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八章 忍びと時期領主
泉国の港から船に乗り義国へと向かう。茜はまた退屈な船旅が始まるのかと盛大に溜息を零した。
「茜、栄成からこれ貰っておいたんだ」
「すごろく?」
紙を広げて見せる智和の言葉に茜は目を瞬く。
「うん。泉国ではすごろくが当たり前の遊びなんだって。だから船旅の間これをやろう」
「確かに、何もやらないよりはいいかも」
彼の言葉に彼女は小さく頷く。
「そうだ、ただ遊ぶだけじゃつまらないから、負けた人は恥ずかしい話するっていうのは如何?」
「なんだよそれ」
すごろくを床に置きながら話す智和へと茜はつっこむ。
「賭博は駄目だっていうから……」
「可愛い妹からお金を取るつもりだったのか?」
彼の言葉に綺麗な笑顔で尋ねる。それに苦笑を零し智和が口を開いた。
「はははっ。まさか、茜からお金を貰おうなんて思っていないよ」
「分かったから。これ以上智和がお金の亡者にならないうちに始めようか」
ケラケラと笑うおじの様子に溜息を零し茜は駒を手に取る。
「はい、智和の負け」
「う~。また負けちゃった」
笑顔で話す彼女の言葉に智和が盛大に肩を落とす。
「さ、恥ずかしい話よろしく」
「茜がこんなに強いなんて思わなかったよ」
茜はにこりと笑い見詰めると、彼が溜息交じりに話す。
「だって、恥ずかしい話なんてしたくないからさ」
「もう、恥ずかしい話は全部語ったから。他のにしよう。そうだ、自慢話するとか」
「それじゃ趣旨が変わってくるだろうが」
彼女の言葉にこれ以上恥ずかしい話をしたくない智和が話題を変えようと提案する。それに茜は意味が変わって来ると伝えた。
「う~。もうやめようか」
「い~や。船旅の間ず~っとやろう」
彼の言葉ににこにこ笑いながら彼女が言う。
「茜の意地悪……」
「ははっ。特訓の時は絞られたからね。お返しさ」
智和の呟きを聞き拾った茜が盛大に笑い言う。
そうして本当に毎日すごろくをして過ごすと、義国の港町へと船が泊まる。
「いよいよ義国。茜、いつ襲われるか分からないから気を引き締めて向かうよ」
「あぁ」
緊張した面持ちの智和の横で茜も生唾を飲み込み頷く。
そうして城下町を目指し歩き続ける。
「……全然現れないなぁ」
「おれ達を油断させて、隙が出来たところで狙う気かもしれない」
拍子抜けといった感じで彼女は話す。それに彼がそう言って気を緩めるなと促した。
それからしばらく歩き続けて森の中へと入る。
「今日はここまでだな」
「あたい枝を拾ってくるよ」
夕暮れ時の空を見やり智和が言うと茜は周囲から適当に蒔きになりそうな枝を拾う。
夕食を済ませそろそろ寝ようかと思った時、微かに殺気を感じた。
「茜!」
「あぁ、右だろう」
智和の言葉に従い木立の奥へと技を放つ。
「ちっ。面倒な力付けさせちゃって……」
「あんたが義国の城に仕える忍びだってことは栄成から聞いて知ってるんだよ」
「どうして茜を狙うのか今日こそはいてもらうからね」
暗がりから姿を現した忍びが愚痴る。そんな相手へと向けて二人は武器を突き付け警戒した。
「あんた達が知る必要はない。捕まえておこうかと思ったけれど、どっかの誰かさんのお陰で力をつけたあんたは危険だ。ここで始末しておく」
「「……」」
忍びが暗愚を構えると緊張した空気が周囲を満たす。
「すっきあり~」
「佐吉~!!」
「っぅ!?」
突如少女と少年の声がしたかと思ったら、忍び目がけて二つの人影が突っ込む。
「え、ちょ。なんでここに真茂様と緑ちゃんがいるの?」
「緑ちゃんの緑のネットワークを通してお友達から教えて貰ったからだよ」
「緑殿から佐吉が最近、こそこそと何やらよからぬ動きをしていると、聞いて駆けつけたのだ」
