ライゼン通りのお針子さん～新米店長奮闘記～ 番外編

ライゼン通りのお針子さん３ ～誉れ高き職人達～番外編

番外編 帰ってきた冒険者

　平和な王国コーディル。ライゼン通りには職人達の店が連なっていて、その一角にある武器屋兼冒険者の宿。屈強な親父が店主のそのお店には町中の冒険者が依頼を求めてやって来る。

「マルセン。今日もご苦労だったな」

「親さん、また何かあったら頼むな」

報酬を受け取りながらマルセンが頼む。

「ああ。それより最近ここに来た女冒険者キリの事だが、もしよかったら仲良くしてやってもらいたい。まだ来たばかりで知り合いもいなくて困っているみたいだからな。それに変な男連中に目を付けられないか心配でよ」

「キリさんと、と、友達に！？　……分かった。俺でよければ協力する」

親父から頼まれた言葉に勢い良く反応すると大きく頷く。

「な～に赤くなってんだ。まさか、ついにお前にも春が来たってか？」

「な、親さん。変なこと言うなよ。俺は別に……」

にやりと笑い言われた言葉にマルセンは慌てて返事をする。

「はははっ。なに、隠すこたねえ。だが、浮かれていられるのも今のうちだけだぜ」

「？」

親父の言葉に不思議そうに彼を見詰めた。

「噂だが、もうそろそろあの人が帰って来るらしい。あの伝説の冒険者がな」

「なっ！？　あの人が？　……だが、ずっと別の国に行くって言ったきり音沙汰無しだったのに一体今になってどうして」

声のトーンを落として話す彼の言葉にマルセンが驚く。

「理由は分からねえ。だが、あの人が帰って来るってことはこの国に何かが起こる前触れだろう。これから何が起こるか分からねえから気をひきしめておけよ」

「……」

親父の言葉に神妙な顔で黙り込む。

そのころ王国の入り口に立つ一人の人物。

「……また、この地に来ることになるとはね」

そう呟く少年のようにも見える少女は平和そのものの国をしばし眺める。

「行こう。運命が廻り合わせる場所……ライゼン通りへ」

背中に背負った大きな大剣を担ぎ直し、そう呟くと王国の玄関である噴水広場の石畳を歩いて行った。