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胡桃の楽しみ
しおりを挟む「今日もご視聴ありがとうございました。それでは皆様、次回お会い致しましょう。」
カメラに向かい、そう声をかけた。私は白戸胡桃。24歳。ある配達会社の事務員をしている。趣味は編み物で、時々YouTubeにアップしている。
カメラの電源を切り、片付けを終えた。編集は明日でいい。だって今日はこれから…
『ぴんぽーん』
来た!!やっと、待ちに待ったあれが!ぱたぱたと小走りで玄関へ向かった。ドアを開けると、そこには配達員の姿が。手には小さな箱がある。一連の手続きを終え、お礼を言ってドアを閉めた。
一刻も早く、手に取りたい。その姿を拝みたい。煩わしいガムテープを引き剥がし、中から現れたのは…
「ああ、やっと手に入った!!」
ずっと欲しいと思っていた色の毛糸だ。
それから、数点のかぎ針。あまりの嬉しさにゴロゴロと床を暴れ回る。
「よーし!!さっき撮ったばかりだけど、この毛糸を使って編みぐるみしよう!」
こうして、夜が深けていくのであった…
「おっはよー!胡桃!!ん?眠そうね?」
「おはよ、燈子…ちょっと趣味に走ってて…」
「あんたね!あんまり夜更かししてると、早く老けるわよ!睡眠大切!」
顔をしかめ、心配そうにする燈子。彼女は私の唯一の友達。姉御肌な美女で、老若男女から熱い人気を誇っている。そんな彼女は今日も今日とて美女だ。
「なに?あんま見られると恥ずかしいんだけど。」
いたずらっぽく微笑むと同時に、前下がりの茶髪ショートがさらっと揺れた。
「今日も美人だな~て。」
「ふふっ!そうでしょ!…あ、ほら!ぽけっとしてたら仕事始まっちゃうわよー!早く早く!」
そう言って、足早に駆けていく彼女の背を急いで追い、私は仕事に間に合った。
「はー!終わった!」
腕をのばし、凝り固まった筋肉を伸ばす。
帰り支度を急いで終わらせ、会社から出た。
すると、しばらく歩いた場所で、
「白戸さーーーん!!」
知らない男性、いや、直接は知らない男性から声をかけられた。
「白戸さん、待って、待って!」
「え、小原田さん…?」
小原田雪斗、イケメン配達員がこちらに走りよって来た。
「し、白戸さん、意外と足早っ…!!」
「え、え?どうしたんですか?私、何かミスしましたか!?」
まさか、何かでミスをして、それで_!?
「違う違う!僕、どうしても白戸さんと話がしたくて!!」
「話??」
「と、とりあえず、そこの喫茶店でお茶しない?」
息を切らしながらも、満面の笑みで言われ、私は断りきれずに小原田さんとお茶をする事になった。
「「……………」」
なんとなく気まずい空気が覆っています。
小原田さんがそれを断ち切るようにして、コーヒーを一気に飲み干して、私に爆弾を投下しました。
「白戸さん!!もしかして君は、ウォナットというYouTuberじゃないか!?」
「っ…!!」
なんでそれを…!しかも、名前まで!!燈子にしか話していない事を知っている。でも、あの子が話すわけない。人の秘密をばらしたりしないから。
血の気の引いた私の顔を見た小田原さんは、
「違う違う!本当に偶然なんだ!」
といい、経緯を話してくれた。
小田原さんは不器用で、針に糸を通すにも苦労するのだという。それでも、手芸が好きで休みの日や、帰宅後には必ず針を持ち、練習をしていた。
そんなある日、姪っ子にかぎ編みを勧められ、簡単なものに挑戦した。ここでも遺憾無く不器用を発揮し、作り上げたものは到底綺麗とは言えないものだった。しかし、姪っ子と共に編み物をして、楽しさを知った小原田さんは、編み物を本格的に始めることにしたのだった。
練習のかいなく、あまりにも上達しない小原田さんを見て
「この人が一番わかりやすいわ。作るものが、とっても可愛いの。それに、穏やかな優しい声で、なんでか自分もできるって思わせてくれる。」
そう言って姪っ子が編み物のYouTuber、ウォナットを見せてくれたのだと。
「それで、なぜ私だと思ったのですか?」
「えーと、これまた偶然なんだけど…」
ウォナットを見るうちに、少しずつ編み物が上手くなっていった。姪っ子の言う通り、優しく穏やかな声を聞いていると、できるって思えた。失敗してもめげなかった。
動画を見るうちに、小原田さんは、ウォナットの右手の薬指にシルバーの指輪がはまっている事に気付いた。シンプルなデザインがウォナットにぴったりだなと思い、この時はそれで終わったらしい。だが…
「白戸さんは覚えてないと思うけど、僕は一度君と話したんだよ。ちょっとだけどね。」
キンっと微かな金属音を聞いた。音の方を見ると、シルバーの指輪が落ちていた。
「すみません!これ、落としましたよ!」
落とした人は黒い髪を後ろ手にひとつ縛り、前髪で目元まで覆われた女性だった。
「ありがとうございます。」
小さな、けど真摯な声でお礼をいい、立ち去っていった。
「あの声…どこかで?それに、あの指輪…」
ずっと引っかかっている。どこかで聞いた。
知っている声だった。小さな疑問を持ちながらも、仕事をするうちに忘れた。
「えーと、次は…」
しばらく経ってから、小さな小包を届けに車を走らせた。ドアの横にあるチャイムを鳴らす。中からぱたぱたと駆けてくる音がした。
「はい!!」
満面の笑みで出てきたのは、白戸さんだった。会社とは違う雰囲気だった。髪も下ろされ、目元まで覆っていた前髪は綺麗に止められている。はっきり言って可愛かった。
一連の手続きを終え、白戸さんはいい笑顔でお礼を言い、ドアの向こうへ消えた。
「やっぱり聞いた事あるんだよな。指輪も見た事あるし。うーん…」
まさか本人に僕と会ったことあります?なんて言えない。溜息をつき、YouTubeを開くと…
「あ!ウォナット、更新されてる!」
嬉しくなって直ぐに視聴した。いつもの優しい穏やかな声が疲れた心に染み渡るようだった。
「あ、れ…?」
そして、気付いた。この声、指輪…!!
「あれええええええ!!!」
ウォナットは白戸さんん!?
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