┌(┌^o^)┐ の箱庭

シュンコウ

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それくらいで済んでよかったね@(まだ)健全 7

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 白いマグカップの中でなみなみと満ちていた薄緑色のスープがぼんやりと浮かんだ。これだな。心あたりはあっさり見つかった。
 思い出してしまえば蜜のような甘さまでよみがえってくるようだ。口直しに水が欲しい。喉が渇いているので心底思う。
 スープを飲んですぐに寝落ちたので、睡眠薬に類ずるなにかが仕込まれていたのだろう。直前に目の下の隈を指摘されてもいる。まったく抜けない怠さが気になるが、死んでいないので毒は盛られていないはずだ。多分。

「先ほど貴方がお休みになられている間にも触れさせていただきましたが、やはり手触りがよく美しい髪ですね。思わず口づけたくなるようなこの輝き……ぜひとも私に毎日のお手入れをさせてほしいものです」

 などと思考を巡らせている間に髪を梳かれている。どこから取り出したのか、櫛で丁寧に、毛先から少しずつ。わずかでも歯に引っかからないように絡まりを解されていたため、気づくのが大分遅れた。
 勝手に触るな。にらみつけるように一瞥したが、効果はない。ハマルに見られていると気づくや、上機嫌に鼻歌まで奏でだす始末である。最近ハマルが投稿した動画の中で歌った新曲だった。
 こうなったズベンはかまえばかまうほど面倒だ。ハマルが折れてやった方が精神衛生的に楽になる。歯の浮くような世辞には鳥肌が止まらないが。
 くしけずるだけでなく、左側の一房も編みこんでいる。編み目はゆるい。こういう時、彼は下手なアレンジやこうしたいという己の欲を通さないので信頼は置ける。
 髪紐もスートジュエルもいつの間にか彼の手の中だ。もはやなにも言うまい。

「完成いたしました。いかがでしょうか」

 仕上げにスートジュエルを引っかけ、うなじを一なでしてズベンの手が離れていく。今なんで首を触った?
 鏡がないので出来栄えを見ようがない。結ったあとの違和感はないし、軽く触れてみてもいつも通りとしか思えなかった。

「悪くは……ないな」

 感想は素直に言うものである。それで相手の上機嫌が助長されることになっても、だ。
 布団とひざまで押しやられて申し訳程度に引っかかっていたブランケットをたたんで隅に置いた。たったそれだけの動作でも軽く息が上がる。本当になにを飲ませてくれたんだ、スピカは。

「エスコートはいかがですか?」

「不要だ」

 差し伸べられた手を邪魔だとはね退け、障子の手前にそろえて置かれていたブーツを履く。隣の高そうな黒の革靴はズベンのものだ。
 上から下まできっちり整った彼は、黙って立っていれば──否、ハマルにさえ関わらなければまさに優秀の具現化そのものなのに。なぜああも性格が残念なのか。腐れ縁のひいき目、からかうように世話を焼こうと手を出す言動への不快さを差し引いてなお、ハマルは彼の能力を高く評価していたりする。さすがにこれは絶対口にしないが。
 部屋を出た途端にひんやりとした冷たさがまとわりついてきて、ハマルはぶるりと身を震わせた。寒さよけの役割も持つロングコートは目覚めた時から肩にない。部屋にハンガーを吊るす場所がなかったので、スピカが別途保管しているのだろう。彼は自他問わず物の扱いにデリケートだ。かける場所がないからといって、そこらへんに放置するようなことは絶対にしない。
 廊下は左右一直線に伸びていて、閉じた障子がたがい違いにはさむよう並んでいる。どっちだ? 自分の足で部屋にたどり着いたわけではないので、どちらに向かえば正解なのか判断がつかない。
 ハマルに続いて廊下に出たズベンは、道順を知っていながらも助言を行わずに黙っている。ハマルの隣に控え、笑みをたたえて行動を見守る姿勢だ。……聞けば答えてはくれるだろうが、頼るという選択肢はない。

「……ん?」

 しゅるり。床板をこする音が左側の突きあたりから聞こえた。目を向けると、明るい緑色をした紐状のなにかがくねくねと這ってくる。
 ヘビかと思ったが、目や口、うろこはない。濃厚な草のにおい。蔓型の触手魔物だろうか。
 蔓はハマルたちから三歩分の距離を空けて止まった。そのうしろからもう一本、別の蔓が現れる。
 二本に増えた蔓の先が目線と同じ高さまで伸び上がったと思ったら、そのまままっすぐ傾いて交差した。バツ印。通行禁止、という意味だろうか。蔓はそのまま植物さながら動かなくなる。

「向こうへ進めばいいのか?」

 右側を指すと、頷くように揺れた。そうか。親切な道案内に従い、歩を進める。

「よろしいのですか?」

 揚々と半歩うしろをついてきながらズベンが楽しそうに問うた。

「もしかしたら魔物の巣に招かれているのかもしれませんよ」

「巣もなにも、ここはスピカの店……家の中だろう」

 店主スピカが得意とする属性は植物。店の周りを植物で囲っているくらいなのだから、使い魔にしている植物性魔物の一体や二体いてもおかしくはない。それに。

「こちらに害意を見せないものを、どうこうする気はない」

「……もし、害をなそうとしていたとしたら?」

 ハマルは鼻で笑った。ちらりと振り返った先で、役目は果たしたとばかりに引っこもうとしていた蔓がビクリと固まる。

「燃やして灰にするだけだ」


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