがないから言うけど、……ルアドル国のお姫様だっけ?アレを狙っていたというのは、レイラからグラン・ジークス…お前を引き離すための嘘。全部僕の思い通りに事が運んで驚いたよ!お姫様の周りに盗賊を仕掛けたのも僕。そしてお姫様が狙われていると知ったルアドル国王が、友好関係にあるこの国に姫様を滞在させて、優秀なグラン・ジークスを護衛に付けたのだって全部僕が想像した通りだった。まぁそんなお姫様だって、レイラを僕のものにしてから攫って売り払おうと思ってたけど」

「ーーなぜ、そこまでして真っ先にレイラを狙った?お前だって、レイラに出会う前から国王の愛娘が赤い瞳だと知っていた筈だ。ルアドルの姫を狙った方が金だって手に入る。なのになぜレイラなんだ。お前はレイラが好きなんじゃねぇのか」


グランが冷静に問うと、その言葉にランセルは深く溜息を吐いた。









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