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第66話 届いた封筒と、二人の影
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ハンナに呼ばれ、エリとセシルは並んで厨房へ向かった。
昨日よりも少し強く、少し軽い足取り。
外の影が何者だとしても、歩みを止めないと決めたからだ。
その隣にセシルがいる。それだけで心が支えられる。
(今日も前に進む……それだけでいい)
そう思いながら扉をくぐったその時だった。
「エリ、セシル。これ、さっき届いてたよ」
ハンナが不思議そうに眉を上げ、
白い封筒を一通差し出した。
「手紙……ですか?」
エリが受け取りながら首をかしげる。
宛名は簡素な筆跡で「エリ」とだけ。
差出人の名前はない。
「いやな感じですね」
セシルが即座に一歩近づき、封筒を手に取った。
「開けても……いいよね?」
エリが不安そうに言うと、
「ここで確認しましょう。何が書いてあるかわかりません」
封を切る音が小さく響く。
中には一枚の紙と、小さく折られた地図。
セシルが紙を広げる。
『会いたい人物がいる。
夕刻、この場所で待っている』
短い文。それだけ。
「……誰?」
エリは息をのむ。
セシルは沈黙し、次に地図を確認した。
場所は、街外れの古い倉庫の付近。
人通りは少なく、いかにも怪しい。
「エリ。これは罠かもしれません」
「罠って……どうして私なんて……」
「どうして、ではなく、誰が、です」
セシルの声は冷静だったが、その眼差しは鋭かった。
「最近、あなたの周りには不用意に近づく人が増えています。
商人の動きも不自然でした。
そして……例の影の男たちも」
エリの背中が冷たくなる。
(どうして私を……)
そのとき、店の外を二つの影が通り過ぎた。
細長い影が夕陽に伸び、窓辺を横切っていく。
エリは思わず息を呑む。
「今の……」
「見る限り、昨日の一人とは体格が違いますね」
セシルの声は低い。
「まだ増えてるの……?」
「エリ。落ち着いて」
セシルが優しく言う。
「恐れる必要はありません。
まずは、これは誰の仕業かを見極めます」
「でも……」
「あなたが向かうべき場所は麦猫堂です。
この店を離れる必要はない」
エリはぎゅっと胸元を押さえた。
(私は……何かを呼び寄せてるの?
貴族だったころの……影?)
視界がにじみそうになった瞬間、
セシルがそっと肩に手を置いた。
「大丈夫です。
何が来ようと、あなたを一人にはしません。
必ず守ると約束しましたから」
その言葉に、胸の奥の冷たいものが少し溶けていく。
「……ありがとう、セシル」
セシルはわずかに口元を緩めた。
「これは、私の務めですから」
封筒を静かに折り畳むと、
彼は窓の外に視線を向けた。
「……夕刻、私一人で様子を見てきます」
「危なくない……?」
「問題ありません。
ただし、エリは今日、いつも以上に店から離れないでください」
エリは強く頷いた。
外を歩く二つの影が遠ざかり、
夕陽の色だけがゆっくりと窓辺に残った。
(影が近づいてる。
でも……私も逃げない)
エリは胸の奥で小さくそうつぶやいた。
本日の収支記録
項目 内容 金額(リラ)
収入 店頭販売(通常) +20
収入 店舗手伝いの取り分 +20
合計 +40
借金残高 22,560 → 22,520 リラ
セシルの一口メモ
影が濃くなる時ほど、焦りは禁物です。
歩みの速さではなく、向いている方向こそが大事なのです。
昨日よりも少し強く、少し軽い足取り。
外の影が何者だとしても、歩みを止めないと決めたからだ。
その隣にセシルがいる。それだけで心が支えられる。
(今日も前に進む……それだけでいい)
そう思いながら扉をくぐったその時だった。
「エリ、セシル。これ、さっき届いてたよ」
ハンナが不思議そうに眉を上げ、
白い封筒を一通差し出した。
「手紙……ですか?」
エリが受け取りながら首をかしげる。
宛名は簡素な筆跡で「エリ」とだけ。
差出人の名前はない。
「いやな感じですね」
セシルが即座に一歩近づき、封筒を手に取った。
「開けても……いいよね?」
エリが不安そうに言うと、
「ここで確認しましょう。何が書いてあるかわかりません」
封を切る音が小さく響く。
中には一枚の紙と、小さく折られた地図。
セシルが紙を広げる。
『会いたい人物がいる。
夕刻、この場所で待っている』
短い文。それだけ。
「……誰?」
エリは息をのむ。
セシルは沈黙し、次に地図を確認した。
場所は、街外れの古い倉庫の付近。
人通りは少なく、いかにも怪しい。
「エリ。これは罠かもしれません」
「罠って……どうして私なんて……」
「どうして、ではなく、誰が、です」
セシルの声は冷静だったが、その眼差しは鋭かった。
「最近、あなたの周りには不用意に近づく人が増えています。
商人の動きも不自然でした。
そして……例の影の男たちも」
エリの背中が冷たくなる。
(どうして私を……)
そのとき、店の外を二つの影が通り過ぎた。
細長い影が夕陽に伸び、窓辺を横切っていく。
エリは思わず息を呑む。
「今の……」
「見る限り、昨日の一人とは体格が違いますね」
セシルの声は低い。
「まだ増えてるの……?」
「エリ。落ち着いて」
セシルが優しく言う。
「恐れる必要はありません。
まずは、これは誰の仕業かを見極めます」
「でも……」
「あなたが向かうべき場所は麦猫堂です。
この店を離れる必要はない」
エリはぎゅっと胸元を押さえた。
(私は……何かを呼び寄せてるの?
貴族だったころの……影?)
視界がにじみそうになった瞬間、
セシルがそっと肩に手を置いた。
「大丈夫です。
何が来ようと、あなたを一人にはしません。
必ず守ると約束しましたから」
その言葉に、胸の奥の冷たいものが少し溶けていく。
「……ありがとう、セシル」
セシルはわずかに口元を緩めた。
「これは、私の務めですから」
封筒を静かに折り畳むと、
彼は窓の外に視線を向けた。
「……夕刻、私一人で様子を見てきます」
「危なくない……?」
「問題ありません。
ただし、エリは今日、いつも以上に店から離れないでください」
エリは強く頷いた。
外を歩く二つの影が遠ざかり、
夕陽の色だけがゆっくりと窓辺に残った。
(影が近づいてる。
でも……私も逃げない)
エリは胸の奥で小さくそうつぶやいた。
本日の収支記録
項目 内容 金額(リラ)
収入 店頭販売(通常) +20
収入 店舗手伝いの取り分 +20
合計 +40
借金残高 22,560 → 22,520 リラ
セシルの一口メモ
影が濃くなる時ほど、焦りは禁物です。
歩みの速さではなく、向いている方向こそが大事なのです。
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