悪女と聖女の国直し~とある王国の滅亡物語~

水竜寺葵

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六章 裁きの時

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 静かな部屋の中でグエルとシャナは微笑み合っていた。

「もうすぐ、エルクシア王国との同盟が組まれる。そうすればこの国は安泰だ」

「えぇ。これでグエル様の悩みも解決したも同然ですわ」

国王の言葉に王妃が小さく頷きそっと彼へと寄り添う。

「失礼いたします。エルクシア王国の国王ユリウス様とその弟君のエディ様がご到着なされました」

「そうか、すぐに通せ」

「畏まりました!」

召使いの言葉にグエルが言うと彼がそれに返事をしてユリウス達を通す。

「よく来てくれたな。俺が――っ!?」

部屋へと入ってきた双子へと国王が声をかけようとしたが、二人の人物の姿を見た途端言葉を途中で止めて目を見開く。

「ご無沙汰でしてね、殿下」

「シャナさんも王妃になられたとか、おめでとうございます」

部屋へと入ってきた双子の隣には何故か国外追放したユリシアとリィーナの姿があったのだ。

「なぜお前達がここに居るんだ!」

「あら、わたくし達がここに居てはおかしくて?」

目を吊り上げ怒鳴りつけるグエルへと、冷ややかな微笑を浮かべてユリシアはとぼける。

「二人がいてもさして不思議なことは無いだろう。ユリシアは僕の妻。つまり王妃だ」

「そして、リィーナは僕の妻であり我が国の聖女だ」

「二人は王妃なのだから僕達と同等の位だ。そんな彼女達がこの場にいて何かおかしなことでもあるのかな」

双子の言葉にグエルが唇をかみしめる。

「再び俺の前に現れるとは、この疫病神め! やっぱり同盟の話はなしだ。この件は白紙に戻す。ユリシアとリィーナみたいな女を王妃に迎える国なんて信頼ならないからな。戦争を仕掛ける! こいつらを捕らえろ!」

