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こうして僕は『聖女』になった。
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僕にはこの世界に産まれて来る前の記憶がある。ああ、前世の記憶じゃなく、転生前の魂だった状態の記憶だ。そこで僕は、ただ佇んでいた。そこに居た理由は分からない。いつからそこに居たのかも、誰と居たのかも、どうやって来たのかも、分からない。
「ああ‼ここに居たんですね?」
元々、僕の姿は人の姿だったみたいだけど、あちこちと剥ぎ取られている。それでも立っていられるのは、ここが魂の世界だからだろう…輪廻の流れには乗れないみたいだ。この姿では流れに乗ったら、ボロボロになって、僕でなくなる…いや、この状態で流れに乗っても、このままの状態で転生可能だろうけど、生まれて来た僕は色々と不完全な状態で生を受ける事となる…それは望まない…
「あの~…迎えに来たんですが…?」
うん。目の前に女性がいますね。はっきりと女性です。
「分かっているなら、返答してください‼」
申し訳ありません。声が出ないのです。いや、意思を音声で返す能力を喪失しているんです…分かってもらえます?現状の僕の姿?
「あ?ああ、そうでしたね?ちょっと待っててください」
そう言って、女性はどこかに行った。
不思議な女性だった。まるで、母の様で、妹の様で、従姉の様で、好きだった女の子の様で、付き合った女の子の様で、伴侶とした女性の様で、娘の様で…浮気相手?いる訳ないじゃないですか‼失礼な‼…そんな雰囲気の女性だった…僕の記憶の中にある女性のイメージをそのままにした女性だった…結婚してからちょっといいなぁと思った女性の雰囲気も若干あった気もするけど…それは浮気じゃない‼…浮気じゃないよね…?
「お待たせしましたぁ‼」
そう言って、彼女は僕の足りないパーツを付け足していった。何か、ふわふわモチモチした触感のモノ…魂の原材料?的なモノを欠損箇所に補っていく…なんか、昔、テレビで見た練り切り職人の手付きにも見える…
「え~…と、補修しながらでも、聞いてください」
左官ごての様な器具を使い、僕の体に魂の原料を塗りたくって行く彼女の話によると、僕がこれから行く世界では、僕が世界の変革を成す存在となるので、転生してもらわないと困った事態になるらしい。どの位、困窮するのか?と言うと、
「背中の痒いところに手が届かないくらい」
いや、誰かに掻いてもらうか、孫の手で…って問題じゃないか…
「…さて、ガワは何とかなりましたね…」
後は定着するまで、リハビリが必要との事。
「ガワから入るんですね?」
言葉が…意志が音声的な手段で伝えられる‼
「中々、魂の使い方がお上手ですね‼普通すぐには話せませんよ?」
そうなんですね?これなら、すぐにでも転生できますか?
「時期が来たら、勝手に流れに乗ります」
そう言えば、お姉さんって、死神的な存在だったり…?
「ん~、まぁ、案内人と言えば、そうなんですが、あなたの場合は専属でして…」
それは、先ほど話された、「背中かい~の」的な事態用の?
「間〇平師匠のモノマネは結構ですけど、「背中かい~の」は世界全体的な事態で、痒みのある患部的には大災害が起こりかねないのですよ?」
それは外部からの刺激?摂取物からのアレルギー的な反応?
「世界の体質的に…悪食だからなぁ…でも、あれでお肌は敏感肌で…」
ごめんなさい。想像できませんでした。
「無理して想像しなくて結構です。モノの例えですから」
それから、お姉さんと色々と話をした。
まず、これから向かう世界について。いわゆる剣と魔法なファンタジー世界で、危険生物が闊歩し、怪奇現象が起きまくり‼らしい。その部分は避けて通りたい。
次に転生先…あ、それは明かしちゃって大丈夫なんですか?今更『禁則事項です』とか言って、カワイ子ぶられても、困るんですが。うん。聞かないのが正解です。どうせ、宇宙人も、未来人も、超能力者も、身近に居ないんでしょ?『ハ〇ヒ』ネタは禁則事項?
