毛糸の恋人

もなか

文字の大きさ
1 / 11

胡桃の楽しみ

しおりを挟む

「今日もご視聴ありがとうございました。それでは皆様、次回お会い致しましょう。」

カメラに向かい、そう声をかけた。私は白戸胡桃。24歳。ある配達会社の事務員をしている。趣味は編み物で、時々YouTubeにアップしている。

カメラの電源を切り、片付けを終えた。編集は明日でいい。だって今日はこれから…

『ぴんぽーん』

来た!!やっと、待ちに待ったが!ぱたぱたと小走りで玄関へ向かった。ドアを開けると、そこには配達員の姿が。手には小さな箱がある。一連の手続きを終え、お礼を言ってドアを閉めた。

一刻も早く、手に取りたい。その姿を拝みたい。煩わしいガムテープを引き剥がし、中から現れたのは…

「ああ、やっと手に入った!!」

ずっと欲しいと思っていた色の毛糸だ。
それから、数点のかぎ針。あまりの嬉しさにゴロゴロと床を暴れ回る。

「よーし!!さっき撮ったばかりだけど、この毛糸を使って編みぐるみしよう!」

こうして、夜が深けていくのであった…


「おっはよー!胡桃!!ん?眠そうね?」

「おはよ、燈子…ちょっと趣味に走ってて…」

「あんたね!あんまり夜更かししてると、早く老けるわよ!睡眠大切!」

顔をしかめ、心配そうにする燈子。彼女は私の唯一の友達。姉御肌な美女で、老若男女から熱い人気を誇っている。そんな彼女は今日も今日とて美女だ。

「なに?あんま見られると恥ずかしいんだけど。」

いたずらっぽく微笑むと同時に、前下がりの茶髪ショートがさらっと揺れた。

「今日も美人だな~て。」

「ふふっ!そうでしょ!…あ、ほら!ぽけっとしてたら仕事始まっちゃうわよー!早く早く!」

そう言って、足早に駆けていく彼女の背を急いで追い、私は仕事に間に合った。



「はー!終わった!」

腕をのばし、凝り固まった筋肉を伸ばす。
帰り支度を急いで終わらせ、会社から出た。
すると、しばらく歩いた場所で、

「白戸さーーーん!!」

知らない男性、いや、直接は知らない男性から声をかけられた。

「白戸さん、待って、待って!」

「え、小原田さん…?」

小原田雪斗、イケメン配達員がこちらに走りよって来た。

「し、白戸さん、意外と足早っ…!!」

「え、え?どうしたんですか?私、何かミスしましたか!?」

まさか、何かでミスをして、それで_!?

「違う違う!僕、どうしても白戸さんと話がしたくて!!」

「話??」

「と、とりあえず、そこの喫茶店でお茶しない?」

息を切らしながらも、満面の笑みで言われ、私は断りきれずに小原田さんとお茶をする事になった。



「「……………」」

なんとなく気まずい空気が覆っています。
小原田さんがそれを断ち切るようにして、コーヒーを一気に飲み干して、私に爆弾を投下しました。

「白戸さん!!もしかして君は、ウォナットというYouTuberじゃないか!?」

「っ…!!」

なんでそれを…!しかも、名前まで!!燈子にしか話していない事を知っている。でも、あの子が話すわけない。人の秘密をばらしたりしないから。

血の気の引いた私の顔を見た小田原さんは、

「違う違う!本当に偶然なんだ!」

といい、経緯を話してくれた。




小田原さんは不器用で、針に糸を通すにも苦労するのだという。それでも、手芸が好きで休みの日や、帰宅後には必ず針を持ち、練習をしていた。

そんなある日、姪っ子にかぎ編みを勧められ、簡単なものに挑戦した。ここでも遺憾無く不器用を発揮し、作り上げたものは到底綺麗とは言えないものだった。しかし、姪っ子と共に編み物をして、楽しさを知った小原田さんは、編み物を本格的に始めることにしたのだった。

練習のかいなく、あまりにも上達しない小原田さんを見て

「この人が一番わかりやすいわ。作るものが、とっても可愛いの。それに、穏やかな優しい声で、なんでか自分もできるって思わせてくれる。」

そう言って姪っ子が編み物のYouTuber、ウォナットを見せてくれたのだと。





「それで、なぜ私だと思ったのですか?」

「えーと、これまた偶然なんだけど…」

ウォナットを見るうちに、少しずつ編み物が上手くなっていった。姪っ子の言う通り、優しく穏やかな声を聞いていると、できるって思えた。失敗してもめげなかった。

動画を見るうちに、小原田さんは、ウォナットの右手の薬指にシルバーの指輪がはまっている事に気付いた。シンプルなデザインがウォナットにぴったりだなと思い、この時はそれで終わったらしい。だが…

「白戸さんは覚えてないと思うけど、僕は一度君と話したんだよ。ちょっとだけどね。」



キンっと微かな金属音を聞いた。音の方を見ると、シルバーの指輪が落ちていた。

「すみません!これ、落としましたよ!」

落とした人は黒い髪を後ろ手にひとつ縛り、前髪で目元まで覆われた女性だった。

「ありがとうございます。」

小さな、けど真摯な声でお礼をいい、立ち去っていった。

「あの声…どこかで?それに、あの指輪…」

ずっと引っかかっている。どこかで聞いた。
知っている声だった。小さな疑問を持ちながらも、仕事をするうちに忘れた。

「えーと、次は…」

しばらく経ってから、小さな小包を届けに車を走らせた。ドアの横にあるチャイムを鳴らす。中からぱたぱたと駆けてくる音がした。

「はい!!」

満面の笑みで出てきたのは、白戸さんだった。会社とは違う雰囲気だった。髪も下ろされ、目元まで覆っていた前髪は綺麗に止められている。はっきり言って可愛かった。

一連の手続きを終え、白戸さんはいい笑顔でお礼を言い、ドアの向こうへ消えた。

「やっぱり聞いた事あるんだよな。指輪も見た事あるし。うーん…」

まさか本人に僕と会ったことあります?なんて言えない。溜息をつき、YouTubeを開くと…

「あ!ウォナット、更新されてる!」

嬉しくなって直ぐに視聴した。いつもの優しい穏やかな声が疲れた心に染み渡るようだった。

「あ、れ…?」

そして、気付いた。この声、指輪…!!

「あれええええええ!!!」

ウォナットは白戸さんん!?






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

処理中です...