怒りで目をひん剥いたまま国王が命令を下す。だが、聖騎士団も兵士達も誰一人として動かない。

「どうした、国王の命令が聞こえなかったのか? こいつらを捕らえろ!」

グエルが怒鳴り散らすがそれでもやはり誰も動かない。

「ちょっと、貴方達。グエル様が命令を下しているのよ。何故動かないの!」

「……陛下、王妃様。あなた方の行いをよしとする者など、誰一人として居りませんでした」

シャナの言葉にここで聖騎士団隊長が静かに告げる。

「グエル無駄です。兵士達は動きませんわ。何故ならわたくし達の味方ですもの」

その様子にユリシアは謀りが上手くいったとほくそ笑み話すと、過去を振り返った。

それは数週間前。エルクシア王国を出たユリシアとリィーナはザイバール王国の固く閉ざされた門の外に立っていた。

「おぉ、聖女様。変わらずお元気そうで安心いたしました」

「あ、神父様。お久しぶりです」

門の前に立つ神父が丁重に挨拶を交わす姿に、リィーナが笑顔で答える。

「それで、国に入れるように手配して頂けたのかしら」

「はい。この辺りは疫病が蔓延しており、兵士達も怖がって誰一人近付かない場所です。ここからなら国の中へと簡単に入る事が出来ましょう」

ユリシアの言葉に神父が言うと彼の案内で国の中へと入る。

そうして最初に向かったのは聖騎士団隊長のいる騎士団本部だった。

「聖騎士団隊長ご無沙汰いたしておりますわね」

「その声は……ユリシア様。この国に戻られるなど、御命がありませんよ」

腕を組み佇むユリシアの姿に聖騎士団隊長が驚いたが、すぐに捕えようと動く。

「お待ちなさい。わたくしは貴方の妹殿をお助けする方法を教えに来たのですわ」

「何?」

彼女の言葉に訝し気に彼が首をひねる。

「神父様から聞いたんです。貴方の妹さんも疫病にかかって苦しんでいるって。それで、私達それを治すお薬を持ってきたのです」

「これがそのお薬よ。わたくし達の話を信じるか信じないかは貴方にお任せしますわ」

ユリシアの後ろからひょこりと顔を覗かせたリィーナが言うと、王妃も薬の瓶を取り出し見せる。

「……」

罠かもしれない。しかし妹を助ける方法があるのならばと、藁にも縋る思いで聖騎士団隊長は決断を迫られ口を開く。

「もし、その薬が偽物だった時、あなた方の身柄は確保させてい頂くことになります。それでもよろしいですね」

「構いませんわ。わたくし達偽物なんて持ってきていませんもの」

彼の言葉にユリシアは堂々とした態度で答える。こうして薬をもって聖騎士団隊長と共に、辺境の村に隔離されている病人達の下へと向かった。

「さ、この薬を飲んでください」

「ワクチンを投与致します。これでもう安心ですわ」

彼の妹を始め疫病に苦しむ人々へと二人は特効薬やワクチンを投薬する。すると人々の顔色はみるみる明るくなり、まるで苦しんでいたことが嘘かの様に立ち上がり喜び合う。

「まさか……その薬は」

「はい、そうです。エルクシア王国で開発された薬。実はそれって私達が作ったんですよね」

「これで妹殿はもう大丈夫でしてよ。わたくし達の事少しは信じて頂けまして?」

驚く聖騎士団隊長の言葉に二人は話す。

「それで、私になにをしろと?」

「わたくし達が動きやすいように協力してくださいますかしら?」

「私達はこの国の人達を救いたいんです。ですから、如何かお力をお貸しください」

妹を助けてもらったのには何か条件があるはず。そう思い尋ねる彼へとユリシア達は語る。

こうして隊長を取り込んだ二人は、騎士団本部へと戻り、そこで騎士団の中でも疫病にかかってしまった兵士達を助ける。

彼等は感激し、生きている事への喜びに笑顔になった。そうして命を救われた人々や騎士団の人達の助けもあり、国中に蔓延している疫病を治していく。

一方その頃王宮の一室で、女性が目の前に立つシャナへと縋るように彼女の腕へと手を伸ばす。

「お願いです。シャナ様。息子をお助け下さい」

