ライゼン通りの雑貨屋さん ~雑貨屋の娘とお客様~

水竜寺葵

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ライゼン通りの雑貨屋さん2 ~雑貨屋の娘と街の人達~

六章 ベティーとレイヴィン

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 何時もと変わらないライゼン通り。そこにベティーとレイヴィンの姿があった。

「まぁ、私に任せてくれれば大丈夫よ」

「雑貨屋で手に入れば一番良かったのですがね」

意気込む彼女へと彼が淡泊に答える。

「さ、行きましょう」

「あれはレイヴィンさんとベティー。もしかしてあの二人!」

ベティーがそう言うと促す。その様子を遠くから見ていたアミーはある事に気づいて慌ててパン屋の中へと向かって行った。

「ここ朝日ヶ丘テラスにはバーにカフェに色々とあるの。だからここで話を聞いてみましょう」

「お任せします」

二人並んで歩いていると不意に立ち止まり彼女は話す。それにレイヴィンが答えた。

「ね」

「まさかとは思っていたけれど本当に……」

それを物陰から見ながらアミーが声をかける。ミラは愕然とした表情で呟いた。

「……貴女達こそこそと何をしているの?」

「「きぁあ!?」」

不意に誰かに声をかけられ二人は驚く。

「は~。びっくりした。ローズ様か」

「それで、何をしているの?」

「あれ見て!」

心臓に手を当てて安堵の吐息を吐き出すミラへと王女が再度問いかける。それにアミーが視線だけで前を指し示す。

「あれはレイヴィンとベティー」

「若い男と女が真昼間から二人でいるだなんて、これは絶対デートだと思うんだよね」

「私もまさかとは思っていたけれど、あんなに男の人と仲良くするベティーなんて見た事ないから間違いないわ」

視線の先を見て納得したローズへと二人が語る。

「ローズ様も一緒に二人の後を尾行して恋の行方、見守ろうよ」

「違うと思うけれど……貴女達二人だけだと何かやらかしそうだし。いいわ、付き合ってあげる」

アミーの言葉に王女が頷くと再び物陰からベティー達の様子を見守る。

「まずはバーに行きましょう」

「はい」

二人はバーの前に立つとそのお店の中へと入っていく。

「バーに入っていったね。う~ん。ヴェンさんに悟られる可能性があるし中までは入れないな」

「でもバーは夜からでしょ。どうしてお昼に?」

アミーの言葉にミラが怪訝そうに尋ねる。

「バーの中には小さいけれど舞台があってね、日中は演奏家や劇団とかに貸し出しているんだ。今はちょうどオペラ歌手の公演がやっていたはず。きっと二人はそれを観に来たんだよ」

