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15話 許さねぇ
しおりを挟む「レイラはさ、誰よりも濃く綺麗な赤色の瞳をしているだろ?それは大昔に存在したという魔女の始祖である血を強く受け継いでいるという証拠でもあるんだ。母親であるあの人も同じだった……レイラは、特異な力を持っていたとされる、純粋な魔女の血を受け継いだ最後の生き残りなんだよ!」
「ーーっなに?」
「え、はは、おや……って、どういう事?」
気分が上昇したランセルは、私の問いを無視するとクツクツと笑い始めた。
「レイラはさ、自分の力を感じたことは無い?そうだな、例えば…いきなり傷が治ったりとかさ」
「傷…がーーーぁっ!」
小さな頃には起こらなかった現象。
成長してからも、いつもグランが守ってくれていたから大きな怪我どころか、グランが近くにいる時は小さなかすり傷すらした事が無かったけど……それは直ぐに思い当たった。
「……あれ…が」
料理をしていた時に多かったその奇妙な現象。
勘違いだと何度も思い込もうとした。
痛みもあり血も出たのにも関わらず、ものの数秒で何も無かったかの様に治っているなんて、人間にも、獣人にだって出来るはずがない。
ただでさえ赤い瞳で忌避されているのに、そんな事を言って、これ以上おかしな奴だと思われたくなかった。
グランにも、心配をさせてしまうからと胸の内で理由をつけ、気味が悪いと思われたくない一心でずっと黙っていた。だが、私がその現象を見て見ぬふりをしてきた事は紛れもない事実だった。
「ーーレイラ?」
「ふ~ん、その様子…やっぱり心当たりあるんだ。君の額から出ていた傷だって僕がここへ連れてきた時には綺麗に無くなっていたし、それにほら……腕を見てみなよ」
ランセルの言葉で私は、グランのブカブカな袖から腕を出すと、目を見開いた。
「あ、痣が……ない」
太い縄で縛られ、青アザがあったはずなのに、そこにはそんな痕跡1つも無くなっていた。
自分にこんな能力があるなんて、知らなかった。
私はグランを見つめる。
グランも心底驚いているのか、私の腕を険しい表情で見つめているだけだった。
「だからね、レイラは誰よりも頑丈で、いくら酷くされても殺さなければ直ぐに綺麗に蘇る。こんなに良い賞品は無いよ!!きっと高値で売れる!!一生遊んで暮らせるくらいにはね!!!!あぁそれか、その異質である治癒の能力で貴族や平民からたんまりと金を奪うのもいいねぇ!!お前の母親の様に!!!それで僕は、僕を馬鹿にした貴族の連中に復讐するんだぁ!!あははははははぁぁ!!!!!!」
ランセルの高らかな笑い声がボロい部屋に響く。
信じられない真実をランセルから聞かされ、頭が追い付かない。
(私が……本当に、魔女の……)
赤い瞳に生まれたせいで魔女だと罵られ、忌避され続けた。
でも私は魔女では無い、ただの人間だと、そう思って信じて、生きてきた。
でも、私は獣人や人間が使う事の出来ない、異質な能力が使えてしまう……傷が治り蘇るなんて、普通じゃ絶対ありえない、これじゃあ本当に魔女ではないか……。
嫌だ。
怖い。
嫌われたくない……。
本当に魔女の血が流れていた私の事を……大好きなグランに気味悪がられたらーー。
「心配すんな」
大きな手が私の後頭部に周り、抱きしめられる。
そのまま一定のリズムで撫でられ、私は顔を上げる。
「ぐ、グラン……?」
「どんなお前でも、俺はお前が……好きだ」
「ーーえ?」
グランの口から出た言葉に、私は耳を疑った。
グランは驚く私を見下ろすと、優しく笑い、額に口付けを落としたのだ。
高鳴る心臓を身体全体で感じ、先程の恐怖が嘘の様に消えていく。
「ランセル」
グランが立ち上がり、私の身体から温もりが離れていく。それと同時に、グランの声が低く、圧のあるものに変わった。
「俺はお前を許さねぇ」
「あ?なんだよ今さら。僕だって馬鹿じゃないんだ、許されない事をしてる自覚くらいあるさ」
