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第67話 影の訪問者
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麦猫堂の朝は穏やかだった。
陽だまりパンの香りが店いっぱいに満ち、 ハンナの木べらが生地を打つ音が心地よく響く。
「今日もいい匂いだよ、エリ。調子良さそうじゃないかい」
「うん。なんだか……昨日より気持ちが軽い気がします」
セシルが横で道具を整えながら、静かに頷く。
「集中できている証拠です」
そんな空気の中――
店の扉が、コン、と控えめに叩かれた。
「ん? この時間に客かい?」
ハンナが顔を上げる。
エリがタオルで手をぬぐいながら扉を開けると――
そこには、無表情で立つガレドがいた。
「……ガレド?」
彼はわずかに顎だけ動かして頷く。
「久しぶりだな、エリシア」
以前のような敵意も、親しさもない。
ただ淡々とした視線だけが向けられる。
エリは小さく息を飲んだ。
「どうしたの? こんな朝に……」
「確認しておくことがあってな」
ガレドは店内を一瞥し、セシルを見た。
セシルもまた、無言で視線を返す。
火花は散らない。
ただ、お互いを脅威ではないが油断もしない相手として測り合うような空気が流れた。
「……エリシア。
最近、お前の名前を聞く機会が増えた」
その言葉に、エリの心臓が強く跳ねる。
「え……名前って……」
「街の裏でな。表の住民は気づいてないが、妙な連中が動いている」
「……あの、フードの影の人たち?」
「おそらく同じ筋の奴らだ」
エリの背筋が冷たくなる。
セシルが一歩前に出た。
「目的は何だ。エリに何を求めている?」
「それを探っている最中だ」
ガレドの声は乾いていて、そこにエリを守る意思はない。
ただ、自分の興味と目的のために情報を集めているだけ――そんな冷静さがあった。
「勘違いするなよ。
俺はお前を助けに来たわけじゃない」
エリは息をのむ。
ガレドは目を細め、淡々と続けた。
「俺の目的に必要だから、お前に関する情報を押さえておきたい。それだけだ」
「…………」
「お前が危険な目にあえば……俺の計画に支障が出る可能性がある。
だから前もって知らせておく。利害が一致するからな」
セシルが静かに目を細める。
「あなたは何を追っているのですか」
「今は言えん。だが――」
ガレドは視線をエリに戻した。
「お前は傷つけられやすい立場にいる。
それを理解しておけ。動きが読まれやすいからな」
エリは、胸を押さえた。
言葉は刺さるけれど、悪意ではない。
ただ、事実を淡々と突きつけられているだけ。
「……教えてくれて、ありがとう」
エリが絞り出すと、ガレドは小さく鼻を鳴らした。
「礼はいらん。お前を守る気はないと言っただろう。
俺にとって必要だから情報を共有しただけだ」
そう言って踵を返す。
「……ガレド」
エリの呼びかけに、彼は振り向かず手だけ軽く挙げた。
「気をつけろ。お前が倒れたら困るのは――俺だ」
その言葉を残し、ガレドは路地の奥へと消えた。
エリは扉の前で、しばらく動けなかった。
「……ガレド、らしいね」
セシルが静かに呟く。
「あいつは味方ではありません。
ただ、自分の利害で動く男です」
「うん……でも……教えてくれたのは、助かった」
「それと同時に、警戒もしなければなりません」
セシルがエリの肩にそっと触れた。
「エリ。
どれだけ情報が出てきても、守るべきものは変わりません。
あなたの歩みを止めさせる者は、私が排除します」
エリは静かに頷いた。
(私は……確かに狙われやすい立ち位置なのかもしれない。
でも、逃げたくはない)
胸の奥が、強く、静かに燃えた。
本日の収支記録
項目 内容 金額(リラ)
収入 店頭販売(通常) +20
収入 店舗手伝いの取り分 +20
合計 +40
借金残高 22,560 → 22,520リラ
セシルの一口メモ