驚く忍びへと飛び込んできた二人の人物が説明する。
「ふふっ。茜ちゃん、智和君。ごめんね~」
「佐吉が勝手に貴殿を狙っていたと聞いた。主として謝る」
にこりと笑い緑の髪の少女が言うと、少年も申し訳ないと言って謝った。
「えっと、どうしてあたい達の名前を知っているんだい? そして勝手に動いてって事は義国の城主の考えではないって事でいいのか?」
「し~君と弓から話は聞いているよ」
「うむ。父上からその様な命令を下したとは聞いていない。よって、佐吉が勝手に動いた事。故に主として謝るのだ」
呆気にとられていた茜だったが何とかそう尋ねる。それに少女がにこりと笑い答え、少年が深々と頭を下げた。
「さて、佐吉。どういう事なのかは後で聞くとして、とりあえず。このお二人にお詫びをしなくてはならない」
「は~。……はい」
少年の言葉に渋々といった感じで返事をすると忍びが暗愚を仕舞う。
「某は義国城主の息子。村田真茂で御座る。こっちは某に仕える忍びの佐吉だ」
「私は緑ちゃんだよ~。よろしく!」
自己紹介してくれる二人に茜も口を開く。
「あたいは太田茜。こっちは智和」
「もう一度確認するけどそこの忍びが勝手に動いていたって事は、本当に村田家は関与していないって事でいいのかな」
自己紹介してくれたのだから名乗らないわけにはいかず答えた彼女の横で、警戒を解かないまま智和が尋ねる。
「うむ。天に誓って村田家は関わりないと答えよう」
「ま~君は嘘つかないから、信じていいよ」
力強く頷き答える真茂に緑が笑ってそう言った。
「分かった。その言葉を信じて、今回の件は許そう」
「でも、こっちは何度も怖い目見たんだからね。それについては許してないよ」
智和が言うと茜は腕を組みそう言い放つ。
「むろん。お詫びはする。佐吉、お前もちゃんと謝らぬか」
「……申し訳ございませんでした」
真茂の言葉に棒読みで感情も込めずに佐吉が謝る。
(全然反省はしていなさそうだな)
「それで、貴殿達にお詫びがしたいので、某と共に城へ来て頂けぬか?」
内心で呟いていると少年がそう言ったので頷く。
「分かった。でも、今日はもう晩い。こんな暗い中で城下町に向かうのは危ないから、ここで野営しよう」
「それなら心配ないよ。緑ちゃんが連れていってあげるから」
「「?」」
茜の言葉に緑がにこりと笑い話す。それに二人は不思議そうに疑問符を浮かべる。
「それじゃあ、お城まで転移~」
「「!?」」
少女が言うと白い魔法陣が現われ全員が入るくらいまで広がった。次の瞬間には視界が歪み、気が付くと大木の前で佇んでいて驚く。
「はっ? え? この――」
(この世界魔法が存在するのか?)
「な、何が起きたの?」
驚く茜だったが、智和の言葉でこの世界に魔法が存在することは無いと知り、口走りそうになった言葉を紡ぐ前に口を閉ざす。
「ふふっ。緑ちゃんの魔法だよ~」
「魔法って、また変なこと言って。ただの鬼の能力の一つでしょ」
にこりと笑い緑が言うと佐吉が溜息交じりに話す。
「緑殿の魔法は凄いであろう」
「真茂様。緑ちゃんの言葉を真に受けない様にっていつも言っているでしょう」
自慢げに話す真茂へと忍びが再び溜息を零し告げる。
「よく分からないけれど、ここが城の中なのは分かったよ」
「緑、あたいあんたの術に興味あるから、後で教えて貰えないかな」
智和が言うと茜は少女へと視線を投げかけ話す。
「うん、いいよ~。それなら明日お茶会やりながらゆっくり話そう」
「あぁ」
笑顔で同意してくれた緑に頷く。
「某も共に」
「真茂様はお勉強があるでしょ」
瞳を輝かせて話す真茂へと佐吉が鋭く告げた。すると途端に肩を盛大に落としうじうじする。
「おれも一緒に」
「あ、智和には明日城主様に会って今までの経緯を話してもらわないといけないから、それが終わるまであたい緑と二人でお茶会したいんだ」
