Le Lien Days~とあるアパートメントの恋愛事情~

なごみ和來

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第2部206号室×203号室 子持ちのシングルファーザー×恋に一直線なダンスインストラクター編

206×203 9-1

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 ◇

 
 久しぶりにこんなに熟睡した気がする。微かに浮かび上がる意識と共に寝返りを打った茉白は薄い夏用毛布を手繰り寄せた。

(これ気持ちいい……)

 ふわふわで肌触りがよくて、涼しい室内の中で冷える身体を守ってくれる毛布に包まったまま指先で枕元にあるはずのスマホを手繰り寄せる。今何時だろう? だけどどれだけ探してもない。

「んー……」

 あれ? と見つからないスマホを探す為に瞼を押し上げる。やっぱりない、と目の前の景色を確かめた時、茉白はようやくここがどこか気付いた。

「そうだおれ……っ!」

 がばっと上半身を起こし、きょろきょろと周りを見渡す。どこからどう見ても、ここは自分の部屋じゃない。
 
「昨日新さんと……!」

 口に出すと顔が熱くなるのがわかる。一気に昨夜の気記憶を思い出すと心臓の鼓動が早くなって、ニヤケるのを抑えられない茉白は頭からすっぽりと毛布を被って叫びたい気持ちをなんとか我慢した。

「……気持ちよかった……」

 昨日新が体調を崩して、様子を見に来たあと寝てしまった。起きた後、新と話して抑えきれなくて自分からキスをした。その後――新に抱かれて、一晩このベッドの上で肌を重ねながら過ごした。
 一度では足りなくて、何度も何度もお互いを求めた行為は甘くて、激しくて、窒息してしまいそうなほどだった。好きな人に求められることの幸せを改めて知った夜は茉白に溺れ、新の腕の中はそれだけ安心出来た。
 新を好きになって以来、何度も頭の中で新に抱かれるのを想像した。だけど現実は想像よりもずっと甘かった。

「新さんもう起きてる……よね」

 余韻に浸りたいが、ベッドに1人ということは新は起きているのだろう。そうなるとすぐにでも会いたくなるのが恋する気持ちで、ようやくベッドから降りた茉白は、ベッドの下に落ちていた自らの部屋着を拾い上げてさっと着る。
 そうして寝室を出た茉白はリビングに向かった。

「新さん……?」

 ゆっくりとリビングに続くドアを開けるとすぐにその姿を見つけることが出来た。

「起きた?」
「はい、おはようございます」
「おはよ」

 ソファに座ってテレビを眺めていた新の姿にまた心臓が高鳴る。同時に少し安心したのはあんな夜を過ごしておいて、また冷たい態度をとられたらどうしようと小さな不安があったが、その心配は無さそうだ。

「新さん体調どうですか?」
「平気」

 自然な形でソファに近づき、新にくっつくように隣に座る。その言葉通り、顔色を伺うと昨日よりもよく見える。よかったと再び安堵の息を零すと今度は新からの質問が続いた。

「身体しんどくない?」
「大丈夫です!」

 正直なところ、激しかった行為のせいで腰には鈍痛がある。だけどそれ以上に幸せいっぱいで、こんなに気分がいいのは随分久しぶりだ。

「嬉しそうな顔してる」
「だって嬉しいですもん」

 指摘されて笑顔になるとじっと新を見つめる。半日前まで突き放されていた人と一夜を共に出来た喜びは簡単には消えてくれない。
 昨日は話が中途半端になったし、新の気持ちだってちゃんと聞いたわけじゃない。だけどこの展開は期待してもいいのだろうか。そんなソワソワした気持ちを落ち着けるのが新の声で、名前を呼ばれた後にゆっくりと切り出された。

「悪かった」
「へ?」
「一方的に突っぱねて」

 昨日も聞いた謝罪を繰り返したのが始まりで、その話を茉白は黙って聞いた。

「お前の気持ちが迷惑とかじゃない。けど歳も離れてるし、俺はバツイチ。更には兄貴の代わりに柾矢を育ててる。生活の中心は柾矢で、それはずっと変わらない。多分付き合うってなると上手く行かないことだって多い。お前はまだ若いし、才能だってある。子持ちの俺より合う奴は沢山いる」
「……」
「で、そう言うことグダグダ考える時に柾矢が熱出して……思い返してみれば朝から妙に静かで、昼メシもあんまり食べてなかったのに熱あることに全然気づかなかった。お前のことばっかり考えて、柾矢のことちゃんと見てなかった自分に腹立って、同じこともう二度としたくなくて――結果、お前を突っぱねた。柾矢の先生でもあるし、これ以上関係を深めるとダメだって。最もな理由作ったつもりだった」