「汚い手でわたしに触らないで! 疫病がうつりでもしたらたまったものではないわ」

縋りつく女性をはたき飛ばし、王妃は冷たい目で女を見やる。

「そんな、シャナ様。わたくしのお陰で王妃になれたというのに。あんまりではありませんか!」

「田舎の貧乏貴族の娘が、誰のおかげで今の地位につけたと思っているの。この汚らわしい女」

「きゃあっ」

食らいつく女へとシャナが言って張り倒す。

「今の地位で満足していれば良かったのに。貴女の顔なんてもう見たくもないわ。グエルやわたしに病厄をまき散らさないでちょうだい。さっさとこの女を連れ出して」

「……行きましょう」

「そんな、シャナ様。お慈悲を……シャナ様!」

冷たく見下し立ち去るシャナ。そんな王妃を兵士が一睨みすると、女性を立たせ連れ出す。

「どうして、連れ出すのよ。シャナ様に頼まなくては、あの子は、あの子は……」

「姉さん、落ち着いて、大丈夫。あの子を治す薬はある」

取り乱す女性へと兵士がそう言って落ち着かせる。

「会わせたい方がいます。ついてきてください」

彼に連れられ女性が向かった先にはユリシアがいた。

「っ、ユ。ユリシア様!?」

「あの時はどうも。貴女がお騒ぎになられたお陰様で、わたくしは見事にシャナの罠に嵌められてしまいましたわ」

女性の前に立つユリシアの姿に彼女の顔は蒼くなる。そんな様子などどこ吹く風といった感じで涼し気な表情をして王妃が話した。

「お許しを! シャナ様に地位をあげてやると言われて仕方なく協力しただけで……」

そうこの女性、シャナのお披露目パーティーの席で、彼女が自ら用意した毒入りのワインを飲んで倒れたところに悲鳴をあげてユリシア達へと注目を注いだ女であった。

「そのような些細な事気にしておりませんわ。わたくしが今日貴女に会いに来たのは病に苦しむお子さまを助けるためですの」

「そ、そのような事本気で仰っておられるのですか? わたくしへの仕返しを考えているのではなくて?」

小さく首を振って答えるユリシアへと女性がたじろぎながら話す。

「これがそのお薬よ。これを飲めばすぐにお元気になりますわ」

「っ、それをわたくしに!」

「あら、駄目ですわ。ただであげる事は出来なくてよ」

小瓶を奪い取ろうとする女へと王妃は一歩下がりかわすと冷ややかな微笑みを浮かべて告げる。

「な、何をしたらそれを頂けるのですか」

「貴女の権限が及ぶ範囲の者達にわたくしの協力をする事をお告げなさい。そうすればその者達のご家族やご友人で疫病に苦しむ人たちも救って差し上げましてよ」

どんな要求をしてくるのだろうと冷や汗を流す女性へと、ユリシアはそう言って薬の瓶をもてあそぶ。

「わ、分りました。ですからその薬をわたくしに」

「えぇ、差し上げますわ。さ、どうぞ」

こうして侯爵家令嬢の権力が及ぶ範囲の人々の力もユリシアの手の内に入る事となった。

その頃、グエルとシャナの前では一人の男が膝をつき首を垂れていて、その様子を二人が冷ややかな目で見詰める。

「一体、何時になればこの状況が解決するんだ!」

「も、申し訳ございません。疫病は既に手の付けられないほどの状況となっており、もはや我々ではどうすることも出来ません」

怒鳴りつける国王にびくびくしながら男が答える。

「この役立たずの医者め。お前のような無能なやぶ医者なんて必要ない。お前はクビだ」

「そ、そんな。シャナ様。どうか貴女様からもグエル様にお願いを」

「なぜ、わたしがそんなことしなくちゃいけないの? 無能な医者はいらないとグエル様が仰っているのです。大人しく出て行けばいいじゃありませんの」

慌てる男へとシャナが冷たい眼差しで見下し語った。

「し、しかし。シャナ様。今の貴女様があるのはこの私のお陰で――」

「ちょっと。勘違いしないでくださいな。やぶ医者の分際で、わたしのお陰で主治医という地位につけたというのに、もう貴方は必要ないの。グエル様の前からさっさと消えなさい」

