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15さい
92話 変わらない関係
しおりを挟む「5日前のあの時も、確かにリツの事が心配で俺は部屋へ行った……でも心の何処かでは、発情期中のリツなら俺を求めてくれるかもしれないって期待していたんだ。でも結局、リツはいくら発情期の熱で苦しくても兄さんだけを求めた……それを見たらもう、俺は諦めるしかないって…そう思った……」
「……ラオ」
俯いて話すライオネルは今どんな表情をしているのだろうか……。
そう思うと胸が苦しくなって、手を伸ばしてしまいそうになるも、ここで俺がライオネルの手を取ったら余計にライオネルを傷付ける気がして、俺は伸ばした手を引っ込めた。
「最っ低だよな……俺は自分の気持ちを優先して、弱ってるリツにつけ込もうとしたんだーーーーーー」
「ーーーーーラオ、それは違う……絶対に違う!!」
……そう、絶対違う。
昔からライオネルは、俺が落ち込んでいると必ず励ましてくれた。
俺が獣人化出来ないただのリスだった時だってライオネルは優しかった。
……そんなライオネルは絶対に最低な奴なんかじゃない。
俺はブロンドの瞳でライオネルを見つめ、強く言い放つ。
すると、重苦しかった空気が少しだけふわっと和らいだ気がした。
それと共に、俯いたままクスッと小さく笑ったライオネルはゆっくりと俺に近づくと、自身の大きな手で俺の頭をポンポンと優しく撫でた。
「リツはいつだってそうだよね、眩しいほどに正直で努力家で小さいクセに心は強くて……そんなリツだから俺は好きになったんだ」
「むっ、小さいは余計だ!」
俺は頬を膨らませ、頭上にあるライオネルの手をペシペシと叩く。
そんな俺を見てライオネルはゆっくり一度頷くと、苦笑しつつも落ち着いた口調で話し始めた。
「あの後兄さんに言われたんだ……リツの種属である小型獣人の事について詳しく知ろうともしなかった奴が、リツを好きだなんて軽々しく言うなって。
……その時思った……兄さんはリツが獣人だって分かった時から、誰よりもリツの事を理解しようと……大切なリツの為に獣人の事を沢山勉強していたんだって……」
「……っっ!!」
その言葉を聞いてはっとする。
確かに、俺自身ですらも困惑した発情期にラディは驚く事も無く、落ち着いた様子で俺を安心させ……助けてくれた。
……それは、単にラディが年齢よりもしっかりしているからとかそんな簡単な話じゃ無くて……前々から俺の為に沢山勉強して……知識をつけてくれていたからだったんだと……。
「それを聞いて、やっぱり兄さんには敵わないなって思った。……俺さ、リツの事大好きだけど兄さんの事もやっぱり同じくらい大好きなんだ。
だから……だから!本当に自分勝手だけど、リツにこの気持ちを伝えて、きっぱりリツの事諦めようって思ったんだ」
そう言ってライオネルは眉を下げ笑った。
……ライオネルは自分の気持ちを正直に俺に伝えてくれた。
いつも冗談ばかり言っていたライオネルが真剣に伝えてくれたこの思いに、俺もちゃんと自分の言葉で答えなければ……。
ーーーーそうしないと勇気を出してくれたライオネルに失礼だ。
そう思い、俺は掌を握りしめしっかりとライオネルの瞳を見つめる。
「ラオ……ラオは自分の事、最低だ……自分勝手だって言うけど、きっと俺の方が最低で自分勝手だ……」
「……リツ?」
俺は唇を噛み締める。
……例えこの関係が変わったとしても……ラオに嫌われたとしても、これが俺の素直な気持ちだから……。
「だって俺!やっぱりラディの事大好きだからっ、ラオの気持ちには応えられない……でも、俺はラオの事も好きだから!!この関係が無くなっちゃうのは嫌だ!……だから……だから!俺はラオと、今まで通り仲良くしたい!!!」
最低な事を言っているのは自分が一番分かってる。
……でも!一人ぼっちになった俺に出来た新しい家族なんだもん!!大切な存在なんだもん!!そんな簡単に諦めるなんて出来ないっ!!!
スボンを握りしめる両手は震え、目の縁には涙が溜まる。
この後どんな言葉が帰ってくるのか……そう想像しただけで震えが止まらずギュッと強く目を瞑る。
「ーーーぷっ!あははははぁ!!!!やっぱりリツは馬鹿だなぁ~」
「ーーーーーふぇ?」
想像とは真逆のライオネルの反応に俺は間抜けな顔で呆気に取られる。
「あははっ、今までの関係でいたい?当たり前じゃん!!なに驚いてんの?」
その言葉に俺は目を見開く。
「ほ、本当に?本当にいいの?」
「いいって言うか、そうしてくれないと俺が困るんだけど。俺さ、恋愛感情とか抜きにしてもリツの事が大好きなんだけど?」
清々しい表情を浮かべるライオネルは、嘘を言っている様には見えなくて……俺はホッと息を吐いた。
「ラオ……ありがとう」
小さく呟いたその声は、ライオネルの耳に届いたかは分からない。
だけど、俺の頭をわしゃわしゃと混ぜるライオネルの表情は、いつもと変わらない……俺の知ってる笑みで……俺もライオネルにニカッと笑い返したのだった。
「ーーーーあ!そうだリツ……分かってる思うけど、今まで通り俺がお兄ちゃんだからね?」
「はぁ!?なんでだよ!!今まで通り俺が!!お兄ちゃんだ!!!」
「いーや違うね!オレが!お兄ーーーーーーーーーーーー」
そうして俺とライオネルは、いつもと変わらず…たわいもない張り合いをしながら、2人で仲良く朝食へと向かったのだったーーーーーーーーーー。
ーーーーーーーーーー
ここまでお読み頂き誠にありがとうございます!
次回から17歳!!
いよいよリツもアカデミー入学です!!
応援ありがとうございます!
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