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第8話 会えない日々と、募る想い。
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レオからの手紙が、来なくなった。
一週間。
二週間。
三週間——。
ミレイは、毎朝郵便馬車を待った。
でも、レオからの手紙は——届かなかった。
「レオさん……」
ミレイは、最後に届いた手紙を何度も読み返した。
『必ず、また君のもとへ』
その言葉を信じて——待ち続けた。
でも、不安は日に日に大きくなっていった。
何かあったんじゃないか。
レオさんに、何か——。
◇ ◇ ◇
ある日。
ミレイが森から帰ると、見知らぬ男が家の前に立っていた。
「ミレイさんですね?」
男は、王宮の制服を着ていた。
「は、はい……」
「少し、お話を」
男は、冷たい笑みを浮かべた。
「私は、王宮宰相グレゴリーの使いで参りました」
ミレイの心臓が、早鐘を打った。
王宮——。
グレゴリー——。
「あなたと、レオン王子殿下の関係について——お聞きしたいことがあります」
「関係……?」
ミレイは、動揺を隠せなかった。
「とぼけても無駄ですよ。全て、調査済みです」
男は、懐から書類を取り出した。
「ミレイ。十九歳。両親はすでに他界。天涯孤独。村では『落ちこぼれ』と呼ばれている」
「……っ」
「そんなあなたが——どうして、レオン王子殿下と親しくなったのか」
男の目が、鋭く光った。
「何か、企んでいるのではないですか?」
「企むなんて……!」
ミレイは、慌てて首を横に振った。
「私は、ただ——」
「ただ?」
「レオさんを……殿下を、お慕いしているだけです……」
「お慕いしている、ですか」
男は、鼻で笑った。
「身の程知らずな。あなたのような平民が、王子殿下を慕うなど——」
「私は……!」
ミレイは、思わず声を上げた。
「私は、本気です! レオさんのこと、本当に——」
「本気?」
男は、冷たく言い放った。
「ならば、殿下のために——身を引きなさい」
その言葉に、ミレイは息を呑んだ。
「身を、引く……?」
「そうです。あなたのような存在が、殿下の傍にいることは——殿下の立場を危うくします」
「でも……」
「殿下は、『完璧な王子』でなければなりません。平民との恋愛など——許されないのです」
男は、一歩近づいた。
「あなたが本当に殿下を想うなら——消えるべきです」
ミレイは、言葉が出なかった。
消えろ。
それが——レオのため?
「お考えになる時間を差し上げます」
男は、踵を返した。
「一週間後、また参ります。それまでに——答えを」
そう言い残して、男は去って行った。
◇ ◇ ◇
ミレイは、その場に崩れ落ちた。
「……どうしよう」
手が、震えている。
消えろと言われた。
レオのために——身を引けと。
でも。
レオさんは、私がいないと——。
あの人は、私がいないと壊れるって、言ってた。
ミレイは、頭を抱えた。
どうすればいいのか、分からない。
レオのために身を引くべきなのか。
それとも——。
「ミレイ!」
声がした。
顔を上げると——マリアおばあさんが、心配そうに駆け寄ってきた。
「どうしたの!? 顔色が真っ青よ!」
「おばあ、さん……」
ミレイは、おばあさんにしがみついた。
そして——全てを話した。
レオのこと。
王宮からの使者のこと。
全部。
おばあさんは、黙って聞いていた。
「……そう」
話し終えると、おばあさんは深くため息をついた。
「やっぱり、そういうことだったのね」
「おばあさん……私、どうしたら……」
「ミレイ」
おばあさんは、ミレイの肩を掴んだ。
「よく聞きなさい」
「はい……」
「あんたは、自分のために生きなさい」
「え……?」
「相手のためだけに生きちゃダメ。前にも言ったでしょう?」
おばあさんの目が、真剣だった。
「身を引くにしても、一緒にいるにしても——それは、あんた自身が決めること」
「でも……レオさんのためには……」
「レオン王子のため? それとも、あんた自身のため?」
ミレイは、言葉に詰まった。
「分かるでしょう? あんたは今、『レオン王子のため』って言いながら——本当は、自分が傷つきたくないだけなんじゃない?」
「……っ」
「相手に依存されて、必要とされて——それが、嬉しいんじゃないの?」
おばあさんの言葉が、ミレイの胸に刺さった。
「違います……!」
「本当に?」
「本当に、違います! 私は、レオさんを——」
「愛してるの?」
「……はい」
ミレイは、涙を流しながら頷いた。
「愛してます。本当に……」
「ならば」
おばあさんは、ミレイの涙を拭った。
「あんたは、どうしたいの? レオン王子と、どうなりたいの?」
「私……」
ミレイは、胸に手を当てた。
どうしたい?