にこりと笑い智和が言いかけた時遮るように茜は話す。それにこちらも落ち込みうじうじし始めた。
「さ、真茂様行きますよ」
「智和、置いてっちゃうよ」
真茂を促す佐吉とおじを置いて行こうとする茜。二人は未だに落ち込んだまま城の中へと向かった。
翌日、緑の部屋でお茶会をしながら話をする。
「それで、昨日のあれって魔法……で間違いないんだよね?」
「うん、そうだよ~。緑ちゃんは緑の森の大妖精女王だから、魔法が使えるの」
お茶を一口飲み尋ねる茜へと彼女が笑顔で頷いた。
「この世界には魔法が存在するのか?」
「この世界で魔法を使えるのは緑ちゃんと弓くらいだよ。後の人は使えない。だから佐吉から鬼の能力だと思われているんだ。緑ちゃんが魔法を使えるのを知っているのは栄成君と真茂君。それから二人のお父さんくらいだよ」
確信を付いた質問をするとそれに「どうしてそんなことを聞くの?」とは言わずに、当たり前のように説明してくれる。
「栄成もそうだったけれど、あんたもあたいがこの世界の外から来たって事は知っているんだね」
「うん。元は普通のサラリーマンだったんだよね。焔ちゃんのお願いを聞いてこの世界に生まれ変わって来た。未来で起きる戦を止めるために」
茜の言葉に彼女は小さく頷き答えた。
「……あんたは精霊だから、関与は出来ないけれど干渉はできる。で、合っているか?」
「少し違うかなぁ~。緑ちゃんは戦えない。だから世界がどうなるのか見守るしかない。でも、茜ちゃんは違う。君の言動が世界を変える。それが出来ると知っていたから焔ちゃんも私達も君を選んだんだよ」
「あたいの言動が世界を変える? 未来で起きる戦を止められるって事?」
彼女の問いかけににこりと笑いお茶をすすり一息つくと緑が話す。それに怪訝そうに尋ねた。
「うん。君は止めるよ。どんなに悩んだとしてもね。だからね、茜ちゃん。どんな時でも私達は見守っていて、力を貸している。だから、悩んだ時は星に語りかけてみてね。そうしたら、世界はちゃんと答えてくれるよ」
「?」
彼女の言葉の意味が解らず茜は不思議そうに目を瞬く。
「茜ちゃんの事、何時でも見守っている。これだけは忘れないでね」
「うん」
緑の言葉に小さく頷き茶をすすると足音が二つ近付いてきた。
「緑殿、茜殿。某勉強が終わった故、お茶会に参加しに参った」
「城主に話をして用事が終わったから、おれも混ぜてよ」
にこやかな笑顔で真茂と智和が入って来る。
「ふふっ。緑ちゃんのお茶会へようこそ~」
「二人ともさすがに早すぎやしないか?」
笑顔で出迎える緑。勉強と話しを終えたという二人の行動の早さに茜は目を丸める。
「だって、茜と一緒にお茶会したいから。さっさと終わらせてきたんだ」
「某も茜殿と緑殿とお話がしたく、早々に終わらせてきたのだ」
智和が言うと真茂も話す。こうして四人でお茶会が始まった。
「はい、お代わりどうぞ」
「あ、有難う」
お茶を飲み終える度に注がれる新しいお茶に、茜は流石にお腹が一杯になって来て引きつった笑顔でそれを受け取る。
「このお饅頭美味しいね~」
「うむ。義国でも有名な銘菓で御座るからな。味は義国一だ」
智和の言葉にお菓子を頬張りながら真茂が答えた。
「もう、何時までお茶会やってるの! 見に来て良かった。真茂様は稽古の時間でしょ。緑ちゃん当主様がお呼びだよ」
「あら、残念。これからお茶会が楽しくなってくるところだったのに……茜ちゃん、智和君。また明日もお茶会やろうね」
「明日は当主様に顔合わせしておきたいから遠慮しておくよ」
佐吉が入ってくるなりそう告げる。それに心底残念そうに緑が言うと茜は助かったと思いながら答える。
「そう? それじゃあ明後日は一緒にお茶会しようね」
「ははっ。考えておくよ」