医者の言葉に彼女が遮るように言うと、汚らわしいものを見るような目を向ける。

「どうした、さっさとこのやぶ医者を連れ出せ!」

「……はっ」

グエルの言葉に聖騎士団隊長が不満げな顔で見た後、渋々返事をして男を連れ出す。

そうして連れ出された男の下へとリィーナが現れる。

「お困りのようですね?」

「っ、貴女はリィーナ様」

にこやかな微笑を湛えるリィーナの姿に男が慌てる。

「シャナさんに協力してユリシアさんを罠に嵌めるお手伝いをした悪いお医者様は貴方ですね。そんな悪いお医者様は神の裁きを受けなくてはいけませんよね」

「あ、あれは。シャナ様に協力すれば地位と権力を与えてやると誘いをかけられて、仕方なくしたがっただけで……」

笑顔なのに怖い顔で語る聖女へと医者が弁解するように話す。

そうこの男。シャナのお披露目パーティーの席で、偶然その場に居合わせたように見せかけて彼女に解毒薬を飲ませた医者だった。

「でも、悪い事をしたのは変わらないですよね?」

「ど、如何かお慈悲を!」

縋るように祈る男の姿に彼女は聖女らしい柔らかく暖かな微笑みを浮かべて口を開く。

「では、こうしましょう。私達に協力して下さい。そうしたら貴方の罪も神はお許しになるでしょう」

「わ、私にできる事なら何なりと」

リィーナの言葉に医者が力強く頷き答える。こうして彼の権限が及ぶ範囲の人々の協力も得られたのであった。

「さぁ、皆の者。問いますわ。この国を救ったのは一体誰かしら?」

『それは、王妃ユリシア様と聖女リィーナ様です』

過去の事を思い返していた思考を今へと戻したユリシアが髪を払いながら問いかける。

それに兵士達が声を揃えてそう言った。

「では、捕らえられるべきは誰の方かしら?」

「それは、無能な暴君王グエルと、偽物の聖女であり、悪女である王妃シャナです」

聖騎士団隊長の言葉にグエルとシャナは驚く。

「貴様ら、この国の王と王妃を捕らえる気か!?」

「もう誰も貴方達の言葉に耳を傾ける者はおりません。今すぐ暴君王とその妻を捕らえよ!」

「はっ!」

聖騎士団隊長の言葉に兵士達が動き二人を束縛する。そうしてグエル達は牢屋へと放り込まれた。

魔法が使えないように、シャナが呪印を焼き入れられている間、ユリシアはグエルがいる地下牢へと向かう。

「ユリシア様、このような所に来てはなりません」

「すこしグエルと話をするだけよ。誰も近づけないようにして頂戴」

「はっ」

牢屋番の兵士の言葉に王妃は言うと人払いさせる。

「何しに来た……」

ユリシアの姿に一瞬驚いたがすぐに睨みつけて吐き捨てるグエルへと、彼女はほくそ笑む。

「良い様ですわね、殿下」

「用がないなら俺の前から消えろ」

嘲笑う王妃へと彼が唇をかみしめ屈辱に耐えながら怒鳴る。

それを黙らせるように力強く檻へと足をかけるユリシア。

ドレスの裾から伸びる細くて白い足に履いている赤いハイヒールが光る。

「貴方と結婚しなくて本当に良かったわ」

「……」

そう言って彼を見やるとそこには自分を睨み付ける元婚約者だった男の顔があった。

そこでユリシアはふと考える。

(もしかして、グエルは、シャナを愛したのではなく、わたくしに嫉妬させるために、あるいは婚約破棄の理由がほしくて彼女を選んだのではないのかしら?)

そう考えた彼女はふっと表情を緩めて口を開く。

「ねぇ、聞かせてくださる……グエル殿下。貴方は本当にシャナを愛したの?」

「……当たり前だろう」

伏目になり問いかけるユリシアへと、グエルが数秒考えるように黙っていたが、小さな声で答える。

「そう……」

少しだけ寂し気な呟きを零すと踵を返し歩き出す。

「あぁ、そうでした。貴方達の刑が決まりましたわ。辺境の地に流刑ですって。まぁ、精々愛するシャナ嬢と一緒にお幸せにお暮らしなさいな」

「っ、シャナは何処にいるんだ……!?」

立ち止まり背中を向けたままユリシアは話す。その言葉にグエルが問いかけた。

「ご安心なさい、もうすぐお会いできますわ。まぁ、今頃は……呪印を焼き付けられてそのお痛みで泣き叫んでいらっしゃるでしょうけれどね。貴方のお好きな可愛らしい声で」

「っぅ。このっ……悪女めぇええ!!」

楽しげに笑いながら王妃は話す。その言動にグエルが憎らしげな瞳をユリシアへと向けて叫んだ。

(えぇ、そうよ。だってわたくしは『悪女、ユリシア・シャルティー・ヴェイゼル。』だもの)

そう心の中で呟き優雅な立ち振る舞いで堂々と胸を張り地下牢を後にする。

それから静かになった閲覧の間の中でユリウス達が話し合っている所へとユリシアは戻って来た。

「グエルとシャナを流刑にすると言っていたが、それだけでは手ぬるいのでは?」

「そうだよ。君達が受けた苦しみに値しない」

双子の言葉にユリシアとリィーナは顔を見合わせ小さく頷く。

「いいえ、死は一瞬の苦しみで終わってしまいます」

「苦境のなか生かし続けられる方が、死ぬより辛い、永遠の苦しみですわ」

「「それこそが、二人が国民に与えた苦しみに値する(します)の」」

二人の言葉にユリウスとエディが納得して微笑む。

こうして一つの国の滅亡と新たな国王達による統治が始まりを迎えたのであった。
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