レオさんと、どうなりたい?
答えは——。
「一緒に、いたいです」
ミレイは、はっきりと言った。
「レオさんと、ずっと——一緒にいたいです」
「なら、そうしなさい」
おばあさんは、優しく微笑んだ。
「誰が何と言おうと、あんたの人生よ。あんたが決めなさい」
ミレイは、涙が止まらなくなった。
「おばあさん……」
「泣くな。あんたは、強い子だよ」
おばあさんは、ミレイの頭を撫でた。
「さあ、顔を上げて。これからどうするか——考えなさい」
「……はい」
ミレイは、涙を拭った。
そうだ。
私は、レオさんと一緒にいたい。
それが、私の答え。
誰が何と言おうと——。
◇ ◇ ◇
その夜。
ミレイは、レオに手紙を書いた。
◇ ◇ ◇
『レオさんへ
お元気ですか?
手紙が届かなくて、心配していました。
今日、王宮の方が来ました。
身を引けと、言われました。
でも、私——
レオさんと、離れたくありません。
一緒にいたいです。
ずっと、ずっと。
これは、わがままでしょうか。
身の程知らずでしょうか。
でも、私の気持ちは——本物です。
レオさんを、愛しています。
だから——
私、待ってます。
レオさんが来てくれるまで。
何があっても、待ち続けます。
愛しています、レオさん。
ミレイより』
◇ ◇ ◇
手紙を出した。
届くだろうか。
レオのもとに——。
ミレイは、不安だった。
でも、信じることにした。
必ず、届く。
そして、レオさんは——来てくれる。
そう信じて——。
◇ ◇ ◇
王宮。
レオは、部屋に軟禁されていた。
「くそっ……!」
扉を叩く。
でも、開かない。
「僕を、出せ! グレゴリー!」
「殿下、お静かに」
扉の向こうから、ユリウスの声がした。
「これは、殿下のためです」
「僕のため!?」
レオは、怒りに震えた。
「僕を閉じ込めて、ミレイに会えなくして——それが、僕のため!?」
「はい」
ユリウスの声が、冷静だった。
「殿下は、あの娘に依存しすぎています。このままでは——」
「うるさい!」
レオは、扉を蹴った。
「僕に、ミレイが必要なんだ! 分からないのか!?」
「だからこそ、です」
ユリウスの声が、少し悲しげになった。
「殿下は、『レオン王子』です。個人的な感情で動いてはいけません」
「レオン王子なんて……!」
レオは、叫んだ。
「僕は、偽物だ! 本物じゃない!」
「……殿下」
「偽物の僕が、どうして——本物のように生きなきゃいけないんだ!」
レオは、床に座り込んだ。
「僕は、僕として生きたい……ミレイと一緒に……」
その時。
扉の下から、何かが差し込まれた。
手紙だ。
「これを」
ユリウスの声がした。
「ミレイからです」
レオは、飛びつくように手紙を掴んだ。
「ミレイ……!」
封を開ける。
手が、震えている。
そして——読んだ。
ミレイの言葉を。
『レオさんと、離れたくありません』
『一緒にいたいです』
『愛しています』
レオの目から、涙が溢れた。
「ミレイ……ミレイ……!」
胸が、熱くなった。
君は、僕を——。
選んでくれた。
身を引けと言われても、僕を——。
「ありがとう……ありがとう……」
レオは、手紙を胸に抱きしめた。
「僕も、君と一緒にいたい」
小さく呟いた。
「必ず——会いに行くから」
「だから、待っててくれ」
「ミレイ……」
レオは、立ち上がった。
目を、拭う。
もう、迷わない。
君が、僕を選んでくれたから。
だから、僕も——。
君を、選ぶ。
レオは、扉に向かって叫んだ。
「ユリウス! グレゴリーを呼べ!」
「殿下……?」
「話がある。今すぐだ」
レオの声は——今までとは違っていた。
強く。
確かに。
決意を秘めた、声。
◇ ◇ ◇
一時間後。
グレゴリーが、レオの部屋に来た。
「何の御用でしょうか、殿下」
冷たい声。
レオは、真っ直ぐにグレゴリーを見た。
「僕を、解放してくれ」
「それはできません」
「なら——」