グランの掌が、怒りを抑えるように力一杯握られ、震えている。
「自覚はある…か……あぁそうだよな。だがな、そんな小せぇ動機で、こんな大きな犯罪起こして、俺を人生最大に怒らせたお前は正真正銘の馬鹿だ」
「……なに?」
「これまでお前がしてきたことは騎士として勿論許さねぇ。だがな…俺自身が今クソほどムカついてんのは!!レイラを傷つけた事だ!!!傷は治るからだと?馬鹿なこと言ってんじゃねぇ!!!身体の傷が治っても、心に負った傷は一生消えねぇんだ!!ーー俺が1番大切にしてきたものに手を出したお前だけは!!絶対に許さねぇ!!!!」
「ぐ、グラン……」
心の底から伝わるグランの怒りの遠吠えにランセルは怯む。
すごく怖い筈なのに、私は嬉しかった。なぜなら、その言葉は私の存在を……赤い瞳である魔女の存在を受け入れてくれた様に聞こたからーー。
グランの言葉で強ばった身体が解けていく。
グランは私の事を、気味悪がっていない……。
私の大好きなグランは、どんな私でもきっと受け入れてくれるのだと、そう感じたのだ。
「ふん、くだらないね。これでも同じ言葉が言えるのかね?」
「ーーっっ!!それは」
眉を顰め呆れ顔をしたランセルが、ヒップポケットから出したものをグランへと向ける。
「見た事あるかな?ジュウって言うんだ。世間ではまだ数個しかない貴重な代物さ。身体能力の高い獣人用に人間が作った武器なんだって!この引き金を引くだけで、獣人の一撃よりも早く相手の急所を貫く……これが命中したら、いくら天下の獣騎士団団長様でも、生きていられないだろうね」
ランセルは銃口をグランへと向けたまま口端を釣り上げる。
獣人の中でも武術や剣術が格段に優れているグランが助けに来ても、ランセルが変わらず余裕な面持ちだった理由は、このジュウという武器を隠し持っていたからだと理解した。
「はっ!犬と一緒にすんな。狼獣人は頑丈なんだ。甘く見んじゃねぇ」
グランは銃口を向けられているにも関わらず、ランセルを睨みつけ、自身の背にある大剣に手を掛けた。
「ぐ、グランっっ!!」
咄嗟に私はグランへと声を上げた。
『ジュウ』というものがどれ程の威力なのかは分からないが、人間が獣人に対抗出来るものという事は、それなりに危険なものであるのは確かだ。
……だから、ランセルを下手に刺激すると、恐れている事が現実になりそうで、私はそれが何よりも怖かった。
「ねぇ、レイラ。大好きなグランが撃たれたくはないだろう?」
「え……」
ランセルが不敵な笑みを浮かべ、銃口はグランのままに、視線だけ私へと移す。
「僕がこの引き金を弾けば、グランは確実に死ぬ」
「う、嘘……」
「嘘じゃない」
ランセルの瞳が真剣に私を見つめる。
私はゴクリと息を飲んだ。
「グランを殺されたく無かったら、こっちに来い」
「ーーくっ!!行くな!レイラ!!!!」
「ね?早くしないと、本当に撃っちゃうから」
グランが私に向かって叫ぶ。
でも、行かなきゃ……行かなければ、グランが殺されてしまう。
私はゆっくりベッドから降り、ランセルの元へと裸足で進む。
「そうだよ。偉いねレイラ……じゃあーーー」
瞬間、ランセルは私の肩に手を乗せると、強い力で押しつけた。
その威力に人間の女性である私は適わず、ランセルの足元に膝を着く。
「レイラ命令だ。グランを殺されたくなかったら、この場で裸になって……僕のを舐めてくれる?」
「へ……」
ランセルのその信じられない言葉に私は耳を疑った。
「ーー貴様っっ!!ふざけんな!!いいかレイラ、そんな事絶対すんじゃねぇぞ!!!!」
「ぅ……ぐ、ぐらん……で、でも……」
やらなけれ、グランが殺されてしまう。
迷ってる暇なんてない……でも、そんな姿……グランにだけは見られたくなかった。
「何迷ってんのさ?殺すって言ってんの?くふふ……グラン・ジークス!!大切にしてきた女が自分の身代わりに辱められる姿をその憎たらしい目に焼き付けるといいさ!!!