特に疑問に思われていないようで、にこりと笑い彼女が言うと茜は空笑いでごまかした。
翌日。茜の姿は城主の前にあった。
「お初に御目文字仕ります。私が太田茜に御座います」
「真茂や佐吉、それに智和殿から話は聞いている。我が村田家当主。信介(のぶすけ)だ」
深々と頭を垂れて挨拶する茜へと当主がそう言って微笑む。
「茜殿。この度は佐吉が迷惑をかけてすまなかったな」
「いえ、ですが。何故佐吉はあたいの事を狙っていたんですか?」
信介の言葉に彼女は尋ねる。
「佐吉の口から聞いた話では、神童と呼ばれる貴殿がいかような人物なのか見定めてから、我等の前に連れてくるつもりだったらしい。そして茜殿を使い京国との交渉をと考えたらしい。誠に勝手な判断だ。茜殿に申し訳ない」
「本当に村田家は関係が無かったんですね。それが分れば十分です」
当主の言葉に小さく息を吐き出し答えた。
「お詫びと言っては何だが、もし茜殿が困ったことがあった時は我等村田家が全力で力を貸すと約束する。むろん、このことは真茂始め城にいる者全員に通達しておく」
「有り難う御座います」
(それが本当なら、未来の戦で力になってくれるかも)
信介の言葉に茜はお礼を述べると同時に内心で声をあげた。
(義理堅そうな感じだし、約束を破る事はなさそうだから信頼してもいいだろう)
「この国にいる間はゆっくり過ごされよ」
「はい」
内心で呟いていると城主がそう言って微笑む。それに彼女は返事をして部屋を後にした。
「茜殿~!」
「ぐはっ」
廊下を歩いていると全力で突撃してきた真茂に抱きつかれ、悲鳴をあげてよろける。
「真茂、く、苦しい……」
「おぉ。すまぬ。貴殿は女子であったな」
全力で抱き締めてくる力に声をあげると、真茂が気付いて腕を緩める。
「はぁ~。死ぬかと思った」
「茜殿、父上との話は終わったのであろう。では、某と共に遊ぼうぞ」
溜息を零す茜へと彼が瞳を輝かせながら話す。
「あぁ、何して遊ぶ?」
「うむ。鬼ごっこなどどうで御座るか? それともかくれんぼ?」
(鬼ごっこにかくれんぼか。子どもの頃はよくやったな)
にこりと笑い尋ねると真茂が答える。それに懐かしさを覚えて茜は微笑む。
「うん。いいよ。真茂は鬼ごっことかくれんぼだったらどっちがいい?」
「ではかくれんぼをしよう」
彼女の言葉に真茂が笑顔で話した。
「いいね。かくれんぼ。おれも参加する」
「緑ちゃんもやるよ。勿論佐吉も」
「ちょっと、勝手に数に入れないで」
いつの間にか側に来ていた智和と緑が言うと、天井裏に隠れていた佐吉が現われ抗議する。
「人数が多い方が楽しいでしょ」
「と、言う事で最初の鬼を決めるぞ」
彼女の言葉に続けて智和も話す。こうしてじゃんけんをして最初は佐吉が鬼となった。
「佐吉って本当に凄いね」
「忍びを舐めてたの?」
あっさり皆見つかってしまい感心して茜は話す。それに彼がにやりと笑い尋ねるように言った。
「すぐに見つかってはつまらぬ。次は佐吉以外が鬼としよう」
「それじゃあ、佐吉以外でって事で、始めに見つかった茜が鬼ね」
「はいはい。数を数えるから皆隠れて」
真茂の言葉に同意するように智和が話す。それに茜は答えると目を閉ざし数を唱える。
それから振り返るとすでに三人の姿はなかった。
「さってと、何処に隠れたやら」
手を腰に当てて考えてみる。
「真茂と智和はすぐに見つけられると思うけれど、緑と佐吉は難しいよな」
子どもが隠れそうな場所は分る。それに共に暮らしていた智和の性格を考えるとどこに行ったかは分かった。問題なのは未知の存在である緑と忍びである佐吉である。
「何とかして緑は見つけられても、佐吉は難しいだろうな」
忍びである彼が気配も断って隠れてしまっていたら見つけられない気がする。
「兎に角探してみるか」