とりあえず、必要最低限の情報として、父母、その両方の祖父母は健在らしい。兄姉はいるらしいが、構成は聞かない。ちなみに弟妹が産まれるかも不明状態…
「お?」
…身体が浮いて来た…
「魂の転生の準備が出来た様ですね」
気が付くと、お姉さんが足元に見える。
「ここで知った情報はお詫びと言う事で、転生しても消えません。どうか、向こうで生かして下さい‼」
徐々に、遠ざかるお姉さんに見送られ、僕は転生の流れに乗った…
こうして現在、僕はセージと名付けられ、ガショウ王国の王都で生活している。
家族構成はヒト族のお爺ちゃんとエルフ族のお婆ちゃんのハーフのお母さんと、ドワーフ族のお爺ちゃんと竜人族のお婆ちゃんのハーフのお父さんの間に産まれたクウォーターミックスで、上にはお兄ちゃんが二人、お姉ちゃんが一人、下には弟が一人、妹が三人…ちなみに、お兄ちゃんと妹の一組が双子…どういう訳か、皆、同じ屋根の下で暮らしている…家は母婆ちゃんの経営する薬屋と、父爺ちゃんの経営する鍛冶工房が隣接していて、事あるごとに喧々囂々である。せっかくなので、仲良くしてほしい。そうそう、各店舗には住み込みの職人さんやお弟子さんがそれぞれに五人、計十人。つまり、大所帯‼プライベートも、デリカシーも一切ない空間で僕達はそれなりに楽しく暮らしていた…
それは十五歳の誕生月。教会で『天恵』を授けられる儀式に呼ばれた時だった。
まず、銀髪の美少女、ヒナギク様が『天恵』を授けられた。ヒナギク様はこの国の第一王女で、誰もが認める『お姫様』。容姿端麗、清廉潔癖、頭脳明晰、おまけに、農奴から悪徳貴族まで、誰にもお優しいと評判の超優良物件‼なので、他国からの縁談が後を絶たない状態‼更に、魔法も全属性使いこなされ、得意属性は『聖』属性。そんな理由もあってか、彼女に授けられた『天恵』は『聖巫女』‼そのものピッタリで教会は割れんばかりの拍手喝采‼ヒナギク様も両手を上げて、それに応える。
ここまでは良かった…って言うか、その後は醜い争いのオンパレードだった…まず、貴族が授与されるのだが、貴族は授けられた『天恵』を民衆に公表すると言った見栄を張る。しかも、公表する際は教会への献金額に応じた『天恵』が公表される。まぁ、後で王国には教会から真に授けられた『天恵』が報告されるらしいが…次に大手商会。これも献金額によって『天恵』を公表するのだが、ライバル商店や系列店との兼ね合いで、授けられる『天恵』の格が決められている。その上、『天恵』を公表しないと、皆に言えない『天恵』を授かってしまったのか?と揶揄されて、同業他社から軽く見られる。そんな話を以前、見学と称して、お兄ちゃん達の『天恵』を授けてもらった時の帰りに両祖父母と父から聞かされた。ウチの工房は両方共、関係ないけどね。見栄の張り合いが五分程続いて、庶民の部は、サクサク進む。が、数が多い。授けられた『天恵』に喜んだり、泣いたりが、そこかしこで展開してくれればいいのだが、授けられたその場で憤慨するは、やめてほしい。進行のジャマ‼そして、祭壇を破壊しようとしない‼
…居合わせた騎士団によって取り押さえられた彼女は、現在、泣きじゃくっている。その彼女をヒナギク様が慰めている…騎士団数人が彼女の腕を極めながら、だけど…
「…次、鍛冶師の子、セージ‼」
司教様の声に僕は祭壇へと向かう。
祭壇には、直径十五センチ程の水晶玉…ガラス玉じゃないよね…?…まぁ、とにかく、透明な鉱物を球状に加工した物体が鎮座している。それに僕は手を置き、司教様が魔力を流す…司教様は何か言ってるけど、内容はさっぱり…
授けられる『天恵』は声ではっきりと伝わる場合もあれば、汲み取るのも難解な抽象的な内容まで様々である。ちなみに、『天恵』の内容は授けられる本人にのみ伝えられ、司教様には伝わっていないが、この透明の鉱物が、その日授けた『天恵』を記録していて、後に専門の教会職員が内容を精査、王国に報告される仕組みらしい。
そんな事を考えていると、僕の『天恵』が頭に浮かんで来た。しかも、はっきりと。
『聖女』
…うん。間違いない。文字としても、声としても、はっきりと表現していた。
「…ありがとうございました…」
司教様に一礼する。この場合、魔力を放出しているだけなので『ご苦労様』なのかも知れないが、慣例だから、前に倣います。
これで帰っても良いのだが、今回はそうも行かない。何しろ、王女様が残っているからだ。用事がある場合は仕方ないかもだけど、王族より早く退席するのは無礼だからね。
