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第60話 闇に潜む追跡
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王都の裏通り。
夜霧に紛れて、一人の商人風の男が荷袋を抱え走っていた。
その中には、マリエールたちが意図的に流した“偽の偽帳簿”が入っている。
王子の密偵が屋根の影からそれを見張り、小さく手信号を送った。
「……食いついた」
◇ ◇ ◇
宿舎の一室。
その報告を受け、マリエールは帳面を開いて記す。
――「囮=成功」
――「追跡開始」
――「目的:黒幕特定」
「いよいよですね」
王子は剣を腰に下げ、淡く微笑んだ。
「ええ。罠を仕掛けた者は、必ず獲物を取りに来る」
◇ ◇ ◇
闇の路地。
護衛隊が密かに尾行し、カティアの矢が闇を裂いて空へと飛ぶ。
音なき合図により、網の目のように配置された仲間たちが男の行き先を囲んでいく。
やがて男は大きな商館の裏口に滑り込んだ。
扉の奥から現れたのは、豪奢な衣を纏った中年の商人。
「よく持ち帰ったな……。これで奴らの息の根を――」
その言葉の直後。
「そこで終わりです」
低い声と共に、王子が闇から姿を現した。
蒼い瞳が冷ややかに光る。
◇ ◇ ◇
商人は狼狽し、言い訳を並べ立てた。
「ば、馬鹿な! これはただの帳簿で……!」
だがマリエールが歩み出て、帳簿を手に取り冷静に言う。
「――不自然ですね。
この帳簿に記された“輸送日程”は、辺境の商会内部にしか知られていない数字です。
それをあなたが握っているということは、裏で内部に通じている者がいる証拠」
商人の顔色が一気に変わった。
「な……っ」
◇ ◇ ◇
ジークフリートが剣を抜き、低く告げる。
「これ以上の言い逃れは無駄だぜ」
大剣の男が無言で前に出ると、その威圧だけで空気が張り詰める。
王子は静かに言い放った。
「すべてを話せ。誰の命で動いている? 議会の誰が貴様を操っている?」
◇ ◇ ◇
商人は震える声で口を開こうとした――が、次の瞬間。
背後の影から飛来した短矢が彼の胸を貫いた。
「っ……!」
護衛が一斉に反応し、暗闇に矢を放つ。
だが刺客はすでに姿を消していた。
◇ ◇ ◇
王子が歯噛みする。
「……証人を消しに来たか。やはり背後には議会の重臣がいる」
マリエールは帳面を開き、記した。
――「囮=成功」
――「商人=黒幕の手先」
――「証人=抹殺」
「……でも、敵が慌てて証拠を消そうとした。
これは逆に、“確かに存在する”証明になります」
王子は頷き、静かに剣を収めた。
「ええ。残るはその黒幕を暴くだけだ」
◇ ◇ ◇
鈴の花の紋章を掲げた一行は、再び夜の闇に溶けていった。
敵は証人を葬ったが、同時に自らの影を濃くしたにすぎない。
マリエールの灰色の瞳が、遠い議会の座席を射抜くように光った。
「必ず――暴きます」
夜霧に紛れて、一人の商人風の男が荷袋を抱え走っていた。
その中には、マリエールたちが意図的に流した“偽の偽帳簿”が入っている。
王子の密偵が屋根の影からそれを見張り、小さく手信号を送った。
「……食いついた」
◇ ◇ ◇
宿舎の一室。
その報告を受け、マリエールは帳面を開いて記す。
――「囮=成功」
――「追跡開始」
――「目的:黒幕特定」
「いよいよですね」
王子は剣を腰に下げ、淡く微笑んだ。
「ええ。罠を仕掛けた者は、必ず獲物を取りに来る」
◇ ◇ ◇
闇の路地。
護衛隊が密かに尾行し、カティアの矢が闇を裂いて空へと飛ぶ。
音なき合図により、網の目のように配置された仲間たちが男の行き先を囲んでいく。
やがて男は大きな商館の裏口に滑り込んだ。
扉の奥から現れたのは、豪奢な衣を纏った中年の商人。
「よく持ち帰ったな……。これで奴らの息の根を――」
その言葉の直後。
「そこで終わりです」
低い声と共に、王子が闇から姿を現した。
蒼い瞳が冷ややかに光る。
◇ ◇ ◇
商人は狼狽し、言い訳を並べ立てた。
「ば、馬鹿な! これはただの帳簿で……!」
だがマリエールが歩み出て、帳簿を手に取り冷静に言う。
「――不自然ですね。
この帳簿に記された“輸送日程”は、辺境の商会内部にしか知られていない数字です。
それをあなたが握っているということは、裏で内部に通じている者がいる証拠」
商人の顔色が一気に変わった。
「な……っ」
◇ ◇ ◇
ジークフリートが剣を抜き、低く告げる。
「これ以上の言い逃れは無駄だぜ」
大剣の男が無言で前に出ると、その威圧だけで空気が張り詰める。
王子は静かに言い放った。
「すべてを話せ。誰の命で動いている? 議会の誰が貴様を操っている?」
◇ ◇ ◇
商人は震える声で口を開こうとした――が、次の瞬間。
背後の影から飛来した短矢が彼の胸を貫いた。
「っ……!」
護衛が一斉に反応し、暗闇に矢を放つ。
だが刺客はすでに姿を消していた。
◇ ◇ ◇
王子が歯噛みする。
「……証人を消しに来たか。やはり背後には議会の重臣がいる」
マリエールは帳面を開き、記した。
――「囮=成功」
――「商人=黒幕の手先」
――「証人=抹殺」
「……でも、敵が慌てて証拠を消そうとした。
これは逆に、“確かに存在する”証明になります」
王子は頷き、静かに剣を収めた。
「ええ。残るはその黒幕を暴くだけだ」
◇ ◇ ◇
鈴の花の紋章を掲げた一行は、再び夜の闇に溶けていった。
敵は証人を葬ったが、同時に自らの影を濃くしたにすぎない。
マリエールの灰色の瞳が、遠い議会の座席を射抜くように光った。
「必ず――暴きます」
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