そう呟きまずは真茂と智和が隠れていそうな場所を探しに行った。
「茜、栄成からこれ貰っておいたんだ」
「すごろく?」
紙を広げて見せる智和の言葉に茜は目を瞬く。
「うん。泉国ではすごろくが当たり前の遊びなんだって。だから船旅の間これをやろう」
「確かに、何もやらないよりはいいかも」
彼の言葉に彼女は小さく頷く。
「そうだ、ただ遊ぶだけじゃつまらないから、負けた人は恥ずかしい話するっていうのは如何?」
「なんだよそれ」
すごろくを床に置きながら話す智和へと茜はつっこむ。
「賭博は駄目だっていうから……」
「可愛い妹からお金を取るつもりだったのか?」
彼の言葉に綺麗な笑顔で尋ねる。それに苦笑を零し智和が口を開いた。
「はははっ。まさか、茜からお金を貰おうなんて思っていないよ」
「分かったから。これ以上智和がお金の亡者にならないうちに始めようか」
ケラケラと笑うおじの様子に溜息を零し茜は駒を手に取る。
「はい、智和の負け」
「う~。また負けちゃった」
笑顔で話す彼女の言葉に智和が盛大に肩を落とす。
「さ、恥ずかしい話よろしく」
「茜がこんなに強いなんて思わなかったよ」
茜はにこりと笑い見詰めると、彼が溜息交じりに話す。
「だって、恥ずかしい話なんてしたくないからさ」
「もう、恥ずかしい話は全部語ったから。他のにしよう。そうだ、自慢話するとか」
「それじゃ趣旨が変わってくるだろうが」
彼女の言葉にこれ以上恥ずかしい話をしたくない智和が話題を変えようと提案する。それに茜は意味が変わって来ると伝えた。
「う~。もうやめようか」
「い~や。船旅の間ず~っとやろう」
彼の言葉ににこにこ笑いながら彼女が言う。
「茜の意地悪……」
「ははっ。特訓の時は絞られたからね。お返しさ」
智和の呟きを聞き拾った茜が盛大に笑い言う。
そうして本当に毎日すごろくをして過ごすと、義国の港町へと船が泊まる。
「いよいよ義国。茜、いつ襲われるか分からないから気を引き締めて向かうよ」
「あぁ」
緊張した面持ちの智和の横で茜も生唾を飲み込み頷く。
そうして城下町を目指し歩き続ける。
「……全然現れないなぁ」
「おれ達を油断させて、隙が出来たところで狙う気かもしれない」
拍子抜けといった感じで彼女は話す。それに彼がそう言って気を緩めるなと促した。
それからしばらく歩き続けて森の中へと入る。
「今日はここまでだな」
「あたい枝を拾ってくるよ」
夕暮れ時の空を見やり智和が言うと茜は周囲から適当に蒔きになりそうな枝を拾う。
夕食を済ませそろそろ寝ようかと思った時、微かに殺気を感じた。
「茜!」
「あぁ、右だろう」
智和の言葉に従い木立の奥へと技を放つ。
「ちっ。面倒な力付けさせちゃって……」
「あんたが義国の城に仕える忍びだってことは栄成から聞いて知ってるんだよ」
「どうして茜を狙うのか今日こそはいてもらうからね」
暗がりから姿を現した忍びが愚痴る。そんな相手へと向けて二人は武器を突き付け警戒した。
「あんた達が知る必要はない。捕まえておこうかと思ったけれど、どっかの誰かさんのお陰で力をつけたあんたは危険だ。ここで始末しておく」
「「……」」
忍びが暗愚を構えると緊張した空気が周囲を満たす。
「すっきあり~」
「佐吉~!!」
「っぅ!?」
突如少女と少年の声がしたかと思ったら、忍び目がけて二つの人影が突っ込む。
「え、ちょ。なんでここに真茂様と緑ちゃんがいるの?」
「緑ちゃんの緑のネットワークを通してお友達から教えて貰ったからだよ」
「緑殿から佐吉が最近、こそこそと何やらよからぬ動きをしていると、聞いて駆けつけたのだ」
驚く忍びへと飛び込んできた二人の人物が説明する。
「ふふっ。茜ちゃん、智和君。ごめんね~」
「佐吉が勝手に貴殿を狙っていたと聞いた。主として謝る」