元の席に戻る時に、ヒナギク様の近くを通る。祭壇破壊未遂の女の子は…あ、既に居ません。彼女の座っていたと思われる席に、大きめの、ぬいぐるみが鎮座しています。
「今夜あたり、祖父と祖母がそっちに行くかも」
そうですか…とは言わずに、軽く会釈して、席に戻る。
この会話…とも言えないけど、彼女の言葉通り、僕達は旧知で、お互いの家を訪問し合う仲でもある。何でも、両祖父母と先代の王と王妃が、昔、ヤンチャして、魔王討伐の旅をしていたらしい…子供の頃、ウチに来て話す祖父母の英雄譚は、この世界では空前絶後で、壮大な冒険絵巻に思えたが、今聞くと、法螺話も裸足で逃げ出すレベルの無茶な話だ…ヒナギク様と知り合ったのはその縁で、最初にお見掛けしたのはウチに来た時で、何でも、孫自慢をしたかったらしく先王の小脇に抱えられていた。理由を聞くと、家庭教師から強奪したらしく、後で来た先王妃様にこっぴどく叱られていた事の方が、僕には印象的だった。その時はカワイイ子だなぁ…程度の印象はあった…
「では、これにて『天恵』の儀を終えます」
集まった全員の『天恵』授与が終わり、ちょっと長めのお説教の後、ヒナギク様は席を立って退室され、それを僕達は見送る…
一連の儀式は終了…その後は家に帰って、『天恵』の内容を報告する。
だが、ここで問題がある。そう。とても個人的な問題だ。
とりあえず、僕は家路には就かず、別の場所に行く…郊外の人気のない森の中…
本当は危険なので、子供は来てはいけないと言われているが、僕は何度も来ている。母婆ちゃんの作る薬に使う薬草を採取するために。
森の奥には泉があって、透明な水面に空の青が反射している。
そこに僕は顔を映してみる。
「…うん…」
ウチで使っている鏡より反射率が良い。そこに映る僕の顔は想像を絶する…程でもないけど、まぁ、美少女だ。そう。美少女‼
鮮やかな金髪と青い瞳、整った顔立ちに、うっすら紅い唇。背は低いが、身体は華奢でこの場を誰かが見たら、とても幻想的…はないか…服装の問題で…
しかし、ここは声を大にして言いたい‼
「僕は、ボクっ娘じゃねええ‼僕は男だああああぁぁあああ‼」
「ああ‼ここに居たんですね?」
元々、僕の姿は人の姿だったみたいだけど、あちこちと剥ぎ取られている。それでも立っていられるのは、ここが魂の世界だからだろう…輪廻の流れには乗れないみたいだ。この姿では流れに乗ったら、ボロボロになって、僕でなくなる…いや、この状態で流れに乗っても、このままの状態で転生可能だろうけど、生まれて来た僕は色々と不完全な状態で生を受ける事となる…それは望まない…
「あの~…迎えに来たんですが…?」
うん。目の前に女性がいますね。はっきりと女性です。
「分かっているなら、返答してください‼」
申し訳ありません。声が出ないのです。いや、意思を音声で返す能力を喪失しているんです…分かってもらえます?現状の僕の姿?
「あ?ああ、そうでしたね?ちょっと待っててください」
そう言って、女性はどこかに行った。
不思議な女性だった。まるで、母の様で、妹の様で、従姉の様で、好きだった女の子の様で、付き合った女の子の様で、伴侶とした女性の様で、娘の様で…浮気相手?いる訳ないじゃないですか‼失礼な‼…そんな雰囲気の女性だった…僕の記憶の中にある女性のイメージをそのままにした女性だった…結婚してからちょっといいなぁと思った女性の雰囲気も若干あった気もするけど…それは浮気じゃない‼…浮気じゃないよね…?
「お待たせしましたぁ‼」
そう言って、彼女は僕の足りないパーツを付け足していった。何か、ふわふわモチモチした触感のモノ…魂の原材料?的なモノを欠損箇所に補っていく…なんか、昔、テレビで見た練り切り職人の手付きにも見える…
「え~…と、補修しながらでも、聞いてください」
左官ごての様な器具を使い、僕の体に魂の原料を塗りたくって行く彼女の話によると、僕がこれから行く世界では、僕が世界の変革を成す存在となるので、転生してもらわないと困った事態になるらしい。どの位、困窮するのか?と言うと、
「背中の痒いところに手が届かないくらい」
いや、誰かに掻いてもらうか、孫の手で…って問題じゃないか…
「…さて、ガワは何とかなりましたね…」
後は定着するまで、リハビリが必要との事。
「ガワから入るんですね?」
言葉が…意志が音声的な手段で伝えられる‼
「中々、魂の使い方がお上手ですね‼普通すぐには話せませんよ?」
そうなんですね?これなら、すぐにでも転生できますか?
