┌(┌^o^)┐ の箱庭

シュンコウ

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それくらいで済んでよかったね@(まだ)健全 6

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 ぞわ。背筋を虫が這うような悪寒を知覚するのとほぼ同時にハマルは目を見開いた。明るい世界に無理矢理引きずり出された視界が白っぽくにじんでぼやけている。
 だれだ? 不明瞭な視線を視線で絡め取られていた。相手が人であるのはわかるが、逆を言えばそれだけしかわからない。目を細め、眉根を寄せて目の光量の調節を待つ。

「!」

 まただ。また悪寒が肌を伝う。今度は感覚だけでなく実体も持っていた。生ぬるい熱が皮膚をなで上げていく。──ハマルは考えるよりも先に腕を振り上げていた。
 パシッ。呆気なく手首を捕らえられる。動かせない。顔の上半分を覆った仮面の下、唇が弧を描いて笑みを形作ったのが見えた。ようやく追いついた正常な視覚、幸をもたらすか不幸を運ぶか。

「おはようございます、ハマル様。気分はいかがですか?」

 かしこまった口調にやわらかな声音。覚えは、ある。

「ズ、ベン……?」

「はい。貴方の頼れる健気なしもべ、ズベン・エル・ゲヌビでございます」

 下部から順に黄緑、碧、無色の境界線をはさんで淡い赤色へと移り変わっていく不思議な双眸が小さな喜びをたたえて細まった。
 ズベン・エル・ゲヌビ。ファンタジーモノによくでる中世の西洋のような街並みが特徴的なエリア・バストゥニのトップスリー常連者。身にまとう漆黒の執事服から一目でわかる通り、執事を生業としている。
 特定の主を持たずフリーとして短期間のみ契約相手に仕えるが、あまりの万能さと手際のよさ、始終最高な心地にさせるという抜群のフォローに、永久雇用をこいねがう雇用主があとを絶たないとか。
 だがハマルにとっては根本的に本質が合わないただの厄介な腐れ縁幼なじみだ。目線の先が彼だと知って、今度は不快げにわかりやすく眉をしかめてみせる。

「呼んで、ないが」

「ええ、貴方にはお呼ばれしておりませんね」

 悲しいことに。口角を落とし、悲しげな雰囲気をかもし出す。わざとらしい。
 多くの人はだまされるだろうが、長いつきあいさえあれば簡単に見破れる。胡散くささが全面に出るアルゲディほどではないにしろ、彼の言動もまたどこか芝居がかっているのだ。

「ですが」

 絹の白手袋に包まれた指先が頬の輪郭をなぞった。いつくしむ、というにはあからさまにいやらしい動き。鳥肌。

「呼ばれなければ顔を見に来てはいけない、ということもありませんでしょう?」

「帰れ」

「ふふ、お断り申し上げます」

 雑に払い、掴まれたままの腕も取り返そうと強く引いた。執拗に肌に触れていた割にはどちらもたやすく外れる。
 やけに重たい上半身を起こしてはじめて気がついた。頭の据わりが悪いと思ったら、ズベンの太ももを枕に横たわっていたらしい。ここで少し落ちた機嫌が、見下ろした自身の身なりのありさまでさらに急降下していく。

「……いや、お前、なにをしていた?」

 上はタートルネックの裾がみぞおちあたりまで不自然にめくられ、下もベルトをくつろげられてチャックまで下されきっている。それなりに寝汚い自覚はあるが、寝相まで悪い覚えはない。悪寒に起こされたことと相まって、ズベンが着崩した犯人であるという確信があった。

「そんなにきっちりと着こまれたままでは寝苦しいかと思いまして。ついでに少々、失礼ながら肌を堪能させていただきました」

「帰れ」

 案の定だ。ここが屋内でなかったら(鈍い銀色の髪越しに見た唐草模様の天井から判断した)灰も残さず燃やしているところである。
 身なりを整えながらスートジュエルごと髪紐を外し、寝乱れて崩れてしまっただろう編み目を解いた。鏡はどこだ。自室ではない、見覚えがなくせまめな室内を見回す。
 四畳半ほどの畳間だった。いぐさの香り漂う床に敷かれた真っ白な布団。木の葉によって半分ほどが濃い緑に染まったくもりガラスの窓。ひかえめに吊り下げられたランプ。あとは、……あとはなにもない。物への執着が少ないハマルの自室以上に殺風景である。
 鏡を見ずに綺麗に編みこめるほど器用ではないし、おとなしく編ませてくれる髪質でもない。加えてどうにも指先がおぼつかない気がする。手櫛がスムーズにできていない。
 眠気とは違った怠さだった。どんなに寝不足でも、疲れていても、こうはならない。それに。
 ハマルは空いた手で喉元をさすり、軽く首を傾げた。呂律が回りにくくなっている。ゆっくり発言すれば大丈夫なようだが、いつも通りに話そうとすると妙に滑舌が悪い。そして寝起きのせいだけでなく、声音域が一オクターブ分低かった。意識した高低との間にズレがある。
 知らない部屋で寝ていたことといい、これらの異変の原因は眠る前にありそうだ。目覚めて早々にズベンを認識したことにより、すっかり押し流されてしまった記憶をたどる。


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