敵意でも善意でもない、第三の立場というものがあります。
味方ではなくとも、利用価値はある――それを見極めるのも、生き抜く力のひとつです。
陽だまりパンの香りが店いっぱいに満ち、 ハンナの木べらが生地を打つ音が心地よく響く。
「今日もいい匂いだよ、エリ。調子良さそうじゃないかい」
「うん。なんだか……昨日より気持ちが軽い気がします」
セシルが横で道具を整えながら、静かに頷く。
「集中できている証拠です」
そんな空気の中――
店の扉が、コン、と控えめに叩かれた。
「ん? この時間に客かい?」
ハンナが顔を上げる。
エリがタオルで手をぬぐいながら扉を開けると――
そこには、無表情で立つガレドがいた。
「……ガレド?」
彼はわずかに顎だけ動かして頷く。
「久しぶりだな、エリシア」
以前のような敵意も、親しさもない。
ただ淡々とした視線だけが向けられる。
エリは小さく息を飲んだ。
「どうしたの? こんな朝に……」
「確認しておくことがあってな」
ガレドは店内を一瞥し、セシルを見た。
セシルもまた、無言で視線を返す。
火花は散らない。
ただ、お互いを脅威ではないが油断もしない相手として測り合うような空気が流れた。
「……エリシア。
最近、お前の名前を聞く機会が増えた」
その言葉に、エリの心臓が強く跳ねる。
「え……名前って……」
「街の裏でな。表の住民は気づいてないが、妙な連中が動いている」
「……あの、フードの影の人たち?」
「おそらく同じ筋の奴らだ」
エリの背筋が冷たくなる。
セシルが一歩前に出た。
「目的は何だ。エリに何を求めている?」
「それを探っている最中だ」
ガレドの声は乾いていて、そこにエリを守る意思はない。
ただ、自分の興味と目的のために情報を集めているだけ――そんな冷静さがあった。
「勘違いするなよ。
俺はお前を助けに来たわけじゃない」
エリは息をのむ。
ガレドは目を細め、淡々と続けた。
「俺の目的に必要だから、お前に関する情報を押さえておきたい。それだけだ」
「…………」
「お前が危険な目にあえば……俺の計画に支障が出る可能性がある。
だから前もって知らせておく。利害が一致するからな」
セシルが静かに目を細める。
「あなたは何を追っているのですか」
「今は言えん。だが――」
ガレドは視線をエリに戻した。
「お前は傷つけられやすい立場にいる。
それを理解しておけ。動きが読まれやすいからな」
エリは、胸を押さえた。
言葉は刺さるけれど、悪意ではない。
ただ、事実を淡々と突きつけられているだけ。
「……教えてくれて、ありがとう」
エリが絞り出すと、ガレドは小さく鼻を鳴らした。
「礼はいらん。お前を守る気はないと言っただろう。
俺にとって必要だから情報を共有しただけだ」
そう言って踵を返す。
「……ガレド」
エリの呼びかけに、彼は振り向かず手だけ軽く挙げた。
「気をつけろ。お前が倒れたら困るのは――俺だ」
その言葉を残し、ガレドは路地の奥へと消えた。
エリは扉の前で、しばらく動けなかった。
「……ガレド、らしいね」
セシルが静かに呟く。
「あいつは味方ではありません。
ただ、自分の利害で動く男です」
「うん……でも……教えてくれたのは、助かった」
「それと同時に、警戒もしなければなりません」
セシルがエリの肩にそっと触れた。
「エリ。
どれだけ情報が出てきても、守るべきものは変わりません。
あなたの歩みを止めさせる者は、私が排除します」
エリは静かに頷いた。
(私は……確かに狙われやすい立ち位置なのかもしれない。
でも、逃げたくはない)
胸の奥が、強く、静かに燃えた。
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項目 内容 金額(リラ)
収入 店頭販売(通常) +20
収入 店舗手伝いの取り分 +20
合計 +40
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