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第55話 届いた招待状と、胸に走る予感
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翌日の昼下がり。
麦猫堂の厨房には、焼き上がったばかりの陽だまりパンの香りが満ちていた。
「うん、今日もいい焼きだよ」
ハンナが満足げに頷く。
「よかった……昨日よりも生地が扱いやすくて」
「エリは日に日に手際がよくなってる。嬉しいことだねえ」
エリは照れたように微笑んだ。
(ここにいることが、だんだん自然になってきた)
その気持ちは、ほんの少しだけ誇らしかった。
◇ ◇ ◇
店先で客を見送り、エリが厨房へ戻った時だった。
「エリさん。お届けものです」
アンナが店先に立っていた。
「アンナさん!? どうして……」
「本日は奥様からの伝言がございまして。
その……こちらを」
差し出された封筒は、淡い金色の縁取りが施された上質な紙。
クレアル邸の紋章が押されている。
「え……私宛て……?」
「はい。奥様が、ぜひ直接お渡しするようにとのことです」
エリは胸がざわつくのを感じながら、封を開いた。
中には、丁寧な筆跡の手紙。
――陽だまりパンの味と、あなたの姿勢に深い感銘を受けました。
――つきましては、三日後の昼食の席にお招きしたく存じます。
――あなたのお話を、少し聞かせていただければ幸いです。
「……え、昼食……?」
「奥様は、エリさんとゆっくりお話ししたいのだそうです」
「わ、私なんかが……奥様の食事に……?」
エリは混乱のあまり、セシルのほうを振り返った。
セシルは一瞬だけ目を細め、すぐに落ち着いた声で言う。
「断る理由はありません。
むしろ……受けるべきでしょう」
「でも……私、貴族じゃないし……
ちゃんと話せるかどうかも……」
「話せます。今のエリなら」
「本当に……?」
「本当です」
その静かな自信に満ちた言葉が、エリの胸を温かくした。
◇ ◇ ◇
アンナは深く一礼し、屋敷へ戻っていった。
店には、しばし沈黙が落ちた。
「すごいじゃないか、エリ!」
ハンナが声を弾ませる。
「まさか奥様に招待されるなんてねえ!
いやあ、あんたはどんどん出世してくよ!」
「出世って……そんな、そんな大げさですよ……」
エリは必死で言うが、顔は真っ赤だった。
(でも……少しだけ、嬉しい
あの奥様に選ばれたって思うと……)
しかし嬉しさの奥に、
昨日の影のざわめきがわずかに残っていた。
(……大丈夫だよね。
クレアル邸なら安全だし……)
そう思いかけた時、
「エリ」
セシルがそっと声をかけた。
「昼食会の日、私も同行します」
「えっ……でも……」
「何が起こるかわかりません。
あの影が偶然で済むとは限らない」
エリの心臓が強く跳ねる。
「……怖いけど……でも……行くよ。
呼んでくれたのに、逃げるのは違うと思う」
「はい。その決断は間違っていません」
セシルの言葉は、まるで盾のように心を支えた。
◇ ◇ ◇
夕暮れ。
麦猫堂の窓に赤い光が差し込む。
エリはそっと護符の袋を握った。
(三日後……クレアル邸で昼食。
どんな話をされるんだろう)
期待と不安が、静かに胸の中で混ざり合う。
(でも……行く。
セシルが隣にいてくれるなら……大丈夫)
エリはゆっくりと息を吸い込み、
明日に向けて小さく決意を固めた。
◇ ◇ ◇
本日の収支記録
項目 内容 金額(リラ)
収入 店頭販売(通常) +24
収入 店舗手伝いの取り分 +20
合計 +44
借金残高 22,593 → 22,549リラ
セシルの一口メモ
招かれる席ほど、慎重であるべきです。
しかし怖れる必要はありません。
準備を整え、堂々と向かえばよいのです。
麦猫堂の厨房には、焼き上がったばかりの陽だまりパンの香りが満ちていた。
「うん、今日もいい焼きだよ」
ハンナが満足げに頷く。
「よかった……昨日よりも生地が扱いやすくて」
「エリは日に日に手際がよくなってる。嬉しいことだねえ」
エリは照れたように微笑んだ。
(ここにいることが、だんだん自然になってきた)
その気持ちは、ほんの少しだけ誇らしかった。
◇ ◇ ◇
店先で客を見送り、エリが厨房へ戻った時だった。
「エリさん。お届けものです」
アンナが店先に立っていた。
「アンナさん!? どうして……」
「本日は奥様からの伝言がございまして。
その……こちらを」
差し出された封筒は、淡い金色の縁取りが施された上質な紙。
クレアル邸の紋章が押されている。
「え……私宛て……?」
「はい。奥様が、ぜひ直接お渡しするようにとのことです」
エリは胸がざわつくのを感じながら、封を開いた。
中には、丁寧な筆跡の手紙。
――陽だまりパンの味と、あなたの姿勢に深い感銘を受けました。
――つきましては、三日後の昼食の席にお招きしたく存じます。
――あなたのお話を、少し聞かせていただければ幸いです。
「……え、昼食……?」
「奥様は、エリさんとゆっくりお話ししたいのだそうです」
「わ、私なんかが……奥様の食事に……?」
エリは混乱のあまり、セシルのほうを振り返った。
セシルは一瞬だけ目を細め、すぐに落ち着いた声で言う。
「断る理由はありません。
むしろ……受けるべきでしょう」
「でも……私、貴族じゃないし……
ちゃんと話せるかどうかも……」
「話せます。今のエリなら」
「本当に……?」
「本当です」
その静かな自信に満ちた言葉が、エリの胸を温かくした。
◇ ◇ ◇
アンナは深く一礼し、屋敷へ戻っていった。
店には、しばし沈黙が落ちた。
「すごいじゃないか、エリ!」
ハンナが声を弾ませる。
「まさか奥様に招待されるなんてねえ!
いやあ、あんたはどんどん出世してくよ!」
「出世って……そんな、そんな大げさですよ……」
エリは必死で言うが、顔は真っ赤だった。
(でも……少しだけ、嬉しい
あの奥様に選ばれたって思うと……)
しかし嬉しさの奥に、
昨日の影のざわめきがわずかに残っていた。
(……大丈夫だよね。
クレアル邸なら安全だし……)
そう思いかけた時、
「エリ」
セシルがそっと声をかけた。
「昼食会の日、私も同行します」
「えっ……でも……」
「何が起こるかわかりません。
あの影が偶然で済むとは限らない」
エリの心臓が強く跳ねる。
「……怖いけど……でも……行くよ。
呼んでくれたのに、逃げるのは違うと思う」
「はい。その決断は間違っていません」
セシルの言葉は、まるで盾のように心を支えた。
◇ ◇ ◇
夕暮れ。
麦猫堂の窓に赤い光が差し込む。
エリはそっと護符の袋を握った。
(三日後……クレアル邸で昼食。
どんな話をされるんだろう)
期待と不安が、静かに胸の中で混ざり合う。
(でも……行く。
セシルが隣にいてくれるなら……大丈夫)
エリはゆっくりと息を吸い込み、
明日に向けて小さく決意を固めた。
◇ ◇ ◇
本日の収支記録
項目 内容 金額(リラ)
収入 店頭販売(通常) +24
収入 店舗手伝いの取り分 +20
合計 +44
借金残高 22,593 → 22,549リラ
セシルの一口メモ
招かれる席ほど、慎重であるべきです。
しかし怖れる必要はありません。
準備を整え、堂々と向かえばよいのです。
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