毛糸の恋人

もなか

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小原田さんとの約束

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「なるほど…」

まさか、そんな事でわかるとは…

「やっぱりそうだよね…!?ウォナットは和訳すると胡桃だし…」

「…そうです。私がウォナットです。」

だまくらかすには遅すぎる。仕方なく認めた。ぱあああ!と一気に明るい笑顔を覗かせる小原田さんにため息が出る。

「会社の人には…」

「言わない!絶対言わないよ!」

力強く頷く小原田さん。彼が信用に足る人物かはわからないが、その言葉を信じるしかない。

「それで…?私がウォナットだと確認をとるためだけに呼び出したのですか?」

「違うよ!僕は…!!」

何かを言おうとし、はたと止めた。
それから何かを振り切るようにして首を振り、身を乗り出してこう言った。

「白戸さん!僕に、編みぐるみを教えて!」

「YouTubeにあげてありますよ。」

「練習しても、どうしても綺麗に仕上がらないんだ。僕、好きな人にくまのぬいぐるみをプレゼントしたいんだ!お願いします!」

そう言って、勢いよく頭を下げた小原田さんに冷や汗が出る。

「わかった、わかったから頭を上げてください!!!」

「本当に!?ありがとう!!」

ぱっと花が咲いたような、見てるこっちが暖かくなる笑みを浮かべた。

「白戸さんはいつ休みですか?」

「私は明日休みです。」

「僕もです!もし予定がなければ、明日教えて頂けますか?待ち合わせはこのカフェで!」

明日は特に予定は無い。頷くと、

「よかった!僕の家でいいですか?狭いですが…」

「いいですよ。では、道具を持っていきますね。」

とんとん拍子で話が決まった。すると調子に乗ったように小原田さんが

「じゃあ、LINE交換しましょう!」

「嫌です。」

バッサリ断ると、しゅんとしてしまった。
子犬が落ち込んでいるみたいで、なんとなく悪い事をしてしまった気がする。

「…わかりましたよ、ふるふるでいいですか?」

「!!はい!!」

こうして、数少ないLINEの友達にイケメンが追加された。されてしまった…



家に帰ったのは9時過ぎだった。
あれから、何故か流れで小原田さんと夕食を共にした。誰かと一緒にとる食事は久しぶりで、楽しかった。小原田さんは食べ方が綺麗でパンの欠片も落とさずに食べきっていた。

ぴこん!!

LINEの通知が来た。開いてみると小原田さんで、

『こんばんは。今日はありがとうございました。楽しかったです。また一緒に夕食に行きましょう!明日、楽しみにしています!』

と書かれていた。可愛いお花のスタンプ付きだった。社交辞令だと思うけど、嬉しい。私も楽しかったから。

『ありがとうございます。機会があれば是非。』

そう無難に返信して、スマホを閉じた。


ラベンダーのバスボムを入れた湯に肩まで浸かると、今日の疲れが全て溶けたような気がした。

「誰かと一緒にいて、楽しいと思えたのは、燈子以来だな。」

最初はあんなに空気が重くて、身バレして不安だったのに、帰る時は少し名残惜しかった。小原田さんは、喋り下手で時々黙ってしまう私を優しくフォローしてくれた。どちらも口を開かない時もあったが、それも心地よい沈黙だった。

明日の事を少しだけ楽しみにしている自分に気付き、ちょっと恥ずかしくなる。明日の準備をするために、胡桃は心地よい湯の中から抜け出した。







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