にこりと笑い緑の髪の少女が言うと、少年も申し訳ないと言って謝った。
「えっと、どうしてあたい達の名前を知っているんだい? そして勝手に動いてって事は義国の城主の考えではないって事でいいのか?」
「し~君と弓から話は聞いているよ」
「うむ。父上からその様な命令を下したとは聞いていない。よって、佐吉が勝手に動いた事。故に主として謝るのだ」
呆気にとられていた茜だったが何とかそう尋ねる。それに少女がにこりと笑い答え、少年が深々と頭を下げた。
「さて、佐吉。どういう事なのかは後で聞くとして、とりあえず。このお二人にお詫びをしなくてはならない」
「は~。……はい」
少年の言葉に渋々といった感じで返事をすると忍びが暗愚を仕舞う。
「某は義国城主の息子。村田真茂で御座る。こっちは某に仕える忍びの佐吉だ」
「私は緑ちゃんだよ~。よろしく!」
自己紹介してくれる二人に茜も口を開く。
「あたいは太田茜。こっちは智和」
「もう一度確認するけどそこの忍びが勝手に動いていたって事は、本当に村田家は関与していないって事でいいのかな」
自己紹介してくれたのだから名乗らないわけにはいかず答えた彼女の横で、警戒を解かないまま智和が尋ねる。
「うむ。天に誓って村田家は関わりないと答えよう」
「ま~君は嘘つかないから、信じていいよ」
力強く頷き答える真茂に緑が笑ってそう言った。
「分かった。その言葉を信じて、今回の件は許そう」
「でも、こっちは何度も怖い目見たんだからね。それについては許してないよ」
智和が言うと茜は腕を組みそう言い放つ。
「むろん。お詫びはする。佐吉、お前もちゃんと謝らぬか」
「……申し訳ございませんでした」
真茂の言葉に棒読みで感情も込めずに佐吉が謝る。
(全然反省はしていなさそうだな)
「それで、貴殿達にお詫びがしたいので、某と共に城へ来て頂けぬか?」
内心で呟いていると少年がそう言ったので頷く。
「分かった。でも、今日はもう晩い。こんな暗い中で城下町に向かうのは危ないから、ここで野営しよう」
「それなら心配ないよ。緑ちゃんが連れていってあげるから」
「「?」」
茜の言葉に緑がにこりと笑い話す。それに二人は不思議そうに疑問符を浮かべる。
「それじゃあ、お城まで転移~」
「「!?」」
少女が言うと白い魔法陣が現われ全員が入るくらいまで広がった。次の瞬間には視界が歪み、気が付くと大木の前で佇んでいて驚く。
「はっ? え? この――」
(この世界魔法が存在するのか?)
「な、何が起きたの?」
驚く茜だったが、智和の言葉でこの世界に魔法が存在することは無いと知り、口走りそうになった言葉を紡ぐ前に口を閉ざす。
「ふふっ。緑ちゃんの魔法だよ~」
「魔法って、また変なこと言って。ただの鬼の能力の一つでしょ」
にこりと笑い緑が言うと佐吉が溜息交じりに話す。
「緑殿の魔法は凄いであろう」
「真茂様。緑ちゃんの言葉を真に受けない様にっていつも言っているでしょう」
自慢げに話す真茂へと忍びが再び溜息を零し告げる。
「よく分からないけれど、ここが城の中なのは分かったよ」
「緑、あたいあんたの術に興味あるから、後で教えて貰えないかな」
智和が言うと茜は少女へと視線を投げかけ話す。
「うん、いいよ~。それなら明日お茶会やりながらゆっくり話そう」
「あぁ」
笑顔で同意してくれた緑に頷く。
「某も共に」
「真茂様はお勉強があるでしょ」
瞳を輝かせて話す真茂へと佐吉が鋭く告げた。すると途端に肩を盛大に落としうじうじする。
「おれも一緒に」
「あ、智和には明日城主様に会って今までの経緯を話してもらわないといけないから、それが終わるまであたい緑と二人でお茶会したいんだ」
にこりと笑い智和が言いかけた時遮るように茜は話す。それにこちらも落ち込みうじうじし始めた。
「さ、真茂様行きますよ」