レオは、深く息を吸った。
「僕は、『レオン王子』を辞める」
グレゴリーの顔が、凍りついた。
「何を……おっしゃっているのですか……」
「聞こえただろう。僕は、もうこの役を——続けられない」
「殿下!」
グレゴリーの声が、鋭くなった。
「あなたは、王国のために存在しているのです! 個人的な感情など——」
「うるさい」
レオは、グレゴリーの言葉を遮った。
「僕は、人間だ。感情がある。愛する人がいる」
「殿下……」
「僕は、ミレイと一緒にいたい。それだけだ」
レオの目が、真剣だった。
「だから——僕を、解放してくれ。この役から」
グレゴリーは、深くため息をついた。
「……殿下は、本気ですか」
「本気だ」
「ならば」
グレゴリーは、冷たく笑った。
「あなたは、全てを失いますよ。地位も、名誉も、財産も」
「構わない」
レオは、即答した。
「それより大切なものが、僕にはある」
「……そうですか」
グレゴリーは、踵を返した。
「では、上に報告しましょう。殿下が、役を降りると」
「ああ。頼む」
グレゴリーが去った後。
レオは、窓の外を見た。
森の方角を。
(ミレイ……)
心の中で、名前を呼ぶ。
(もう少しだけ、待ってて)
(必ず——君のもとへ行くから)
レオは、手紙を握りしめた。
ミレイからの手紙を。
君が、僕を選んでくれた。
だから、僕も——全てを捨てて、君を選ぶ。
もう、迷わない。
レオの目が、決意に満ちていた。
◇ ◇ ◇
こうして、レオは決断した。
『レオン王子』を辞めると。
全てを捨てて、ミレイのもとへ行くと。
でも、それは——。
王国を揺るがす、大きな決断。
果たして、この先に待つものは——。
一週間。
二週間。
三週間——。
ミレイは、毎朝郵便馬車を待った。
でも、レオからの手紙は——届かなかった。
「レオさん……」
ミレイは、最後に届いた手紙を何度も読み返した。
『必ず、また君のもとへ』
その言葉を信じて——待ち続けた。
でも、不安は日に日に大きくなっていった。
何かあったんじゃないか。
レオさんに、何か——。
◇ ◇ ◇
ある日。
ミレイが森から帰ると、見知らぬ男が家の前に立っていた。
「ミレイさんですね?」
男は、王宮の制服を着ていた。
「は、はい……」
「少し、お話を」
男は、冷たい笑みを浮かべた。
「私は、王宮宰相グレゴリーの使いで参りました」
ミレイの心臓が、早鐘を打った。
王宮——。
グレゴリー——。
「あなたと、レオン王子殿下の関係について——お聞きしたいことがあります」
「関係……?」
ミレイは、動揺を隠せなかった。
「とぼけても無駄ですよ。全て、調査済みです」
男は、懐から書類を取り出した。
「ミレイ。十九歳。両親はすでに他界。天涯孤独。村では『落ちこぼれ』と呼ばれている」
「……っ」
「そんなあなたが——どうして、レオン王子殿下と親しくなったのか」
男の目が、鋭く光った。
「何か、企んでいるのではないですか?」
「企むなんて……!」
ミレイは、慌てて首を横に振った。
「私は、ただ——」
「ただ?」
「レオさんを……殿下を、お慕いしているだけです……」
「お慕いしている、ですか」
男は、鼻で笑った。
「身の程知らずな。あなたのような平民が、王子殿下を慕うなど——」
「私は……!」
ミレイは、思わず声を上げた。
「私は、本気です! レオさんのこと、本当に——」
「本気?」
男は、冷たく言い放った。
「ならば、殿下のために——身を引きなさい」
その言葉に、ミレイは息を呑んだ。
「身を、引く……?」
「そうです。あなたのような存在が、殿下の傍にいることは——殿下の立場を危うくします」
「でも……」
「殿下は、『完璧な王子』でなければなりません。平民との恋愛など——許されないのです」
男は、一歩近づいた。
「あなたが本当に殿下を想うなら——消えるべきです」
ミレイは、言葉が出なかった。
消えろ。
それが——レオのため?