「兎に角二人が出て来るまでここで待ちましょう」

「……」

二人の話をローズは聞きながら困った顔をして見詰めた。

「……さすがに中までは入ってこないのですね」

「え、レイヴィンさん何か言いましたか?」

「いえ、何でもありません」

バーの中へと入っていったレイヴィンが気配を読みながら呟く。その様子にベティーが不思議がったので淡泊に答えた。

「おや、ベティーさんにレイヴィンさん。お二人が一緒にご来店とは、その様な仲だったとは知りませんでした」

「ち、違うわよ。私はレイヴィンさんの探し物に付き合っているだけで」

二人に気付いたヴィンの言葉に彼女は慌てて答える。

「分かっていますよ。隊長は誰か女の人を連れ込むような性格ではありませんからね。それで、本日は如何されましたか?」

「ヴァンさんは世界中から良質な道具を取り寄せているって聞いて。それでもしかしたら持っているんじゃないかと思ってね」

「成る程、どのようなものをお探しでしょうか」

ヴァンの言葉にベティーは説明する。それから暫く二人は話を聞いて過ごす。

一方その頃外で二人が出て来るのを待っているミラ達はというと……

「なかなか出てこないね」

「そうね。あ、出て来た」

アミーの言葉にミラが返事をしているとベティー達が出て来る。

「う~ん。残念だったね」

「元より難しい事は分っておりましたよ」

「でも諦めないで。ヴェンさんから良い情報貰えたし」

二人はお店の外に出て来ると話し合う。

「次はカフェに向かったね。ルッツのお店なら広いし、見つからないようにこっそり中に入って話を聞こう」

「ふふっ。何だか楽しくなって来たわ」

アミーが言うとローズも笑顔で呟く。

「カタドリア王国の物か……」

「えぇ、そうよ。ルッツは世界中から道具を取り揃えてるって聞いてね」

腕を組み考えるシュトルクへとベティーは話す。

「う~ん。そういう類のものは持っていないと思う」

「でも、よく思い出してみて」

唸る彼へと彼女はお願いした。

「何を話してるのかしら?」

「う~ん。ここからじゃよく話が聞こえないね。かといって近づきすぎるとレイヴィンさんに感づかれそうだし」

「ふふっ。何だかわたし潜入捜査しているみたいだわ」

こっそりとレジカウンターの背後に隠れながら呟くミラに、アミーも聞き耳を立てながら話す。ローズが嬉しそうに微笑んだ。

「ん?」

「「「!?」」」

その時シュトルクの視線がミラ達の方へと向かう。彼女達は慌てて身体を隠して息を潜めた。

「如何したの?」

「いや、今そこにミラがいたような気が……悪い。気のせいだ」

怪訝そうにするベティーへと彼が答え小さく笑った。

「は~。見つかるかと思った」

「ルッツのミラセンサーは侮れないね」

「あら、二人が移動するみたいよ」

心臓に手を当てて溜息を零すミラに、アミーもさすがだといった感じで話す。ベティー達が移動する様子にローズが呟いた。

「ルッツが武器屋さんならあるかもって言っていたからそこに行ってみましょう」

「えぇ、そうですね」

「今度は武器屋だね」

「でも武器屋さんに何の用事が?」

「レイヴィンさんの剣を打ち直しに行ってもらってるのかも。アルフレートさんに気づかれないようにこっそり潜入するよ」

ミラとアミーは話し合うと中へと向かう。その後をローズもついて行った。

「カタドリア王国のナイフ……ですか」

「えぇ、武器屋さんなら置いてあるんじゃないかと思って」

アルフレートの言葉にベティーは頷く。

「少し待っていて貰えますか。倉庫を探してきます」

「お願いします」

彼が言うと奥へと消えていく。ベティーはちらりと隣にいるレイヴィンへと視線を送った。

「ここにもないとなると、この国では入手するのが困難かもしれないわ」

「元より無理な事は分っていましたのでね。そうなったら他を探してみますよ」

「お待たせいたしました。こちらで間違いないでしょうか」

二人で話しているとアルフレートがそう言って一つの小さな箱を持ってくる。

「中を確認しても」

「勿論です」

レイヴィンの言葉に彼が頷くのを確認してからのぞき込む。

「これで間違いないです」

「良かった」

隊長の言葉にベティーは嬉しそうに微笑む。

「何だかベティー嬉しそうね」

「ここからじゃ良く声が聞こえないけど、何かを受け取ったみたいだったね」

「あら、二人が外に出るわよ」

ミラの言葉に続けてアミーも話す。外へと出て行く二人の様子にローズが言った。

「今日は有り難う御座います。おかげで手に入れる事が出来ました」

「いいのよ。レイヴィンさんだけだと大変だろうと思って、それに困っている人を助けるのも私の勝手なおせっかいだから」

御礼を述べるレイヴィンへとベティーは小さく首を振って答える。

「さて、それでは……そこに隠れているのは分っています。十数える間に出てこないと痛い目見ますよ。……十、九、八、七、六、五、四、三、二、一」

「「「きゃあっ!」」」

視線を物陰へと向けたレイヴィンが言うと「一」と共に剣を抜き放ち風圧を送る。それでタルごと吹き飛ばされてしまった三人は地面に寝転ぶ。

「う~ん。いったい」

「もう、レイヴィン。相手は女の子なんだから、怪我したらどうするのよ!」

「貴女達だから手加減してあげたのです」

ミラが呟く横で尻餅をついてしまったローズが怒鳴る。それに隊長が淡泊に答えた。

「ミラ、アミーさんにローズ様まで、一体何やっているのよ?」

「わ、私はアミーさんがベティーとレイヴィンさんがデートしているって聞いて」

「わたしは二人だけじゃ何か問題を起こすと思ってついてきたの」

「それで、二人は恋人同士なの?」

ベティーの言葉に三人がそれぞれ答える。

「へ? ち、違うわよ! 私はレイヴィンさんの探し物に付き合ってあげていただけで」

「ローズ様が欲しいと仰られていたカタドリア王国のナイフを一緒に探してもらっていたんですよ」

驚く彼女の隣でレイヴィンも説明した。

「あぁ、やっぱりそうだったの」

「何だ、二人はいい仲じゃないのか。つまらないの」

「もう、アミーさんが変なこと言うからよ」

ローズがあっけらかんとした態度で頷く横で、唇を尖らせ呟くアミー。そんな彼女へとミラが抗議するように話す。

「変な噂にならないように三人には協力してもらうからね!」

「うん、分かった」

「仕方ないわね」

「ふふっ。今日はとっても楽しかったし、良いわ。協力してあげる」

鋭い目で睨むベティーの言葉に三人はそれぞれ答える。

「では、俺は帰ります。仕事がありますので」

レイヴィンが言うとさっさと歩き去ってしまう。

「もう、デートだなんてどうしてそんな勘違いになるのよ」

「だ、だって。アミーさんが」

「だってベティーとレイヴィンさん仲良く並んで歩いているから」

「わたしは違うと思っていたわよ」

怒るベティーの機嫌を何とかなだめようとミラとアミーが弁解する。ローズは相変わらずの態度で答える。

こうして三人の協力の下、ベティーとレイヴィンの噂が流れる事は無く終わった。
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