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第92話 王子、政治の盾となる
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王立学び舎の設立案が通過してから、わずか三日。
宮廷内では早くも反対派の動きが始まっていた。
「教育に予算を割くとは何事だ」
「新しい施設を建てるより、軍備の更新が先だろう」
「王妃殿下の理想に王国を振り回されては困る」
そんな声が、廊下の隅々まで囁かれていた。
だが――それを誰よりも早く察していたのが、ルシアンだった。
◇ ◇ ◇
「予算案が止められる?」
マリエールが眉を寄せる。
「はい。財務卿と軍務卿が結託し、学び舎への資金を“凍結”しようとしています」
報告したのは宰相エルデン卿だった。
彼の声には焦りが滲んでいた。
「表向きは“財政の健全化”という名目ですが、
実際は王妃殿下の影響力を抑えるための策かと」
マリエールは唇を噛んだ。
「……まだ“女の理想”だと思われているのですね」
その言葉に、ルシアンは静かに立ち上がった。
「いい。私が動こう」
「ルシアン様?」
「理を通すには、理だけでは足りない。
“盾”がなければ、光はすぐに折れる」
そう言うと、彼は執務室を出た。
◇ ◇ ◇
王宮の一角、財務卿クライン侯の執務室。
山のような書類の前で、侯爵が冷笑を浮かべる。
「王立学び舎? 王妃殿下は夢見がちだな。
民が字を読めるようになって何になる。
余計な知恵をつけて、税の計算でも始められたら困る」
その時、扉が音を立てて開いた。
「――その“余計な知恵”を恐れて、国が進むと思うのか?」
鋭い声に、部屋の空気が一変する。
入ってきたのは、ルシアン・アストリア王子その人だった。
クライン侯は慌てて立ち上がる。
「こ、これは殿下……! まさか直々にお越しとは……」
ルシアンは書類の山を無言で一瞥し、
一枚を手に取る。
「……この書式、旧年度のものだな。
改定後の財務基準をまだ反映していない」
クライン侯の顔色が変わる。
「そ、それは――」
「つまり、“凍結”するための文書として無効だ。
私は昨日、宰相と共に新たな予算形式を王印で承認した。
お前が提出する予定の案は、もう古い法の下にある」
その声は冷静で、しかし一分の隙もなかった。
「法を軽んじて私情を優先する。
それが“財政の健全化”か?」
クライン侯は言葉を失い、膝を震わせる。
ルシアンは彼の前に歩み寄り、
静かに、しかしはっきりと告げた。
「――王妃の理想を守るのは、私の仕事だ。
彼女の名のもとに国が動くのなら、
その責任を負うのは、この私だ」
その一言が、侯爵の心を貫いた。
誰も、これ以上は逆らえなかった。
◇ ◇ ◇
その日の午後。
ルシアンはマリエールの執務室を訪れた。
彼女は机に向かい、学び舎の設計図を広げていた。
「……予算の件、解決しました」
ルシアンは穏やかに言った。
マリエールは目を上げる。
「あなたが?」
「反対派の動きを先に封じました。
正式な印章で、新しい基準を上書きしています」
マリエールは静かに息を吐き、
やがて微笑んだ。
「……やはり、あなたは強いお方ですね」
ルシアンは少しだけ肩をすくめた。
「君が光なら、私はその影でよい。
だが、影にも牙はある」
二人の視線が交わる。
マリエールは微笑んだまま、そっと言った。
「ならば、私はその影を恐れません。
だって――誠実な影ほど、世界を照らすものはありませんから」
ルシアンは小さく笑った。
「誠実な影……。君の言葉はいつも詩のようだ」
窓の外、夕暮れの風が鈴の花を揺らす。
その音は、まるで“理と盾”が一つに重なったような響きを放っていた。
宮廷内では早くも反対派の動きが始まっていた。
「教育に予算を割くとは何事だ」
「新しい施設を建てるより、軍備の更新が先だろう」
「王妃殿下の理想に王国を振り回されては困る」
そんな声が、廊下の隅々まで囁かれていた。
だが――それを誰よりも早く察していたのが、ルシアンだった。
◇ ◇ ◇
「予算案が止められる?」
マリエールが眉を寄せる。
「はい。財務卿と軍務卿が結託し、学び舎への資金を“凍結”しようとしています」
報告したのは宰相エルデン卿だった。
彼の声には焦りが滲んでいた。
「表向きは“財政の健全化”という名目ですが、
実際は王妃殿下の影響力を抑えるための策かと」
マリエールは唇を噛んだ。
「……まだ“女の理想”だと思われているのですね」
その言葉に、ルシアンは静かに立ち上がった。
「いい。私が動こう」
「ルシアン様?」
「理を通すには、理だけでは足りない。
“盾”がなければ、光はすぐに折れる」
そう言うと、彼は執務室を出た。
◇ ◇ ◇
王宮の一角、財務卿クライン侯の執務室。
山のような書類の前で、侯爵が冷笑を浮かべる。
「王立学び舎? 王妃殿下は夢見がちだな。
民が字を読めるようになって何になる。
余計な知恵をつけて、税の計算でも始められたら困る」
その時、扉が音を立てて開いた。
「――その“余計な知恵”を恐れて、国が進むと思うのか?」
鋭い声に、部屋の空気が一変する。
入ってきたのは、ルシアン・アストリア王子その人だった。
クライン侯は慌てて立ち上がる。
「こ、これは殿下……! まさか直々にお越しとは……」
ルシアンは書類の山を無言で一瞥し、
一枚を手に取る。
「……この書式、旧年度のものだな。
改定後の財務基準をまだ反映していない」
クライン侯の顔色が変わる。
「そ、それは――」
「つまり、“凍結”するための文書として無効だ。
私は昨日、宰相と共に新たな予算形式を王印で承認した。
お前が提出する予定の案は、もう古い法の下にある」
その声は冷静で、しかし一分の隙もなかった。
「法を軽んじて私情を優先する。
それが“財政の健全化”か?」
クライン侯は言葉を失い、膝を震わせる。
ルシアンは彼の前に歩み寄り、
静かに、しかしはっきりと告げた。
「――王妃の理想を守るのは、私の仕事だ。
彼女の名のもとに国が動くのなら、
その責任を負うのは、この私だ」
その一言が、侯爵の心を貫いた。
誰も、これ以上は逆らえなかった。
◇ ◇ ◇
その日の午後。
ルシアンはマリエールの執務室を訪れた。
彼女は机に向かい、学び舎の設計図を広げていた。
「……予算の件、解決しました」
ルシアンは穏やかに言った。
マリエールは目を上げる。
「あなたが?」
「反対派の動きを先に封じました。
正式な印章で、新しい基準を上書きしています」
マリエールは静かに息を吐き、
やがて微笑んだ。
「……やはり、あなたは強いお方ですね」
ルシアンは少しだけ肩をすくめた。
「君が光なら、私はその影でよい。
だが、影にも牙はある」
二人の視線が交わる。
マリエールは微笑んだまま、そっと言った。
「ならば、私はその影を恐れません。
だって――誠実な影ほど、世界を照らすものはありませんから」
ルシアンは小さく笑った。
「誠実な影……。君の言葉はいつも詩のようだ」
窓の外、夕暮れの風が鈴の花を揺らす。
その音は、まるで“理と盾”が一つに重なったような響きを放っていた。
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