セーラーキャプチャー

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元貴族のお嬢様と高級素材

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 あたし『マネージャー』は今回ダンジョンに来ていた。冒険者の昇級試験と騎士の叙爵試験の合同試験官を務める事となった…いや、冒険者ギルドに所属するクランで持ち回りでやらなければならない義務みたいなモノなんで、避けては通れないのです…現在進行形のマッピング調査と同じです…
どっちかやってる時はどっちか免除にならないんですか?
「こっちの方はすぐに終わる」
 あんまり拠点を留守に出来ないんですが…どのくらい掛かります?
「長くても三日かな…?」
 同じ試験官の『斥候』さんと『射手』さん。あたしを含め全員女性。
「噂はかねがね聞いている」
「短い間だが、お手並み拝見といこう」
 こちらこそ、よろしく、と握手。
 今回の試験内容は目的の階層まで到達して、こちらの指定したお宝、もしくは素材を持って、冒険者なら冒険者ギルドの換金ゲートまで持って来る事。騎士候補なら指定されたお宝を持って叙爵に挑む。ダンジョン自体も難易度は低いし、目的階層も最長三階なので、そう難しくはない。まぁ、初級試験だ。そんな中に騎士の叙爵試験があるのは何故か?このダンジョンの三階層に『騎士』になる為に必要なアイテムがあるらしい…いや、別に、それがあれば勝手にクラスチェンジ出来る訳じゃないけど…貴族としての『武』を立てる為の証明のアイテムで、出て来る物はランダムだが武器関係との事…ちなみに騎士候補さんは護衛を二人まで付けて良い事になっている。これは別に違反ではない。貴族の場合、用兵の問題があるからだ。貴族ともなれば戦場で兵を動かさなければならない。その為に、手足として動ける者の能力の把握や現状の士気、攻め時、守り時の判断が重視される。その見極めが出来るか?の試験も含まれているからだ。
今回は二人の騎士候補がいる。一人はこの国の商家の御曹司で商売の為に『貴族』になる必要があるらしい。取引相手も貴族なので信用の問題だ。護衛は自分の家が用意した傭兵ギルドの二人。百戦錬磨のムキムキっぽいが、身体の傷が多過ぎる。
「…あの手は戦場で何度か失敗してるな…」
 『斥候』さんが呆れ顔で呟くし、あたしもそう思う。だって、顔がビビっている。
 もう一人は線の細いお嬢様。この場に併せた様な軽鎧を着ているが、サイズが若干合っていない様だし安物感丸出しだ。剣と盾のソードマンだが、盾の扱いがなっていない。剣の振りはまぁまぁかな…?何だか、冒険者の皆と馴染んでいる様だが…
「彼女は冒険者登録しているぞ」
 『射手』さんが教えてくれたので慌てて資料を見ると、今回、冒険者が挑戦する試験は既に合格している。と言っても三日前だが…その資料には彼女の叙爵希望の理由があった。簡単に言ってしまえば、お家再興。派閥争いで弾き出された子爵家の元お嬢様…?
「政略結婚の相手が余程、気に入らなかったらしい」
「その上、第三夫人での輿入れだったか?」
 あ、その辺、お二人の方が詳しい様だな。
 何でも、彼女のお家が健在だった頃、領内の魔物の討伐に参加。見事、撃退した事で拝謁賜った上に、お声まで掛けられたらしい。
「でも、あの時はツンツンのお嬢様だったな」
「大分、角が取れて丸くなったよ‼」
 …当時のお立場があったのでしょう…