「時期が来たら、勝手に流れに乗ります」
そう言えば、お姉さんって、死神的な存在だったり…?
「ん~、まぁ、案内人と言えば、そうなんですが、あなたの場合は専属でして…」
それは、先ほど話された、「背中かい~の」的な事態用の?
「間〇平師匠のモノマネは結構ですけど、「背中かい~の」は世界全体的な事態で、痒みのある患部的には大災害が起こりかねないのですよ?」
それは外部からの刺激?摂取物からのアレルギー的な反応?
「世界の体質的に…悪食だからなぁ…でも、あれでお肌は敏感肌で…」
ごめんなさい。想像できませんでした。
「無理して想像しなくて結構です。モノの例えですから」
それから、お姉さんと色々と話をした。
まず、これから向かう世界について。いわゆる剣と魔法なファンタジー世界で、危険生物が闊歩し、怪奇現象が起きまくり‼らしい。その部分は避けて通りたい。
次に転生先…あ、それは明かしちゃって大丈夫なんですか?今更『禁則事項です』とか言って、カワイ子ぶられても、困るんですが。うん。聞かないのが正解です。どうせ、宇宙人も、未来人も、超能力者も、身近に居ないんでしょ?『ハ〇ヒ』ネタは禁則事項?
とりあえず、必要最低限の情報として、父母、その両方の祖父母は健在らしい。兄姉はいるらしいが、構成は聞かない。ちなみに弟妹が産まれるかも不明状態…
「お?」
…身体が浮いて来た…
「魂の転生の準備が出来た様ですね」
気が付くと、お姉さんが足元に見える。
「ここで知った情報はお詫びと言う事で、転生しても消えません。どうか、向こうで生かして下さい‼」
徐々に、遠ざかるお姉さんに見送られ、僕は転生の流れに乗った…
こうして現在、僕はセージと名付けられ、ガショウ王国の王都で生活している。
家族構成はヒト族のお爺ちゃんとエルフ族のお婆ちゃんのハーフのお母さんと、ドワーフ族のお爺ちゃんと竜人族のお婆ちゃんのハーフのお父さんの間に産まれたクウォーターミックスで、上にはお兄ちゃんが二人、お姉ちゃんが一人、下には弟が一人、妹が三人…ちなみに、お兄ちゃんと妹の一組が双子…どういう訳か、皆、同じ屋根の下で暮らしている…家は母婆ちゃんの経営する薬屋と、父爺ちゃんの経営する鍛冶工房が隣接していて、事あるごとに喧々囂々である。せっかくなので、仲良くしてほしい。そうそう、各店舗には住み込みの職人さんやお弟子さんがそれぞれに五人、計十人。つまり、大所帯‼プライベートも、デリカシーも一切ない空間で僕達はそれなりに楽しく暮らしていた…
それは十五歳の誕生月。教会で『天恵』を授けられる儀式に呼ばれた時だった。
まず、銀髪の美少女、ヒナギク様が『天恵』を授けられた。ヒナギク様はこの国の第一王女で、誰もが認める『お姫様』。容姿端麗、清廉潔癖、頭脳明晰、おまけに、農奴から悪徳貴族まで、誰にもお優しいと評判の超優良物件‼なので、他国からの縁談が後を絶たない状態‼更に、魔法も全属性使いこなされ、得意属性は『聖』属性。そんな理由もあってか、彼女に授けられた『天恵』は『聖巫女』‼そのものピッタリで教会は割れんばかりの拍手喝采‼ヒナギク様も両手を上げて、それに応える。
ここまでは良かった…って言うか、その後は醜い争いのオンパレードだった…まず、貴族が授与されるのだが、貴族は授けられた『天恵』を民衆に公表すると言った見栄を張る。しかも、公表する際は教会への献金額に応じた『天恵』が公表される。まぁ、後で王国には教会から真に授けられた『天恵』が報告されるらしいが…次に大手商会。これも献金額によって『天恵』を公表するのだが、ライバル商店や系列店との兼ね合いで、授けられる『天恵』の格が決められている。その上、『天恵』を公表しないと、皆に言えない『天恵』を授かってしまったのか?と揶揄されて、同業他社から軽く見られる。そんな話を以前、見学と称して、お兄ちゃん達の『天恵』を授けてもらった時の帰りに両祖父母と父から聞かされた。ウチの工房は両方共、関係ないけどね。見栄の張り合いが五分程続いて、庶民の部は、サクサク進む。が、数が多い。授けられた『天恵』に喜んだり、泣いたりが、そこかしこで展開してくれればいいのだが、授けられたその場で憤慨するは、やめてほしい。進行のジャマ‼そして、祭壇を破壊しようとしない‼