ねぇレイラ?まさか見られたくないなとか思ってないよね?駄目だよ?ちゃぁんと全部見せようね、グラン・ジークスに僕のをしゃぶって嬉しそうにするレイラのエロいとこ全部見せようね?」
三日月に笑ったランセルの手が、膝立ちになった私の後頭部に周り、丁度目の前にあるそれに近付ける。
「レイラっ!!!!!」
「レイラ、変なことしたら直ぐにアイツ殺すから……さ!早く、その狼臭い上着を脱げよ」
「ーーっっ…」
私は震える手でグランが着せてくれた、グランの匂いのする上着のボタンを外していく。
上着を脱ぎ、下着も全て外し、私の肌が、冷たい外気に触れた。
裸なんて、月ものが始まって以降グランにだって見せた事ない……。
恥ずかしい。
こんな形で見られたくなかったと思うと、じわじわと目元に涙が溜まっていく。
私はランセルのスボンに手をかける。
「……ふ、ぅぅ…」
グランを守るため……ベルトを外し、ズボンのチャックを下げようとした瞬間、後方から鼓膜が破れそうなほどの叫びが部屋全体に響き渡った。
「ランセル!!!!!許さねぇ、今すぐレイラから離れやがれぇぇぇっっ!!!!!」
だが、その声と同時に、聞いたこともない何かが爆ぜた様な大きな音と、後に襲った酷い耳鳴りで、私の脳が気持ち悪い程に揺れた。
「ぅ……はっ!ーーぐ、グラン!!!!!!」
グランの胸元から真っ赤な血が水のように外へと流れ出る。
ランセルを見上げると、手に持っていた銃からは煙が湯気のように吹き出す。
グランの尋常じゃない程の出血に、目眩がした。
「グラン!!グランっ!!!」
ランセルは何もかも上手くいったことに笑みを浮かべ、私は気が動転し、グランを呼び続けることしか出来なかった。
グランが死んでしまう。
死んで欲しくない!!
流れ出る血を……そして、痛々しく呼吸の荒くなったグランを見ると、私はもうそれしか考えられなくなった。
何もかも終わったと、そう思った。
ーーだが、グランだけは違った。
「ぐっーーかはっ!!……ぅぐーーーはあぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!」
「ーーえ。なっ!?なんで!!だってその弾には毒がっ!!すぐ動けなくなるってーーーーうぐっぇっ!!!!!!ぐあぁぁぁぁ!!!!」
床に血の泉を作りながらも、最後の力を振り絞るかの様にグランの強い拳が瞬く間にランセルの顔面に命中する。
ボキボキと変な音を立て、ランセルはそのままボロい床に突っ伏し、ピクピクと小刻みに痙攣したのだ。
「ぅ、ぁが……」
ランセルが小さな呻き声を最後にピクリとも動かなくなった。
同時に、グランも力尽きたように床へと倒れ、その強い衝撃でボロい屋根の破片が追い打ちをかけるかのようにグランの元へ降りかかった。
「ぅぐーーっ!!」
「グランっっ!!!!」
私は急いでグランの大きな上着を羽織り、グランの元へとかける。
「グランっ!グランっ……ぅぅ…」
倒れるグランの横で膝をつき、濡れた瞳でグランを見つめる。
「レ……ィラ……ゴホッゴホッ!!」
弱々しいグランの呼吸と声。
いつも私を抱きしめてくれる胸も、手も……優しい言葉をくれる口も、強面でかっこいい顔も、逞しい足も、全てが真っ赤に染まっている。
「クソ……あ、ぃつ…本当に、撃ちやがっ……毒、の…せ、で……血が……止ま……」
「いやぁ……グラン!…死んじゃ…嫌……」
「は……勝手に、殺す…んじゃね……。
おい…レイラ…これだけ…は、聞いて…くれ……。
あの、噂は、嘘だ…俺は…婚約者な、んか…居ねぇ…から」
「え……。こ、こんな時に何言ってーーー!!」
「いいから、聞け……婚約者、なんか…ずっと居ねぇ。俺は…お前を、見つけてから……ずっと…レイラ、しか……見えてねぇ」
「……え」
グランから紡がれた言葉に、私は涙を溜めた瞳を開く。
「歳の差…とか……お前の…未来が、とか…そんなんばっか……気にし、て…お前の気持ち、し、かり向き合わず…な、ないがしろに、して……逃げて、悪か……た」
「ぐ、ぐら……そんなのいいから!!喋っちゃだめ!!!」
私はビリビリに破られた自身の服だった布を集め、それをグランの傷口に当てる。
本来獣人は自己治癒能力も高く、切り傷や刺し傷だって致命傷でなければ大した怪我にもならない。
だが、グランの撃たれた場所は心臓に近く、加えて付着してあった毒が邪魔をして一向に傷は塞がらず、血も止まることを知らない。
胸に当てた布は直ぐに赤い染みを作り、直ぐに私の手にも真っ赤な血が付着する。
ぽたぽたと涙がグランの身体に落ちていく。
そんな私を見つめ、グランは苦痛を浮かべながらも柔らかく微笑み、自身の指でツゥと私の頬をなぞった。
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