 新の唇が紡ぐ声からその葛藤が伝わってくる。絢世の言った通り、彼なりに悩んでくれていたのだと知る一方で「わかりました。諦めます」とは言いたくない。

「それは……昨日のことなかったことにしたいってことですか?」

 ふいに頭を過る昨夜の出来事。茉白はうわごとの様に何度も「好き」と口にしたのを覚えている。だけど同じ気持ちは言葉では返ってこなかった。もしかして昨夜のことを後悔してるのだろうかと小さな不安が芽を出す。
 だけど新はすぐに首を横に振ってくれた。

「後悔してないって言うと多少嘘にはなる。だけどなかったことにはしない」
「……後悔してるんですか?」
「お前との関係に悩んで答えも出てない時に、またお前を浮かれさせる行動したのは流石に反省してる。つっても……止められなかったのは俺だけど。それに――自分の気持ちもはっきりとわかったし」
「え?」

 ぞわっと胸の辺りが期待に騒めく。もしかして――そんな期待に新を見つめる。

「だからそんな嬉しそうな顔すんなって」
「だって……」

 今の流れなら確実に「好きだ」と言ってくれるはずと期待値が上がる。その喜びを顔に出すなは無理な話だ。
 だけど茉白の期待に新は再び首を横に振った。そして――代わり新が茉白に求めたのは『時間』だった。

「少し考える時間が欲しい。お前のことちゃんと考えたい」
「……それは前向きにってことですよね?」
「ああ。けど考えて、やっぱり向き合えないって答えを出す可能性だってある」

 真っすぐ、ちゃんと真剣に考えてくれているからの言葉は小さな不安を生み出す。考えた結果やっぱり『付き合えない』と断る可能性を否定しないのはある意味新らしい。

「だからお前も好きにしていい。他の奴と会ってもいいし、好きにすればいい。多分、そう簡単に答えは出ないから」
「そんなことしません。おれが好きなのは新さんだけだから」
「わかった。ありがとな。だから――俺に時間くれるか?」
「……うん、わかりました」

 受け入れるしか茉白には選択肢がない。それに昨日新の話を聞いた時にも聞き分けがいい人なら新に時間を与えるだろうと考えた。
 だから茉白はゆっくりと頷いた。

「けど待ってる間もこれまで通り接してください。あんな態度はもう嫌です」
「わかった」

 我儘を伝えると今度は新が頷く。
 話を纏めると関係は進歩したし、新も同じ感情を抱いてくれている。だけど新に考える時間をあげることになった。そう言うことだろう。

「昨日も言ったんですけど、おれちゃんと色々我慢出来るし、柾矢くんのことも大好きだから……前向きに考えて欲しいです。それにこの前スクールの主催に聞いたんですけど、不倫とか未成年相手じゃなくて、お互いがちゃんとしてるなら生徒や保護者との恋愛も禁止じゃないって言ってました。だから、おれが柾矢くんの先生でも新さんと付き合っても問題はないです。そこが不安要素なら今すぐそれは消してほしいです」
「……わかった」

 子持ちのシングルファーザーは恋愛をすると決めるまでどれだけ時間がかかるのだろう。新の言い方だと一晩で答えは出てこないかもしれない。なので茉白に出来ることはただ待ちながら新を想い続けるだけ。

「今思ってるその感情は口にしてくれないんですか?」

 こういう我儘を言うから新を困らせていることはわかっている。
 もし今ここで「好き」と言ってもらえたらこれから新を待つ時間の希望にもなる。だからその唇が気持ちを紡いでくれるのを茉白は期待した。
 だけど――やっぱり新は首を横に振った。

「それこそお前をぬか喜びさせることになる。そんなことはしたくない」
「けど……」
「茉白」
「はい」
「考えて、お前との関係進めたいって心から思って答えが出た時にはちゃんと言う」

 じっとこちらを見つめる新の瞳には嘘がない。きっと本当に考えてくれているからこその優しさ。茉白にはわからない葛藤があることを理解したい気持ちはある。
 
 ――どうして2人で解決させてくれないのだろう。そんな不満がないといえば嘘にもなる。
 
 それでも今は新の言葉を信じよう。
 彼が考えてくれると言ったのだから、それを信じて彼が同じ気持ちを返してくれるの待とう。そうして茉白はもう一度頷いた。
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