退屈の王様

風太

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退屈の王様

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あるところにそれはそれは飽き性な王様がいました

王様は今の自分の生活にとても飽いていました。

だから王様は自身の周りにあるものやひとが羨ましくて羨ましくてたまりません。

あるとき王様は召し使いが昼食をとっているところに出くわします。

召し使いは粗末なパンにジャムを塗って食べていました。

王様は言います

「お前たちが食べているものと同じものを食べたい」

そうして王様は粗末なパンにジャムを塗ったものを食べました。

「少し味気ないがとても新鮮な味だ、とてもおもしろい!」

豪華な食事に飽いていた王様はよろこんで粗末なパンを食べました。

しかし、王様はその粗末なパンも3日たつころには飽きてしまいました。

王様は考えました

「ただ出てくるものを食べるだけだからつまらないのだ!ならばパンを作れればおもしろいのではないか?」

王様は自分のお城の料理人にパンの作り方を習うことにしました。

小麦粉から作った生地をこね、発酵させて、焼く

今まで料理などしたことの無かった王様にはとても大変で重労働な作業でした。

生地をこねるのにはとても力がいり、発酵させる時間を待つのも退屈でしたがパンが出来上がり、それを食べるとなんとも言えようのない達成感を得られたのでした。

「お前たちはとても良い仕事をしているのだな。とても羨ましい、私も混ざってもよいだろうか」

王様は他の料理の作り方など知りませんし、その大変さもわかりませんが、今まで経験したことのないこの達成感だけはどんな料理を作れたときにも感じられるものだろうと思い、料理人たちのなかに混ざって料理をすることにしました。

しかし、今まで王様が食べ飽きるほど食べていたものを作ることはとても難しく、なかなか上手く作れません。

思うよな料理が作れない王様は料理することに飽きてしまいました

料理に飽きた王様の日々はとても退屈なものでした。こころにぽっかりと穴が開いたような気分がして以前よりもずっと退屈に感じました。豪華な料理も食べる気分にはなりませんでした。

するとあるとき、お城のメイドがハンカチを落としていったので王様は拾って届けようとします。

しかし王様はその時思いました

「これを作れればおもしろいかもしれない!」

そうしてハンカチをメイドに届けるときに聞きました。

「これはどうすれば作れるのだ?」

メイドは自分も作れなくはないが王様が作るのならばと街のよい仕立て屋を紹介しました。

仕立て屋にはとても綺麗なドレスや服がたくさん置いてありました。

王様は仕立て屋にハンカチの作り方を学びます。

二つの小さな布のを合わせ針と糸でハンカチのかたちをかたち作っていきます。

王様はもちろん針と糸の扱いなど初めてで難しく思えました。
ずらさぬようにまっすぐに縫うことはとても難しく感じたのです。

しかし、苦労のかいあってハンカチは完成しました。
そしてパンを作れたときと同じ達成感を感じたのでした。

そこで王様は仕立て屋に置いてあった服はどう作るのか聴くことにしました。

デザインや縫製…ハンカチを作るよりもはるかに難しく多い作業に王様は驚きました。

試しにデザインを描こうとしましたがなにも分からず一枚も良いものはできませんでした。

そうして王様は諦めてお城へ戻ることになりました。

お城に戻った王様はまた退屈なものへと戻ってしまいました。着ている豪華な服もなんだかとても落ち着かなく感じるのです。

王様は自身の自身のこころに開いた穴を埋めるため次の退屈しのぎを探そうとします。

なにかよい退屈しのぎがないかと普段はあまり足を運ばなかった書庫へと足を運びました。

すると書庫には大きな大きな本棚にたくさんの本がずらりとならんでいます。
王様はいつも横目に見て通り過ぎていた書庫の本棚はこんなに大きなものだったかと驚きました。

そこであることを思いついた王様は大工を呼び寄せました

「王様、今日はどんな御用でしょう?なにをおつくりいたしましょうか?」

「今日はなにかをつくって欲しいのではない、お前に棚の作り方を教えて欲しいのだ。」

大工は驚きましたが、その頼みをよろこんで受けました。

そうして大工は木材のひとつを棚にぴったりの大きさに削りだし王様の元へ運ぶと、王様に棚の作り方を教え初めます。

ひとつの木材をノコギリで切り分けて棚のパーツにしていき、そこから釘を使って棚へと変えていきます。

パンの生地よりも木材はずっと重く、重労働でしたが、それでも確かにあのときと同じ達成感が得ることが出来たのでした。

そして王様は聞きました

「お前たちはどうやって建物をつくっているのか?」

大工は王様に語りました。

木材の作り方、建物の設計図のこと、地面を調べたり…たくさんの工程をとてもたくさんの人が多くの時間をかけ建物をつくっていることを。

試しに王様は丸太を見せてもらい、木材を作ろうとしましたが全く上手くはできず、諦めてしまうのでした。

そうして王様はまたもこころに開いた穴を埋めることが出来ずにお城へと戻るのでした。

王様は自身のこころの穴を埋めるため退屈しのぎを探そうとしますが探せども探せどもその穴を埋めるものは見つかりませんでした。

王様のこころに開いた穴はゆっくりとしかし確かに大きくなり王様のこころを蝕んでいくのです。

そしてとうとう王様のこころはその穴に蝕み尽くされ、王様はなにかをしたいという気力もなくってしまったのです。

なにも出来なくなった王様は一日をまるで死んだように過ごします。

彼の仕事であった政治も、外国とのやりとりもほったらかし。

そんな様子を見たお城の人や国民は彼をお城から追い出してしまいます。

お城からも国からも追い出されてしまった彼はもう王様ではありませんでした。

「あぁ、くやしい、くやしい。どうして私はなにも出来ないのか、どうして私は人のためになるすごいことが出来ないのか。」

そうして彼はこころの穴の正体に気づきます。

「あぁそうか。私は悔しかったのか。自分には出来ないことが出来る者が羨ましくて仕方がなかったのか。」

自分にはないものを持っているものへの嫉妬、羨望、憧れ。彼はそれを止めることが出来ず、かといってそれを得ようと動き続けることもせず、ただただそれを自分のなかで膨らませ続けていたのです。

そうしてその嫉妬、羨望、憧れは彼が持っていたはずのものも色あせたものへと変え、そして見えなくさせてしまったのでした。

「あぁ…本当に私は愚か者だ。」

そうして国から追い出されてしまった彼は自分の国であったその場所から離れていくのでした。
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