…居合わせた騎士団によって取り押さえられた彼女は、現在、泣きじゃくっている。その彼女をヒナギク様が慰めている…騎士団数人が彼女の腕を極めながら、だけど…
「…次、鍛冶師の子、セージ‼」
司教様の声に僕は祭壇へと向かう。
祭壇には、直径十五センチ程の水晶玉…ガラス玉じゃないよね…?…まぁ、とにかく、透明な鉱物を球状に加工した物体が鎮座している。それに僕は手を置き、司教様が魔力を流す…司教様は何か言ってるけど、内容はさっぱり…
授けられる『天恵』は声ではっきりと伝わる場合もあれば、汲み取るのも難解な抽象的な内容まで様々である。ちなみに、『天恵』の内容は授けられる本人にのみ伝えられ、司教様には伝わっていないが、この透明の鉱物が、その日授けた『天恵』を記録していて、後に専門の教会職員が内容を精査、王国に報告される仕組みらしい。
そんな事を考えていると、僕の『天恵』が頭に浮かんで来た。しかも、はっきりと。
『聖女』
…うん。間違いない。文字としても、声としても、はっきりと表現していた。
「…ありがとうございました…」
司教様に一礼する。この場合、魔力を放出しているだけなので『ご苦労様』なのかも知れないが、慣例だから、前に倣います。
これで帰っても良いのだが、今回はそうも行かない。何しろ、王女様が残っているからだ。用事がある場合は仕方ないかもだけど、王族より早く退席するのは無礼だからね。
元の席に戻る時に、ヒナギク様の近くを通る。祭壇破壊未遂の女の子は…あ、既に居ません。彼女の座っていたと思われる席に、大きめの、ぬいぐるみが鎮座しています。
「今夜あたり、祖父と祖母がそっちに行くかも」
そうですか…とは言わずに、軽く会釈して、席に戻る。
この会話…とも言えないけど、彼女の言葉通り、僕達は旧知で、お互いの家を訪問し合う仲でもある。何でも、両祖父母と先代の王と王妃が、昔、ヤンチャして、魔王討伐の旅をしていたらしい…子供の頃、ウチに来て話す祖父母の英雄譚は、この世界では空前絶後で、壮大な冒険絵巻に思えたが、今聞くと、法螺話も裸足で逃げ出すレベルの無茶な話だ…ヒナギク様と知り合ったのはその縁で、最初にお見掛けしたのはウチに来た時で、何でも、孫自慢をしたかったらしく先王の小脇に抱えられていた。理由を聞くと、家庭教師から強奪したらしく、後で来た先王妃様にこっぴどく叱られていた事の方が、僕には印象的だった。その時はカワイイ子だなぁ…程度の印象はあった…
「では、これにて『天恵』の儀を終えます」
集まった全員の『天恵』授与が終わり、ちょっと長めのお説教の後、ヒナギク様は席を立って退室され、それを僕達は見送る…
一連の儀式は終了…その後は家に帰って、『天恵』の内容を報告する。
だが、ここで問題がある。そう。とても個人的な問題だ。
とりあえず、僕は家路には就かず、別の場所に行く…郊外の人気のない森の中…
本当は危険なので、子供は来てはいけないと言われているが、僕は何度も来ている。母婆ちゃんの作る薬に使う薬草を採取するために。
森の奥には泉があって、透明な水面に空の青が反射している。
そこに僕は顔を映してみる。
「…うん…」
ウチで使っている鏡より反射率が良い。そこに映る僕の顔は想像を絶する…程でもないけど、まぁ、美少女だ。そう。美少女‼
鮮やかな金髪と青い瞳、整った顔立ちに、うっすら紅い唇。背は低いが、身体は華奢でこの場を誰かが見たら、とても幻想的…はないか…服装の問題で…
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「僕は、ボクっ娘じゃねええ‼僕は男だああああぁぁあああ‼」
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