「お考えになる時間を差し上げます」
男は、踵を返した。
「一週間後、また参ります。それまでに——答えを」
そう言い残して、男は去って行った。
◇ ◇ ◇
ミレイは、その場に崩れ落ちた。
「……どうしよう」
手が、震えている。
消えろと言われた。
レオのために——身を引けと。
でも。
レオさんは、私がいないと——。
あの人は、私がいないと壊れるって、言ってた。
ミレイは、頭を抱えた。
どうすればいいのか、分からない。
レオのために身を引くべきなのか。
それとも——。
「ミレイ!」
声がした。
顔を上げると——マリアおばあさんが、心配そうに駆け寄ってきた。
「どうしたの!? 顔色が真っ青よ!」
「おばあ、さん……」
ミレイは、おばあさんにしがみついた。
そして——全てを話した。
レオのこと。
王宮からの使者のこと。
全部。
おばあさんは、黙って聞いていた。
「……そう」
話し終えると、おばあさんは深くため息をついた。
「やっぱり、そういうことだったのね」
「おばあさん……私、どうしたら……」
「ミレイ」
おばあさんは、ミレイの肩を掴んだ。
「よく聞きなさい」
「はい……」
「あんたは、自分のために生きなさい」
「え……?」
「相手のためだけに生きちゃダメ。前にも言ったでしょう?」
おばあさんの目が、真剣だった。
「身を引くにしても、一緒にいるにしても——それは、あんた自身が決めること」
「でも……レオさんのためには……」
「レオン王子のため? それとも、あんた自身のため?」
ミレイは、言葉に詰まった。
「分かるでしょう? あんたは今、『レオン王子のため』って言いながら——本当は、自分が傷つきたくないだけなんじゃない?」
「……っ」
「相手に依存されて、必要とされて——それが、嬉しいんじゃないの?」
おばあさんの言葉が、ミレイの胸に刺さった。
「違います……!」
「本当に?」
「本当に、違います! 私は、レオさんを——」
「愛してるの?」
「……はい」
ミレイは、涙を流しながら頷いた。
「愛してます。本当に……」
「ならば」
おばあさんは、ミレイの涙を拭った。
「あんたは、どうしたいの? レオン王子と、どうなりたいの?」
「私……」
ミレイは、胸に手を当てた。
どうしたい?
レオさんと、どうなりたい?
答えは——。
「一緒に、いたいです」
ミレイは、はっきりと言った。
「レオさんと、ずっと——一緒にいたいです」
「なら、そうしなさい」
おばあさんは、優しく微笑んだ。
「誰が何と言おうと、あんたの人生よ。あんたが決めなさい」
ミレイは、涙が止まらなくなった。
「おばあさん……」
「泣くな。あんたは、強い子だよ」
おばあさんは、ミレイの頭を撫でた。
「さあ、顔を上げて。これからどうするか——考えなさい」
「……はい」
ミレイは、涙を拭った。
そうだ。
私は、レオさんと一緒にいたい。
それが、私の答え。
誰が何と言おうと——。
◇ ◇ ◇
その夜。
ミレイは、レオに手紙を書いた。
◇ ◇ ◇
『レオさんへ
お元気ですか?