「智和、置いてっちゃうよ」
真茂を促す佐吉とおじを置いて行こうとする茜。二人は未だに落ち込んだまま城の中へと向かった。
翌日、緑の部屋でお茶会をしながら話をする。
「それで、昨日のあれって魔法……で間違いないんだよね?」
「うん、そうだよ~。緑ちゃんは緑の森の大妖精女王だから、魔法が使えるの」
お茶を一口飲み尋ねる茜へと彼女が笑顔で頷いた。
「この世界には魔法が存在するのか?」
「この世界で魔法を使えるのは緑ちゃんと弓くらいだよ。後の人は使えない。だから佐吉から鬼の能力だと思われているんだ。緑ちゃんが魔法を使えるのを知っているのは栄成君と真茂君。それから二人のお父さんくらいだよ」
確信を付いた質問をするとそれに「どうしてそんなことを聞くの?」とは言わずに、当たり前のように説明してくれる。
「栄成もそうだったけれど、あんたもあたいがこの世界の外から来たって事は知っているんだね」
「うん。元は普通のサラリーマンだったんだよね。焔ちゃんのお願いを聞いてこの世界に生まれ変わって来た。未来で起きる戦を止めるために」
茜の言葉に彼女は小さく頷き答えた。
「……あんたは精霊だから、関与は出来ないけれど干渉はできる。で、合っているか?」
「少し違うかなぁ~。緑ちゃんは戦えない。だから世界がどうなるのか見守るしかない。でも、茜ちゃんは違う。君の言動が世界を変える。それが出来ると知っていたから焔ちゃんも私達も君を選んだんだよ」
「あたいの言動が世界を変える? 未来で起きる戦を止められるって事?」
彼女の問いかけににこりと笑いお茶をすすり一息つくと緑が話す。それに怪訝そうに尋ねた。
「うん。君は止めるよ。どんなに悩んだとしてもね。だからね、茜ちゃん。どんな時でも私達は見守っていて、力を貸している。だから、悩んだ時は星に語りかけてみてね。そうしたら、世界はちゃんと答えてくれるよ」
「?」
彼女の言葉の意味が解らず茜は不思議そうに目を瞬く。
「茜ちゃんの事、何時でも見守っている。これだけは忘れないでね」
「うん」
緑の言葉に小さく頷き茶をすすると足音が二つ近付いてきた。
「緑殿、茜殿。某勉強が終わった故、お茶会に参加しに参った」
「城主に話をして用事が終わったから、おれも混ぜてよ」
にこやかな笑顔で真茂と智和が入って来る。
「ふふっ。緑ちゃんのお茶会へようこそ~」
「二人ともさすがに早すぎやしないか?」
笑顔で出迎える緑。勉強と話しを終えたという二人の行動の早さに茜は目を丸める。
「だって、茜と一緒にお茶会したいから。さっさと終わらせてきたんだ」
「某も茜殿と緑殿とお話がしたく、早々に終わらせてきたのだ」
智和が言うと真茂も話す。こうして四人でお茶会が始まった。
「はい、お代わりどうぞ」
「あ、有難う」
お茶を飲み終える度に注がれる新しいお茶に、茜は流石にお腹が一杯になって来て引きつった笑顔でそれを受け取る。
「このお饅頭美味しいね~」
「うむ。義国でも有名な銘菓で御座るからな。味は義国一だ」
智和の言葉にお菓子を頬張りながら真茂が答えた。
「もう、何時までお茶会やってるの! 見に来て良かった。真茂様は稽古の時間でしょ。緑ちゃん当主様がお呼びだよ」
「あら、残念。これからお茶会が楽しくなってくるところだったのに……茜ちゃん、智和君。また明日もお茶会やろうね」
「明日は当主様に顔合わせしておきたいから遠慮しておくよ」
佐吉が入ってくるなりそう告げる。それに心底残念そうに緑が言うと茜は助かったと思いながら答える。
「そう? それじゃあ明後日は一緒にお茶会しようね」
「ははっ。考えておくよ」
特に疑問に思われていないようで、にこりと笑い彼女が言うと茜は空笑いでごまかした。
翌日。茜の姿は城主の前にあった。
「お初に御目文字仕ります。私が太田茜に御座います」
