【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん

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第93話 王妃、誠実の師を集める

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アストリア王宮の一室に、十数名の教師候補が集められていた。
王妃マリエールの呼びかけに応じた学者や家庭教師たちだ。

彼らは皆、誇り高い顔をしていた。
だが――最初の言葉で、その誇りが一斉に揺らぐことになる。

「教える相手は、貴族の子弟ではありません。
 市場で働く少年や、路地に暮らす少女たちです」

静寂が落ちた。

一人の老学者が眉をひそめる。
「……王妃殿下、それはお戯れを。
 文字を知らぬ者に学を授けて、何の益が?」

「益、ですか?」
マリエールは穏やかに問い返す。

「益とは、誰のためのものでしょう。
 学ぶ者のため? 教える者のため? それとも――国のため?」

「……!」

彼女の声は柔らかかったが、どこまでも透き通っていた。
「この国に“誠実の礎”を築くには、知識を特権にしてはなりません。
 誰もが、正しく生きる道を知ることができるように」

それでも数名の教師は頭を下げ、退出していった。
残ったのは、ほんの数人。

◇ ◇ ◇

その日の午後。
マリエールはノラを連れ、王都南部の修道院跡地を訪れていた。

廃れた石壁の間を風が抜ける。
静寂の中に、小さな読経の声が響いていた。

「……『誠実は、人の心を繋ぐ橋なり』」

声の主は、粗末な法衣をまとった中年の男だった。
銀髪に混じる灰、深い皺の中に静かな光を宿している。

マリエールはそっと声をかけた。
「あなたが――この修道院の管理者?」

男は振り向き、一礼した。
「かつては。
 今は誰にも仕えることなく、ただ書を写しております」

「書を……?」

男は小さな机を示した。
そこには古びた羊皮紙の写本が並び、
すべてに同じ一文が刻まれていた。

“誠実は、人の心を繋ぐ橋なり”

マリエールの瞳が静かに揺れる。
「その言葉……あなたも、そう信じておられるのですね」

「はい。
 信仰を失っても、信念は捨てておりません」

「ならば――お願いがあります」

◇ ◇ ◇

数時間後。
王宮に戻ったマリエールは、ルシアンとエルデン宰相を前に報告した。

「見つけました。最初の“誠実の師”を」

ルシアンが目を上げる。
「どんな人物です?」

「かつて修道士でありながら、信仰ではなく“心の教え”を説いていた方。
 名は――レオニス」

宰相が驚いたように目を見開く。
「まさか……“南の灰の賢者”と呼ばれた方ですか。
 異端思想の嫌疑で追放されたと聞いておりますが……」

「ええ。しかし、彼の言葉には誠実がありました。
 “人は信じるに足る”と、そう言い切れる力が」

ルシアンは静かに頷いた。
「危うい橋だが、渡る価値はある。
 ……君が選んだのなら、きっと間違いではない」

マリエールは微笑んだ。
「この国に“心を教える人”が必要なのです。
 知識を与えるだけでは、未来は育たないから」

◇ ◇ ◇

夜。
マリエールは机の上に新しい紙を広げた。
“王立学び舎設立草案・第一章”――
その冒頭に、ゆっくりとペンを走らせる。

「学びとは、心を清める誠実の行いである」

風が窓を揺らし、遠くで鈴の花の鉢が震えた。
その音はまるで、
新しい希望の鐘の音のように響いていた。
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