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17さい
101話 噂の真相
しおりを挟む入学式が終わると皆が一斉に席から立ち上がり、ぞろぞろと大ホールの出口へと向かって行く。
この中に俺が入って行ったら明らかに潰されてお終いだと考え、俺はもう少し経ってから席を立とうと決めると、流れ出ていく生徒達を眺めていた。
「なぁ……あれって」
「うわ、本当だ……」
「絶対そうだよな、噂は本当だったんだ……」
……ん?何だ?……何か、視線を感じる……。
不意に大ホールから出て行く男子生徒達の視線と、ヒソヒソと話す声が俺の耳を掠める。
獣人は人間よりも五感に優れている為か、聞こえない様に小さな声で話しているつもりでも俺の耳には全て筒抜けだ。
……何だよジロジロ見やがって、噂って何だよ……俺、目立つ事なんて何もしてないのに……。
変な噂だったらそれこそ友達作りが困難になってしまうし、最悪の場合……誰1人として友達が出来ず、ぼっち生活を送る羽目になるかも……。
……ただでさえ人見知りなのに、これ以上不安の種を増やすわけにはいかないんだ!!!!
そう強く思い、俺はチラチラと横目で見てくる男子生徒数人をキッと睨みつける。
瞬間、目の前の睨みつけた生徒達の頬がポーっと赤く染り、慌てた様子で足早にホールを後にしたのだった。
……はぁ?何だよ……もう……。
意味不明なその光景に俺は眉を寄せ、首を傾げたのだった。
暫くして大ホールから外の広場へと出ると、そこには沢山の生徒達が各々交流を始めていた。
広場は立ち話をする生徒達の明るい声で包まれ、人数も多いせいか広場一体はわちゃわちゃとしていた。
「ーーーーーリツ!!!!」
「うわぁ!!……んぉ?ラディ?」
いきなりガバッと抱き込まれて倒れそうになるも、ラディの逞しい腕が支えてくれる。
俺はラディの腕から顔だけ出すとラディを見上げる。
「なかなかリツが出て来ないから心配した……何かされてない?大丈夫?」
眉を下げたラディに唐突にそう聞かれ、俺はよく分からないままコクコクと頷く。
「何かされるって……ただ話を聞いてただけなのに何があるんだよ……」
呆れた様にそう伝えると、ラディはほっと息を吐く。
……先程演台に立っていた人とは似ても似つかないその姿に笑みを浮かべながら、俺はラディの胸元を掴み引き寄せ、口を開く。
「ーーーーラディ!さっきのラディ、すっごくかっこよかった!!あんなに大勢の前で冷静に話すなんて俺絶対無理だもん……ラディは本当に凄いよ!!」
「……リツ」
「……ん?うわぁ!!!むぅぅぅ……く、くるじい……」
ラディは驚いた様に小さく呟くと、俺を強い力でギューっと抱きしめる。
それがかなり苦しくて俺はラディの腕を叩くも、当の本人は俺の肩口に顔を埋めてグリグリと押し付けてきて、やめてくれる気配は全く無かった。
「リツ、好き……今すぐ部屋に行こう、リツに触りたい……」
「なっ!!何言ってんだよ!!!そんな恥ずいことこんな大勢の前で言うなバカぁ!!」
頬を真っ赤にした俺は慌ててラディの肩を押して、そのまま両手でいやらしい事を吐くその口を塞いだのだった。
「あ!いたいたー!……リツー……と兄さん……え?何やってんの、こんな所で」
声がする方向を見ると、ライオネルとルータが駆け足で近付いてくる。
そして、俺達の状況を見ると2人して呆れた表情になりため息を吐いた。
「い、いや違う!!いきなりラディが抱きついてきたんだよぉ!俺は恥ずかしいから早く離れて欲しいのに!!!」
「リツが可愛いこと言うから悪いんでしょ?」
「いつ言った!?俺がいつ可愛いこと言ったんだよ!!は、早く離れて!!ほらもう!!みんな見てるじゃんかぁ!!!」
よく見ると先程まで談笑していた他の生徒たちも俺達を凝視していた。
……もう!あんまり目立ちたくなかったのに……初っ端から変に目立っちゃったじゃん……ラディのバカ……。
「もぉ……さっきもなんか俺を見て噂がどうとかって言ってたし……ラディのせいで悪目立ちだよ……」
「……噂?」
ボソッと吐いた俺のその言葉をラディが逃さず拾う。
「……噂って、何か言われたのリツ?」
ガシッと俺の肩を掴んできたラディの表情は何処か怒りを含んでいる様で、俺がわたわたと慌てた時「あぁ……それね」と呟いたライオネルが続けて口を開く。
「その噂って多分あれ……誰に対しても冷酷なラディアス・グラニード様が何よりも大切に大切に溺愛している神聖魔法持ちの小型獣人がいるってやつでしょ?……リツが来る前からその噂はあったみたいだし……まぁ本当の事だから気にしなくても良いんじゃない?」
……な、なんだ?……それ……。
初めはできるだけ目立たない様にしようって思ってたけど……そんなの初めから無理な話だったって事だろうか?
俺はラディを見上げる……。
ぱちりと目が合うと、ラディは少しだけ頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。
「良かったねリツ……僕との噂があるのなら、あまり揶揄われる事はないだろうし、少しだけ安心した」
そう言って俺の額にチュッと音を立ててキスをする。
すると周りからはキャァという黄色い声と、落胆する悲しそうな声が入り交じって俺の丸い耳に入って来たのだった。
「お、俺の……友達作ろう計画がぁ……」
前途多難な状況に早くも落ち込む俺は、にこやかに微笑むラディに頬を膨らませたのだった……。
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