「真茂や佐吉、それに智和殿から話は聞いている。我が村田家当主。信介(のぶすけ)だ」
深々と頭を垂れて挨拶する茜へと当主がそう言って微笑む。
「茜殿。この度は佐吉が迷惑をかけてすまなかったな」
「いえ、ですが。何故佐吉はあたいの事を狙っていたんですか?」
信介の言葉に彼女は尋ねる。
「佐吉の口から聞いた話では、神童と呼ばれる貴殿がいかような人物なのか見定めてから、我等の前に連れてくるつもりだったらしい。そして茜殿を使い京国との交渉をと考えたらしい。誠に勝手な判断だ。茜殿に申し訳ない」
「本当に村田家は関係が無かったんですね。それが分れば十分です」
当主の言葉に小さく息を吐き出し答えた。
「お詫びと言っては何だが、もし茜殿が困ったことがあった時は我等村田家が全力で力を貸すと約束する。むろん、このことは真茂始め城にいる者全員に通達しておく」
「有り難う御座います」
(それが本当なら、未来の戦で力になってくれるかも)
信介の言葉に茜はお礼を述べると同時に内心で声をあげた。
(義理堅そうな感じだし、約束を破る事はなさそうだから信頼してもいいだろう)
「この国にいる間はゆっくり過ごされよ」
「はい」
内心で呟いていると城主がそう言って微笑む。それに彼女は返事をして部屋を後にした。
「茜殿~!」
「ぐはっ」
廊下を歩いていると全力で突撃してきた真茂に抱きつかれ、悲鳴をあげてよろける。
「真茂、く、苦しい……」
「おぉ。すまぬ。貴殿は女子であったな」
全力で抱き締めてくる力に声をあげると、真茂が気付いて腕を緩める。
「はぁ~。死ぬかと思った」
「茜殿、父上との話は終わったのであろう。では、某と共に遊ぼうぞ」
溜息を零す茜へと彼が瞳を輝かせながら話す。
「あぁ、何して遊ぶ?」
「うむ。鬼ごっこなどどうで御座るか? それともかくれんぼ?」
(鬼ごっこにかくれんぼか。子どもの頃はよくやったな)
にこりと笑い尋ねると真茂が答える。それに懐かしさを覚えて茜は微笑む。
「うん。いいよ。真茂は鬼ごっことかくれんぼだったらどっちがいい?」
「ではかくれんぼをしよう」
彼女の言葉に真茂が笑顔で話した。
「いいね。かくれんぼ。おれも参加する」
「緑ちゃんもやるよ。勿論佐吉も」
「ちょっと、勝手に数に入れないで」
いつの間にか側に来ていた智和と緑が言うと、天井裏に隠れていた佐吉が現われ抗議する。
「人数が多い方が楽しいでしょ」
「と、言う事で最初の鬼を決めるぞ」
彼女の言葉に続けて智和も話す。こうしてじゃんけんをして最初は佐吉が鬼となった。
「佐吉って本当に凄いね」
「忍びを舐めてたの?」
あっさり皆見つかってしまい感心して茜は話す。それに彼がにやりと笑い尋ねるように言った。
「すぐに見つかってはつまらぬ。次は佐吉以外が鬼としよう」
「それじゃあ、佐吉以外でって事で、始めに見つかった茜が鬼ね」
「はいはい。数を数えるから皆隠れて」
真茂の言葉に同意するように智和が話す。それに茜は答えると目を閉ざし数を唱える。
それから振り返るとすでに三人の姿はなかった。
「さってと、何処に隠れたやら」
手を腰に当てて考えてみる。
「真茂と智和はすぐに見つけられると思うけれど、緑と佐吉は難しいよな」
子どもが隠れそうな場所は分る。それに共に暮らしていた智和の性格を考えるとどこに行ったかは分かった。問題なのは未知の存在である緑と忍びである佐吉である。
「何とかして緑は見つけられても、佐吉は難しいだろうな」
忍びである彼が気配も断って隠れてしまっていたら見つけられない気がする。
「兎に角探してみるか」
そう呟きまずは真茂と智和が隠れていそうな場所を探しに行った。
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