手紙が届かなくて、心配していました。
今日、王宮の方が来ました。
身を引けと、言われました。
でも、私——
レオさんと、離れたくありません。
一緒にいたいです。
ずっと、ずっと。
これは、わがままでしょうか。
身の程知らずでしょうか。
でも、私の気持ちは——本物です。
レオさんを、愛しています。
だから——
私、待ってます。
レオさんが来てくれるまで。
何があっても、待ち続けます。
愛しています、レオさん。
ミレイより』
◇ ◇ ◇
手紙を出した。
届くだろうか。
レオのもとに——。
ミレイは、不安だった。
でも、信じることにした。
必ず、届く。
そして、レオさんは——来てくれる。
そう信じて——。
◇ ◇ ◇
王宮。
レオは、部屋に軟禁されていた。
「くそっ……!」
扉を叩く。
でも、開かない。
「僕を、出せ! グレゴリー!」
「殿下、お静かに」
扉の向こうから、ユリウスの声がした。
「これは、殿下のためです」
「僕のため!?」
レオは、怒りに震えた。
「僕を閉じ込めて、ミレイに会えなくして——それが、僕のため!?」
「はい」
ユリウスの声が、冷静だった。
「殿下は、あの娘に依存しすぎています。このままでは——」
「うるさい!」
レオは、扉を蹴った。
「僕に、ミレイが必要なんだ! 分からないのか!?」
「だからこそ、です」
ユリウスの声が、少し悲しげになった。
「殿下は、『レオン王子』です。個人的な感情で動いてはいけません」
「レオン王子なんて……!」
レオは、叫んだ。
「僕は、偽物だ! 本物じゃない!」
「……殿下」
「偽物の僕が、どうして——本物のように生きなきゃいけないんだ!」
レオは、床に座り込んだ。
「僕は、僕として生きたい……ミレイと一緒に……」
その時。
扉の下から、何かが差し込まれた。
手紙だ。
「これを」
ユリウスの声がした。
「ミレイからです」
レオは、飛びつくように手紙を掴んだ。
「ミレイ……!」
封を開ける。
手が、震えている。
そして——読んだ。
ミレイの言葉を。
『レオさんと、離れたくありません』
『一緒にいたいです』
『愛しています』
レオの目から、涙が溢れた。
「ミレイ……ミレイ……!」
胸が、熱くなった。
君は、僕を——。
選んでくれた。
身を引けと言われても、僕を——。
「ありがとう……ありがとう……」
レオは、手紙を胸に抱きしめた。
「僕も、君と一緒にいたい」
小さく呟いた。
「必ず——会いに行くから」
「だから、待っててくれ」
「ミレイ……」
レオは、立ち上がった。
目を、拭う。
もう、迷わない。
君が、僕を選んでくれたから。
だから、僕も——。
君を、選ぶ。
レオは、扉に向かって叫んだ。
「ユリウス! グレゴリーを呼べ!」
「殿下……?」
「話がある。今すぐだ」
レオの声は——今までとは違っていた。
強く。
確かに。
決意を秘めた、声。
◇ ◇ ◇
一時間後。
グレゴリーが、レオの部屋に来た。
「何の御用でしょうか、殿下」
冷たい声。
レオは、真っ直ぐにグレゴリーを見た。
「僕を、解放してくれ」
「それはできません」
「なら——」
レオは、深く息を吸った。
「僕は、『レオン王子』を辞める」
グレゴリーの顔が、凍りついた。
「何を……おっしゃっているのですか……」
「聞こえただろう。僕は、もうこの役を——続けられない」
「殿下!」
グレゴリーの声が、鋭くなった。
「あなたは、王国のために存在しているのです! 個人的な感情など——」
「うるさい」
レオは、グレゴリーの言葉を遮った。
「僕は、人間だ。感情がある。愛する人がいる」
「殿下……」
「僕は、ミレイと一緒にいたい。それだけだ」
レオの目が、真剣だった。
「だから——僕を、解放してくれ。この役から」
グレゴリーは、深くため息をついた。
「……殿下は、本気ですか」
「本気だ」
「ならば」
グレゴリーは、冷たく笑った。
「あなたは、全てを失いますよ。地位も、名誉も、財産も」
「構わない」
レオは、即答した。
「それより大切なものが、僕にはある」
「……そうですか」
グレゴリーは、踵を返した。
「では、上に報告しましょう。殿下が、役を降りると」
「ああ。頼む」
グレゴリーが去った後。
レオは、窓の外を見た。
森の方角を。
(ミレイ……)
心の中で、名前を呼ぶ。
(もう少しだけ、待ってて)
(必ず——君のもとへ行くから)
レオは、手紙を握りしめた。
ミレイからの手紙を。
君が、僕を選んでくれた。
だから、僕も——全てを捨てて、君を選ぶ。
もう、迷わない。
レオの目が、決意に満ちていた。
◇ ◇ ◇
こうして、レオは決断した。
『レオン王子』を辞めると。
全てを捨てて、ミレイのもとへ行くと。
でも、それは——。
王国を揺るがす、大きな決断。
果たして、この先に待つものは——。
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