 試験開始の一声と共に、全員がダンジョンに入る‼かと思いきや、真っ先に入ったのは御曹司グループ。冒険者グループは役割分担の確認をしている。今回は即席のパーティでの連携も試されているので、その辺の打ち合わせだろう。お嬢様は装備の最終確認。あ、ここで軽鎧を合わせるのか。ブーツに付けるレガースのベルトも、ヘッドギアの顎紐もギッチリ締める。食料等の入っている背嚢を背負い、ダンジョン突入‼
「先に入りますね」
 後発のパーティへの挨拶も欠かさない。本来なら、獲物が被らないか?の情報交換をする所だが、試験なので何が狙いか分かっている…おっと、今回の彼女の監督官はあたしだった。ちなみに、御曹司グループには『斥候』さんが付いている。
 元お嬢様は慣れた足取りでダンジョンを進んで行く…いや、軽やかにスキップしてって意味ではなく、要所に目を配りながら歩いているって事。あ、あそこのトラップを解除した。後発の冒険者グループの為かな?先行の御曹司グループは運良く踏まなかったか…
 このダンジョンは基本的な洞窟ダンジョンで、発見されてから百年は経過している老舗…で良いのかな?…ダンジョンコアは既に管理されていて、拡張や縮小、通路の変更は行われていない。その上、壁には等間隔で光を発する石が埋め込まれ、ダンジョンの魔力で常に発光している。出現する魔物は昆虫系で、武器・防具の素材になる。冒険者グループの狙いも特定の昆虫の素材だ。
 一階層は迷路。ひたすら下に向かう階段を探す行程。もちろん、途中で魔物も襲って来る。元お嬢様はソロなので、極力、戦闘は避けている。金銭的な問題で護衛は辞退したのだろう。あ、でも、高額素材の魔物には向かっている。意外に逞しい。叙爵試験中に狩った獲物は換金して良いって規約にあったか。でも、ソロなんだから、欲張り過ぎると持ちきれなくなるよ…いや、あたしの方を見られても…試験官は荷物持ちじゃないから。居ない物として扱わないと、叙爵して頂く貴族にチクりますよ?そう‼素直に諦める‼
 元お嬢様はダンジョン内を歩き回り、下層に向かう階段で一旦休憩…食事を摂る…背嚢から出したのは堅いバンと干し肉…この干し肉、一度食べた事があるけど、塩気がキツイ。あ、やっぱり、水も飲むか…
 さて、ここで問題。階段は魔物の出てこないセーフティゾーン。なので、休憩や仮眠を取るには持って来いの場所だが、彼女の場合は問題がある。一つは後発の冒険者パーティ。時間的に彼らもここで休憩する為に進行している筈だ。もし、彼らがここに到達した時、先に彼女が寝てなどしていたら、どうなるか?元お嬢様の方にペナルティが下されるのだ。まぁ、今回は試験なので、ある程度は安全だが、本来なら身包み剝れても文句は言えないのだ。最悪、殺される可能性だってあるんだから…いや、奴隷落ちの方が最悪か?
 もう一つの問題は先行した御曹司パーティ。現在、どの辺まで潜っているか分からないが、少々不安な点がある。それは彼らの素行。何しろ、大した話し合いもせずにダンジョンに吶喊する連中…そんな事が出来るのは余程の高ランクのパーティか、バカのどっちかで、明らかに御曹司パーティは後者の部類だ。それに今回の試験、冒険者ギルドに相当金を握らせて、他の冒険者を締め出したらしい。と言う事は、ヤツらの妨害だって有り得る。最悪、『斥候』さんが買収されている可能性もある。つまり元お嬢様の貞操の危機‼二番目にダンジョンに入った事が裏目に出たか?
「お疲れ~‼」
 あれ?『射手』さん。どうしました?冒険者組は?
 そう切り出すと、『射手』さんは、あたしを元お嬢様が監視できるギリギリまで引っ張り出す。どうやら、試験に関しての話がある様だ。
「ああ。目当ての素材の魔物が一階層にいたから試験終了だ」
 …迷路を入って、五回程曲がった辺りに沸いていたらしい…ひそひそ声だ…
「十名中、八名が合格。二名が補欠だ」
 はぁ、良かったです。ちなみに補欠とは合格点まで行かないまでも、問題行動もなかった場合に試験官の温情で下す救済措置で、三回の常設依頼達成で合格となる。素材の剥ぎ取りが上手く行かなかった者がいたらしい…
「こっちはどうだ?」
 …食事休憩が終わって、寝るかどうかを迷っている所です…あ、それより確認したいんですが、御曹司の所から幾らか貰ってますか?
「…貰っていたら?」
 試験を中止して、彼女を全力で地上に戻します。もちろん、あなたを斃して。
「…貰っている訳ないじゃない…ウチのクランはそこまで腐ってないわ…」
 …分かりました。信用します…
「簡単に信用するのね?」
 嘘を見抜くのは得意なんです。あなたは信用できる人だ…それで、ここに来た理由は?
「いや、そろそろ御曹司組がリタイヤするかなぁ…って…あ、ほら‼」
 あ、元お嬢様が駆け上って来た…ああ、御曹司が追い出したのか…って、御曹司、全然、怪我なんてしてないね?護衛を置いて元気に全力疾走だ。
「魔物除けの御香が切れたんだ。道中、もくもく焚き上げるからだ」
 『斥候』さん、ご苦労さん様です。彼ら、リタイヤ宣言しました?
「最弱の魔物に遭遇した途端にな」
 あれ、最初見た時、驚きますよね?ちょっぴり鱗粉出すくらいの蛾ですけど。
「あの…」
 あ、元お嬢様、話し掛けてはいけませんよ?ペナルティですよ?
「私も棄権します‼」
「え?」
 三人の声がダンジョンに響いた。あ、『斥候』」さん、御曹司パーティを追い駆けなくて良いんですか?

 …出口まで道で、彼女なりの棄権理由を聞き出した…今回、貴族位に戻る事を望んだのは、彼女の父母…特に母親で、平民の暮らしに満足出来なかったらしい…
「あれから五年ですよ‼いつまで贅沢三昧な暮らしを思い出しているんですか‼」
 冒険者になったきっかけは『斥候』さんと『射手』さんが領内の魔物を討伐した事で、女性でも魔物を討伐できる力があるんだと気付いた上で、二人に憧れたらしい…本当は同じクランに入りたかったらしいが、当時、クランやパーティの名前を聞いていなかったので冒険者になって調べようと思ったのだが、『斥候』や『射手』の職能持ちが多数いた為、一旦、捜索を断念。同じ日に冒険者登録をした三人とパーティを組んで現在に至ると…
「そ、そう言う事なら…なぁ?」
「リーダーに相談してみるよ」
 多分、パーティ共々、受け入れてくれるだろう。
 え?ウチで受け入れる?ウチは異世界出身者のみのクランなので…
「また、その話?」
 ホントなんですよ~‼

 拠点に戻り前にちょっと寄り道。元お嬢様が狩った高級素材をプレゼント‼
「悪いな‼こんなに」
 元お嬢様が狩ったんです。持ち切れなくて、置いて行ったんですよ。
「へぇ?意外に欲張りだなぁ?」
 うん。そこは自重しましょう。
 それからギルドに寄って、依頼完了の報告をして拠点に帰還。
 すぐに厨房に向かい、『空間収納』に入れた素材を見せる‼
「こ、これは…‼」
 『調理師』の二人の瞳が輝き、包丁が唸りを上げる‼
「え?何コレ?むっちゃおいしい‼」
 『受付』さんが齧り付く。魔族のお姫様もテーブルマナーを無視して貪る。
 『セーラーキャプチャー』の皆は懐かしいと涙を流している…‼
 …高級素材は見た目も味も大きなエビで美味しかった…また狩りに行こう…
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